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第34話

 10分後、美沙から連絡を貰った柳瀬がやって来て、

「隆さん大事な話って何ですか?」と書斎に入るや(いな)や質問を投げかける。


「私もまだ冒頭(ぼうとう)しか聞いていないのですが、柳瀬さんも一緒の方が良いと思って連絡しました。重要な話とは美沙が聞いた話です」隆はそこまで言うと、「もう1度最初から話してくれるかな」と美沙を(うなが)す。



 美沙が修一から聞いた事を全て話し終えると、

「ついに、本腰(ほんごし)を入れて取り締まる事になったのか…」隆は苦しそうに(つぶや)いたが柳瀬の方はただ(ひたい)に大粒の汗を浮かべて黙っている。


 その後は3人とも何かを考えていたのか長い沈黙が続く。


「…倉庫にいるネコ達にも知らせないといけないな」隆が静かに口を開くと、

「せめて父親を捜し出してからに………」絶望した表情の柳瀬は最後まで言えずに肩を落とす。


「でも、いつからその取り締まりが始まるのかハッキリしていないし、本当に人間性を失うのかだって分かっていませんよ…」そんな柳瀬を落ち着かせようと思って隆が言うと、

「実は昼過ぎに付き合いのある政治家から同じような話を聞かされたました。だから、隆さんの話がその事じゃないようにと祈りながらここへ来たんです…。その政治家は取り締まりが数ヶ月以内に始まるだろうと言っていました…」と泣き顔になって2人を見る。


「数ヶ月ですか、あまり時間がない…」隆もさすがに困って、「何か防御策(ぼうぎょさく)を考えるにしても無音ドローンが相手では…」と言葉を失うと、

「その上、変身動物をかくまうのも…、罪になるらしい…」柳瀬が言い(づら)そうにして口籠(くちごも)った。


 それが美沙に関することだとすぐに理解した隆はその内容について詳しく知りたかったが、本人がいるこの場で聞ける筈もないとすぐに(あきら)める。


 しかし、横目で美沙を見ると既に事の重大さに気付いていて、

「今、何て言ったの? 何が罪になるらしいの!」と大きな声になって柳瀬を問いただす。


「その政治家が言うには、変身動物をかくまう者も変身した人と同じ罪になると…」柳瀬は最後まで一気に話そうとしたが、そこから先を続け(づら)くなって黙りこむ。


「同じ罪ってことはつまり、死刑(・・)って事じゃない──!!」美沙が吐き出すように言い、泣きながら書斎を出て行ってしまった。


 それを聞いた隆も激しく動揺して、

「柳瀬さん、それは本当ですか?。その政治家が、そう、言ってたんですね?」間違いであって欲しいと願いながら何度も確認したが

「間違いありません。私もその事をどう伝えようか迷っているところに連絡を貰って…」柳瀬はそこまで言うと、その場にへたり込んでしまった。


 これ以上話しても収拾(しゅうしゅう)がつかなくなるだけだと思った隆は落ち着いて対策を考えたいからと告げ、柳瀬には帰ってもらうことにした。



 泣きながら書斎を飛び出した美沙は寝室に(こも)ったままだった。

 ついに、何の罪もない美沙にまで危険が(せま)り、何か策を考えないと全てが終わってしまうと思った隆は誰もいない書斎で1人、(あせ)っていた。


 変身動物が違法である以上、柳瀬の両親やクロトラ達、隆の命が危険になってもそれが宿命と言えるだろう。

 だが、美沙は人間としてまだ合法的に生きられる年齢なのだ。

 人生の支えになろうとネコになってまで生き続ける事を選んだが、それによって美沙の命が危険に(さら)されてしまうのでは何の意味もなかった。


 こんなに早く社会情勢が変わるとは想像せず、変身術でネコになるという一番安全な手段を選んだつもりでいた自分は甘かったと後悔(こうかい)した。

 いまさら()やんでも遅いがこんなことになるならヘヴンに行けば良かったと、そうしていればヘヴン行きになるまでの12年間を美沙は堂々と生きることが出来たのだと思って無性に腹が立った。


