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50歳主婦、異世界で勇者パーティー候補のイケメン僧侶と入れ替わりました。  作者: 海老のロドリゲス
1章

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7/25

7.クックゥ教会

 メトスさまが英雄だというのはもちろん驚きなんだけど、それよりも私は街並みの様子に心を奪われていた。

 建物はほぼ平屋で、数えるほどしか高い建物はない。形状は違うものの、壁や屋根の色はほぼ同じで統一感があった。

 道路も整備されている。レンガ敷きの道を人々や馬が行き交っていた。

 ゴミらしいゴミも落ちておらず、見たこともない花がそこかしこに植えられている。


「……きれい!」


 思わず口をついて出た私の言葉に、リッカが言った。


「まずは教会へ行きましょう。街は明日案内しますよ。それとも今日、少し見て回りますか?」

「……ううん。街は逃げないし今日は休むよ。教会に着くまでにも辺りを見られる訳だし」


 一瞬迷ったけれど、明日にすることにした。

 教会でだってやることはあるだろう。


「では、行こうかの」

「はい」


 メトスさまの乗る馬の手綱を引きながら、辺りを見て歩く。

 門から続く大通りの先に、大きな噴水が見えた。その中央には5人の人物をかたどった銅像があった。

 私が立ち止まって眺めているとリッカが言った。


「それは前勇者パーティーのものですね。一番左にいるのがメトスさまですよ」

「ええ? メトスさま、銅像が建ってるんですか?」


 その銅像は現役の頃をモデルに作ったのだろう。髪はふさふさで背筋もスッと伸びている。なかなかのイケメンだ。言われてみれば面影もあるような気がする。


「恥ずかしいのう。リッカめ、余計なことを言いおってからに」


 照れ隠しなのか、メトスさまはあご髭をくるくるといじっていた。

 銅像が建つほどの英雄だ、門番のあの態度もわかった気がした。

 この辺りは人通りが多い。メインストリートなんだろう。噴水の周りにはベンチもある。

 その奥には、高い塀に囲まれたひときわ大きな建物があった。多分あれがミッソゥ城だろう。植樹もされていて、景観が整っていた。


「この広場を抜けるとミッソゥ城です。向かって左隣に教会があります」


 街の中を半刻ほど歩いただろうか。ほどよくお腹も空いてきた。

 物珍しさが勝って、疲れはそんなに感じなかった。

 ミッソゥ城の門前に出た。兵士が2人、番をしている。城壁の手前には深そうなお堀があった。ミッソゥ城は白亜の城といった感じで、現代で言うなら姫路城だ。

 お堀沿いにしばらく歩く。城だけあってやっぱり広い。城壁の終わりが見えて、ようやく教会かと思ったら考えが甘かった。教会もかなりの広さで門まで遠かったのだ。


「え、教会もこんなに広いの?」


 お城よりも一回り小さいものの、教会の敷地全体が現代の小学校くらいの広さがある。


「ミソシールの教会には、各国から僧が修行に集まってきます。その分教会の施設も大きくなるし、宿舎も必要になりますから、どうしても広くなるんですよ」

「エミコ、お主もここの宿舎で1年過ごすことになる。それまでに元に戻れれば良いのじゃが」


 1年と期間を区切られたことが気になった。


「1年、ですか?」

「そうじゃ。わしやリッカ、エミルはミソラメンの僧侶じゃからな。勇者パーティーの選考が終わるまでの1年間ここで過ごすのじゃ。選考に漏れれば、ミソラメンに帰らねばならぬ」

「あれ? メトスさまは候補じゃないですよね」

「ふふ。メトスさまは講師として選考に参加されるのですよ。さあ、詳しくは中でお話ししましょう」


 気がついたら、教会の門前に着いていた。

 話しているとあっという間だ。

 城門と比べるとさすがに簡素だけれど、木製の門には繊細な模様が彫り込まれていて、宗教国家だけあって立派だった。

 中に見える建物も全て、街の住宅とは比べ物にならないくらい堅牢だった。


「まずはアステリオさまとセレナさまにご挨拶に行きましょう」

「そうじゃの。2人とも待ち侘びておるだろう。いくぞ」


 馬を2頭、厩に入れ、近くを掃除する僧侶に挨拶する。

 

「エミル! 久しぶりだな! 勇者パーティー候補、おめでとう。さすがだな」

「あ、ありがとうございます」

 

