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002:くーちゃんと愚痴とロリ巨乳

「いやぁ、『回復』って結構得られる経験値多いんだねぇ。前の冒険だとほんのちょっぴりしか貰えなかった亀の経験値が、キャンプ開くたびにヤってたら一気に5レベル近く上がったよ。私にも経験値来るから、これって良い稼ぎになるんじゃない? また潜る時に検証してみよっか」

「うるせえ、うるせえ、うるせえ――!! 畜生ッ、畜生ォォォ!」


 やり場の無い怒りを壁に当たり散らすが、相方の笑顔は揺るがない。地上に戻っても思い出しただけで腸が煮えくり返る。腹立たしい事この上無い。

 モンスターとの戦いにおいて、焦りは被弾率を上げる要因だ。思考ルーチンが一定なゴーレムの類なんかは、リズムを崩せばこちらが的になってしまう。併せて、高レベルになればなるほど亀の有用性は低下していき、必然的に俺がほぼソロをやる形になってしまう。

 当たれば『回復』、そう意識してしまうと、どうしても普段通りとはいかない。自身の打点を計り間違い、深追いし、通常なら受ける筈が無い様な一撃を貰ったりと、冷静さを欠いた行動をしてしまった。


「あれれぇ? どうしたの? 顔真っ赤で脚ガクガク言ってるよ? 具合悪いのかなぁ?」

「PKの汚名を着てもいいからお前の首斬らせて。お願い」

「やだなぁ、そんな事言うと怖いよ? ほら、笑顔笑顔」

「なにが笑顔だ馬鹿野郎! ダブルピースでもしろってか! 笑えるかよ笑えねえよ笑ってんじゃねえ!!」


 襟元、は掴めないので胸を掴んで相方を揺さぶる。身長差のせいで掴み掛かるのにも苦労する。


「そういうプレイも良いけど、そろそろゴミアイテム売りにいかない?」

「お前が行ってこい。俺は待ってる」

「え? あ、そっかぁ、まだ恥ずかしいんだぁ。大丈夫だって、みんな覚えてないよ、きっと」

「ダンジョン潜ってる間、他の奴らからなんて呼ばれたか忘れたのかよ! 『あんな小さな亀でよがってよぉ、俺らの亀さんだったらどうなるんだろうなぁヒャッハッハー』って馬鹿じゃねぇのあいつら世紀末かよ野垂れ死ね」


 すぐに身ぐるみ剥いでやったのでとりあえず溜飲は下がったが、不快であるのは変わらない。


「あれが昨日の事だろ。ひと月潜ってもあんな奴らにも覚えられてたんだぞ、街での噂なんざ想像したくねぇよ畜生!」

「怖がりだなぁ、くーちゃんは。じゃあ、行ってくるね。あ、そうだ。この子置いておこっか?」

「帰ってきたときに亀の惨殺死骸が見たきゃそうしろ」


 一通りの罵声を浴びせながら、相方が街中へと向かうのを見送る。昇ったばかりの朝日を窓越しに眺めた後に、満杯になったリュックを二つ背負いながら亀と共によたよた歩く相方の姿を鑑みて、帰ってくるのは夕方か、夜か、と見当を付ける。

 この世界は、三つに大別する事が出来る。いま相方が向かった『街』と、ひと月近く潜っていた『地下迷宮』と、現在俺が寛いでいる『外』だ。

『街』は『外』のあちらこちらに点在しており、城を中心とした『城下町』と小さな『村』に分けられる。相方が向かったのは、DW内で最大の規模と評される城下町、『レボート』だ。

 無数にある街と異なり、『地下迷宮』は両手の指で足りる程度にしか存在しない。いわゆるダンジョンと呼ばれるもので、モンスターと宝が溢れる冒険者達の狩り場だ。俺達が潜っていたのは『アミュレットの迷宮』と言うもので、その階層数は未だに明らかになっていない。恐らくは10階層にラスボスがいる、とまことしやかに囁かれているが、怪しいものだ。

