22.錬金術とノエル
午後の授業が終わり、私たち3人はノエルの席に集まっていた。
「メトスさまに相談する場所なんだけど、学校で? それとも教会で?」
メトスさまは私たちと同じく、教会で部屋を借りて過ごしている。
学校で相談するとなれば、他の講師や生徒たちにも話を聞かれてしまう恐れがある。ただ、教会でとなれば時間もだいぶ遅くなるだろう。
「ぼくはどっちでもいいよ」
「そうですね。あまり人に聞かれない方が良さそうです。私は教会がいいかと思いますが……。ノエル、帰りが遅くなりますが構いませんか?」
「うん。別に早く帰ったところでぼく1人だし」
「じゃあ一緒に教会へ行きましょうか」
学校を出て、3人でのんびりと教会を目指す。
ノエルのふわふわした銀の髪が、上下に動くのが目の端に映る。
私は髪に触れたくなるのを我慢して、ノエルに話しかけた。
「ノエル、私の浅い知識では、錬金術って等価交換なんだけどさ。ゴーレムの身体を岩のかけらから作るのはわかるとして、動かすのはどうしてるの?」
ノエルは一瞬驚いたように飛び跳ねると、立ち止まって私を見上げた。
きらきらしたすみれ色の瞳が好奇心に満ちているように見えた。
「どうして等価交換って知ってるの? 錬金術の勉強したことあるの? 動かすにはね、魔石を使うんだよ」
「魔石?」
「そう。魔石に魔法陣を使って命令を書き込むんだ。魔石の大きさによって書き込める情報量が変わってくるんだよ」
私が知る錬金術師は、ノエルのほかには『鋼とその仲間たち』くらいしかいないけど、その知識があるおかげでノエルと仲良くなれそうだ。
「エミコ、よく知ってますね。錬金術は魔法よりも高度ゆえに学ぶ者が少なく、そして理解できるものも少ないのです」
「そうなの?」
「私も等価交換や魔石に命令を書き込むのは初めて知りました。……というか、魔石に書き込むなんて、そんなことできるんですね」
「あ、魔石に書き込むのはね、多分、ぼくだけしかできないよ。ぼくが考えたんだ」
リッカが息を飲むのが聞こえた。
ああ、この子が勇者パーティー候補に選ばれた理由が、あらためてわかった気がする。この圧倒的な才能があれば、どうにかできるとみんな思ってしまうんだろう。
「ノエルは魔法も使えるの?」
「使えるよ。適性は光だけど、でもそんなに得意じゃないかも。錬金術の方が面白くてあんまり練習してないから」
「練習したら、私よりすごい使い手になれそうです」
リッカが真剣な表情でノエルを見ている。
それを知ってか知らずか、柔らかい笑みを浮かべてノエルは言った。
「そんなことないよ。試験を見てたけど、リッカは対応が早くてすごかったし。ぼくはとっさに判断できないから、先に魔石へ命令を書き込んでゴーレムに任せちゃった」
「魔石はいくつも持ってるんですか?」
「ううん。大きいのは高価だから、ゴーレムを崩して取り出してるよ。授業で作ってるゴーレムは小さい魔石にしてるけど、その分単調な命令しか書けないんだ」
聞けば聞くほど、この世界に疎い私にもノエルが規格外の天才なんだとわかる。目を輝かせて話す姿はほほえましいんだけどね。
教会にたどり着くまでの間、ノエルは錬金術についてたくさん教えてくれた。とはいえ理解できたかというと……。
リッカですら「難解で私には手に負えません」と言い出していたから推して知るべしというところだ。
「メトスさまはいつも教会で夕食を召し上がられます。その後にお話しするのがいいでしょう。ノエルも今日はここで夕食をとりませんか?」
「いいの?」
ノエルはぱっと顔を明るくしてリッカを見た。
もしかしたらひどくナーバスになっていたのは、パーティーに入りたくないだけじゃなく、知り合いがいなくてホームシックになっていたのもあるかもしれない。
「もちろんです。そろそろ夕食の時間ですし、食堂へ行きましょうか」
「うん」
リッカの言葉に、ノエルは嬉しそうにうなずくと私の方を見た。
首をかしげる姿がまるで小動物のようだ。
「エミル? エミコ? も一緒に行こう?」
かわいい。
きっと、リッカの呼び方から疑問に思ったのだろう。
そういえば私の事情をノエルにまだ話していなかった。
そんな簡単に話していいことではないかもしれないけれど、ノエルには事情を伝えてもいい気がする。
ノエルが裏表のない、いい子だということが話してみてわかった。話したら、きっと力になってくれるだろう。
そして、その錬金術の知識があれば、審理の庭へ行く方法を見つけられるかもしれない。それに、候補生の中で、パーティーへ入るのに問題があるって意味では仲間だしね。
私は入れ替わりについて話すことに決めた。
食事を前に、いつものお祈りをする。
今日はノエルと話して仲良くなれた。そのことを感謝した。
「ノエル、実は……」
食事が終わり、メトスさまのところへ行く前に、ノエルに入れ替わりのことを話した。メトスさまには、私が候補生として学んでいる理由についても、尋ねてみるつもりだった。
話を聞いたノエルは、ひどく驚いてしばらく黙っていた。
そして悲しそうな顔で私に謝った。
「エミコ、ごめんね。エミコの方が大変な思いをしているのに、ぼくは自分のことばかりだった。ぼくが力になれることがあったら言ってよ! 絶対に協力するから」
やっぱり優しい。そしてかわいい。
かわいいばかり言ってる気がするけど、かわいいんだからしょうがない。思わず抱きしめたくなって、でもこれは犯罪かしらと思ってやめました。




