第149話 料理勝負の結果発表①
空が朱に染まるにはまだ早い、ゆったりとした午後の時間。
ふわあまお茶時間もそろそろ終わりを迎えようとしていた。
それは、三日間続いた智遊祭の激戦がようやく幕を閉じることを意味していた。
「はあ……長かった三日間も、ついに終わりだね」
お茶の余韻を味わいながら沙良に声をかけると、
沙良はほっとしたように微笑んだ。
「みんな頑張ったものね。今回の智遊祭で、私たち十二人……
なんだか、いい感じにまとまった気がするわ」
そこへ曹英が、私と沙良の間に割り込むように寄ってきて、
頬を寄せながら嬉しそうに言った。
「うんうん! 屋台に、たらいに、料理に……全部楽しかったなあ!」
その曹英の肩を、燈柚がむっとした顔で引っ張った。
「もう、曹英さんったら……頬を寄せるのは沙良さんだけにしてください!
それと星愛さん! どうして銀糸を切っちゃったんですか?」
私は苦笑しながら燈柚を見る。
「それはね、私が大変なことになっちゃうのよ。
みんなの意識が一気に流れ込んできて……こう、胸のあたりが
なんとも言えないもやっとした感じになるの」
胸の前で手を合わせてそっと当ててみせると、
琴葉がニヤリと笑って尋ねてきた。
「で、今の気分はどうかな?」
私は両手を広げて、にっこりと答えた。
「うーん、何も悩みのない、とても良い気分よ」
その言葉に、亜亥がすかさず反応する。
「もう、星愛ったら……乙女心がないのかしら?」
「いえいえ、ちゃんとこの胸にしまってありますよ」
私はニコニコしながら胸に手を当ててみせた。
そんなふうに談笑していると、
許褚と郭淮がこちらへ歩み寄り、私に手を差し出してきた。
「星愛さん、いい勝負ができて、なかなか楽しかったわい」
郭淮もにっこり笑い、言葉を続ける。
「こんな日がいつまでも続くといいですね。
どちらが勝っても、恨みっこなしでお願いしますよ」
「おうおう、星愛殿はなかなか人気者じゃのう!」
声の主を見ると、程普が豪快に笑いながら近づいてきた。
「魏の重鎮たちも、星愛殿を気に入ったみたいじゃのう!
はっはっはっはっ」
今度は諸葛瑾が程普の横に立ち、穏やかに頭を下げた。
「そう言う程普殿も、星愛殿にすっかり心を奪われているのでは?
いや、なかなか楽しい時間でした。
次にお会いする時は、交渉の席になりましょう。
今回は西湖の蟹でしたが、太湖の蟹も負けてはいません。
ぜひ、良い返事をお待ちしておりますよ」
恭しく頭を下げる諸葛瑾。
そこへさらに、馬岱と関平が近づいてきた。
関平が握手を求めながら話しかけてくる。
「本当に……父上が言っていたことは正しかったですね」
「えっ、何のことですか?」
私が首をかしげると、関平は一礼して続けた。
「夢咲には華蓮様をはじめ女傑が揃っているが、
星愛殿はこの国を背負って立てる女傑だと申していました」
私は頬を染め、手をひらひら振って否定した。
「いえー、そんなことありませんよ。
ここにいる夢咲五華、秦の四女神、燈三姉妹あってのことです」
馬岱が苦笑しながら関平の肩を叩く。
「お主は本当に不器用な男よのう!
おかしなことを言うから星愛殿が赤くなっておるぞ。
劉備様からは荊州脱出の折は世話になったと聞いておる。
これからも、密なお付き合いをよろしく頼む」
許褚が、何か言いたげに口を開きかけては堪えている。
その時──
「どいて! どいてよー!」
人をかき分ける女の子の声が聞こえた。
そちらへ目を向けると──
「星愛お姉さまー!」
人垣を抜けて、楼花が勢いよく私の腰に抱きついてきた。
「きゃっ! いきなり抱きつかれたら驚くじゃない」
私は楼花の両頬をむにゅーと引っ張った。
(あら、この子の頬……柔らかくて気持ちいいわね)
「この浮気者! 頬を引っ張られるのは私の役目です!」
怖い顔で睨んできたのは、燈澄だった。
「えっえー、いつからそんな係ができたの?」
両手で拳を作り、力を込めて燈澄が宣言する。
「いまからです!!」
その様子を見ていた者たちが、一斉に噴き出した。
楼花は私のお腹に埋めていた顔を上げ、笑う人たちを見回す。
そして、急に真剣な顔になって言った。
「ねえ、星愛お姉さま。私、お姉さまのお嫁になるの。
今日から灯花庵の一員ね!」
そう言うなり、私の膝に横座りになり、胸に頭を寄せてくる。
その姿を見た燈澄が、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「灯花庵の一員ですってー?!