 向こうはエミルを知っているから、どのように接したらいいのか悩んでいると、メトスさまが助け舟を出してくれた。


「すまんのう。アステリオとセレナに挨拶したいんじゃが、どこにおるかの?」

「メトスさま! お2人は司祭執務室にいらっしゃいます。もしよろしければお取り次ぎいたしましょうか?」

「そうしてくれるかの。頼んだぞ」

「はい。こちらへどうぞ」


 僧侶は手にした箒を壁に立てかけると、慌てた様子で教会の中に入っていく。

 私たちは彼に続いて教会の中へ入っていった。土足OKだった。

 入り口すぐそばの階段を上って、右に曲がる。2階にはいくつも部屋があって、時々開く扉の向こうでたくさんの僧侶が修行をしていた。


「さっきはありがとうございます。なんて返したらいいかわからなくて」

「いいんじゃ。どうせ案内してもらうでの」


 小声でメトスさまに向かってお礼を言った。

 向かう道すがら、コソコソと会話する。

 先ほど名前のあがったアステリオさんとセレナさんがこの教会のお偉方なのだろう。

 2人が話のわかる人だといいなとクックゥ神に心の中で祈った。今後どうなるのか気が気じゃなかった。


「エミコとエミルのことを説明しなければなりませんね」

「そうじゃな……。エミコをどうするかも考えねばならぬなあ」

「すみません。できればここか、ミソラメンの教会でもいいので置いていただけると助かります」


 私はエミルの大きな体を縮こまらせて2人に頼んだ。


「そう畏るな、お主らしくない。まあ、なるようになるじゃろ。わしにまかせておけ!」


 銅像になるほどの英雄さまを信じるしかない。私は縋る思いでメトスさまを見た。


「こちらは応接室です。どうぞお入りください」


 僧侶は隣の部屋の扉をゆっくりと開けた。中には生成り色のシンプルなソファと、1人掛けの椅子が2つ。その間には簡素なテーブルが置かれていた。


「それではお声かけして参りますので、こちらにおかけになってお待ちください」


 深呼吸して、メトスさまやリッカと共にソファにかけた。固く、座り心地はあまり良くなかった。

 ほどなくして、ノックの音が響く。

 立ち上がって扉が開くのを待った。

 ちょうどメトスさまと同じくらいの年齢の恰幅の良いおじいちゃんと、入れ替わる前の私と同じくらいの年齢のすらっとした女性が現れた。

 2人とも優しそうな顔をしていて、少しだけ緊張が解けた。


「メトス! 待っとったぞ! リッカとエミルも元気そうだな」

「アステリオ、セレナ、お主らも息災じゃな」

「うふふ。お変わりないようで。どうぞ、おかけになってくださいな」


 促されるままソファにかけて、こっそり様子を伺った。

 まるで久しぶりに親戚に会ったみたいなノリだ。メトスさまにとって気のおけない関係の人たちなのだろう。


「メトスさま、そろそろ……」


 他愛のない近況報告を遠慮がちに遮って、リッカが声をかけた。メトスさまはしまったという顔をしてから、軽く手を叩いた。

 何がまかせておけだよ!

 穏やかな雰囲気に少し安心したせいか、突っ込む余裕が出てきた。


「実は2人に相談があってな……」




 私は少し遅い昼食をとって、宿舎の割り当てられた部屋でベッドに横になっていた。

 

 あの後、メトスさまは、入れ替わりについてアステリオさまとセレナさまに全て打ち明けて相談した。

 やはり転移や召喚の事例があることもあってか、2人は思いのほか、すんなりと事態を受け入れてくれた。

 エミルだけでなく、私、首藤恵美子のことまで親身になって心配してくれた。

 嬉しくって思わず泣いてしまって、やっぱり緊張していたんだなと、どこか他人事のように思った。


 当面はこの宿舎で、メトスさまやリッカと共に生活することが決まった。何がきっかけで元に戻るかわからないため、なるべくリッカのそばにいるようにと申しつけられている。

 そして私も、勇者パーティーの選考に一応参加することになった。

 エミルがこっちに戻ってきた時のためでもあるし、学校の設備を使うためでもある。候補者であれば学校に出入りできるのだ。

 そうすればエミルにも可能性は残るし、元に戻る方法を探すにも都合がいい。


「あー、疲れた」


 頭が重かった。

 審理の庭や、その他の転移や召喚については、教会や学校の図書館資料を使う許可も下りている。

 そういえば、私、話せるけど読み書きはできるのかしら……?


 1人になると、色々と考え込んでしまう。考えたところで解決なんかしないのに。

 明日はリッカに街を案内してもらう約束だ。

 勇者パーティーの選考に関しても色々聞いておかなくちゃ。

 あ、今日も眠ったら、審理の庭でエミルに会えるのかな……。


 私は、意識が溶けてゆくのを感じた。

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