14.攻撃試験
「それでは、準備できたものから前へ。名乗ってから岩を砕け」
ガルド先生は表情1つ変えずに言った。
現代だったらとんでもない要求だ。
だけど実際、エミルは岩を砕ける。ミソシールの街に来るまでに3個くらい砕いてる。そしてきっと、ジョシュアも余裕だろう。
グラウンドの脇に大きなシートが敷かれ、その上に所狭しと武器防具が用意されていた。これが、ガルド先生の言った講師側で用意してくれた装備だろう。
私はそれを一瞥すると、持参したグローブを装着した。
「俺、一番乗りしてもいい? ジョシュア・ジョヴァンです」
「勇者か。そうだな、構わぬ。みなに手本を見せてみよ」
「おう! まかせろ!」
ジョシュアは中央の岩の前まで、スキップでもするような軽い足取りで赴いた。この前一緒に買った大剣を装備していた。
あの時の試し切りを思い出す。
「いくぜ!」
掛け声とともに大剣が振り下ろされる。
その瞬間、轟音とともに岩が真っ2つに割れ、崩れ落ちた。
わかっていたけれどすごい威力だ。
「ジョシュアさんすげえ! ハンパねぇ!」
ソニックが感動した様子で叫ぶ。
背中の羽根がばたばたとせわしなく動いていた。
「ジョシュア・ジョヴァン、見事だ。次の挑戦者は誰だ?」
ガルド先生が候補生を見渡しながら言った。ほんの一瞬、彼の視線がこちらに留まった。
どうせ割れることはわかっている。
私も早く済ませてしまおう。
「次、エミル・シュトー、行きます」
私は宣言して右側の岩のそばまで来た。
「エミル・シュトー、武器はいいのか?」
「グローブを装備していますので! ではいきます!」
私は思いっきり岩を殴りつけた。
大きな音とともに、いつものように岩が砕け散る。
やっぱりグローブを装備しているだけ殴りやすい、というか手がそんなに痛くない。
—スキル【岩砕き】がLv.2になりました—
岩も無事に砕けて、スキルレベルも上がって、万々歳だ。
私はガルド先生の方へ目をやった。
「エミル・シュトー、【怪力】の持ち主か。見事だ」
ガルド先生のお墨付きをもらって、ひとまず安心した。
私が元の場所に戻ってほっと一息ついていると、リッカとジョシュアが声をかけてくれた。
「エミコ、よく頑張りました。岩が割れるのはわかっていましたが、緊張したでしょう。私も負けないようにしないと」
「エミコ、すげーな! 殴るだけで岩が割れるのか!」
「人生50年生きてるのよ? それなりの場数はふんでるから。でも、緊張した! あはは、ジョシュアもきっと割れるよ」
「そうか? じゃあ俺も今度ためしてみようかな?」
ジョシュアならきっと素手でも余裕で岩を割ってしまうだろう。
この天真爛漫な青年は、勇者だけあって身体能力が尋常じゃない。
それにしても心配なのはリッカだった。私はじっとリッカを見つめて言った。
「ところで、リッカはどうやって割るの?」
「まあ、見ていてください。幸い敵の邪魔も入らない分、魔法陣を作りこむ時間は十分ありますから。ジョシュアとエミコに続きますよ」
そう言うと、リッカは杖を片手に左側の岩に向かって行った。
「リッカ・ヴィーンです。挑戦します」
「よかろう。リッカ・ヴィーン期待している」
「はい」
リッカは杖を振り上げると、岩の真上の空中にいくつも魔法陣を描いた。
すると、岩の上にこぶし大の氷塊がいくつも現れた。それが岩をめがけて降り注ぐ。氷塊に蹂躙された岩は、見事に粉々に砕けていた。
「リッカ・ヴィーン、見事な魔法の重ね掛けであった。単発では弱くとも、重ねれば絶大な威力となる。パーティーもそうと言えるな」
リッカは、ゆっくりとこちらに戻ってきて微笑んだ。
「リッカ、すごい!」
「あんなたくさんの重ね掛け、俺、初めて見たぞ!」
リッカはあごに手を添えて、すました顔で言った。
「私も捨てたもんじゃないでしょう?」
捨てたもんじゃない、どころの騒ぎじゃない。
ミソシールへの旅路では、盾となるタンク役が不在だった。
だから魔法の単発攻撃ばかりで決め手に欠けていただけだったのだ。
私は頼りがいのあるエミルの兄弟子を、あらためて見直した。
この後も、岩を砕く者は次々と現れた。
岩が砕けるたびに、セレスティア先生が魔法で岩を生成する。
辺りは一面岩のかけらだらけだった。
ジョシュアを崇拝するソニックは双剣で何度も剣戟を繰り出し、粉々に割ってしまった。
獣人族のネネノノは、弓で見事に成功していた。寸分違わぬ1点に向けて連続で矢を放ち、最終的には砕いてしまったのだ。
アレンもすごかった。タンク役の重騎士らしく、大きな盾を装備していた。どうするのかと見ていたら、シールドバッシュというものだろう。大きな盾を構えて何度も体当たりし、見事に岩を砕いていた。
けれども個人的にすごいと思ったのは、ヴィヴィアとノエルだ。
「岩を砕かなければいけませんか?」
ヴィヴィアはまずそう言った。
試験の前提を覆している。そんなのダメに決まっているだろうと思ってガルド先生の様子をうかがっていると、意外な答えが返ってきた。
「すまない。表現が悪かったな。ダメージが通っていれば、その限りではない。ただし、それ相応の効果を期待する」
「ありがとうございます。では、ヴィヴィア・レイ、参ります」
ヴィヴィアは魔法陣を描き始めた。複雑なそれは見るからに強力そうだった。魔法陣が完成すると、人の頭くらいの大きさの黒い球体ができた。
その球体が一直線に岩へ向かって飛んで行く。
そして音もなく、岩にぽっかりと穴が開いて、黒い球体は消えた。
……ブラックホールのようなものだろうか?
かわいい顔して恐ろしい魔法を使う。
「ほう。闇魔法か。ヴィヴィア・レイ、良いものを見せてもらった」
リッカによると、闇魔法は難しく、まともに使えるもの自体が非常に少ないのだそうだ。
「いえ、まだ岩そのものを消すほどの大きさの球体は出せません。あの……、もっとがんばります」
恥ずかしそうにはにかむ姿がアンバランスで印象的だった。
そして私一推しのノエルだ。この子も別方向にすごかった。
ノエルは一番最後に挑戦した。それには意味があった。
「ノエル・メイヤーです。岩のかけら、使ってもいいですか?」
「構わない」
私と同じように投石でもするのだろうか?
でも見るからに小さなその体では威力が出そうもない。ノエルはごそごそとかけらの前で何かやっている。
私はどうするのかと不思議に思っていると、かけらがみるみると集まり、見上げるほどの大きさの人型になった。
ゴーレムだ!
そう思った瞬間、ゴーレムは岩を粉々に踏みつぶした。
そしてその直後に、ゴーレムは音もなく砂となって崩れていった。
「誠に手際のよい錬金術であった。ノエル・メイヤー、噂にたがわぬ腕前だな」
「……ありがとうございます」
私は驚いて言葉も出なかった。
ゲームやアニメの世界では何度も見たことがあるけれど、やっぱり本物は違う。圧倒的な迫力に、ただただ茫然とするばかりだった。
かくして、試験が1つ終わった。ほかにも別の切り口から試験を行うのだろうか?
私はドキドキしながら、ガルド先生の次の言葉を待った。




