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50歳主婦、異世界で勇者パーティー候補のイケメン僧侶と入れ替わりました。  作者: 海老のロドリゲス
1章

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5/25

5.初⭐︎戦⭐︎闘

一部修正しました。

 私たちは野営地を後にすると、首都ミソシールに向けて出発した。

 メトスさまとリッカは騎乗して、私は徒歩での移動だ。

 試しに馬に乗ろうとしたけれど、牧場での乗馬体験しかしたことのない私には土台無理な話だった。

 エミルの大きな体にも慣れていないし、危険しかない。

 落馬して、入れ替わりがワンチャンあるんじゃないかと目論んだけど、すごい勢いで2人に止められて今に至る。


 のどかな森の風景が続いている。

 やっぱり元の世界と比べて空気が美味しい。あっちにいる時はなんとも思わなかったけれど、森にいることを差し引いてもその差は歴然だった。

 リッカによると、このコンフタシの森を抜け草原を進み、街道沿いに半日弱歩けば城下町に着くらしい。

 ちなみに今、私たちがいるのはミッソゥ国で宗教国家だそうだ。

 そんなわけで、メトスさまを筆頭に、僧侶のリッカやエミルも他国で言う貴族のような扱いなんだとか。この布を巻きつけただけのショボい服も実は聖装で、ある程度位の高い僧侶しか身につけることを許されないって。


 ……高位でこの服だったら、一般人はどんなとんでもない服着てるのかしら。

 ちょっとアレな想像をして、少し怖くなった。


 首都ミソシールにはミッソゥ城があり、国主が国を治めている。国主は神が選定していて、過去には平民の少女が選ばれたこともあったそうだ。


 とんでもない宝くじって感じ。

 一見シンデレラストーリーのようだけれど、相当なプレッシャーだろう。

 私はエミルが選ばれないようにと、こっそり祈った。


 小一時間ほど、この世界の話を聞きながら歩いた。エミルの体は若いだけあって疲れを知らない。

 私はハイキング気分で、辺りの草花を眺めながら優雅に自然を満喫していた。



 その矢先の出来事だった。



「……静かに。近くに魔物がいます」


 リッカが突然立ち止まったかと思うと、緊迫した様子で囁くように言ってから、馬から静かに降りた。

 リッカは僧侶としても一流だけれど、索敵や探索能力にも優れている。そして、それが勇者パーティー候補に挙がった理由だとメトスさまから聞いたのを思い出した。


 緊張が走る。


 メトスさまも地面にそっと降り立ち、興奮する馬を宥めるように首筋を撫でている。


 私には、魔物と戦う術はない。

 せめて足手纏いにならないようにしないと。


 森の奥で何かが動く音がした。荒い息遣いが聞こえる。もう、なんの能力も持たない私でも気配を感じるくらいに近くにいる!

 メトスさまとリッカが杖を構える。


 ガサガサッ!


 草むらから小さな人型の魔物が2体飛び出してきた。

 薄汚れた肌の色、鋭い目つきと特徴的な鼻の形。ボロ布を纏ったそれがどんな魔物か、私にも分かった。アニメやゲームでよくお目にかかるヤツだ。


「……ゴブリン!」


 創作物では下級の魔物で大したことない表現をされてるけれど、実際に見るソレは醜悪で、凶悪そのもので、恐怖心を駆り立てる。


 リッカが手早く魔法陣を地面に描いた。

 ゴゴゴッ

 私を守るように岩がいくつも迫り上がる。


「エミコはその岩の影に隠れて! 下がっていてください」


 私はすぐにリッカの言う通り、岩の影に身を隠した。

 今度はメトスさまが杖で空中に魔法陣を描く。氷の礫がゴブリン目掛けて襲いかかる。


 ギャッ!


 ゴブリンの左肩付近に当たりはしたけれど、大半は避けられてしまった。


 2人に任せておけば大丈夫だろうか?

 ふと、エミルが魔物の襲撃で落馬して私と入れ替わったのを思い出した。


 3人で万全の態勢でも不意を突かれて負傷者が出ている。いくら旅慣れているとはいえ、補助系職業の2人じゃキツいのでは?

 血の気が引いていくのを感じた。


 魔法の発動には魔法陣が必要で、その分少し時間がかかる。それもあって攻めあぐねている。


 せめて私がゴブリンの隙を作ることができれば……。

 そうだ! 石を投げて注意を引いたらどうだろう?

 ダメージを与えられなくたっていい。ゴブリンの気を引くことができれば上出来だ。

 辺りを見回す。

 けれどちょうどいい大きさの小石が近くに見当たらない。


 ガキンッ!


 メトスさまをゴブリンが襲う。そこに割り込むようにしてリッカが身を挺して杖で防いでいる。

 もう1体も近くまで迫っている……。

 

 


「まずいまずいまずいッ……」


 これじゃあみんなやられてしまう。

 何か……、何か投げるもの!

