表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明魔界のティータイム〜最強の僕は、のんびりお茶を飲んでいたい〜  作者: 七割カカオ
第三章 最強コンビの路銀稼ぎ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/40

第10話 伝説の薬草採取

白亜の都市メルシナの朝は、潮風が運ぶ爽やかな香りで始まる。

三人が身を寄せているボロ宿の食堂では、昨日ベルが「原資」から絞り出した、特産「黄金ハチミツ」の甘い香りが、安物のパンを贅沢な御馳走へと変えていた。


厚切りトーストを一口頬張ったエターナの動きが止まる。

一瞬の静寂。次の瞬間、彼女の藍色の瞳がキラキラと輝き、頬が内側からの多幸感でふわりと緩んだ。


「何これ、めちゃうまっ!! 蜂蜜ヤバっ!」


そこまで言って、エターナは自分が何を口にしたかを悟った。

ピタリ、とフォークを止める。数秒前までの無防備な笑顔が、見る間に羞恥の朱色に染まっていく。


「…とか、賢者の私が言うわけないでしょ。」


「アハハ、エターナ様。今、『めちゃうまっ』って言いましたよね?」


ベルがニヤニヤしながら追い打ちをかけると、エターナは真っ赤な顔でトーストの端を噛みちぎりながら、必死に取り繕い始めた。


「ち、違う。聞き間違えだよ。私がこんな庶民の味に屈するはずがないでしょ!?」


「そうかな。耳がさっきからずっとピクピク動いてるよ、エターナ」


エルムの追い打ちに、エターナは「ううう……っ」と呻き、トーストを口に押し込んだ。


「うるさいなぁ! ほら、今日の目的地はどこなの!?」


照れ隠しに荒っぽい口調で誤魔化すエターナだったが、その手は二枚目のトーストに伸びていた。


(エターナ様は美味しいものを食べると嘘をつけないの、可愛い過ぎる♡)


とベルは内心で笑いつつ、今日の予定を告げた。目的地はメルシナの裏山――通称『翠鳴山(すいめいざん)』。薬草採取の依頼である。


† † † † †


翠鳴山は、標高が上がるにつれて深い霧が立ち込める霊峰だった。


「あちこち泥まみれになって探し回るなんて、私の美学に反する。少し待ってて。」


登山口に到着した途端、エターナは聖木の杖を地面に軽く突き立てた。


「極位探索魔法 、星霜の走査(アストラル・ソナー)


エターナが静かに目を閉じると、彼女を中心に幾何学的な紋様が描かれた光の波紋が、山の斜面を駆け上がっていった。


「はい、見つけた。北東の崖下に三十株、西の渓流沿いに五十株。そこにあるのが依頼の『月見草』。…あぁ、あと、その少し奥に魔物避けのハーブの群生もあるから、ついでに摘んでいこうか。」


「ええっ、もう見つかったんですか!? 普通、これだけの量を探すのに熟練の採取家でも丸一日はかかるんですよ……」


ベルが驚愕する間もなく、一行はエターナのナビによって、まるで自分の庭を散歩するかのような手軽さで薬草を回収していった。ベルの背負い袋は、一時間もしないうちに最高品質の薬草でパンパンに膨れ上がる。


しかし、本来の目的を達成し、下山しようとしたその時。エルムの足取りが、霧が最も深い「禁足地」へと向かって止まった。


「……待って。ベル、エターナ。この風……懐かしい香りだ。」


エルムが目を閉じ、深く息を吸い込む。


「潮風に洗われ、山の霊気と太陽に磨かれた匂い……。間違いない、この奥に『陽光の翠葉サンライト・エメラルド』の原木が眠っているんだ」


「陽光の翠葉……? 千年前に絶滅したと言われている伝説の茶葉じゃないですか!」


ベルが叫ぶ。エルムに導かれ、10歩先も見えない程の濃い霧を抜けた先。そこには、周囲の巨木を圧倒して(そび)え立つ、葉の一枚一枚がエメラルドに輝く大樹があった。


だが、その宝樹を守るかのように、巨大な牙と岩のような筋肉を持つ森の王『フォレスト・オーガ』が十数体、行く手を阻むように立ち塞がった。


「グォォォォォォッ!!」


地響きのような咆哮。だが、エターナは退屈そうに杖を弄んだ。


「……不快だね。その汚い叫び声、せっかくの幻想的な霧の静寂を台無しにしている。エルム、さっさと片付けよう。私が動きを止めから。」


「わかった。……ごめんね、君たち。その木は、この世界にとって大切なものなんだ」


エターナが杖を振ると、地面から幾千もの光の鎖が噴き出し、オーガたちの四肢を瞬時に縛り上げた。身動きが取れなくなった巨躯に対し、エルムが音もなく踏み込み、流れるような動作でオーガたちの懐に潜り込む。


――ドッ、ドォン!!


