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50歳主婦、異世界で勇者パーティー候補のイケメン僧侶と入れ替わりました。  作者: 海老のロドリゲス
2章

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23/24

23.英雄メトス

 私たち3人は、2階の1番奥にあるメトスさまの部屋の前まで来た。

 ちなみに向かいはリッカの部屋、その隣には私の部屋がある。

 ノエルは緊張した様子で、小さな体をさらに小さくしている。


「いまさらだけど、アポなしで大丈夫かな?」


 私は急に不安になってリッカに尋ねた。

 

「アポ?」

「あ、えーと、約束?」


 この世界でのふだんの生活で特に会話に困ることはないけれど、たまにこういうことがある。こんな時、あらためて違う世界にいるんだなって思う。


「大丈夫ですよ。メトスさまがそのようなことを気にされる方だと思いますか?」

「そうね。野営の見張り代わってくれちゃうくらいだもんね」

「そうなの? メトスさまって、見かけどおり優しいんだね」


 ノエルは緊張が和らいだのか、ふわりと笑った。

 その様子を見て、リッカも微笑む。

 なんだか優しい空間だなと思ったところで、急に目の前の扉が開いた。


「なにをわしの部屋の前で内緒話しとるんじゃ。わしも仲間に入れてくれんかの」


 ……びっくりした!

 目の前には優しい笑みを浮かべたメトスさまが立っていた。

 

「メトスさま、気づいてらしたんですか?」

「食堂でかわいい銀色のふわふわ頭を見かけてたでな。なんかあるじゃろうと思って待ち構えておった」

 

 その言葉を聞いて、ノエルは恥ずかしそうに自分の髪を両手で覆った。一挙手一投足、すべてがかわいい。

 私は顔に出さないように、息を止めてそのかわいさに耐えていた。


 「そうなんですね。実はノエル・メイヤーからメトスさまにご相談がありまして、連れて参りました。少しお時間いただけますか?」


 リッカが本題を切り出す。それを聞いたメトスさまは、あごひげを触りながら苦笑した。

 

「まったく、お主も堅苦しいのう。こんなところで立ち話もなんじゃろう。さあ、入りなさい。……おっと、椅子が足りんの。リッカ、エミコ、悪いが自分の部屋から持ってきてくれんかの」

「それは……すみません。以後、気を付けます。では、持ってきます」


 リッカは困り顔でメトスさまに謝った。

「以後、気を付けます」って言い回しがすでに堅い。

 まあでもリッカの魅力は、真面目過ぎるところだとも思う。私は思わず笑いそうになるのをこらえた。


「さあ、ノエル、お主は部屋に入って待っておれ。すぐにあやつらも来るでの」

 

 私たちはノエルが部屋に入るのを見届けてから、部屋へと椅子を取りに行った。

 メトスさまが、嫌な顔1つせず話を聞いてくれるのが嬉しかった。

 エミルと入れ替わったのは災難だけど、こうやって親切な人たちに恵まれているのは本当に幸運だと思った。

 

 メトスさまの部屋は私やリッカの部屋よりも広く、調度品も少しだけ豪華だ。私たちの部屋にはベッドと机しかないけれど、メトスさまの部屋には机のほかに小さなテーブルもある。

 そのテーブルを挟んで、メトスさまとノエルが向かい合わせに座っていた。私とリッカは、それぞれ持ってきた椅子をテーブルの空いている側に置き、向かい合うように腰を下ろした。


 「さて、みんなそろったの。して、相談はなにかの?」


 メトスさまは優しくノエルに語り掛けた。

 ノエルは下を向いてしばらくおどおどとしていたが、静かに話し始めた。


「あの。ぼく、勇者パーティー候補としてここまで来ましたが、パーティーに入りたくないんです。でも、選挙で選ばれちゃって……。戦いなんて向いてないし、できることならずっと錬金術を学んでたいんです」

「ふぅむ。選挙か。お前さんは確かビネガ共和国出身じゃったの。……まったく、あの国は平等とかいう数の暴力でなんでも解決しようとする。なんとかならんもんかの。……ああ、母国を悪く言ってすまんな」

 

 え? 選挙で選ばれたの?

 そういえば、ビネガ共和国は選挙制だと聞いたことがある。

 それじゃあ確かに、辞退なんてしたら大変なことになるだろう。

 思っていたよりもずっと、ノエルの状況は深刻だった。


「いいんです。だってぼくもそう思うから。国には、候補生になりたいって人が何人もいました。でも、希望も聞かれずに知名度や実績だけで、ぼくの上辺しか知らない人がぼくを選びました。……ぼくたちは逃げ場がないんです」


 私は2つの試験を思い出す。

 ノエル以外のビネガ共和国の候補生は、2人とも危なげなく試験をクリアしていた。素晴らしい才能だった。

 でも、その2人も望んでここにきているわけじゃないかもしれない。

 せめて立候補者から選んでやれよ……。この世界もなかなかに闇が深い。


「まあ、安心せい。こちらもやる気のない者を無理に選びはせぬよ。しかし、お主は何を望むのじゃ? 国へ帰ることか? じゃが、すぐに帰ったら、それこそどうなるかわからんのではないか?」

