12.選考初日
今日から勇者パーティの選考が始まる。
私とリッカは候補生用の制服に着替え、学校に向かっていた。
制服は、平民が着る日常着と比べて、だいぶ質が良かった。現代の衣服とそれほど差を感じないほどだ。
各地から候補生を集め、1年の月日をかけて行う選考会は、ミソシールの街でも話題の出来事のようだ。制服を身にまとう私たちに、自然と視線が集まっていた。
学校というからには、もちろん一般の生徒も通っている。ただし候補生は全く別のカリキュラムで授業を受けるそうだ。
「候補生との初顔合わせね。緊張するなあ」
私は緊張していた。肉体は17歳だけど、中身は50歳のおばさんだ。学校自体、30年前に短大を卒業して以来だ。
能力的なものはもちろん、他の候補生になじめるかも心配だった。
「そうですね。でも候補生は勇者のジョシュアを除いて各国3人、合計15人もいます。きっと馬の合う者もいますよ」
リッカは私の緊張をほぐすように言った。
「そうね。今から悩んでも仕方ないか」
私はリッカの気遣いが嬉しかった。
学校は、教会からだと王城を挟んだ向こう側にある。歩いて15分くらいの距離だ。
城壁沿いを歩いてしばらくすると、赤い屋根の2階建ての大きな建物が見えてきた。
まさか50になって、異世界で学生生活をすることになるとは。
どうせなら、エミルのためにもがんばってみよう。
私は決心を胸に門をくぐった。
リッカと連れ立って、校舎に隣接する講堂に向かう。入り口の受付で身分証を提示すると、ネームプレートを渡された。
「エミコ、こちらを胸につけてください」
私は言われるがままに胸元にそれをつけた。
講堂は広く、舞台の前に何脚もの長椅子が並べられていた。少し教会の礼拝堂に雰囲気が似ていた。
私たちは3列目の長椅子に腰掛けた。
すでに何人かの候補生が席に着いている。その中に、背中に大きな翼のある男の子がいた。
「リッカ、あの男の子、翼がある」
私は隣にいるリッカに耳打ちする。
「ああ、鳥人族ですね。ミッソゥ国ではあまり見かけませんが、東のジオ公国や南のビネガ共和国では、鳥人族や獣人族はそんなに珍しくありません」
「そうなんだ! 私のいた世界では人間しかいないからびっくりしちゃった」
あらためて異世界にいるんだと実感する。
あまり見すぎるのも良くないと思いながらも、立派な翼をつい目で追ってしまう。
「そうなんですね。ちなみにここ、ミッソゥ国や北のシュガ王国、西のソイソス王国ではエルフやドワーフが多いですね。まあ、どの国も一番多くいるのは人間ですが」
定番の種族の登場に胸が高なった。
「やっぱりエルフやドワーフもいるんだ! 会ってみたいな。候補生にいるかしら」
「エミコはもう会っていますよ」
突然そう言われて、記憶の中を探る。
どこかであったかしら?
私はたまらずリッカに聞いた。
「え? いつ?」
「武器を買った店の店主がドワーフでした」
店主の姿を思い返してみる。
小柄でがっしりとした体格は、言われてみれば確かに、私の思い浮かべるドワーフ像と同じだった。
「言われてみれば納得かも!」
「まあ、鳥人族や獣人族ほど特徴的ではないですからね。でも意識して見たらすぐにわかります」
「そうなんだ。じゃあ、エルフにも会ってる?」
その時、リッカがイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「ふふふ。会ってるもなにも、エミルがハーフエルフですよ」
「え? エミルが!?」
私は驚いてリッカを見た。
「はい。エルフか、エルフの血が入っているものしか金髪になりませんから」
「でも、エルフって耳が尖ってるイメージなんだけど、エミルは普通じゃない?」
「ああ、ハーフエルフですからね。人間の血が入る分、特徴は薄れるんです」
「そうなんだ」
確かに審理の庭で会ったエミルは、どこか人間ばなれしたイケメンだったし、長身なのもエルフっぽい。
でもまさか、ハーフエルフの中に入ることになるとは、人生50年、生きてみるものだ。
私たちが種族について話していると、後ろから声をかけられた。
「よお! エミル、リッカ。この前はありがとな」
「ジョシュア!」
私たちは2日ぶりの再会を喜んだ。ジョシュアはリッカの隣に座ると小声で言った。
「鍛錬してたら遅くなっちゃってさ。遅刻しなくて良かったぜ」
爽やかに笑いながら言うジョシュアは、うっすらと汗をかいている。勇者だけあって、こんな特別な日でも鍛錬は欠かさないんだと感心した。
「ほら、2人とも、壇上にメトスさまたちが出てこられましたよ」
見ると壇上には、メトスさまを含め5人が並んでいた。そういえばメトスさまは講師として参加されるんだった。
5人の中の1人、渋い壮年の男性が1歩前に出て大きな声で告げた。
「勇者、および勇者パーティー候補の諸君。初めまして。私が今回の勇者パーティー選考の総責任者であるガルド・ヴァルケンだ。剣技と近接戦闘を担当する。よろしく」
低く迫力のある声が講堂に響く。
私は身が引き締まる思いで、ガルド先生の次の言葉を待った。
「近年は新たな魔王の誕生と魔族の台頭による魔物の活性化で、各地で甚大な被害が出ている。そんな折に神の託宣がおり、新たな勇者が誕生した。勇者ジョシュア・ジョヴァン、起立せよ」
私はリッカの隣にいるジョシュアを見た。スッと立ち上がったジョシュアは神々しく見えた。
「これから、この勇者ジョシュア・ジョヴァンとともに魔王討伐に赴くパーティメンバーを選考する。選考に漏れた者にも、後方にて支援を依頼することもある。世界の平和のために尽力を期待する。以上。それでは各講師の紹介に移る」
ガルド先生は1歩後ろに下がると、隣のメトスさまを見た。メトスさまはうなづくと、前に出て小さく礼をした。
「わしはメトス・シューレンじゃ。今回補助系魔法と魔法陣の基礎を担当する。よろしく頼むの」
その次は、小柄で優しそうな年配の女性だ。
「私はエレノア・フェルミナです。回復と治療魔法の担当です。よろしくお願いします」
もう1人女性がいた。まだ30代くらいだろうか?背が高くて金髪をお団子のように結い上げている。彼女もエルフの血が入っているのだろう。
「セレスティア・ロゼルです。攻撃魔法と攻撃系魔法陣を担当します。魔法が使えない候補生にも一応魔法陣は教えますので。よろしく」
最後は40代くらいの体の大きな男性だった。やけに笑顔が爽やかだ。
「俺はドラン・グレイヴ。防御の基礎、技術について教える。みんな、俺についてこい!」
4人の講師の紹介が終わった。
なかなか個性的な講師陣だった。果たして、授業について行けるだろうか?
不安に感じていたところに、ガルド先生が迫力のある大きな声で告げた。
「この後、すぐに各人の実力を測るために試験を行う。これは実力把握が目的であり、選考に直結するものではないが、心して臨むように」
早速試験が始まってしまう。
私にできることなんて、岩を砕くくらいしかないんだけどー!