正確無比な一撃。鞘の先端がオーガの急所を叩くたび、岩のような筋肉が波打ち、巨体が次々に沈んでいく。


それは戦闘というよりは、完成された演舞のようだった。わずか数分。戦場には、再び静寂が戻っていた。


「よし、これで終わりだね。あ、ベル、討伐の証拠が必要だよね?」


エルムはそう言うと、苦しむ間もなく息絶えたオーガたちの口元から、立派な牙をナイフで手際よく切り出していった。十数本ものオーガの牙。


「さて。エターナ、この木を保護してあげてくれないかな?」


「もちろん。」


エターナが、エメラルドの大樹の周りに広範囲の魔物避けの結界を展開する。

その光景を横で見ていたベルは、震える手で手帳にペンを走らせていた。


(……伝説の茶葉の大樹発見と確実な保護。そしてオーガの群れの殲滅。フォレストオーガは、1体発生しただけでもBランク以上の複数パーティのチームを組んで討伐するレベルの魔物のはず……今回こそは、きちんとギルドに報告しないとまずいかもしれない…)


† † † † †


数時間後。メルシナの『テ・セレスト』支店、最上階。


ベルから送られた至急の魔導通信を受け、ヴァレリウスから全権を委任された支店長は、興奮で顔を真っ赤にしながら書類を並べていた。


「――確認いたしました、ベル殿。これは間違いなく、失われたはずの『陽光の翠葉サンライト・エメラルド』です! さらにこのオーガの牙……これほど傷のない完璧な素材、なかなかお目にかかれません!」


支店長は、震える手で一枚の契約書をベルの前に差し出した。


「つきましては、メルシナとの茶葉の独占販売権の契約の謝礼として『金貨百枚』。そしてロイヤリティとして今後の売上の一割を永久に保証させていただきます。…いかがでしょうか、ベル殿! あ、それとオーガ討伐の特別報奨金は、後ほどギルドからお受け取りください。ギルドマスターが腰を抜かしておりましたよ。」


「……金貨、百枚……。さらに一割……」


ベルの口から、魂が半分抜けかけた。

エルムはのんびりと茶缶を抱えて


「よかったね、ベル。じゃあさ、テ・セレストの限定缶、買ってもいいよね?」


と笑い、エターナは不敵に微笑んで


「これで今度こそ、あの店主が隠していた最高位の魔導書を買い取らせてもらおうかな。店の場所は覚えているよね?」


と、既に散財の計画を立てている。


「エルムさん、限定缶は、先ほど支店長からおまけとして20缶プレゼントされました。エターナ様、臨時ボーナスが入りましたので、魔導書購入を許可します。それと、基本的にこのお金は、今後の遠征費と、お二人の無茶な買い物のための『貯金』として私が管理させていただきますね!! 」


メルシナの歴史に残る偉業を成し遂げた二人は、目先のご褒美に満足しているらしく、ベルの後半の話など聞いていない。


† † † † † †


その日の夕暮れ。

メルシナの街には、新しい名産品の誕生を祝う鐘の音が響き渡っていた。

冒険者ギルドでは、昨日『下水道を聖域に変えた』新人が、今日は「探索魔法で山中の薬草を秒殺で集め、オーガの群れを無傷で全滅させ、伝説の茶葉を見つけた」という噂が、衝撃をもって駆け巡った。


その夜、3人は、テ・セレストのゲストルームにて、エルムが原木から少しだけ分けてもらった葉で、丁寧に淹れた『陽光の翠葉』を試飲していた。

(3人が安宿に泊まっていることがヴァレリウスの耳に入り、大叱責を受けた支店長が、至急ゲストルームにお移りください!と申し出て今に至る。)


「……うわぁ……。これ、本当に美味しいです……」


ベルが一口飲むと、全身の細胞が歓喜の声を上げるような、清純で深い香りが脳を突き抜けた。


エターナも、大切そうにカップを両手で包み込み、瞳を細めた。


「これが伝説の茶葉か…悪くないね。ベル。次の依頼は何?山で魔石探しするの忘れちゃったから、また山に入る仕事でもいいかもね。」


「ええと、次はですね…」


最強のFランクパーティー『BEE』。

彼らはメルシナ史に残る伝説を刻んだかと思われたが、更なるトラブルを呼び寄せていたことを、彼らはまだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