第4話:絶対的センターの素質
「あんだ? てめえは。ただの一般人が、勇者の出来損ないを庇う気か?」
冒険者たちが不快そうに顔を歪め、腰の武器に手をかける。筋骨隆々の彼らからすれば、目の前の黒髪の青年など片手でひねり潰せる羽虫に見えた。タクトの背中に冷たい汗が流れる。生身の彼には、彼らと戦う力などない。
だが、タクトの瞳の奥で、固有スキル【プロデュース・マイ・ディーヴァ】の「スカウトモード」が完全に起動した。
【アリス】(12歳・人間族)
【総合評価】:勇者としては完全な粗大ゴミ。だが、アイドルとしては『10年に1人の逸材(絶対的センター)』。
【現在発動中のデバフ】:「精神的呪縛(無能・出来損ないの刷り込み)」
【スキル強制介入】:対象の精神的デバフを一時的にシャットアウトします。
タクトがアリスの前に膝をつき、泥のついた彼女の顔をハンカチで優しく拭ったその瞬間、アリスの脳内を支配していた「恐怖と自己否定」の霧が、すっと晴れた。
「な、何言ってるの……? 私は、世界を救う勇者になれなかった、お荷物なの……」
アリスの瞳から大粒の涙が溢れる。しかし、その震える瞳を見つめるタクトの声には、今、スキルによる『絶対的説得力』の補正が乗っていた。地味な男の言葉が、アリスの魂に直接響くような重さを持って突き刺さる。
「バカ言え。お前が勇者になれなかったのはな、お前のその足が『戦うため』に与えられたものじゃないからだ」
「え……?」
「お前の足はな、『ステージの上で、何万人ものファンを魅了する最高のステップを踏むため』に神様から授けられたものなんだよ。家柄も関係ない。お前自身の歌とダンスで世界中を熱狂させる最高の仕事――『アイドル』を、俺と一緒にやらないか?」
普通なら、初対面の地味な不審者の妄言だ。しかし、デバフを消され、スキルの超常的な説得力を注ぎ込まれたアリスの心には、タクトの手が「暗闇に差し込んだ唯一の救いの光」として異常なまでの引力で映っていた。
「……! 私、やりたい……私、出来損ないのままで終わりたくない……!」
アリスがタクトの手を強く握り返した。
その瞬間、脳内にシステム音が鳴り響く。
【システム警告】:対象との合意を検知。アリスを『研究生(仮)』として登録しました。これよりステータスを【ステージ用】へ強制変換します。
「おい、無視してんじゃねえぞ、ステップだかなんだか知らねえが!」
痺れを切らした冒険者が大剣を抜き、殴りかかってくる。タクトはアリスの手を握ったまま叫んだ。
「アリス! その出来損ないと言われた脚力で、こいつらの攻撃をすべて避けてみせろ! それが、お前の最初の『オーディション(一次審査)』だ!」