わ、私が許さない! 早く膝から降りなさーい!」
私は困った顔で周りを見る。
すると、人垣を分けて父のバハルンが現れ、私の膝から楼花を抱き上げた。
「止めてお父様ー!」
じたばた暴れる楼花を抱えたまま、バハルンは優しく宥める。
「楼花。灯花庵の一員になるなら、まず静かにしなさい」
楼花が動きを止めたのを見計らい、そっと地面に降ろす。
「星愛様。楼花ももう九歳……
将来は中華との貿易を任せたいと思っております。
少し早いのですが、これも何かの縁。
楼花をあなたの侍女として置いていただけませんか」
楼蘭商隊の親子が、真剣な表情で頭を下げた。
「きゅ、急に言われましても……
すぐにはお答えできませーん! 少し時間をください」
バハルンは楼花の方を見つめ、優しく微笑んだ。
「良かったな。きっと灯花庵で星愛様の侍女として働けるぞ」
楼花は父を見上げ、にんまり笑う。
「そだね。私、星愛お姉さまのお嫁さんになるの」
(だ、だからお嫁さんって何よ……侍女です、侍女。
変なこと言うから、曹英まで怖い顔でこっち見てるじゃない)
――あらあら、人垣ができていると思えば……
智遊祭で人たらしの腕も磨かれましたわね。うふふふ
(華蓮様、そんなこと言わないでください!
気づけばいつの間にか人が集まっていたんです!)
今度は絵蓮が声をかけてきた。
――あのう、お取込みのところ恐縮ですが……
そろそろ料理対決の結果を発表してもよろしいでしょうか。
――あら、もうそんな時間ですのね……
絵蓮、お願いするわ。
華蓮の心話を聞き、絵蓮はすっと舞台の中央へ歩み出た。
ジャーーン!!
大きな銅鑼の音がコロシアムに響き渡り、観客の視線が一斉に絵蓮へと向けられた。
気付けば陽は大きく傾き、空は朱に染まり始めている。
「さあ、皆さん! 三日間の激戦を繰り広げた智遊祭も、
残すは料理対決の結果と優勝発表のみとなりました!」
絵蓮は一度言葉を切り、観客席をゆっくりと見渡す。
静寂が広がり、誰もが続きを待っていた。
「今年は千人の参加者で始まった智遊祭……
初日の“是非判定”では三百四十九人が散っていきました。
続く“蕪でぽん”では、泥だらけになりながら蕪を抜き、
問題に答え、勝ち残ったのは三百人。
そして、夢咲に迎えた新たな女神アストレイアに因んで行われたのが――
アストレイアの天秤。
広東三黄鶏の攻撃を掻い潜り、巣から卵を盗み、
最後には赤裸々な罪の告白時間!
初日を勝ち抜いたのは、二百四名の猛者たちでした!」
スクリーンにはその時の映像が映し出され、
観客たちは懐かしむように静かに耳を傾けていた。
「二日目に行われたのは“襄陽闘陣・群雄乱戦”。
武器を手に戦い、勝ち残ったのは百四十四人の戦士たち。
舞台を商業地区に移して行われた“八柱の女神を探せ”。
ここで注目を集めたのが――女神と女神の子がいる灯花庵!
灯花庵が圧勝した記憶は、まだ皆さんの胸に新しいでしょう!
