19.異世界の常識③
食後はジョシュアの部屋に移り、シズニング大陸の国々や信仰について話を聞いた。
候補生は大陸にある五か国からそれぞれ3人ずつ選抜されて、1年にわたる試験を受けるためにこのミッソゥ国へきている。
シュガ王国貴族の中から王を選出。世襲ではない。
ジオ公国 一番けんかの強い者がトップになる。
ビネガ共和国選挙で代表者を決める。
ソイソス王国血筋による王位世襲。
ミッソゥ国 国主を決定。実質的な宗教国家。
ずばりまとめるとこんな感じだった。
国によってだいぶ違いがあってびっくりする。
ってかジオ公国のけんかが強い者ってどういうこと?
口げんかもアリかしら?
大陸の名前もシズニングだし神様はクックゥだし、ふざけてるとしか思えない。料理大好きかよ!?
けれども、そんなことより興味深いのは魔物と魔族についてだった。
「魔物は人間を襲うんだよね? 実際ミソシールに来るまでに何度か襲われたし。それって魔王のせいなの?」
魔王や魔族が命令して襲ってるんだろうか?
それなら討伐もしかたないかもしれない。
「一概にそうとも言えません。魔王を始めとする魔族や魔物は、体内で魔力を生成することができます。エミコも倒した後の魔物を解体して魔石を取り出したのを見たでしょう? あの魔石が魔力を生み出す器官なのです」
宝石のような美しい石を思い出した。ついでに惨劇の解体現場も思い出してシチューをリバースしそうになった。それをこらえて続きを促す。
「うん。それで?」
「魔族は魔力を発散しています。魔王はその魔力がけた違いに大きいんです。一番強い者が魔王になるから当然と言えば当然ですが。魔素や魔力の高いところに魔物は集まり、そして凶暴になります。まあ、それ以外にも要因はありますが、結果的に魔王が命令しなくても、凶暴化して人を襲うことになるんです」
「それは本当に?」
なんとなく、簡単に魔王のせいと決めつけるのを不思議に思った。
「少なくとも私たちはそう教えられていますし、これが共通の認識です」
「そうだな。でも人懐こくて人間に使役される魔物もいるし、同じように魔族にもいいやついそうな気はするけどな」
「ジョシュア、勇者としての自覚を持ってください! ただ、人間にも悪人はいますから、魔族にだって善良な者がいても不思議ではないですが」
クマがえさ不足で人里に降りてくるみたいな感じで、魔王がいると魔物が凶暴になって出てきちゃうってことか。
確かに魔王がいることで魔物が活性化するのは問題だ。
やっぱり魔王を倒す前提でいくしかないんだろうな。
それにしても、魔物は人に害しか与えないのかな?
「ところで魔石を取り出すのはなぜ?」
「魔石は魔道具の動力になるんです。例えば調理器具や暖房器具。水を生成したりもします。魔法を使えない人も魔石があれば魔道具を使えるんですよ」
要は電池みたいな使い方ってことね。
じゃあ魔物だっていないと困るよね。
というか人間には魔力ないのかな。
「ねえ、魔法を使える人がいるのに、人間には魔力ないの?」
「ああ、人間に魔力はありません。人間は大気中の魔素を集めて体内に取り込み、魔素を練ります。それを魔法陣を通して放出することで魔法となります。驚いたりなど、何かの拍子にぽっと練った魔素が出てしまうことはあっても、それは魔力ではありません。人間の魔法と魔物や魔族の魔法は根本的に違います。体内に魔力を持っているものを魔族や魔物と呼ぶのです」
私が魔法を使えない理由がわかった気がする。
やっぱり私にはこの世界の知識が足りない。
でも足りないからこそ、新しい何か見つかるかもしれない。
元の世界に戻ることが一番の目的だけど、その方法がわからない今、この世界についても考えていかないと。
「ありがとう。……なんか難しい話ばかりで息がつまっちゃうね」
「それな! 俺も勉強になったよ」
「ジョシュア、あなたは知ってなきゃいけないことでしょう。でも、私もエミコの言葉で新たな気づきを得られました。常識だと思い込むのは簡単ですが、その裏にあるものだって存在します。エミコとエミルが元に戻る方法とともに調べていこうと思います」
私は先ほどの食堂で分けてもらったジュースを飲んだ。
ほどよい甘さが体に染み渡る。
やっぱり頭を使った後は甘い物が欲しくなるのよね。
それにしても、この世界でお菓子って見たことないんだよなあ。
あるのかな? あっても高級品なんだろうか?
魔石を使った調理器具があるなら、簡単なクッキーくらいは作れるかもしれない。今の状況が落ち着いたら、リッカに聞いて作ってみよう。
その後もしばらく話をしたが、試験の疲れもあって早々に解散した。
私たちは教会へ戻って、それぞれ自分の部屋で休んでいた。
今日はいろいろあって疲れてしまった。
私はベッドに寝転がって、今日のことを思い返していた。
試験のこと、勇者と審理の庭のこと、魔王のこと……。
やることも考えることもいっぱいあって、でも何もないよりは気が紛れていいのかもしれない。
「あー、本当に元に戻れるのかな? さすがに恋しくなってきたなあ」
私は1人、呟いた。
いくら成人しているとはいえ、玲香や健琉のことは心配だし、パートだってどうなってるかわからない。
さすがにエミルにパートで働いてとは言えないし。
というか、あれから審理の庭の夢も見ていない。
そして現代の食事も恋しかった。
やっぱ、自分でつくるしかないかな?
ぐうぅぅ……
そう思った瞬間、お腹が鳴った。
「エミコ、そろそろ食事の時間ですよ」
ノックとともにリッカから声がかかる。
「うん、今行く!」
返事をして、ベッドから起き上がる。
ふぅ。なんだかんだで元気だな、私。




