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003:くーちゃんとあーちゃんとるーちゃん

 こんな世界を生きていると、自分の実力がどの程度なのかという単純な事が気になってくる。

 全員がレベル1からのスタート――ただし事前知識があるかどうかと言う、ささやかながらも大きい差はあるものの、ある程度時間が経過すれば段々と縮まる差だ。事実、『上位』と言える冒険者の中にもそういう人間は結構いる。

 それは、この世界において『プレイヤースキル』と言うものがどれだけ重要かを示していると思う。幾ら最適の狩り場、最高の装備を揃えても、モンスターが来ると目を瞑る様なものではダメだ。システムを動かす人間がどうにかならないとどうしようもない。あるいは、自身に最適なビルドを成していれば、ある程度プレイヤースキルを誤魔化す事が出来る。

 例えばアンナ。立ち回りも優秀だが、何より彼女は「死にたくない」と切に思っている。故に、そのステータスは生存のみを考えた生命極振りというもの。加えて筋力も上げ、重くとも硬い装備に身を包みながら援護と攻撃をする。以前は賢者――魔術師と僧侶を足して二で割った様な職業だったので些か不安があったが、今では立派に前線に立てる君主。自慢の鎌と相まって、優れた魔法戦士、殴りBISと言える。

 俺はと言うと、敏捷とクリティカル重視の典型的な柔い軽戦士。ヘイト値管理なんて器用な真似は出来ないので、とにかく攻めて斬って隙を作るだけ。攻撃を受けなければ躱さなくていいじゃないという発想の下、ヒットアンドアウェイと不意討ちを心掛けている。

 馬鹿魔物使いは多分何も考えていない。とは言え、活動し始めたのが遅かった割には自身の役割を知ってはおり、何を求められているかを一瞬で把握出来るのは得難い才能だ。性格さえなければ、と何度思った事か。


「で、俺らの強さってどんなものだろうな」

「いきなりそんな風に振られても……」


 コボルド肉を切り分けながら、スープを作るアンナに問い掛ける。鎧の上からエプロンを付けている様は誰がどう見てもおかしいが、街の外で装備を外すなど正気の沙汰では無いので仕方ない。本音を言えば、一晩過ごすだけでも恐ろしいのだが、羞恥心の痛みとは比べられまい。


「実際さ、気になるだろ。誰が最強かって。俺はまだビルド整ってないけど、それでもいい感じに育ってる訳だし」

「気持ちは分かるけど、上を見たらキリが無いぞ。何せ、一週間に一度は世界を救ってる様な奴らだし」

「廃人ってのはどこでも廃人なんだよなぁ……つか、プレイヤーが作った街が元々ある国より発展するとか頭おかしいだろ。戦う事に掛けても馬鹿はいるけど、経済面も狂ってやがる」

「あそこ辺りは競争激しいぞ。行ってみたけど嫁にされかけて逃げてきた」

「なにそれこわい」


 ゲーム的な中心はレボートだが、発展の中心は既に別のプレイヤーが作り上げてしまっている。システム的なルールが本来の街よりも緩い為、自由度はかなり高いが、その分様々な危険を孕んでいる。それこそ冒険者でもやってなければ、何時PKにあってもおかしくないとか言う噂がまことしやかに囁かれるのだから恐ろしい。


「PKって言ってるから軽く感じるけど、要は殺人だよな」

「ま、ね。その辺考えるのも緩くなってるんでしょ」

「ゲーム慣れしてる奴にまともな奴がいるって事を信じたいけど……ま、それは良いとして、だ。強さだよ強さ」

「あ、結局そこなのか」

「己を知ってこそ、上手く立ち回れるってもんだろ。どうなんだ? お前は」


 うーん、と。数秒唸り、ぼそりと呟く。


「……中の下?」

「うわ、出たよその回答」

「いやだって、そんなもんだろう? 確かに中層程度までならいけるけど、深層付近のモンスターになってくるとジリ貧だよ。こっちのリソースが切れるかどうかを常に考えながらになるから、全然余裕無いし」

「深層相手にする事前提になってる時点で……いやまぁ、間違ってないんだが」


 確かに、「相手が出来る」のと「余裕がある」と言うのは全然違う。特にこんなコンテニュー出来ない環境下では、うちに帰るまでの安心感は絶対条件と言える。

 ……そういう意味では、無尽蔵な回復手段であるアレは重要であるのは間違いないんだが……だが……。


「おい、おい、そんなこま切れ肉とまな板の切れ端の和え物ををどうやって調理するつもりなのか聞かせて貰えない?」

「大丈夫、対毒スキルの育成に使える」

「せめて食事の時間くらいは安らぎは無いのか……」

「じゃあ、毒にもだえ苦しむ為の時間を設けろってか?」

「いや、その理屈はおかしい」

「だが問答無用」


 木くずが混ざった肉団子を無理矢理スープにぶち込む。アンナの悲鳴が小屋に響くが、聞く耳持たぬ。

 ――強くなろうと言う意欲はある。だが、その為に何もかもを捧げるつもりは無い。

 本当に強い奴らは、料理などせずに一瞬たりとも休まずに狩りを続けている。あるいは能力値上昇携帯食料を口の中に詰め込みながら、一晩中狩りに勤しんでいる。

 俺にそれ程の熱意は無い。ただ自分のやりたい、なりたいものを目指していて、自然とこうなっただけだ。今ある場所は確かに発展途上だが、強さを伸ばす事がそのまま目標に繋がるとは限らない。

