第2話:神様への事業計画書
「いやあ、実に見事な最期だった! 自分の命を顧みず、推しと仲間を救うとはね!」
パチン、と乾いた指の音が響き、男は目を覚ました。
そこは、重力も空気も感じられない、どこまでも白い空間。目の前には、金髪のチャラそうな外見をした自称「神様」が、雲のような椅子に寝そべりながら、おもしろそうに男を見下ろしていた。
神様が男の魂を実体化させたその姿は、異世界の英雄とは程遠い、極めて「平凡」なものだった。
年齢は20代半ば。髪は染めてもいない普通の黒髪で、無造作に短く切りそろえられているだけ。顔立ちも、街を歩けば三分で記憶から消え去るほど平均的で、体格も筋骨隆々な冒険者たちに比べれば細身。前世のデスマーチの疲れが抜けきらないような、どこにでもいる地味な青年――のちに「タクト」と呼ばれる男だった。
「君の魂の輝きは素晴らしいよ。というわけで特例! 君を剣と魔法の異世界へ転生させてあげよう! おまけに、何か一つだけ、君の望む通りのオリジナルスキルを作ってあげる。どうする? 無敵の聖剣? それとも全属性魔法? 何でも言ってよ!」
神様は「さあ、どれを選ぶ?」と退屈そうに鼻を鳴らした。
だが、平凡な男の瞳だけは、熱い現場をいくつも支えてきたトップオタクとしての冷徹な光を宿していた。
「神様。俺が欲しいのは、暴力のための力ではありません」
「……は? 聖剣いらないの? じゃあ何が欲しいわけ?」
「俺に、自分でアイドル候補の少女をスカウトし、レッスンを施して育成する固有スキル【プロデュース・マイ・ディーヴァ】を授けてください」
「あいどる? なにそれ、美味しいの?」
きょとんとする神様に、タクトは脳内の事業計画書を澱みなくプレゼンし始めた。
「いいですか、神様。これから俺が行く異世界は、魔王の脅威や戦争、理不尽な労働で荒廃しているブラックな環境とお聞きしました。そんな世界に今必要なのは、さらなる武力ではなく、人々の心を癒やし、明日への活力を与える『エンターテインメント』です。それを行う存在がアイドルです」
タクトが言葉を紡ぐたび、彼の背後にスキルの概要がホログラムのように実体化していく。
【プロデュース・マイ・ディーヴァ】
対象を「アイドル候補生」に任命することで、その少女の潜在能力を『ステージ用』に変換・限界突破させる。
レッスンによって歌やダンスの技術を高め、ライブを行うことで、周囲の人間(観客)のメンタルヘルスを驚異的に回復し、強力なステータスバフを付与する。
「なるほど、戦闘スキルじゃなくて、精神的なインフラを整えるスキルってわけか。異世界を内側からホワイト化しようってんだね。面白い、君の熱意に免じてそのスキルを授けよう」
神様は不敵にニヤリと笑い、タクトの背中を押し出した。
「ただし、異世界は本当にブラックだよ? 絶望に濡れた少女たちが、君の言う『アイドル』なんてお気楽なものになってくれるといいねぇ?」
まばゆい光に包まれながら、平凡な青線の姿をしたタクトの魂は、新たなる現場へと送り出された。




