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50歳主婦、異世界で勇者パーティー候補のイケメン僧侶と入れ替わりました。  作者: 海老のロドリゲス
1章

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6.首都ミソシール


「ミソシールが見えてきましたよ」

「わぁ! すごい!」


 私は眼下に広がる首都ミソシールを見て、思わず歓声を上げた。

 高い塀に囲まれたそれは、想像していたよりも遥かに広く、発展しているように見えた。

 街壁へ続く街道を進む。あたりは緑豊かな草原だ。所々で牛が草を喰んでいる。ここまで見晴らしが良ければ、魔物の襲撃があってもすぐに気がつけるだろう。

 まあ、この感じだとよほどのことがない限り、ここまで来ることもなさそうだけど。


 あれから何度か魔物に出くわし、投石の精度も上がっていた。相変わらず魔石の採取には慣れないけれど、戦闘に関しては多少は役に立っていると思う。

 エミルの『怪力』があってよかった。ただ投げて当てるだけじゃ、あの威力は出ないだろう。


「色々あったけど、街につけば少しは安心できるかなあ」


 私は誰に言うともなく呟く。それを聞いたメトスさまは労うように言った。


「そうじゃのう。突然体が入れ替わった挙句の慣れない旅じゃ、教会に着いたらまずはゆっくり休むといい」

「ありがとうございます。お言葉に甘えてそうしようかしら」

「エミコは戦闘でも活躍してましたからね。今日は無理しないほうがいいでしょう。明日、街を案内しますよ」

「ありがとう、リッカ」


 街の様子ももちろん気になるし、審理の庭についても調べたいけれど、今はゆっくり休みたかった。エミルの体に十分な体力があっても、私の精神は戦闘でかなり消耗していた。たった数回とはいえ命のやり取りだ。そう簡単になれるものではなかった。


 ゲームでお気軽に敵を倒すのとはやっぱり違うわね……。

 私は疲れを追い出すようにため息をついた。




「ミソシールには街壁の東、西、南にそれぞれ門があります。この街道は南門へ通じています。ほら、あそこに人の列が見えるでしょう? あれが入門待ちの人々です」

「結構並んでるのね。やっぱり入国管理とかあるの?」


 魔物もいる世界だ。そのあたりは厳しいのだろう。


「はい。身分証を提示しなければ出入りできません」

「え? そんなもの荷物の中には見かけなかったけど。どこにあるのかしら?」


 もし落馬したときに落としていたとしたら、気づかなかったかもしれない。

 ここまで来て街に入れないとかは勘弁してほしい。


「エミルは財布の中に身分証を入れておったぞ? 荷物を見てみるといい。革の袋じゃ」


 そう言って、メトスさまは馬の歩みを止めた。リッカもそれに続く。

 馬がブルルと嘶いた。

 私はリッカの乗る馬に括り付けられた革の鞄の中身を見た。ちょうど手のひらに収まるくらいの革の袋が入っていた。


「これかしら」

「はい。それです。ゆっくりでいいので探してみてください」


 革の袋の中には、金貨や銀貨、銅貨などの硬貨がたっぷり入っている。その中に、他の硬貨より2回りほど大きい小判のような金貨が1枚だけ入っている。

 と、そんなことはどうでもいい。身分証を探さなくては。

 けれど、いくらごそごそと探っても、板状のものはなかった。

 そもそもこんなところに本当に入れているのだろうか?


「なさそうだけど……。他にありそうなのはどこかしら?」

「そうですね……。財布から出てしまったのでしょうか?」


 そう言いながら、リッカは財布を覗き込んだ。

 私は見やすいように大きく財布の口を開けた。


「エミコ、ここにあるじゃないですか」

「え? どれ?」


 リッカは金色の小判を手に、苦笑いしていた。

 てっきり紙製や木製のカード状のものを想像していた私は、びっくりしてそれを受け取った。


「ごめん。金属製だとは思わなかったの。でも見つかって良かった。ありがとう!」

「……なるほど。お互いの先入観のせいですね。こちらこそ説明不足ですみません」


 無事に身分証を見つけた私は、ほっとして入門待ちの列に向かった。




 列の最後尾に並ぶ。遥か遠くに門が見えた。

 私は周りの人たちをこっそり窺う。

 服装が気になったのだ。みんな、簡素ながらも普通のシャツにズボン、スカートなど馴染みのあるものだ。布巻きつけ系の人は私たちだけだった。

 心なしか、みんなに見られている気がする。

 本当に聖装なのかしら……。

 なんだか少し疑わしい。

 そんな思いを飲み込んで、私は呟いた。


「入門まで、時間がかかりそうね」

「そうじゃのう。半刻はかかるかのう」


 メトスさまがのんびりと言った。

 そんなに待つのなら、この間に身分証を探せばよかったかも。今更だけど。

 ちなみに時間の単位は刻で、現代と同じ24等分。1刻2刻と呼ぶ。

 時計も存在していた。メトスさまに見せてもらったけれど、私の知る手巻き式の時計とほぼ同じで驚いた。


「次ですね。エミコ、身分証の準備は大丈夫ですね?」

「うん。大丈夫」


 私は右手の中の身分証を2人に見せた。日の光を受けてキラリと輝いている。


「次、前へ」


 門番に声をかけられて、緊張しながら一歩前に出た。

 その途端、門番の態度が軟化した。


「メトスさま、ようこそいらっしゃいました。並ばずとも、こちらにお越しいただけたらお通しできましたのに」


 めっちゃ丁寧だった。

 なんなら列無視すらも許されていた。

 私が驚いてメトスさまを見た。


「みな、順番を守って待っておるのじゃ。わしらだけそうもいかんじゃろう」

「滅相もないことでございます。お連れさまはお弟子さまですか? さあ、どうぞ中に」


 大した検分もされず、フリーパス状態だ。


「ここまで特別扱いなのは珍しいですね」


 リッカも少し驚いた様子で言った。

 ゆっくりと街門をくぐる。


「なに、勇者パーティーの選考があるで、その影響じゃろう」

「なるほど。そうかもしれませんね」

「え、どういうこと?」


 リッカは納得しているようだけど、私は疑問でいっぱいだった。


「メトスさまは過去に勇者パーティーのメンバーだったのです。英雄なんですよ」

「ええー!」


 思わず大きな声が出た。

 メトスさまは英雄とは思えないほど茶目っ気たっぷりに、ぺろっと舌を出して笑った。

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