16.防御試験②
「次からは魔法攻撃を受けてもらう。魔法職と弓職の者が対象となる。順番はこちらから指名する。ここからの試験はセレスティアが担当する」
8人の試験が終了したところで、ガルド先生が告げた。
最初の攻撃試験でごり押ししたせいか、私がアタッカー扱いにされているのに気付いた。僧侶なのにエミルに申し訳ないことをした。
それにしても仮に元に戻れたとして、私とエミルはどう考えても戦闘方法が違う。私のやらかしを、果たしてエミルは回収できるのだろうか……。
「これからは私が担当します。最低限の手加減はしますが、自分の身は守れる前提で攻撃しますので。なるべくならエレノア先生のお世話にならないよう」
……なんか怖い。
セレスティア先生は女性にしては長身だけど細身で、ガルド先生に比べたら全然小さい。けれども何とも言えない迫力があった。
「それでは、リッカ・ヴィーン。いらっしゃい」
早速リッカの番だ。
1番目は先生の出方を見ることもできず、どんな魔法が飛んでくるかもわからない。やりにくいはずだ。
私は隣のリッカを見た。
「そんな心配そうな顔をしないでください。いつもの通り、できることをやるだけですから。ね?」
「おう、そうだぜ! いってこい!」
ジョシュアが、ばんっとリッカの背中を叩く。
「お願いします」
リッカはセレスティア先生の元に向かった。
リッカが所定の位置に着いたと同時に、セレスティア先生はすごい速さで魔法陣をいくつも描き、石礫を次々と撃ち出した。
「噓でしょ!?」
確かに敵は待ってくれない。けれどもこんな急襲のような試験なんて厳しすぎる。
対するリッカは、大きな魔法陣で障壁を作って防いだ。
やっぱりリッカはすごい!
さすが兄弟子なだけはある。
それでも障壁は石礫によって少しずつ削り取られてゆく。
崩れた箇所を補強するように、魔法の重ね掛けをする。
いたちごっこのような攻防が体感としては5分くらい続いた。
「ふう。いいでしょう。楽しくてつい夢中になってしまったわ」
「セレスティア、ほどほどにしておいてくれ」
ガルド先生が呆れた様子で注意した。
えぇ……。
必要以上に攻撃してたってこと?
私はドン引きしつつも、リッカの無事を喜んだ。
「リッカ、お疲れさま。かっこよかったよ!」
「それな! セレスティア先生も最後ムキになってたぜ」
「ふう。正直、いつ終わるのかと生きた心地がしませんでした」
リッカが胸をなでおろすのを見て、私はその背中をさすった。
セレスティア先生、マッドすぎる……。授業は真面目に受けよう。
「カシウス・ラインハルト、次はあなたよ」
セレスティア先生の指名に、金髪の青年が覚悟を決めた表情で前に出た。
「はい。よろしくお願いします」
カシウスは、見るからにエルフといった容貌の青年だ。長い髪を高い位置でひとつ結びにしていて、とがった耳が見えていた。
さきほどのリッカの時と同様に、何の合図もなく魔法陣が展開される。例の降り注ぐ鋭く尖った岩がくるかと思ったら、いくつもの火球がカシウスを襲った。
ゴオオォォ!!
今度は火球!?
急襲そのものは覚悟して臨めるけれど、これでは、攻撃を予測して対策を立てる意味がない。本当に食えない先生だ。
カシウスは火球を水魔法で撃ち落とし、取り逃がした分は自分の前に張った水の壁で防いでいる。
火球が水魔法に触れるたび、ジュウッと音を立てて水蒸気が立ち上る。辺りはたちまち、蒸し風呂のような熱気に包まれた。
「うん、いいでしょう。ケガもなく防ぎ切ったわね。楽しくなってきたわ。さて、次はだれにしようかしら」
なめまわすように候補生を見る姿は、まるで蛇のようだ。
次にセレスティア先生にからめとられるのは誰だろう?
私は試験の相手がガルド先生でよかったと心底思った。
「そうね。お耳がかわいいあなた。ネネノノ・コノ、いらっしゃい」
指名されたネネノノの髪がぶわっと逆立つのを見てしまった。しっぽと耳がぺたんと寝てしまっている。
そうだよね、怖いよね……。
「はい。ネネノノ、行きます!」
攻撃試験では、驚愕の命中精度で岩を割ってしまったネネノノだけど、防御はどうするんだろう?武器的に盾は持てないし、魔法が使えるのだろうか?
例によって何の予告もなく試験は始まった。今度は土魔法と火魔法の混合だった。
えげつな……。
ネネノノは素早い身のこなしで火球をよけ、石礫を矢で撃ち落としている。確かに防ぐだけが防御ではない。身を守れればいいんだから、避けたっていいんだ。
「あんなに簡単に避けられるもん? すごいんだけど」
「彼女はネコ科の獣人族ですから、動体視力、反射神経ともに人間とは比べものにはならないほど優れています。候補生に選ばれるほどです、その中でもずば抜けているんでしょう」
セレスティア先生は、まるでモグラたたきをするかのように、目を輝かせてネネノノを魔法で追い回している。子供のように夢中になるその姿は狂気的だった。
「セレスティア、もういいんじゃないかの?」
メトスさまが、見ていられないといった顔でセレスティア先生を止めに入った。猛攻がぴたりと止む。
セレスティア先生は不満そうに言った。
「まだ足りないと思いますけど……」
「いや、もう十分ですよ。ネネノノ・コノ、こちらにいらっしゃい。しっぽが焦げてしまってるわ。治してあげましょう」
言われてみれば、少し焦げ臭い。
「は、はい!」
エレノア先生に呼ばれたネネノノは、逃げるようにしてその場を後にした。
「ははは! セレスティア先生は見かけによらず血の気が多いようでいらっしゃる。もしよければ、この俺、ドラン・グレイヴがお相手いたしますぞ!」
「結構です」
セレスティア先生にふられたドラン先生は、気にすることもなくその後も熱心に話しかけていた。
「セレスティア、とにかくやりすぎだ。防御試験の担当を代える。メトスさま、お願いできますか?」
「え!? そんな……」
心底がっかりしたという口ぶりのセレスティア先生を、メトスさまがたしなめる。
「そんなに続けたいのなら手加減せい。まったくもってしかたないのう」
こうして候補生に恐怖を植え付けたセレスティア先生は、試験官を降板することとなった。
まあ、なんていうか、いろんな意味で危ないしね。
メトスさまもなんだかんだ言って結構きわどい攻撃をしていたけれど、分別があるだけ安心して見ていられた。
こうして防御試験もなんとか全員終了した。
それにしても、これから1年、セレスティア先生の講義を受けるんだよね。不安しかない。
特に私は魔法が使えないどころか、その仕組みもわからないし、この世界の常識すらわからない。
少し予習しておいたほうがいいかもしれない。
私は大きくため息をついた。




