尻軽女とふたりの恋人
どうしてなのかはわからないけれど、恋愛なんてしないつもりの私に恋人ができた。
生前にも付き合った人は居なかったわけだから、本当に初めての出来事だ。
しかも同意の上でふたり。
どうしても3人で付き合いたいと言う唯花ちゃんからの強い要望により、恋仲ではない彼氏と彼女が私にできてしまった。
これはどうすればいいのかしらね?
困ったときは絵麻さんだ、と早速相談すると、それはそれは深いため息を吐かれた。
「そんな超展開な相談されても困る」
それもそうだ。
「でも、そうね……鹿波さんの体質については付き合うならふたりに言っておいたほうがいいと思う」
「そうかな?」
「3人でどういう風に付き合うのかはわからないけれど、性行為を3人一緒にするってなったときに、鹿波さんが好意的に見てる唯花ちゃんの痴態を目にして、薬で抑制できないレベルの発作が起きたらどうする?」
「……見学中だったとしても割り込んでしまうかもしれない」
それは大変良くない。
私はふたりの間に割り込みたいわけじゃないのだ。
「だから体質について軽くでもいいから説明して、3人一緒ではしないとか対策しておいたほうがいいと思う」
「そうする」
全部説明する必要はないけれど、付き合うなら隠しておく理由もないしね。
実際唯花ちゃんの痴態を想像すると、ちょっと症状出てきたし。
「それにしても、笑うしかないわね。唯花ちゃんに北原との関係を勘付かれてるとか」
いや本当にそれは大変焦ったね。
直接話す分には全く気にしてない感じに見えるけれど、内心どう思っているかはわからないので怖い。
「それは北原君……じゃなかった、私なんかに片想いしてしまった明人君のせいだよ」
私は気付いてなかったけれど、絵麻さんも唯花ちゃんもわかりやすかったと言っていたし。
「北原の呼び方変えたの?」
「付き合うなら彼氏も下の名前で呼んでって唯花ちゃんが」
「パワーバランスが最初から決まってるのね」
確かに。
どちらかというとじゃんけんの関係のようだけど。
私は唯花ちゃんに弱く、明人君は私に弱く、唯花ちゃんは明人君に弱い。
うん、きれいなトライアングルだ。
「鹿波さんは恋愛なんてしたくないだろうから、恋愛的な意味でふたりを好きになったら距離を置こうとすると思うけれど、前世の鹿波さんに流れていたクズ両親の血はもう今の体には流れてないし、多分怖がらなくて大丈夫だよ」
そうなのだろうか?
今も私は生前のまま、恋愛なんてしてはいけない人間だと思う。
今の両親は生前の両親と違って鹿波をちゃんと愛してくれているし、その人たちからの血を疑うわけではないのだけれど。
「それでも鹿波さんがこの先つらくなったら、どうしたら楽になれるか私が一緒に考えるから」
「うん、ありがとう」
根拠はないけれど、絵麻さんなら一緒に悩んでくれるだろう。そう思うと少しだけ安心できるような気がした。
早速恋人たちが我が家に来たタイミングで、私の体質の話をする。
好意を強く抱く相手のことを考えると脳内物質が過剰分泌されて一種の興奮状態になること。
現在のその対象が唯花ちゃんと絵麻さんであること。
現在治療のために絵麻さんに紹介してもらったお医者様に通っていること。今は症状を抑える薬があること。
だけどもし恋をしたら、その薬も効かないかもしれないこと。
対象である唯花ちゃんの性行為を見たら過剰分泌状態になりそうだから、もしするなら別々に性行為をしたいこと。
「もし、薬が効かなかったら鹿波ちゃんはどうなるの?」
「高熱を出して倒れる」
「それは困るね」
暴力を振るったり、性行為をすれば治るけれど、それは黙っておく。
一緒に混ざればいいと言われても困る。
「体質のせいなら仕方ない。デートもたまには3人で行きたいけれど、基本はふたり?」
「そうね。対外的には明人君が二股をかけてる感じになるのかしら」
「不本意だけど実態もそうなのでは?」
「明人君と外でデートする気ないし、うちに来るのはいつも通りなのだから気にしてくてもいいんじゃない?」
「私はアキト君とも鹿波ちゃんとも外にデート行きたい! でも今年の花火は3人で行こうね」
奇妙な楽しさを伴いながら3人で付き合うルールを決めていく。
どちらにも恋愛感情は持っていない私は、他に好きな人ができたら抜けてもいいと唯花ちゃんに言われた。
ただ、生前と同じ血は流れてないとわかっていても意識や記憶が残っている状態で今は別の人間であると切り替えるのは難しいから、引き続き私は恋をしない人間でいると思う。
大丈夫。唯花ちゃんはとっても可愛いもの。
恋人として付き合い始めれば、いずれ明人君だって私より唯花ちゃんのことを好きになる筈。
そうしたらフェードアウトして、このままふたりで付き合ってもらえばいい。
それまでふたりに悪い虫がつかないか見張れる位置にいられるようになったと考えれば、この展開は悪くないかもしれない。
ハッピーエンドはまだ先だけど、ゴールは確実に近付いた。
誰かが歌っていたように、夏休みというものは終わってみれば短くて、やり残したことが沢山あるような気持ちを抱えながら登校する。
でも短く感じるくらい楽しく過ごせた夏休みは本当に久し振りだった。
この後は文化祭の準備に入るのかな?
手芸部は作品数点の展示くらいしかできないから、今年はクラスの出し物に力を入れよう。
マンガ通りならメイド喫茶だっけ。かなりベタだけど、メニュー考えるのは楽しそうだから裏方に名乗りをあげよう。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると前方に見慣れた後ろ姿が見えたので駆け寄って挨拶する。
「おはよう、絵麻さん」
「おはよう鹿波さ……」
ずいっと割り込むように大きな影が横から出てきて、絵麻さんを背に隠した。
アッシュブラウンのツインテールはふわふわした巻き毛。はっきりした目鼻立ちにヘーゼルの瞳の洋風美少女。
そしてとても特徴的な、唯花ちゃんより大きなバスト。
そういえば夏休み後から新キャラが増えるのだった。一応正体を確認しよう。
「えっと、絵麻さんのイトコのアイラさん? はじめまして」
「アナタがカナミ? 私のこと知ってるのね」
「ええ。絵麻さんに教えてもらったの」
私がそう言うと、ヘーゼルの瞳は険しくなった。
身長は私より少し低いくらいだけど、顔が派手なせいか迫力あるな。
「エマは私のなんだから! アナタなんかに渡さないからね!」
アイラさんが結構な音量でそんなことを言うので、廊下を歩く同級生たちの衆目を集めてしまう。
そんな痴情のもつれを見る目で見ないで。
「絵麻さんは大事な友達だけど、取ったとかそんな関係ではないよ」
「そうよ。鹿波さんとは仲が良いだけの友達だって言ったでしょ。変なこと言うなら職員室にはひとりで行きなさい」
「やだ、エマついてきて」
「じゃあもう変なこと言わないでね。鹿波さんごめんなさい。またあとで教室で」
明らかに私を警戒しながら去っていくアイラさんの背を眺め、あまりの性格の違いに困惑してしまう。
あの子、もっと天真爛漫でカラっとしたネアカな子だったよね?
絵麻さんべったりでもなかった筈。
明らかに面倒そうな新キャラの登場に、私の望む平穏がまた遠のいていく気がした。
ここ最近クリスマスケーキをどこで予約するか悩んでます。二人暮らしなので選択肢自体は少ないのでですが。