 その時、身を守るようにとリッカがいくつか出してくれた岩が目に入った。

 今の私のウエストくらいまでの大きさの岩だ。

 ……いくらなんでもこの大きさを投げるのは無理だろう。

 私はどうすることもできない自分が歯がゆくて、思わずその岩を殴った。


 ドゴンッ


 —スキル【岩砕き】を習得しました—


「え?」


 目の前の岩が砕けていた。


 ……何これ?

 もしかして、岩の秘孔みたいなの突いちゃった?


 一瞬呆気に取られたけれど、なんならゴブリン含め、みんな驚いて手が止まったけれど、そんなことはどうでもいい。

 私の武器『石』が手に入った!


 岩の砕けた音でゴブリンに隙ができて、幸いメトスさまとリッカは立て直したようだ。


「……砕け散れ! えい!」


 私はもう1体のゴブリンに向かって思い切り石を投げつけた。


 投げたと同時にやっぱ砕け散らないでほしいと思った。

 色んな何かが飛び散りそうだし。


 ゴウッという音がして、ものすごいスピードで石が飛んでいき、ゴブリンの頭にクリーンヒットした。

 そしてゴブリンは崩れるようにその場に倒れた。


 —スキル【投石】を習得しました—


 ハッとしてもう片方のゴブリンを見る。そちらもすでに体の半分が氷漬けになっていた。


「よかったー。助かったー」


 私はその場にへたり込んだ。安心して力が抜けてしまった。


「エミコ、ありがとうございました。……ところで今のは?」


 若干引き気味にリッカが言った。

 そちらの方を見るとメトスさまも驚いた様子で私を見ていた。


「ピンチだったから、せめてゴブリンの気を引こうと思って石を投げたの。結果的に倒せちゃったけど」

「……その前です。その前」

「え? ああ。近場に石が見当たらなくて、悔しくてリッカが作ってくれた岩を殴ったらなんかいい感じに砕けたの」

「……」

「あ、あと『岩砕き』と『投石』ってスキルも覚えたみたい」


 2人は砕けた岩と私を交互に見ている。

 砕けちゃったものは砕けちゃったんだもの、助かったんだしいいじゃない。


 そんな私たちのやりとりを見ていたメトスさまが頬をかきながら言った。


「エミルの怪力がワシらのピンチを救ったようじゃな。エミコ、礼を言うぞ」

「え? 怪力?」

「リッカが索敵能力で勇者パーティー候補になった話を覚えておるか?」

「はい」


 リッカの能力の話と何の関係があるんだろう?

 私はリッカとメトスさまを見比べた。


「エミルにも勇者パーティー候補に選出された理由があってな、それが怪力なんじゃ」

「は?」

「普段、エミルは体術で敵を倒しておってな、今回のエミコのように石を投げたりはせんかったが」


 意図せずして、私の戦闘スタイルが決まった瞬間だった。

 体術は今から修行しても簡単に習得なんてできないしね。

 それにしても、学生時代ソフトボール部で良かった。いくら威力があっても、当てられなきゃ意味ないし。


 私はそこらへんに散らばった石をいくつか拾った。また魔物に出くわすかもしれない。その時のため、念には念をってやつだ。

 拾い終えてふと見ると、メトスさまとリッカがゴブリンのそばで何かしていた。


「2人とも、何をしてるの?」


 気になって近づき、後悔した。

 ゴブリンの腹をかっ捌いていたのだ。

 見てはいけないものを見てしまった……。


「な、何をしているんですか?」


 私は恐る恐る聞いてみた。

 解剖とか変な趣味があったりしないでしょうね?

 ……ううっぷ。

 思わず吐きそうになるのを堪えた。


「魔石を取り出しているんです。魔石は冒険者ギルドで換金してもらえるんですよ」

「エミコの世界では魔物自体、いないんじゃったの。となると解体自体が抵抗あるか。すまなんだ」

「いや、私も不用意に近づいちゃったし」


 離れた場所で、明後日の方角を見ながら会話を続ける。なんとも言えない生臭い匂いがして、気分が悪くなる。


「少し疑問に思ったんですが、エミコの世界では肉は食べないんですか?」


 えぇ……、今その話するぅ?

 リッカの正気を疑った。

 黙々と作業する2人の背中が見える。


「食べるけど……、どうして?」

「食べるからには血抜きや解体が必要でしょう。どうしているのかと思いまして」


 確かに、リッカにとっては素朴な疑問かもしれない。


「専門の職業があって、その人たちが処理をしてくれるから、一般の人には縁がないの」

「なるほど。こちらにも解体の職業はありますが、簡単なものは個人ですることも多いのです」


 私は食肉加工業者の皆さんに、大きな感謝の念を抱かずにはいられなかった。

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