同行
「あれは絶対、噂のお休みトラップだよ」「だとすると、どうしたらいいの? 彼女がいなかったら、私たち、終わりよ」「少なくとも、今一度、現場を見に行くべきだろ」
俺が茜さんと座っているボックスタイプの席から二ブロックほど離れた場所で交わされる女性たちのそんな会話が耳に入ってくる。
「茜さん……」
「ええ」
前を振り向いて茜さんの方を向くと、ちょうど茜さんは、立ち上がった所だった。
そのまま歩きだした茜さんに俺も慌ててついていく。
──すごいな……これが壱級探索者の行動力。
しばらく一緒に行動させてもらっていて、茜さんの可愛らしい面やお茶目な側面をたくさん見てきたが、やはり実力と人気のあるダンジョンライバーだ。
頼りになる。
俺一人だったら、絶対無理だった。女性三人組に、ファミレスで自分から話しかけるなんて。
なので、茜さんの後ろに隠れるようにしてそのあとを追うと、すでに茜さんと、その三人組の女性陣たちとはずいぶんと会話が進んでいるようだった。
「あ、そちらの彼氏さんってもしかして今噂のスキルマスターさん? 前に配信で見たときよりイケてるじゃん。あたし、ライバーの白雪」
「え、ああ、どうも……」
三人組の一人、白雪と名乗った女性が俺のほうに話しかけてくる。
その名の通り透けるような白い肌に黒髪の女性だ。少しガサツなしゃべり方が見た目と合ってなくて、たぶんそういう配信のキャラなんだろうなと、ダンジョン配信をかじり始めた俺は推測する。
「八郎さん?」
「は、はいっ?」
「鼻の下がのびてますよ?」
首だけぐるんと回して、笑顔を向けてくる茜さん。体がとても柔らかいのは、わかった。
ただ、笑顔が少しだけ怖い。
俺は思わず自分の顔をさわって確認してしまう。
「の、伸びてないと、思うんだけど」
「知りませんっ」
ぷいっと前を向く茜さん。そのため、そのあとの茜さんの呟きはよく聞こえなかった。
「もう、目を離すとすぐにこれなんだから。特調の時だって。女の子達に囲まれてチヤホヤされて……」
「おやおや、茜姫が騎士気取りじゃん。愛されてるね、スキルマスターさん」
茜さんの妨害も気にした風もなく再び白雪さんが話しかけてくる。
見た目に反して、性格も口調のガサツさに近いのかもしれない。と言うことはギャップを出すのに見た目の方を飾っているのかもしれない。
「あの、白雪さん?」
「なんだい?」
「いいんですか、白雪さんは話しに参加しなくて」
「そういうスキルマスターさんも参加してないだろ? 大丈夫大丈夫。うちで今後の方針とか決めるのはあいつ、赤帽子のやつだから」
そういって、三人組の一人を指差す白雪さん。
確かに赤い帽子をかぶっている。
赤帽子というのは、ライバーネームと言うものなのだろうか。
そうこうしているうちに、話がまとまったようだ。
「またっ! もうっ!」
茜さんが俺と隣で何かと話しかけてくる白雪さんの間に力づくで割り込んでくる。
白雪さんも面白がっているのか引かない。逆に笑って、俺に近づこうとしてくる。
そのせいで茜さんの体が俺に密着するような形になってしまう。そのまま茜さんも白雪さんを近づけまいと、強引に体を押し付けて来るのだ。
「ほら、白雪、いくよー。秋司さんたちが同行してくれることになったからー」
白雪さんが赤帽子と呼んだ女性の声に、ふっと離れる白雪さん。
俺と茜さんだけが取り残される。
「あ、茜さん? 行っちゃいましたよ?」
「……もーっ!」
至近距離でぷくっと頬を膨らませる茜さん。
ばっと、両手で俺の二の腕を掴んで自分の体を引き剥がすと、茜さんも歩きだす。
俺からはよく見えなかったが、その茜さんの顔は真っ赤に染まっていたのだった。




