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創世神話Ⅰ 赤い瞳に創造と破壊を宿す転生女神、滅びの島から紡ぐ女神たちの三国志  作者: ゆみとも
第一章 神婚の儀

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第140話 赤い瞳の暴走


「みなさーん、冬の市も今日で最終日!

冬に備えての買い忘れはありませんかー!」


絵蓮が大声で観衆に問いかけると、大歓声が巻き起こる。


「「「ないよー!」」」

「きゃー、絵蓮様、今日の衣装は……天使が堕天使ですかー!」

「イリス! イリス!」

「カレン! カレン!」


様々な声援が飛び交うコロシアム。

私は沙良に身体を寄せ、耳元で少し大きめの声で話す。


「ねえ、いろいろな女神の信者がいるけど、喧嘩にならないかしら」


沙良が頷き、今度は沙良が大きな声で答えた。


「女神さまがこれだけ揃っているのだから……

自分の信じる女神さまの前では醜態さらさないでしょ」


私は頷き、ふと真ん中の舞台の方を見ると――


(えっ、嘘でしょ……もう席について、お茶を楽しみ始めている。

なに、なに、働いているのは絵蓮様だけなの……)


――そだよー、私だけだよー


(絵蓮さま……健気です、頑張ってください)


――えへへ、今日は星愛の心の声よく聞こえるねー


そう言い残し、舞台を歩いていた絵蓮が立ち止まり、手を挙げた。


一瞬で歓声が止まり、観衆の視線が絵蓮に集中する。


「おっ、いいですねー! 皆さん、私の話を聞いてくれますかー!!」


「聞くよー!」という掛け声が客席を埋め尽くす。


「オホン、ではー、みんなお待ちかね絵蓮の小話を」


「ぶーー!」


今度はブーイングの嵐。


「ははは、いいね、いいね! じゃあ行くよー!」


「うぉーー!!」


一斉に歓声が上がる。


(なに、このやり取り……す、凄くない?)


「ではー、決勝の試練の発表をしまーす!」


再び歓声が沸き上がった。


「さあ、左右の舞台の上には何がありますかー?」


絵蓮が手を耳に当て、観客席に向ける。


「解放厨房ー!!」


何人かの観客が叫び、その声に絵蓮がニンマリ笑った。


「おっ、いいこと言いますねー。料理の舞台と言おうと思っていましたが……

解放厨房、いっただきまーす!」


観客席から笑いのどよめきが起きる。


「そうです、舞台の上に展開されているのは解放厨房でーす!

そして中央には、料理の腕を見せるための中台が置かれていまーす!」


(あー、やっぱり料理だ……きっと料理対決だ……どうしよう)


私の心の声が聞こえたのか、絵蓮がこちらを見てほほ笑みながら声を上げた。


「もう、皆さんお思いの通り! 料理対決です!」


私たちは顔を見合わせ、全員が困った表情で私を見る。


(そんな、私を見ないで……みんなが料理をしないことは知っているから)


私は余裕の微笑みを浮かべ、黙って頷いた。

その顔を見て、皆も安心したように静かに頷く。


(あーあ、どうしよう、どうしよう)


――星愛、なかなか面白いことしていますわね。

  態度と心の中が真逆ですわよ。


心話の主の方を見ると、華蓮が口元を隠しながら微笑んでいた。


――あなたの心の声、今日はよく聞こえますわね。

  この先どうするか、楽しみですわ。


(そんな、人ごとのように言わないでください)


――あら、どうして? 私にとっては人ごとでもありますのよ。

  うふふ。


しばらくすると、華蓮が心話の内容をお茶の席で話したのか、

他の女神たちまでこちらを見てほほ笑んでいた。

そして司会の絵蓮もこちらを見てニヤリと笑い、声を張り上げた。


「ではー、料理対決の規則を説明します。

料理と言っても、いろいろあります……」


(そ、そうよ。家庭料理とか簡単女子会向け料理とか……そうそう、心が大切よね)


「今回の料理のお題目は、『冬の市の食材で女神の食卓を飾ろう』でーす!」


(な、何よそれ……正統派料理対決なの?)


私の心の声が聞こえたのか、絵蓮が頷きながら続けた。


「これから冬の市で販売されている食材を使って、料理を作ってもらいます。

主な食材はこちらで用意しました……女官の皆さん、食材を入れてくださーい!」


絵蓮の声に合わせ、闘技場通用口から荷車に乗せられた食材が搬入されてくる。

すべての食材が並ぶのを待ち、絵蓮が口を開いた。


「もちろん、この食材だけで作っても構いません。

でも、よくよく考えてください。

ここにある食材だけでは、相手の班とは差がつきませーん」


(えー、この食材だけでも私は十分だと思うのだけど……)