ここで残ったのは九十八名の密偵たち!」
(そうそう、この時はお母さんと華蓮様と一緒に美優のごま団子食べてたら、
いつの間にか勝ってたのよね……)
私はスクリーンを眺めながら、そんなことを思い出していた。
絵蓮は再び間を置き、声のトーンを上げる。
「そして二日目最後に行われたのは――みんな大好き屋台対決!」
観客席から歓声が爆発した。
「ここでも灯花庵は強かったですねー!
小籠包にゴマ団子、どの時間帯もまんべんなく売り上げを重ね、
蓋を開ければ圧勝でした!」
「いいぞ灯花あーん!」「玄さんも頑張ったー!」
様々な声援が飛び交い、会場は熱気に包まれる。
「そして最終日の今日!
回る周るでは水軍力が問われました。
灯花庵に挑んだ、劉備の平岱の心意気。
玄さん一族は己の弱さを知り、交渉に全てをかけました。
……しっかーし、勝ち残ったのは?」
絵蓮が耳に手を当て、観客の声を促す。
「とうかあーん!」「こうがのいおやこー!」
まばらだった声援が次第にまとまり、
やがて大きな渦となって会場を揺らした。
「トウカ! トウカ! トウカ!」
「コウガ! コウガ! コウガ!」
「さあ、灯花庵の偉い人はこちらへ、黄河の猪親子はこちらへどうぞ!」
私は程普や馬岱たちに一礼し、許褚へ視線を向ける。
許褚も頷き返し、互いに指定の場所へ向かった。
「いやー、私も一緒に行くのー!」
バハルンに抱き上げられ、足をばたつかせる楼花の声を背に、私は前へ進む。
所定の位置に着くと、絵蓮が大きく頷き声を張った。
「それでは、灯花庵の偉い人と黄河の猪親子に盛大な拍手をお願いしまーす!」
拍手と歓声が一斉に巻き起こる。
「では、これより各女神より料理の感想を伺います。
そしてこちらにあるのが――アストレイアの天秤!
女神たちの言葉を受け、最後に重いほうの皿が勝者となりまーす!」
観客の視線が天秤へ集中する。
静かに揺れもせず佇む左右の皿。
これから女神の言葉で傾くと思うと、胸が高鳴った。
「まずは天秤の持ち主であり、
新たに夢咲に加わったアストレイアからお願いしまーす!」
すっと立ち上がるアストレイア。
澄んだ青の瞳は正義と純粋さを宿し、
長い銀髪は風に揺れて星屑のような光を散らす。
穏やかな表情の奥に、揺るぎない意志があった。
「私は純粋性、文化の一貫性を重視しました。
黄河側は魏の宮廷文化を純粋に貫いていました。
灯花庵は多文化融合で美しかったのですが、純度は低かった。
……文化の純度で、黄河側に票を入れたいと思います」
アストレイアの言葉を受け、天秤は黄河側へ傾いた。
――私が設計した料理にケチつけるなんて、百万年早いわよ。
アストレイアの小娘、絶対に許さないんだから。
(えっ、澪さん、聞いていたんですか)
――当たり前でしょ。自分が創造した料理の評価は気になるものよ。
(まあ、そうですが……あまり感情的にならないでくださいね。
私は知的な澪さんが好きですよ)
――あらそう。星愛はなかなかいい子ね。
私たちの心話を聞いていたのか、
絵蓮が鼻をひくひくさせながら口を開いた。
「では次は、虹の女神イリス(虹麗)お願いします!」
パステルカラーの髪が虹のように揺れ、光を受けて七色に透き通る。
虹彩の瞳が柔らかく微笑み、会場の空気がふわりと明るくなった。
「灯花庵の料理は、香りが七色のように広がって……調和が美しかったわ。
対する黄河も悪くはなかったけれど、多彩さでは灯花庵が上ね」
天秤がゆっくりと水平へ戻る。
私たちは顔を見合わせ、静かに頷き合った。
(よし、戻した……勝負はこれからよ)
「では続いて、愛と美の女神アフロディテ(愛麗)お願いします!」
金桃色の髪が波のように揺れ、光を受けて柔らかく輝く。
髪先には淡いピンクと金のグラデーション。
ローズゴールドの瞳は温かな光を宿し、微笑みには気品が漂っていた。
「私は香り、官能性、豊かな味わいを見ました。
トリュフ、蜂蜜、オリーブ、スパイス、ザクロ……
灯花庵の料理は官能的な食材が多く、香りの層が深かったわ。
黄河側は素朴で力強かったけれど、官能性では灯花庵に軍配ね」
天秤の灯花庵側の皿が、ゆっくりと下がる。
灯花庵の仲間たちは静かにその動きを見守った。
絵蓮も天秤を見つめて頷き、次の名を告げる。
「続いて冥界の女神エレシュキガル(絵蓮)!
