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黎明魔界のティータイム〜最強の僕は、のんびりお茶を飲んでいたい〜  作者: 七割カカオ
第五章 雪の降り続ける街

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第20話 忘却の英雄を受け継ぐ者

「初代魔王と勇者が、親友……」


総督マルコシアスが、絞り出すような声でその言葉を漏らした。

窓の外では青白い雪が、ただ静かに世界の綻びを埋めるように降り続いていた。

エルムは手元のカップをそっとテーブルに置くと、穏やかな、けれど力強い眼差しを一同に向けた。


「僕の父、カイル・エリュシオン。彼は魔族でありながら、初代魔王ゼニス・ヴァルプルギスの最も親しい友人だったんだ。けれど、ゼニスのやり方に父さんは違和感を感じ始めた。親友だからこそ、分かり合いたかった……でも、できなかった。父さんは人間側につくことを選んだんだ」


「――っ!? な、何と……! 初代魔王様の親友が、人間側へ……!?」


ガタン、と凄まじい音を立ててマルコシアスが立ち上がった。顔面は蒼白になり、足が震えている。彼にとって、魔王による統治はこの世界の絶対的な理だった。それが「親友同士の決裂」から始まったこと。そして、敵対したはずの勇者が魔族であったという事実は、彼が捧げてきた忠誠の根底を揺るがすものだった。


「圧倒的な強さから、人々は父さんを『勇者』と呼び、英雄として称えた。そして遂に、二人は戦うことになる。でも……」


エルムは少しだけ目を伏せた。


「戦いの決着はつかなかった。二人は戦いの中で気づいたんだ。争い合っても、人々が笑い合える平和な日常は来ないって。だから長い時間をかけてたくさん話し合った。その結果、魔王は引退し、世界を古龍の生息地を境に七つに分け、今の七人の魔王に統治を任せることにしたんだ。そして、魔王達が統べる世界としてスタートするには、勇者が敗北したというストーリーが一番自然だったんだ。だから父さんも勇者の敗北という形を取り、人々の前から姿を消した」


「負けた、ことにした……。魔族と、人間を、救うために……」


マルコシアスは、崩れるように椅子に座り込んだ。目からは、信じてきた世界の崩壊を惜しむような、世界の安寧を願った二人の英雄の決断を讃えるような、熱い涙が溢れていた。


「……そして、父さんと共に戦った勇者パーティの大魔法使いが、アストレア・エリュシオン。彼女が、僕の母さんだ……」


今度は、エターナが目を見開いた。

アストレア。エターナが魔法の道を志すきっかけであり、その背中を追い続けてきた唯一の師。


「魔族の勇者である父さんと、ハイエルフの母さん。僕はその二人の間に生まれた。だから、僕の中には強すぎる力が流れている。……でも、魔族の血は時々、僕の心を不安定にさせるんだ。すべてを壊したくなるような、暗い気持ちになることがある。そんな時、母さんが見つけてくれたのが、お茶だった」


エルムは、自分のカップを優しく見つめた。


「お茶を飲んでいる間だけは、不思議と心が落ち着いた。だから、自分を失わないためにずっと飲んできて……気づいたら、こうしてお茶を淹れるのが一番の幸せになっていたんだ。僕にとって、お茶の時間は自分が自分でいるための、大切な時間なんだよ。」


エルムは、照れくさそうに笑うと、真剣な顔をして一同を見た。


「これが、僕の本当の姿だ。……平和な旅人のふりをしてきたけれど、実態はいつ暴走するかも分からない怪物で、偽りの歴史の生き残り。……そして、僕はやりたいことがある。管理局や魔王たちが作ったこの世界の歪みを直して、みんながゆっくりとお茶を飲んで笑えるような世界にしたい。……でも、それは今の秩序に逆らうことでもあるんだ」


エルムは、椅子から立ち上がった。


「だから、みんなに決めてほしい。この事実を知った上で、僕と一緒に旅を続けるかどうか。……無理に付き合えとは言わない。ここで引き返しても、僕は君たちを責めないよ。」


サロンを、長い沈黙が支配した。

その沈黙を破ったのは、ミレイユだった。彼女は扇を閉じ、エターナの肩にそっと手を置いた。


「何言ってるのよ。私は、戦争孤児だったところをカイル様とアストレア様に拾われて、エルちゃんと一緒に兄妹みたいに育てられたの。そして私はアストレア様の一番弟子。……今は二人の希望もあって、第7魔王を務めているけれど……。ねえ、エターナ」


ミレイユが、エターナの顔を覗き込む。


「あなたがずっと追い求めていたアストレア様。彼女が最後に受け入れた『二番目の弟子』が、あなたなのよ。……姉弟子として、大事なことをあなたに伝えるわね。

『いつか、私の息子が道に迷ったら、その時はあなたが杖となって支えてあげて』

これが、アストレア様からあなたへの伝言よ。」


「……っ」


エターナの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


自分がなぜこれほどエルムに惹かれ、守りたいと思っていたのか。憧れた師匠の息子だからではない。彼の中に流れる、あまりに優しく、それでいて壊れそうな願いを、自分の魂が感じ取っていたのだ。


「……バカだね、エルムは。一人でそんなことを背負って。……私に選べと言った?」


エターナは、涙を拭わずに微笑んだ。いつもの皮肉めいたトーンではなく、一人の女性としての、素直な声だった。


「……エルム。君が穏やかにお茶を飲んでいる限り、私が君の隣で魔法でサポートしてあげる。……師匠との約束だからじゃない。……私が、そうしたいからだよ」


シロハが、エルムの手を力強く握った。


(あるじ)様がどんな過去をお持ちであろうと、私が惚れたのは今のあなた様です! 世界の歪みなんて、私が全部噛み砕いてあげます!」


ベルが、手帳を閉じ、決然と顔を上げた。


「……私は、エルム様が作る、誰もが安らげる世界をこの目で見たい。だから、最後までお供します!」


最後に、マルコシアスが床に膝をつき、深く頭を下げた。


「……エルム殿。このマルコシアス、魔王サタン閣下の臣下ではありますが、閣下のルーツが2人の英雄であることが明らかになった今、あなた様にも忠誠を捧げさせていただきます。」


エルムは、少し驚いたように目を見開き、それから今までで一番穏やかな、本当の笑顔を見せた。


「……みんな、ありがとう。……さあ、行こうか。次の場所へ」


二千年の時を経て、再び動き出した歴史の歯車。

スノー・グレイスの雪解けと共に、彼らの旅は続いていく……

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