観衆も参加者も、絵蓮の次の言葉を待つように静まり返る。


「足りないものは、冬の市で仕入れてきてください。

そして、私たち女神の食事の進み具合を見て、

一番おいしい状態で料理を提供してくださーい!」


絵蓮が黄河の猪親子の舞台に向かって手を振ると、


「まかせろー!」


許褚の大声がコロシアムを沸かせた。


そして絵蓮が私たちの舞台に振り向き、声を掛けてくる。


「“灯花庵の偉い人”も、おいしい料理お待ちしてまーす!」


私は両手を結んで微笑み、手を目線まで上げて静かにお辞儀をした。

他の皆も私に倣い、同じようにお辞儀をする。


「きゃー、可愛い!」「姉ちゃんたち頑張れやー!」


一斉に声援と拍手が巻き起こり、コロシアムを沸かせた。


絵蓮がふわっと浮き、流れるように黄河の猪親子の舞台へと移動していった。


「さあ、そろそろ試合前ですが、各班の主将に話を聞きたいと思います」


許褚の隣に降り立ち、絵蓮が声を掛ける。


「許褚さん、最後の試練となりましたが、ズバリ勝算はありますか?」


「ははは、勝算なくしてここには立っておりませんぞ」


「すごい自信ですね……その自信、どこから来るのですか?」


絵蓮が許褚の顔を覗き込むように尋ねる。


「ふふん、儂らには郭淮という力強い頭脳がおるのじゃ。

過去の智遊祭の試練を踏まえ、この郭淮がしっかり人選をしてきた」


郭淮がにやりと笑い、口を開いた。


「われら黄河の猪親子は、各道の長を揃えております。

神に詳しい者、運動能力の高い者、そして……

丞相府の料理人も二名います」


「おっとー、これは思わぬ情報を聞きました!」


絵蓮が声を上げると、許褚が鼻を鳴らして笑う。


「だろう、負ける気がしないであろう」


観客席から拍手と歓声が巻き起こる。


「でも油断は禁物ですよ、頑張ってください!

では続いて、灯花庵の偉い人に話を聞いてみまーす!」


絵蓮がふわりと浮き、こちらへ優雅に移動してくる。


(いえいえ、いーです、何も話すことはありません)


――あら、そんなことはないでしょ。いろいろ聞かせてね。


絵蓮がにやりと笑い、ぐんぐん近づいてくる。


私は曹英を見て尋ねた。


「何か作戦は考えた? どんな料理にする?」


曹英は難しい顔で腕を組み、首を左右に振る。


「わーたしは、灯花庵のたーべせんでーす!」


(ちょっ、何その歌……曹英がおかしくなりそう)


慌てて燈灯(デンデン)燈柚(デンヨウ)を見ると、

二人そろって浮かない顔で首を傾げ、両手のひらを上に向けておどけて見せた。


(ちょっと待って、みんなおかしくなってるー)


絵蓮の方を見ると、真顔のまま少しにやけている。


(何よ、その企んでるような顔……何も話すことありませーん、こないでー)


真剣すぎて怖いくらいの表情で、絵蓮がぐんぐん近づいてくる。


(まだ料理も何も決めていないのに……いやーー、来ないでーー!!)


私は思わず目をつむり、耳をふさいだ。


「ふう」


手の甲に、冥府の冷たい風が吹きかけられる。


(この冷たい冥府の風……エレシュキガル、そう、絵蓮に決まってる)


耳を塞いでいる指を、冷たい指が一本ずつ摘まんで剥がしていく。

三本目が外れた瞬間、私の手は力を失い、だらりと落ちた。


次の瞬間、直接耳に冥府の風が吹きかかる。


「き・た・わ・よ……クス……クスクス……うふフフフ」


「きゃー!」


背中に悪寒が走り、思わず悲鳴を上げて目を見開く。


(えっ、視界が赤い……)


そして、私の意志とは無関係に口が開いた。


「あら、エレシュキガルじゃない……あなた、冥府の案内はどうしたの」


「おや、そういう星愛は星愛じゃなくて……ミレイアね」


「あらいやよ。その名前は、私が作ったAIに貸してるわよ……」


「そうだったね。澪、どうして星愛の意識の中にいるのかな?」


「そんなの簡単じゃない。この子が呼んだからよ」


(えっ、呼んだ覚えはありません!)


「あなたが“思う”だけで、その思いに必要な赤い女神が呼ばれるのよ!」


澪は私の身体を使い、私に不平を漏らした。


「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいんじゃない?」


絵蓮は諭すように、私――いや、私の身体に憑依している澪に声をかける。

澪も澪で、突然呼び出されて気が動転しているようだった。


「怒ってなんていないわよ。これが私なんだから……

そもそも、エレシュキガルが星愛を脅すような真似をするからこうなったんじゃない?」


「いやー、なんか面白くて、つい悪い癖が」


(あのー、澪さん……観客の皆さんが白けているみたいで……

それに私の仲間も、何事かと思っているようです)


「あら、そんなこと私には関係ないじゃない。

勝手に呼んどいて……あー、のどが渇いたわねえ」


何気なくお茶を催促する私だった。


すっと、沙良が横に来て顔を覗き込む。


「あの……星愛なの? なんか口調も態度も別人みたいだけど……」


「あら、沙良じゃない。元気にしていた? 私がいなくて寂しくなかった?」


「えっ、いつも一緒にいたけど……星愛、大丈夫?」


(大丈夫じゃありませーん! 何とかしてくださーい!)