さあ、私の感想を聞いてくれるかなあ?!」
観客席から歓声が上がり、絵蓮は満足げに微笑んだ。
黒曜石のようなショートヘアが光を受けて紫と群青の色を滲ませ、
アメジストの瞳は冷ややかな威厳を宿す。
微笑むと影が揺れるような神秘が漂った。
そして口調が冥界の女神のものへと変わる。
「私は深み、静けさ、根源性を重視した。
黄河側の薬膳・猪骨湯・蜜棗は、深い陰の滋味を持っていた。
対する灯花庵は……華やかで動的すぎたな」
ニヤリと笑い、絵蓮はいつもの調子へ戻った。
天秤は再び水平を保つ。
私たちは表情を引き締める。
私は皆を見回し、静かに頷いて一言つぶやいた。
「きっと、大丈夫」
その言葉に、皆も真剣な表情で頷いた。
「ではお次は、ギリシャの冥界の女王――
季節の移ろいと冥界を司る女神ペルセポネ(芽衣)です!」
柔らかな光に包まれ、黒紅の髪が風に揺れる。
光を受けるとワインレッドから桜色へと淡く移ろい、
季節の境界のように色が揺らめいた。
ガーネットの瞳は春の芽吹きと冥界の静寂を宿し、
微笑みは儚く温かい。
(芽衣様はいつも落ち着いていて、こちらも穏やかになるのよね)
――うふふ、私にはただののんびり屋さんとしか映りませんですの。
(華蓮様、余計なことは言わないでください)
私と華蓮の心話が聞こえたのか、芽衣はこちらを見て優しく微笑み、口を開いた。
「私は季節感、循環、生命の移ろいを重視しました。
灯花庵の料理には、秋の収穫と冬の市が献立全体に織り込まれていましたね。
黄河側は季節性が弱く、宮廷の定番色が強く感じました」
天秤が再び灯花庵側へ傾く。
私たちは固唾をのんでその様子を見守った。
「なかなか僅差の勝負ですねー!
では続いては、芸術と創造の女神ミューズ(美優)でーす!」
絵蓮の掛け声に、観客席から歓声が巻き起こる。
しかしアストレイアの天秤は、歓声にはまったく反応しなかった。
柔らかな光に包まれ、淡い金の髪が水彩のように揺れる。
青・桃・金のハイライトが創造の光を宿し、
ラピス色の瞳は静かな情熱を秘めていた。
穏やかな微笑みは、見る者に創作の衝動を与える。
「あっ、お母さん、とっても可愛い」
琴葉が思わず声をかけると、美優はにっこりこちらを向いて微笑んだ。
(うわっ、本当にかわいいわね……)
美優は琴葉に可愛く手を振り、ウィンクを送ってから語り始めた。
「私は創造性、物語性、文化融合の面で評価しました。
灯花庵のシルクロードの文化を冬の市の食材で再構築するという発想……
とても芸術的で良かったですね。
一方の黄河側は伝統的で美しかったですが、
創造性の点で灯花庵が一歩抜き出ていました」
話し終えると、美優は再び琴葉に手を振った。
天秤の灯花庵側の皿が、さらにゆっくりと下がる。
それを見た絵蓮が一言。
「どうやら肩入れはなさそうですね……正義の天秤が傾いています」
私たちは再び目を合わせ、静かに微笑み合った。
(よし、あと少し……あと少しね)
――そんなにうまくいっちゃうと、つまらないなあ……
絵蓮の怪しげな心話が頭に響く。
私が絵蓮へ視線を送ると、彼女は「ニッ」と笑って口を開いた。
「お次は、秩序と均衡の女神テミス(理沙)、お願いするよ」
沙良の表情がきゅっと硬くなる。
私はそっと沙良の手を握ると、沙良は真剣な眼差しをこちらに向けた。
「きっと……理沙お母さん、私たちに一票くれるよ」
