10.勇者降臨①
私たちは、市場で筆記用具やノートなど学業に必要そうなものを買いそろえていった。
魔法陣を学ぶときに、魔素入りのインクを使うそうだ。それに合わせて万年筆も購入した。なんでも、魔法を使えなくても魔法陣は描けるんだとか。
いまいち仕組みはよくわからないけど、私にも描けるのかしら?
それはともかく、店で値札を見ていて気がついたことがある。
この国の文字を読めるのだ。それも昔から知ってるみたいに、なんの違和感もなく。
これも審理の庭の効果なら、新しい能力を得る可能性もなきにしもあらずだ。
少しだけ希望が見えた気がして、買い物が楽しく感じた。
「やっぱり、武器屋や防具屋があるんだね」
通りをのんびりと歩いていると、武器防具と書かれた看板が目に入った。ガラス越しに重そうな鎧が展示されている。その隣の店には、剣や杖が何本も並んでいた。
「そうだ。エミコ、グローブを買いませんか?」
突然、リッカが言った。
「グローブ?」
「はい。戦闘を魔法でなく投石に頼るのなら、杖よりも手を守るグローブの方がいいでしょう。手甲でもいいかもしれません」
「そうね。そうかもしれない! 武器屋に寄ってもいい?」
「もちろんです」
私たちは武器屋の扉を開けた。
そこには先客がいた。
目に鮮やかな赤髪が印象的な若者が、店主と話していた。
「ねえ、おっちゃん。そこの大剣ほしいんだけど、いくら?」
「あぁ? 予算は?」
赤髪の青年は鞄から革の袋を出すと、店主に中身を見せた。
「一応、こんだけあるんだけど……」
「……! お客さま、お目が高い。そちらはミスリル鉱石を使った剣で、ミソシール一の工匠が鍛えた業物です」
なんか、明らかに態度が変わった気がする。
というか、所持金をあんなふうに見せちゃうのはアリなんだろうか?
なんか危なっかしいなあ。
私たちは商品を見ながら、なんとなく耳を傾けていた。
「そうなんだあ。俺って見る目あるぅ! それ買うよ!」
「金貨5枚です。毎度あり!」
無事に交渉が済んだようだ。
でも、金貨5枚って相当の金額だ。
事前に聞いていたお金の相場から考えると、金貨1枚は日本円で10万くらいの価値があるような印象だった。
いいとこのボンボンなのかな?
私がそんなことを考えていると、リッカが突然、2人の間に割って入った。
「すみません。本当にそれ、ミスリルですか? 色も輝きも、本物には遠く及びません。それに本当にミスリルだったとしても、金貨3枚がいいところでしょう」
……どうやら、赤髪の青年はぼったくりにあっていたらしい。
「なんだあんた。何を根拠にそんなこと言うんだ? 商売の邪魔するな」
「少し勉強すればわかることです。それよりいいんですか? この方、勇者さまですよ? 勇者さまに紛い物を掴ませた店と評判になったら、それこそまずいんじゃないですか?」
……え?
このアホそうな子が勇者なの!?
どこをどう見て、勇者と言ったの?
「……嘘つけ! アホづらのこいつのどこが勇者だって言うんだよ!」
「彼、首元に星型のアザがありますよ?」
「……!」
「エミコ、この店は信用できません。行きましょう。勇者さまも、ほら、行きますよ」
リッカは私たちの腕を掴むと、足早に店を後にした。
私たちは広場の噴水のベンチまでやってきた。
「勇者さま、初めまして。私はリッカ・ヴィーンと申します。こちらはエミル・シュトー……、中身は別人ですが。2人とも、勇者パーティー候補です」
「おー! 候補生か。さっきはありがとな! 思わず買っちゃうとこだったぜ。俺はジョシュア・ジョヴァン。ジョシュアって呼んでくれよ。これからよろしくな!」
私は、勇者と呼ばれたジョシュアのことをまじまじと見た。
エミルよりは少し低いけれど、背は高く、がっしりしている。天真爛漫なアホっぽさは気になるけれど、これまたタイプの違うイケメンだった。
それにしても、ジョシュア・ジョヴァンって……ジョジョじゃん。
まあ、そんなことはどうでもいい。
私は、さっきから気になっていたことをリッカに聞いた。
「ねえ。リッカはどうしてジョシュアを勇者だとわかったの?」
「勇者には、神の託宣が下りた後、首元に星型のアザができるのです。ジョシュアにはそれがありました」
「え? 星型のアザ!?」
思わずジョシュアの方を見た。
「おう! 見てみるか?」
そう言うと、ジョシュアは首をぐっと傾けて左側の首元を見せてくれた。
確かにそこには星型のアザがあった。
……これはもう、ジョジョでしかないじゃん。
ジョシュアがスタンドを使えても、私は驚かない。
「ありがとう。なんかいろいろツッコミどころが多くてびっくりした」
「そうかあ? なんかわかんないけどよかったな!」
お礼を言う私に、見当違いな返事が返ってくる。リッカが心配そうにジョシュアの顔を見ながら聞いた。
「ジョシュア、これからのご予定は?」
「別の武器屋に行くよ。勇者パーティーの選抜に俺も一緒に参加するんだけどさ。それ用の武器を新調したくて」
勇者は、もうジョシュアに決まっているのに参加するのだろうか?
不思議に思ってリッカに聞いた。
「勇者も参加するの?」
「戦闘には連携も大事ですからね」
「なるほど」
確かに大事なことかもしれない。
ゲームも、個の強さも大事だけれど、バランスや組み合わせで戦いやすさが変わったりするもんな。
そんなことを考えていると、ジョシュアが子犬のようなうるうるした目をして言った。
「なあ、どこかいい武器屋知らない?」
「うーん。私もこの街の人間じゃないので店は知りませんが、多少の目利きはできます。もしよかったらご一緒しましょうか?」
リッカが私の方を見る。
うん。絶対にその方がいい。
うっかりすると、この子、身ぐるみはがされちゃいそうだし。
「いいのか? お前らも予定あるだろ?」
「あ、私もグローブ見たくて武器屋に行ったから。ついでだし一緒に行こうよ?」
ここで1人で行かせて、パーティー選考の時に会ったらスカンピンだった、なんて言ったら寝覚めが悪い。
「おう! ありがとな。それにしてもお前……エミルだっけ? 女みたいな喋り方だな」
「それについては込み入った事情がありまして……」