「それは……」


 ノエルの顔に暗い影が差した。


「ノエル・メイヤーよ、こやつらと一緒に修練に励むのは嫌かの。試験の前にガルドが言ったことを覚えておるか? わしが思うに、お主は後方支援が向いていると思うでな。ここで錬金術を研究して、ジョシュアたちを助けてやってくれると助かるんじゃが」


 そういえば初日のあいさつで、ガルド先生が選考にもれた者にも後方支援を頼むことがあると言っていた。たとえパーティーに入らなくても、錬金術で便利なアイテムを作って支援するとかなら、ノエルの面目も立ちそうだ。


「え? 錬金術の研究をしてもいいんですか?」


 ノエルの顔がぱっと明るくなった。

 その顔を見たメトスさまが優しい笑顔を作る。


「もちろんじゃとも。今は候補生の基礎力を上げるための単調な訓練をしておるが、これからは各自にあった内容へ変えていく予定じゃ。もうしばらくでガルドからの指示もあるじゃろう。それにお主がいなくなったらこやつらが寂しくて泣いちゃうかもしれんぞ?」


 それはそう。メトスさま、いいこと言った。

 私は大きくうなずいた。

 

「うん。泣いちゃう」

「……泣いちゃいます」


 リッカも泣いちゃうんだ。

 こういうのにも真面目に乗ってくれるのがマジでいいとこだと思う。

 ノエルは私たちを交互に見ながらこたえた。


「……研究できるなら! せっかく友達もできたし、ぼく、もう少しだけがんばってみます」

「うむ。その意気じゃ!」

 

 ノエルは迷いが吹っ切れたような顔をしていた。

 友達って、私たちのことかな?

 なんかとてもめっちゃ嬉しかった。

 しばらく4人で雑談をして、和気あいあいと過ごした。

 さて、ノエルのことが一旦解決したことだし、そろそろ私の話をしてもいいだろう。メトスさまの方をじっと見る。


「ところでメトスさま、私はどうすればいいんでしょう?」

「うーむ。エミコはなぁ。今後、また才能が見つかるかもしれんで、今は正直、保留かのう……」


 メトスさまの回答は、ノエルに対するそれに比べて、なぜか歯切れが悪い。少し目が泳いでいるようにも見える。

 

「なんとかなったからいいものの、あの最初の試験、死ぬかと思いましたよ!」


 私はガルド先生の猛攻撃を思い出して身震いした。

 そりゃあセレスティア先生にくらべたら優しかったけど、それでも戦闘初心者の私には厳しいものだった。よくクリアできたと自分でも思う。

 しばらくの沈黙の後、きまり悪そうにメトスさまが言った。


「あー、あれな。言いにくいんじゃが、そのぉ……、実はエミコ、お主はあの試験、免除の予定じゃったんじゃ」

「え? どういうこと?」


 メトスさまの突然の告白に、目が飛び出るかと思った。

 えー! そんなの聞いてないよ!

 ってか、ふつうに試験受けたけどどういうこと?


 「講師陣には、お主とエミルが入れ替わったことをすでに伝えておっての。話し合いの結果、落馬事故の後遺症を理由に試験を免除で様子を見ることになってたんじゃ。それを……、ほら、お主、自分から志願して、攻撃試験を早々にクリアしちゃったじゃろ? それをガルドが面白がって、防御試験が始まってな……」

「うそでしょー! 最初から言っといてくれればやらなかったのにー!」


 なんてこったい。

 やらなくてもいいものを自ら名乗り出て試験を受けた結果、あんな怖い思いしたの?


「……実はわしが伝え忘れとったの。もう時効かなって思っちゃってー、今まで黙ってたんじゃ。ごめんちゃい」


 ズコー!!

 さすが英雄、食えないじいさんだぜ。

 私は大きくため息をついた。


「もう! 勘弁してくださいよ」

「でも、エミコってすごいね。ちゃんと2つともクリアしちゃったよね」

「私も正直驚きました。エミコ、戦闘の才能がありますよ」


 リッカとノエルに褒められて、私は少しだけいい気分になった。

 アニメと漫画で培った防御勘ですけどね!




「メトスさま。ありがとうございました」

「もう夜も遅い。明日の授業に向けて早く寝るんじゃぞ」

 

 夜も更け、相談を終えた私たちはメトスさまに挨拶をして部屋を出た。窓の外はすっかり暗くなっていた。

 

 「ノエル、宿まで送りますよ。今夜は新月です。暗くて危ないですから」


 リッカがさらりと言った。

 こいつ、本当にできる男だな。うちの健琉も見習ってほしい。


「ありがとう。でも大丈夫。こうやって灯を作ればいいし」

 

 ノエルは荷物から魔石と小さな木箱を出すと、あっという間にランプを作ってしまった。

 材料さえあればなんでも作れちゃうんだ!


「ノエル、やっぱり何回見てもすごいね。後方支援でアイテム作るの、本当に向いてると思う!」

「私もそう思います。でも、やっぱり危ないので送っていきますよ」

「私も行く! 友達だからね!」


 ノエルはにっこり笑って嬉しそうに言った。

 それを見て、私たちもつられて笑う。


「ありがとう。じゃあ、よろしくね」


 新しくできた友達はとにかくかわいい。

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