 そして、『外』。モンスターは多少彷徨いているが、特殊なレアモンスターを除いて低レベルなものばかりで、危険は殆ど無いと言える。誰が住んでる訳でもない小屋があったり、耕す奴もいないのに畑に農作物があったりと、どことなくだがゲームな雰囲気はある。中にはそう言った土地を領主から買い取り、のんびりスローライフをしている者もいるとか。

 俺が今いるのは、『アミュレットの迷宮』近くにある無人の小屋。本来ならここは迷宮を調査する兵士の最前線基地で、散らばってる資料から『アミュレットの迷宮』の情報を得る――と言う感じのイベントスポットなのだが、冒険者達の体の良い休憩所になっている。ベッドや調理場があるので、一休みするには丁度良いのだ。


「しっかし暇だな。適当なスキル上げでもするか……ん?」


 ぐでんと横になっていると、外の方から足音が聞こえた。あいつが帰ってくるにはまだ早すぎるし、こんな辺鄙な所まで来るって事は、おそらくは同業者だろう。

 変な奴じゃなければいいが。そう思いながら起き上がり、入り口を注視する。

 暫くすると、安っぽい木の扉がぎぃ、と音を立てて開かれた。

 恐る恐ると言った様子で入ってきたのは、小柄なお一人様。目深にフードを被っていてその顔は窺えない。

 ずだ袋を背負い一見するとみずぼらしい風体だが、汚れた外套の端からは質の良さそうな布地が覗いている。身動きから察するに、金属製の鎧を身に付けているのは間違いない。

 その風体は、少し変わっていると思った。幾ら現実になったとはいえ、ゲームの世界にいると言う意識は大きい。故に、冒険者と言う人種は、自身の装備や姿を誇示する傾向がある。自分はこれほど強いんだと伝えたい、そういう自己顕示欲が大きくなって当たり前だ。かく言う俺も、機能性だけではなく見た目も意識している装備になっている。魔法抵抗重視の金属製バンダナ【ヒヒイロバンダナキャップ】で髪をセットし、露出性は高いが限界突破改造を何重にも施した【オーガ革の胸当て】と敏捷性特化の【シルフハーフパンツ】のお陰でヘソ出しルックを実現。自分の姿じゃあなければ、と何度も思ったが、最近はこれはこれでと思ってきている自分が悲しい。

 この小柄な外套はそれを隠している。目立ちたくない理由が何かしらあるんだろうか、はてさて。


「こんちは。お先に使ってるよ」


 きょろきょろとしていた相手にこちらから先に話し掛けると、その手が反射的に外套の中に入れられる。こちらは既に手を剣の柄に乗せている為、そこまでは慌てない。

 あんまり良い空気じゃないな、と思いながら次の一手を考えていると、外套の奥から少女――聞き覚えのある少女の声がした。


「あれ、誰かと思えば首切り娘だ。お久しぶり」


 外套を脱ぎ捨てた少女の姿は、アンバランスと言う言葉に尽きる。背丈は俺と同じく150センチあるかどうかと言う程度なのに、鎧の上からでも分かるほどの巨乳。好きな人にはたまらなく、嫌いな人は吐き気を催すと言う、その特殊な体型。俗に言う、ロリ巨乳。その姿には見覚えがあった。


