11.勇者降臨②
私たちは入れ替わりについて、かいつまんで説明しながら歩いた。少し広場から外れたところに、もう一軒武器屋を見つけた。
「ここに入ってみましょうか」
「おう、入ろうぜ!」
ジョシュアは扉を開けて中に入ると、手招きする。中には、先ほどの店に負けないくらいたくさんの武器が陳列されていた。
「何かお探しですか?」
小柄でがっしりとした店主が、こちらに声をかけてきた。
「大剣とグローブを見たいのですが」
「かしこまりました。予算を伺ってもよろしいですか?」
リッカはジョシュアを見た。ジョシュアはそれに気づいて予算を告げる。
「俺は金貨5枚かな」
リッカは少し考えるような素振りを見せてから店主に言った。
「では、金貨5枚までの大剣と、金貨1枚までのグローブか手甲をお願いします」
「では、見繕って参りますので少々お待ちください」
店主は丁寧にお辞儀をして中に引っ込んだ。
展示してあるもの以外にも用意があるのだろう。それにしても、最初の武器屋とは接客の良さがえらい違いだ。
「エミコ、予算を勝手に決めてすみません」
「それはいいけど、もう少し出せそうだよ」
まあ、私のお金じゃなくてエミルのものだから、たくさん使うのは少し気が引けるけど、必要経費ならば仕方ないだろう。
「選考中は修練がメインとなりますので、そんなによい武器でなくとも問題ありませんから」
「確かにそうね。それにしても、ジョシュア、お金持ちなんだね」
私は気になっていたことを聞いた。いくら戦闘のためとはいえ、この若さで金貨5枚出せるなんて、異世界お決まりのクエストとかで稼いでるのかしら?
「ああ、王様からの支度金と、後は母ちゃんがこっそり貯めてたヘソクリを渡してくれてさ。せっかくだから全部使って、いい武器買おうと思って」
……全部使って?
ちょっと、さすがにそれはどうだろう?
私はリッカと顔を見合わせる。
そして2人で大きな声で店主に声をかけた。
「すいませーん! 大剣の予算、金貨4枚までで!」
「お待たせしました」
店主が、大剣を3本とグローブを2つ、ワゴンに乗せて運んできた。
「試してみてもいいですか?」
「どうぞ。手甲はそちらの棚にもありますのでお試しください」
グローブをはめてみる。思ったよりも指の動きも滑らかで違和感がない。甲側に金具がついていて、殴ったら痛そうだ。
でも、魔物を殴るの?
……できることなら近寄りたくない。
やっぱり戦闘スタイルは投石にしよう。
石のほかに、何か投げて武器になるものはないかしら……。
火炎瓶とか作ってみる?
当たったダメージにプラスして、砕けたガラスのかけらと火炎。強力そうだった。
あとは鉄球とか撒菱みたいなものはないかな? 後でリッカに相談してみよう。
「俺も持ってみてもいいかな?」
ジョシュアが店主に声をかけた。
「どうぞ。その大剣は特別重いので威力は高いのですが持ち手を選ぶ品でして。お気をつけください」
「おう。気をつけるよ」
ジョシュアはその大剣をひょいっと持つと、素振りをした。
勇者の実力はどれほどのものだろう。
私は期待と好奇心を胸に、ジョシュアを見つめた。
リッカも同じようにジョシュアの様子を伺っている。
「おお! それを片手で軽々と持つ方を初めて見ました!」
ジョシュアの様子では、重そうには見えないけれど、お世辞でいい気分にさせて売ろうって魂胆かしら。
私はつい穿った目で店主を見てしまう。
それとも、本当にジョシュアがすごいだけ?
「おっちゃん、試し切りしたいんだけどいいかな」
「はい! こちらでどうぞ」
私たちは店の奥に案内された。
そこには小さな訓練場のようなスペースがあった。店主が、丸太に藁を巻きつけた的をジョシュアの前に置いた。
「準備ができました。いつでもどうぞ」
「おう、ありがとな」
ジョシュアはそう言ってから、大剣を構えた。
目つきが、スッと鋭くなる。
その瞬間。
シュッ!!! グシャッ!!!
ものすごい風圧と共に、大きな音が室内にこだました。
「うーん。やっぱり室内だと力んじゃうなー。狭いとこでもいつも通りに振れるようにしないとだな」
的が真っ二つになり、それを支えていた支柱も大きくひしゃげていた。
嘘でしょ……。
これでいつも通りの力が出せていないっていうの?
みんな言葉もなく、呆然とジョシュアを見つめていた。
買い物を終えた私たちは、噴水のところまで戻ってきていた。
ジョシュアはこれから宿に戻って買った武器に慣れるために鍛錬するそうだ。
「ありがとな! 助かったよ。じゃあまた明日、選考会場で!」
「ちょっ! ジョシュア! 選考が始まるのは明後日からですよ!」
リッカが慌てて訂正する。
「わかったー!」
ぶんぶんと手をふって、少し進んでは振り返って私たちを見るのが子供みたいで可愛かった。
「……疲れましたね」
「そうだね」
私たちは顔を見合わせて、どちらからともなく笑った。
想像していた勇者にはほど遠いけど、いい子なのは間違いなさそうだ。
「私たちも帰りましょ」
「そうですね」
グローブも手に入ったし、私も少し使い心地を試してみたいと思った。
勇者パーティー選考会、どんな人たちが集まるのだろう?
私は期待と不安で胸がいっぱいだった。




