遅めのお昼
「はい……はい……今後、気を付けます……はい──」
電話を切ると、俺は、ほっとため息をつく。
今回は幸いなことに、ももちゃんからの電話では、お呼びだしとはならなかった。
不用意な発言自体は、十分に気をつけるように電話で釘を刺された。
とはいえ、スキルがリジェクトされたことは、事実なのだ。
そこは電話越しに、ももちゃんも理解はしていてくれているみたいだった。そしてたぶんだけど、ももちゃんも、ある程度の炎上騒ぎに、慣れてきたのではないかなと、俺は思っている。
怒られそうなのでもちろん、ももちゃん本人には言わない。
そんなこんなで、今回のダンジョン配信も、ももちゃんからの電話で終わるというなんだか定番化しつつある終わり方を迎えたのだが、やはり気になるのはスキルがリジェクトされたという結果だ。
これはつまり、原初の大迷宮には、スキルをリジェクト出来るなにか──神の領域にいるものが存在する可能性が、先ほどの検証で高まったと俺は思っている。
それはそのまま、再びマガツヒノセオリツに会うという茜さんの願いを叶えるのに、原初の大迷宮に来たのは正解だったのだろう。
──俺も、彼女には助けて貰ったからな。もし、マガツヒノセオリツがいまも苦しんでいて、手助け出来ることがあるなら……それに、俺が捕らわれていた三千年トラップに、彼女たちは、何か関わってそうな気がするんだよな……
手のなかで、マガツヒノセオリツから貰った光沢のある棒を転がしながら、俺はそんなことを考えていた。
◆◇
電話が終わって原初の大迷宮をでたあと、俺と茜さんは、大迷宮街の中のレストランに来ていた。
少し遅めの昼食だ。
ちなみにレストランと言っても少しお高めのファミレスぐらいのランクのお店だ。ぶっちゃけ、これぐらいの方が、俺は気張らなくて済むので助かる。
俺はすでに食べ終えていたので、食後のコーヒーを啜る。
茜さんはまだあと少し残っている。
茜さんの食事の所作はとても美しかった。部屋に居候させてもらってからこのかた、食事の度に同じことを感じていた。
一度、それとなくそのことを伝えると、茜さんはどうも配信のために練習したらしい。
ダンジョンでの配信は食事をするシーンを撮ることもあるから、と。
それを聞いたときは、感心したものだった。
そんなことを思い出しながらぼーと茜さんを見ていると、彼女は一度食べるのを止め、紙ナプキンで口もとを優しく拭っていく。
「──あの、八郎さん。そんなに見つめられてると、食べにくいです」
「あっ、ごめんごめん!」
「はぁ、いいんですけど──それで八郎さん、リツちゃんのことを考えてました?」
「──えっ。ああ、そう、そうなんだ。ほんとごめん。ぼおっと、だけど……」
茜さんの所作に見とれてたと言うのが恥ずかしくて、思わずのってしまう。
「ううん。ちょうど私も同じこと考えてたから。それで、八郎さんはこの原初の大迷宮に手がかりがあると思いました?」
「そうだな──」
俺が話しかけた時だった。近くのテーブルが騒がしくなる。
「──だから、トラップに──」
「いや、──無理だ、私たちじゃ──」
「見殺し──そんな──」
俺は、思わず騒ぎのもとを見てしまう。
そこにはダンジョン配信者らしき装備をした女性三人組がいた。




