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黎明魔界のティータイム〜最強の僕は、のんびりお茶を飲んでいたい〜  作者: 七割カカオ
第二章 狙われた大樹と社畜管理官の旅立ち

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第3話 汚された渓谷の森

琥珀の森の静寂を離れ、数日が経過した。


かつて数万の軍勢を足止めしたと言われるハイエルフの至宝、聖木の杖を無造作につきながら、エターナは乾いた街道を歩いていた。


銀髪は旅の埃を被ってもなお月光のような輝きを保っていたが、その表情はいつにも増して、凪のように冷ややかだった。


「ねえ…エルム。君、本当にお金持ってないの?」


「あはは。お茶を淹れる道具に使っちゃった。……ほら、この温度計なんて、龍の鱗を加工した一点物で……」


「……聞かなきゃよかった。私の図書館への侵入方法もそうだったけど、なんで君はそんなに計画性が無いの?」


隣を歩く男――エルムは、申し訳なさそうに空っぽの財布を弄んだ。エターナは深いため息をついた。


でも彼女は確信している。自分が心血を注いで構築したあの多層結界を、物理的に粉砕したこの男の正体。師匠がほのめかしていた、既存の魔王という枠組みの外側に立つ、特別な存在。あるいは、それ以上の何か。


だが、そんな神話的な背景も、現代の「経済」という名の無慈悲なルールの前では無力だった。


「この私が、路傍の雑草が食用に適しているか解析して歩く羽目になるとはね…。あまりに非合理。師匠が見たら、笑い転げるだろうな。……あ、そこの草。根にでんぷんを溜めるタイプだから、毒を中和すれば食べられるよ。……食べないけど」


極度の甘党である彼女にとって、この数日は地獄だった。

口にしたものは、非常食として持ってきた魔導管理局が支給している保存食ばかり。魔導回路で無理やり水分を抜かれたそれは、エターナに言わせれば『味のついた粘土』であり、甘党の魂に対する侮辱でしかなかった。



「あ、見てよ、あそこの物流拠点。魔法で自動化された『定点輸送機』が並んでるけど、術式が雑。座標計算の浮動小数点を端折ってるから、荷物が酷く揺れてる。


…美しくないね。最近の魔導具職人は、マニュアル通りに回路を組むだけで、実際に発生している『振動』の制御すらしようとしない…。信念が感じられないな。」


魔道具オタクとしての彼女の瞳は、現代の「効率重視」の魔法体系に否定的だった。

かつて魔法が「神秘」だった頃、魔道具は作り手の魂を写す鏡だった。


だが、管理局の管理下にある今の道具は、ただの使い捨ての消耗品だ。便利になったはずの世界は、彼女にとって、ひどく無機質で、情緒に欠ける風景にしか見えなかった。



「お詫びに、次の村では最高のお茶を淹れるから。……あ、見えてきたよ。あれがグランカレ村。」


渓谷に抱かれた小さな村。本来なら、湿り気を帯びた清涼な空気が流れ、魔力を含んだ霧が極上の茶葉を育むはずの場所。


だが、村の入り口に差しかかった途端、エターナは眉をひそめた。


「くさい…何…この鼻を突く匂い。三流魔術師が調合した作った、安っぽい香水みたいな匂い」


村から漂ってくるのは、過剰なほど濃厚で、しかし奥行きのない花の香り。村の入り口には、派手な色彩の旗が何本も掲げられ、そこには高級茶葉チェーン『テ・セレスト』のロゴが踊っていた。


「わあ、テ・セレストの支店かな? ついてるね、エターナ!」


「いいや。ついてない。私の感覚が、あれは『不快な模造品』だと告げてる。ロゴの曲線が、二パーセントくらいズレてる。偽物だよ、あれは…。」


村に足を踏み入れた途端、光景はさらに異様なものとなった。


通常なら豊かな麦や野菜を育むべき大地が乱暴に掘り返され、不気味なほどに青々とした茶の木が、まるで工場の部品のように整列して並んでいた。その根元には、禍々しい紫色の光を放つ魔法肥料の袋が山積みされている。


「待って…。あれは『枯死の紫煙(こしのしえん)』だよ」


エターナが足を止め、目を細めた。魔道具や術式に精通した彼女には、その肥料の「悪意」が手に取るようにわかった。


「植物の成長を劇的に加速させる代わりに、その根から致死性の魔導毒を分泌させる禁忌の魔薬だ……。これ、土壌の術式循環を完全に破壊してる。最低……。魔導学に対する冒とくだよ。これを作った奴も、使っている奴も、魔法を扱う資格なんてないね。」


畑で働く農民たちは、不自然に顔を赤らめ、絶え間ない咳に苦しんでいる。一方で、村の広場では『茶葉による魔力酔いを治す聖水』と称された高価な小瓶が、飛ぶように売れていた。


この村では、領主が薬の効果でお茶を量産させ、村人には高い給料を支払う。


ただし、農民が薬の影響で体調を崩すことをわかっているため、商会が「特効薬」を高値で売りつけ、農民に支払った金を回収する。完璧で、そして醜悪な搾取のしくみが出来上がっていた。


エターナは瞬時にそのからくりを見抜き、甘味不足から来る不満など、湧き上がる怒りがかき消していく。


「エルム…。あそこにいる役人の連中……消しちゃおっか。あいつらの品の無い薄笑いを見てると吐き気がしてくる。」


エターナの声は、氷点下まで冷え切っていた。先ほどからキョロキョロ周囲を見渡しているエルムも同じことを感じているようだったが、彼は何かを見つけたらしく、違う反応を見せた。


「あそこの木だけ色が、違うね……」


エルムが視線を向けたのは、村の端。一際古く、今にも枯れ果てそうな大きな樹の下。そこに、一人の少女が座り込んでいた。


領主を筆頭に、醜い搾取のサイクルが支配する村で、たった一箇所だけ、細い呼吸を続けている場所。二人は吸い寄せられるように、そこへ足を向けた。

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