 俺にとってのサムライと言うのは、憧れに近い。何をどう憧れているのか、説明するのは難しいが、とにかく「アレがいい」と思ってしまったのだから仕方がない。

 誰にだって、そういう拘りはあるだろう。むしろ、そうでなければ己が無くなってしまう。「かっこいいから剣を使う」程度のモノでも十分だ。ありきたりなものでも、己の方向性を決めるのには必要不可欠。没個性であっても個性だ。

 だから目指す。それ以外は、サムライへの道のりに至る為の手段でしかない。

 その目指すものにさえも、真面目になっているのかと問われると、あやしいものだが。

 木くず入りスープを二人で堪能し、トイレの順番争いで殴り合いに発展しながらも、時間はゆっくり過ぎていった。時折、近くにうろつくモンスターを狩り、毛皮を剥いだり料理をしたり毒を盛ったりと、様々なスキル上げを行う。意欲はそこそこ程度でも、時間を無駄にするつもりは毛頭無い。段々と遠慮の無くなるツッコミに満足を憶えながらも、その日を終えた。

 翌日。慣れてしまった下腹部の異物感に気付き、文字通り跳ね起きた。


「あれ? 起こしちゃった? ごめんねぇ、濡らしてる時は大丈夫だったみたいだけど――」


 そのまま、緑色のこんちくしょうを呑気に笑うあんちくしょう顔面にノータイムで投擲。ちなみに的になった馬鹿野郎の手はアンナの下着に掛けられていた。



「へぇ、アンナちゃんがパーティに来てくれるんだ。嬉しいなぁ。歓迎するよ」

「この目の輝かせ方はあやしいひかりと同系統と思っていいのかな?」

「見てると善悪の判断が付かなくなるからきっとそうなんだろ」


 無邪気な顔で邪気丸出しの行動をとるので、時々自分の胸にちくりと罪悪感のトゲが刺さる事もある。数秒後には気のせいと気付くのは当然だが。

 昨日の残り物を食べながら、アンナの加入を伝えると、目を輝かせる馬鹿はアンナの手を握りぶんぶん振って喜んだ。


「僕もくーちゃんだけだと大変だろうなぁって思ってたから、丁度良かった。よろしくね」

「くーちゃん? ……ああ、クロトフェイトだからか」

「うん。長いし可愛くないからそう呼んでるんだ。アンナちゃんはあーちゃんでいい?」

「別にいいけど……ま、よろしく、トトル」

「あ、覚えててくれたんだ。くーちゃんはそんなに呼んでくれないから、なんか新鮮だなぁ」

「ははは……お前ほど忘れられない奴はいないよ」

「よく言われるなぁ」


 褒めてねえから。アンナと俺の心が合致した一瞬であった。


「で。どれくらいの金になったんだ」

「ん。まぁゴミが殆どだったから、補給品買うお金と大体相殺かなぁ。あと、サムライの品は露店には無かったねぇ」

「ま、どっちも期待して無かったけどいいか。買ってきたのよこしてくれ」


 はい、と手渡される皮袋。中には解毒の護符や、投擲用の小さなナイフなどがぎっしり詰まっている。

 一つ一つ確認する中で、少し大きめの木箱が入っている事に気付く。


「なんだ、これ?」


 取り出してみると、それほど重みは無い。あー、と言いながら、箱を受け取る相方。


「これね、この子の為に買っておいたんだ。ぴったりでしょ、大きさ。ま、中は幾らか自由な広さになるんだけど」

「無駄使いすんなよ……ん? どしたアンナ、そんなに顔近付けて」


 箱に顔を……正確には耳を近付けるアンナ。眉を潜めながら言う。


「なんかいる」

「え?」

「なんかいる」

「何その言い方怖い」

「あ、気付いちゃった? 耳が良いなぁ、あーちゃん」


 そう言うと、ニコニコ顔で箱のふたを開けだす。中にはワラが敷き詰められており、その端には猿轡を噛まされた人形の様なモノがごろごろとなんだこれうわ


「怖っ! なにこれ怖っ! なに入れてんだよお前!」

「何って、妖精。あの子の遊び相手にいいかなぁって」

「遊び相手って言ったら聞こえいいけどそれって要はお前それマジお前おい」


 想像以上にキチガイでドン引きの俺とアンナ。変わらない笑顔が怖い。


「え? やだなぁ、本当になんでもないよ。ひとりぼっちは寂しいだろうからって、入れてあげただけだって」

「猿轡噛ませておいて言うか、それを言うのか」

「大丈夫、大丈夫。ほら、見てて」


 ほらほらと亀を箱の中に収納し出す。妖精は亀から必死に遠ざかろうとするが、対する亀はどこ吹く風で動かないまま。


「ね? 何もしないでしょ?」

「だったら入れなくても良い気がするけど」

「気にしない気にしない。さ、出発の準備をしよ?」


 そう言ってふたを閉める。途端、ガリッ、と、何か硬い物を砕く様な音が、どこかから響く。

 おそるおそる、箱の方を見てみると――


「あー、お腹すいてたのかなぁ。買ったばっかりなのに血で汚れちゃうよ、ほら」

「お前まずそういう感想を言う前にふた開けてうわああああああ!! うわあああああああ!!」

「食い物食った後にそんなもの見せないでお願いしますほんとお願いしますごめん気持ち悪い吐く」


 ――普段、モンスターを斬ったりしてる自分達とは思えないほどの慌てぶりは、長々と続いた。

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