Autumn Leaves
ヴォーカルの大輝が入ってきた。
「・・・はよ」
「お早う」
眉間にしわ、目の下にはうっすらクマ。ライブ直前の素の大輝だ。
でも、昔よりぜんぜん顔色がいい。
スタジオ内の楽器から少し離れた位置で、のそのそとストレッチを始める大輝。キーボードから手を離さないままで、観察する。
他の奏者がどうでもいいとは言わないが、やはりヴォーカルはバンドの顔である。そのコンディションは、ライブの出来に直結する。
金髪にグリーンアイ、華やかで体格も良いジュリアン。そのジュリアンと並んでも、体格では見劣りしない大輝。体格では、と言い添えなければならない。
気の抜けている時は心持ち猫背、そしてなにより、歌っていないときの大輝は、メンバーで断トツの引っ込み思案だ。日に焼けた肌、スラリとしていても堂々としたこの体躯ならばと、大輝と初対面の人間は、誰もが「ストイックなマリンスポーツのアスリート」だと推測する。だが肌が黒いのはただの地黒で、体格の良さは声帯を良好な状態に保つために筋トレをしていたら、思いがけずよく筋肉が付いてしまっただけである。
中身は誰より繊細。メンバー以外と打ち解けて話しているところもあまり見たことがない。ライブ直前になるとプレッシャーから日に日に睡眠不足がひどくなってゆく。
でも、それだけの男じゃないから、組んでいる。
確かにライブが近づくと目に見えて弱り、コミュニケーションでは配慮が必要な存在。それが大輝だった。
しかし、ステージの上では、別人。いや、別次元の存在になる。
育った環境により、祥平は《声楽》においても自分の耳の良さを認識していた。
大輝に並べる歌の才能は、今の日本にはいないだろう。間違いなく。
この世に人間の声を使った音楽は数あれど、そのジャンルによって確立された歌い方がある。ジャンルごとだけでなく、曲ごと、そして歌手ごとでも、それは同様だ。自分の歌が上手く歌えるのは当たり前。即興で他人の歌を滑らかに歌えてこそ、“本当の歌が上手い”ということである。
大輝は別次元。
以前、元オペラ歌手のアーティストとお遊びのセッションをしたことがあった。