「アンナ、か?」

「憶えててくれて嬉しいよ。あ、若返ったからもっと分かり易くなったのかもね」


 俺と同じく、DWプレイヤーだった一人。その中身は男の筈だが、見てくれは立派なロリ巨乳で、その面影は微塵も感じさせない。 

 他のネトゲでも何度か顔を合わせており、プレイヤーキャラとしての名は決まってアンナ。そのせいか、こんな現実になってからは名前をそう変えていた、筈だ。


「奇偶、って言えるのか分からねえな。お前もあれだろ? アミュレットで狩りだろ?」

「そんな所。ついさっき上がってきた所だよ」

「そか。ん、でもお前、パーティメンバーは? ソロじゃやってないだろ」

「……ちょっといざこざがあって、先に帰っちゃったって訳で」

「なんだそれ」


 言い難そうな顔をするので追求を止め、ベッドに座る様に手招きする。


「どうせセクハラでもされたんだろ。なんだその乳、揉ませろ。もしくは裸踊り。胸の形が浮き出る様な鎧着やがって何なの? 痴女なの? 無いわー」

「断固としてノウ。そっちだっていっつもロリやってるみたいじゃないか。何なの? ロリコンでTS好きなの? 無いわー」


 口汚く言い合うが、邪気は無い。こうやって純粋に減らず口を叩き合えるのも珍しい。


「とりあえず戦士系スキルは極めたから今は盗賊系埋め中。そっちは?」

「生命極振りで盾やってるよ。この前やっと条件クリアして君主なった」

「マジかよ。聖衣は?」

「まだなんだなこれが。持ってない? 500Mくらいなら即決で出せる」

「あっても今頃相方が持ってってる」

「相方? ……相方って、まさか」


 アンナの顔が一瞬で髪色と同じ位青褪める。口角を釣り上げ無理矢理笑いながら頷くと、大きな溜め息が部屋の中に二人分響く。


「そのまさか。相変わらず魔物使い大好きだよ、あいつは」

「生きてたのかよ……勘弁してくれ。絶対弄られる」

「そうだろうなー。けど、あいつほど便利な奴いねぇんだよなー」

「神様ってどうして才能を適当にばらまくんだろう」


 幾ら神を呪おうとも、この世界にいる神様も元の世界の神様も近親相姦しまくる変態ばかりだ、今更どうしようもないと気付いても遅い。


「ところで、パーティ入ってないなら久々に組まねえか? ちょっと今、割と切実でさ」

「なんでこの流れでパーティ来いって言えるんだ? ねぇなんで?」

「俺がこれ以上亀にファックされない為だよ言わせんな畜生!」


 魂の叫びである。そんな俺の目の端に浮かぶ涙が見えたのか、アンナの緑色の瞳に憐みが宿る。


「ああ……ひと月くらい前に街中で亀にレイプされた少女がいたって聞いたけど、あれって……」

「うるせえ、うるせえ、うるせえ!! 俺だってあんなこたぁしたくなかったよ! 畜生!」

「スクリーンショット撮られてたけど見る?」

「社会復帰絶望的じゃねえかもう! はい死んだー! 今俺の精神死んだー!」


 薄い胸の奥で、半年は城下町には帰るまいと心に誓った瞬間である。


「ま、なんか理由はあったんだろうけど……何があったんだ? いくらあいつでも、戯れで仲間の人生台無しに……する訳……」

「おう断言してみろよお前おら言ってみやがれ俺の目を見て言ってみやがれ」

「何か原因があったんだろ?」


 無理矢理押し通すアンナ。逃げやがって、とは思うが、仕方ないとも思う。


「亀の能力に、回復があるんだよ。亀にヤられると体力回復とか色々あって、そんなののせいで俺はくそ畜生あの亀ぶち殺す」

「オーケー、分かった、ストップ」


 暴言を吐けと言われれば幾らでも吐けてしまう。そして止めろと言われて止められるほど便利な蛇口でも無い。積もり積もった鬱憤は声を大きくさせていく。


「一か月くらい潜ってたけどその間にもヤられまくりだよ畜生! 変なスキルも追加されるし慣れてる自分は嫌になるし亀は微妙に懐いてきてるしあああああああああ!!」

「分かった、分かったって! ……パーティ組めばいいんだろう?」


 ――思いもよらぬアンナの一言に、きゅっと喉が閉まる。

 苦笑いとも、呆れ顔とも言える表情でこちらを見ているアンナの顔が、そこにあった。


「アレと二人でいれば、そりゃあおかしくもなるってものだ。微力ながら手伝わせてもらうよ」

「持つべきものは真っ当な友人だと再確認したぜ」


 ――まぁ、こいつも亀に開発される事になるんだろうけど。

 俺の頭の片隅は、既にこの先の展開を予測していた。

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