今度は曹英が私の両頬をむにっと掴み、瞳を覗き込む。


(ちょっ、曹英何を……あなた、ちょっとやめてー!)


「こういう時は、口づけをするといいかもしれないね」


「曹英! ちょっ、気持ち悪いんですけどー! 離してよ……

あなた、一テラキュービットの超電導量子コンピュータを想像したことある?」


「へっ、いいちてらてら……キューはビットのどこいくのー?」


(おーい、曹英帰っておいでー!)


「あはは、相変わらず曹英ね。

あなた、ほんと先端技術は受け付けないのね」


「星愛のおねーちゃん、どうしちゃったの?」


燈澄(デンチェン)が心配そうに私の袖を引いた。


一瞬、女神の舞台が目に入る。

皆が真剣な表情でこちらを見つめ、ひそひそと話し合っていた。


灯花庵にだけ奇妙な会話が発生しているせいで、観客は取り残され、

さざ波のようなざわめきが広がっていく。


女神席では女神たちが頷き合い、

妃良が席を立ち、ふわりと浮いてこちらへ近づいてきた。


「絵蓮、視界がずっと赤いままだけど……大丈夫なのかしら。

それに澪も呼ばれているようだし、言いたいことは山ほどあるでしょうけど」


そう言いながら、妃良が私のお腹にそっと手を当てる。

次の瞬間、体の中にここまでの記憶が一気に流れ込んだ。


「今の状況、お分かりかしら?」


妃良が微笑むと、私の中の澪が納得したように頷く。


「わかったわ。星愛は“料理の設計図”が欲しいのね」


(はい……何を作ればいいのかわからず、悩んでいたのです)


「じゃあ、私が書き上げてあげるわ」


妃良が絵蓮に目で合図を送る。


「今実況すれば、観客の心も戻ってくるわよ」


絵蓮ははっとした表情を浮かべ、すぐに笑顔を作って実況を再開した。


「みなさーん! 星愛が少し様子がおかしかったようですが、

もう大丈夫なようです!」


「おおー!」「星愛様ー! 無理なさらなくてもいいですよー!」


観客の声援が、再びコロシアムに戻ってきた。


「星愛は紙と筆を用意させています。さあ、これから何か始めるようです。

星愛、これから何を始めるんですか?」


「まあ、見ていなさい。私が灯花庵の偉い人を勝利に導くわよ」


そう言うと、私は筆を握り、一気に設計図を書き上げた。


「おお、これは何ということでしょう!

まるで創造神ミレイアが乗り移ったような筆さばきだあ!」


(“ような”じゃなくて、実際に澪が私の身体を支配しているのだけど……)


「一枚、二枚、三枚……どんどん書き上げていくー!」


筆が止まり、私は顔を上げてニヤリと笑った。


「ふふ、終わったわよ。みんな、こっちに来て」


私は描き上げた設計図の周りに皆を集めた。


「はい、これは料理の進行図よ。曹英、あなたが進捗を管理するの」


「は、はい……と、ところで、ひょっとして澪さんなの?」


曹英が私の瞳を覗き込みながら尋ねる。


「あら、今頃気付いたの? 気付くの遅いわよ」


そっけなく答える私だった。


「さて、これが料理の設計図よ。

中華からシルクロードをさかのぼりトルコ、

そして女神たちの故郷であるローマ、ギリシャへと広がる料理の旅……

冬の市の食材をふんだんに使った、多国籍料理よ」


「星愛は、国際色豊かな料理のレシピを書き上げていたようです!」


「いいぞー、我らが府長様!」「キャー、まるで神ねー!」


コロシアムは一気に熱気に包まれた。


「さて、この料理のレシピは星愛と燈姉妹に預けるわね……

星愛が安心したみたい。私の意識が元の場所に引っ張られている。

みんな、元気でね!」


澪はそう言い残し、私の中からふっと消えていった。


「みんな、どうしたの? そんな顔で私を見ないで」


燈澄(デンチェン)が胸に顔を埋め、ぎゅっと抱きついてくる。


「お姉ちゃん、心配したんだよ……」


私は燈澄の頭を撫でながら、皆を見渡した。


「さあ、はじめましょう!」


私の言葉に、皆が静かに頷く。


私たちの様子を見守っていた絵蓮が、大きな声で叫んだ。


「さあ、料理の方向性も決まった灯花庵の偉い人!

まさに、中華対多国籍の対決だー!」


再び巻き起こる大歓声。


「このまま、カウントダウン行くよー!」


さらに大きな歓声がコロシアムを揺らす。


『サン!』『アール!』『イー!』『はっじめー!!』


絵蓮と観客の声が重なり合い、試練の始まりを告げた。



ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

初めての投稿ですので、いただいたご感想や評価は次回作品づくりの大きな力になります。

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更新は偶数日の朝7時過ぎを予定しています。

引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

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