「お母さん……」
沙良は小さくつぶやき、静かに成り行きを見守った。
テミスは静かな威厳をまとい、白金の髪が光を受けて銀と金の色を揺らす。
琥珀の瞳には揺るぎない正義と冷静な判断が宿り、
穏やかさの奥に厳しさを秘めて「真実を見よ」と語りかけるようだった。
「私は料理の構成のバランス、流れ、調和を見た。
灯花庵は前菜、サラダ、スープ、包み料理、肉、炊き込み、
重ね焼き、パン、デザート、茶……完璧なコース構成だった。
一方の黄河側は宮廷の定番としては正しいが、流れは単調だったな」
理沙の言葉が終わると同時に、天秤へ視線が集まる。
ゆっくりと灯花庵の皿が下へと傾いた。
(あと残りは……芳美お母さん、華蓮様、妃良様の三人。
ということは……もう負けはないってことね)
私が皆を見ると、同じことに気付いたのか、
仲間たちの表情がぱっと明るくなった。
「おっとー、灯花庵の偉い人は何かに気付いたのか安心していますね!
でも、冬の市主催府の襄陽府長・華蓮には三点、
そして神々の女王ヘラには二点の持ち点がありまーす……
安心するのは早いですよー!」
絵蓮は嬉しそうに語った。
(えー、そんな話聞いてないわよ……ひょっとして絵蓮の思いつき?)
――は、はーん、なかなか良い勘しているね。
(絵蓮様! なんでそんなことするんですか)
――答えは簡単、観衆が喜ぶからさ!
そう心話で言い残し、絵蓮は口を開いた。
「では、お次は光と輝きの女神テイア(芳美)です!」
私は心配そうにお母さんを見た。
芳美はそれに応えるように、優しく微笑んだ。
柔らかな黄金の光に包まれ、白金の髪が光の粒子をまとって揺れる。
淡い金と薄桃の色がきらめき、
琥珀の瞳には太陽のような温かさと静かな力が宿っていた。
その微笑みは、まるで抱きしめられるような慈愛に満ちていた。
「私は色彩、視覚的調和、美の構造を見ました。
灯花庵はザクロ、干し果実、オリーブ、トリュフ、蜂蜜ケーキ……
色の階層が豊かで、視覚的に宝石のような宴でした。
一方の黄河側は色彩が茶系に寄り、視覚的な変化が少なかったですね」
天秤の灯花庵側の皿が再び傾く。
これで四つ分の傾きになった。
しかし、妃良と華蓮の投票次第では、まだ勝敗は揺らいでいた。
絵蓮は楽しげに声を張り上げる。
「さて、ここが勝負の分かれ道……!
ヘラが灯花に票を入れれば灯花の勝利は確定。
黄河に入れれば、まだ行方はわかりません!」
碧衣が母・妃良を静かに見つめると、
妃良は首を傾げてにっこり微笑んだ。
「いつもと変わらない、お母さんね」
その言葉に私は首をかしげる。
「どういう意味なの?」
「首を傾げて微笑むときは、本心を隠している時なの」
「じゃあ……あの笑顔だけじゃ判断できないってこと?」
「うん。あまり良くない意味で隠してる時もあるから」
「えっ、マジで」
「マジで」
碧衣は淡々と答えた。
会場が静まり返るのを待ち、絵蓮が高らかに宣言する。
「では──神々の女王であり、家庭の守護者ヘラ(妃良)の登場です!」
堂々たる気品をまとい、深いロイヤルブルーの髪が光を受けて青・銀・金に揺れる。
サファイアの瞳には王の威厳と母の温かさが宿り、
穏やかな表情の奥には揺るぎない強さがあった。
妃良は可憐な笑みを浮かべ、観衆へと声を放つ。
その声は若々しさを保ちながらも、凛とした威厳を帯びていた。