 そのやり場のない(いきどお)りにいても立ってもいられなくなると、隆は書斎の窓から飛び出して力の限り走り出す。

 夜の街をでたらめに()(まわ)り、疲れ果てて立ち止まった場所は偶然にもクロトラ達がいる倉庫の前だった。


 隆が倉庫のドアに向かって歩き出すと、

『隆、取り締まりのことを知らせに来てくれたのか?』クロトラの声が頭の中に響き、

『…さっき柳瀬が来て、話してくれた』と続けて語りかけてくる。


(柳瀬さんが?)隆が声には出さず頭の中で応えると、

『お前と美沙の事を心配していた。勿論(もちろん)、俺達の事もな…』クロトラはそう語り、『隆、俺達の心配は要らない。野良になってしまったらもう生きている意味はないし、この社会で俺達は違法なのだ。本来の動物に戻れるというなら、奴らの取り締まりに協力してやるまでだ』と警察を嘲笑(あざわら)うような声を響かせた。


『柳瀬は自分が変身して白ネコと捜索に行くことも父親が着せられた汚名を晴らす事も(あきら)めていなかったが、それらはたった1度のパルス照射で終わってしまうのだ。隆があれこれ心配してもどうにもならない…』優しい声が隆の頭に響く。


『隆が今悩むべきことは柳瀬親子やここの変身ネコ達がどうなるかではない。それは俺達自身が考えねばならない事だ…』

『さあ早く帰ってやれ、美沙がお前を必要としているぞ…』その言葉を最後にクロトラは気配(けはい)を消した。


 もう、クロトラは聞いてないだろうと思ったが、

(クロトラさんのお陰で自分が何をすべきか分かりました。皆が生き残れるよう祈ってます)隆は再びどこかで会えるよう願いながら別れを告げた。



 自宅にに戻った時、すでに隆の心は決まっていた。

 書斎から出て美沙を探すとリビングのソファに座ったまま、泣き疲れた顔で呆然(ぼうぜん)としていた。


 隆はソファに上がって隣に座り、静かに声を掛けた。


「決めたよ、美沙。これが最善策だ」


 美沙は前を向いたままビクッとした後、その視線をゆっくり隆へ移した。


 倉庫でクロトラが語った内容を伝えると、もう()れてしまったのか涙を流さずに泣き出して、

「クロトラさんや他のネコ達とも、もう会えなくなるのね」弱々しい声で言い、「隆とはどうなるの?」と震えた声で(たず)ねる。


「取り締まりが始まる前に、僕はここを出て野良ネコになる。そしていつか…本物のネコに戻るだろう」と隆は言い切った。


「野良になって…、本物のネコ?…」


 その意味が分からなかった美沙は不思議そうにしていたが突然、ハッとして目を見開き、

「まさか、人間の記憶を消されてしまうって事?」と驚いたように言い、「そんなのいや────!」今度は()れていた筈の涙を流しだした。


「美沙を守るにはそれしか方法がないんだ!」隆が突き放すように言うと、

「じゃ、私もネコになる! 変身するわ!」美沙は取り乱したように頭を横に振りながら、訳の分からない事を言い出した。


「ネコになるなんて簡単に言うな────!!」隆は怒鳴るように言って美沙の腕に強く噛みついた。



「……………………!」その痛さより初めて噛まれたショックで美沙は唖然(あぜん)として(こお)り付いた。


 大きく開いた目でただただ隆を見詰める。




 しばらくして冷静になった美沙は

「ごめん…なさい…」(かす)かな声で言った後、「ごめんなさい。隆の気持ちも考えずにあんな事を言って本当にごめんなさい」と涙を流しながら何度も何度も謝り続けた。




 隆は美沙が落ち着くのを待って静かに話し出す。


「僕は思う、美沙には人間としてやらねばならない事がまだある筈だと…」、「それだけを生きる(かて)にしているネコ達の為にデリバリーを長く続けなければならないし、ポエムだってもっと良いものを創れる筈だ…」


「…1人で生きていくのは簡単じゃないと思うけど、手助けしてくれる早川さんがいる」


「…だから、僕がいなくなっても勇気を持って生きられる筈だ。僕は元気で輝いている美沙が好きだし、もっと明るく輝けると思うから安心して野良ネコになれるんだ。たとえ電磁パルスを照射され記憶を失ったとしても、美沙が変身ネコをかくまったと疑われることはないんだと安心出来る…」隆は優しい声で続ける。


 そして最後には美沙を安心させようと、

「前にも話したけど心も大分ネコ化して人間みたいな感情がなくなってきているんだ。お陰で野良ネコになるのも不安はないから何も心配しなくてイイ」と付け加えて話を終えた。


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