15.防御試験①
グラウンドに散らばる石のかけらや砂の山は、講師たちの魔法によってあっという間に片づけられてしまった。
候補生たちの攻撃もすごいと思ったが、やっぱり講師陣は手際の良さというか魔法の扱いが洗練されていた。候補生たちの能力はもちろん高いが、言うなれば原石なのだろう。それをこれから磨いていくのだと改めて実感する。
「次は防御試験に入る。講師より、各人の職業に合わせた攻撃をする。最低限、己の身を守れるかを測るものだ。これに関してはこちらから順番を指名する。なお、引き続きこちらで用意した武器防具の使用を許可する」
ガルド先生が候補生を見渡しながら言った。
いよいよ次の試験が始まる。
私は防御試験と聞いて、どうするのがいいのか考える。
森での数少ない戦闘では、リッカやメトスさまの魔法で大きな岩や氷塊を作ってそれに隠れたり、ともすれば防御する前に敵を倒していた。
いくら攻撃は最大の防御という言葉があるからって、先生に攻撃を仕掛けられる前に全力で殴って黙らせるとかはまずいだろう。
……いや、本当にまずいかな? ワンチャンやってみる価値ある?
そんなふうにぐるぐると考えていると、ガルド先生がグラウンドの中央まで来た。
試験がはじまるのだろう。
自分が何番目に呼ばれるかもわからない。それまでになにか方法を考えないと。
「イザベラ・フォン・ベルンシュタイン、前へ」
ついに試験が始まった。
イザベラのツインテールにしたピンクの髪がびくんと跳ねた。
彼女は先ほどの攻撃試験では素晴らしい剣戟を見せたものの、威力が足りず岩を砕くまで至らなかった。
ガルド先生と比べると体が2回りほど小さい。どのように防御するのだろうか?
「はい。お願いいたします」
イザベラはガルド先生の前に立つと、剣を斜めに構えた。ガルド先生がその巨体からは想像もつかない速さでイザベラに襲い掛かる。
ガキンッ!
剣同士、ぶつかり合う音がした。
……危ない!
こんな体格差じゃ、きっと競り負けてしまう。
私は手に汗を握った。
けれどイザベラは華麗に剣で攻撃を受け流し、軽やかにかわした。
その後も危なげない剣技でガルド先生の攻撃を翻弄すると、ついにはその喉元へと剣を突き出した。
しかし、その刃が届く寸前、ガルド先生の剣が立ちはだかった。
「イザベラ・フォン・ベルンシュタイン、見事だ」
「……ありがとうございました」
イザベラは小さくお辞儀すると元の場所へ戻っていく。
その先には手を大きく広げて、青い髪の男が待ち構えていた。
「イザベラ、素晴らしかったよ! やっぱり君は剣の天才だ!」
男が興奮したように大きな声で言った。
「……バカな事言わないで。恥ずかしい。さっきの試験で失敗してるのよ? この試験まで落とせないわ。それにガルド先生はあからさまに手加減してた。ニコラスだって見てたらわかるでしょ?」
「……いや。それでも君はすごいよ! なあ、リゼットもそう思うだろ?」
「う、うん。私もすごいと思う」
オレンジ色の髪の少女が慌てたように同意した。
「あ、そう」
イザベラは気に入らないといった様子で腕を組んで遠くをみている。
え? あれで手加減してたの?
恐ろしくなった。
私に防げるのかな?
まさか死ぬまでぼこぼこにはされないと思うけど、でも痛いの嫌なんだけど。
試験は続いた。
次々にその技量が試されてゆく。
中にはガルド先生に詰められて諦めてしまう候補生もいた。
「エドガー・クロフォード。筋は悪くないが、眼だけを頼るな。相手の行動を予測し、反射で受けよ」
ガルド先生の声が響いた。手加減しているとはいえ、攻撃を寸止めするわけではない。
一撃を負って倒れた候補生に、エレノア先生がヒールをかける。
ヒールをしてもらえば確かに回復はするけれど、みなの前で失敗したという心の傷は癒えないだろう。
思っていたよりもかなりシビアな試験かもしれない。
「ジョシュア・ジョヴァン、前へ」
「よし、行ってくる! お願いします!」
ジョシュアの番だ。
もちろん心配はしていない。きっと余裕でクリアしてしまうだろう。でも、ジョシュアは勇者だ。失敗は許されない。
ガキンッ!!!
それは、あっという間の出来事だった。
ガルド先生が振り下ろした剣をジョシュアが受けたかと思った瞬間、その剣が弾き飛ばされる。剣の側面を打って軌道を逸らしたのだ。
そこには無防備なガルド先生の姿があった。
「あの、まだやった方がいいですか?」
圧倒的だった。
私はあらためて勇者の、いや、ジョシュア・ジョヴァンのすごさを思い知った。
「いや。ジョシュア・ジョヴァン、恐れ入った。さすが勇者だ」
「ジョシュアさん! やっぱすげえ!!!」
ガルド先生の言葉に、候補生たちが歓声を上げる。中でもソニックは一際大きい声で讃えていた。
「ジョシュアは規格外ですね」
「ほんとに。成功するとは思ってたけど、これほどとは思わなかったよ」
リッカが呟くように言った言葉に同意する。
当のジョシュアは戻ってくると、何でもないことのように言った。
「いつもの通りにやっただけだぜ。緊張して固くなると、できることもできなくなっちまうからな。お前らもがんばれよ!」
「あはは。そうだね」
「まあ、その通りなんですが……」
そんな中、まだ私の方針は決まっていなかった。
持ったことすらない剣で防ぐこともできないし、素早くかわすこともできない。魔法も使えるわけじゃない。できそうなことといったら、何かの後ろでじっと耐えるだけだ。
私は困り果てて用意された武器や防具を見た。
その中に体がすっぽり隠れる大きな盾があった。
アレンのシールドバッシュを思い出した。
あんな風に攻撃はできないけれど、力任せに耐え続けることはできるかもしれない。
もうそれでいくしかない。
大きく息を吸って、すべて吐き出した。
そして、ついに私の番がやってきた。
「エミル・シュトー、前へ」
「はい。お願いします」
大盾を持ってガルド先生の前に立った。
先ほどの動かない岩に対して行う試験とは違う。今度は実力者の攻撃を受けて、防がなくてはならない。
自然と足が震える。
怖い。逃げ出してしまいたい。
みんなこんな気持ちで試験を受けているのだろうか?
私は盾を構え、持つ手と足に力を入れた。
ぐわんっと強い衝撃が私を襲う。
重い一撃を皮切りに、次々と斬撃が繰り出される。後ろへ倒れそうになるのを必死になって押し返した。
まるでお寺の鐘にでもなった気分だ。
ふと、盾が軽くなった。
まだ終了の合図は出ていない。
嫌な予感がした。
私はとっさに上方へ盾を向けた。
ドスンッ!!
それとほぼ同時に、今までで一番の衝撃が来た。
ガルド先生が跳び上がり、上から斬りかかってきたのだ。
私が亀のように耐えているだけだったから、無防備な上方を狙ったのだろう。
自分でもよく防げたと思う。
現代で異世界アニメ見まくって戦闘知識を培ったおかげかな?
「エミル・シュトー、いいだろう。最後、よく耐えた」
私は腰が抜けそうになるのをこらえて、リッカとジョシュアの元に戻った。
「エミコ、よくがんばりました!」
「エミコ、やったな!」
2人の声を聞いて、思わず泣きそうになった。
私は2人にしがみついた。
「怖かったよー」
今はイケメン2人に抱き着いても許される気がする。
なんか、もう。おうち帰りたい……。




