未練を断ち切れないスケルトンとそれを助けるヴァンパイア
「この人もまだ未練があるんですね?」
「えぇ、彼女は自分の子供を残して亡くなってしまったことを後悔しているんです。彼女か狐族なんですが、その子供は類まれなる魔法の才能があったようで、小さくして狐火を使いこなしていたそうなんです」
「子供一人を残して亡くなってしまうのは……本当にお辛いでしょうね」
彼女の表情はわからないが、コクリと頷く姿はとても悲しそうだった。
「その子をここに連れてきて、面倒を見てあげればいいんじゃないの?」
「私もそうしたかったわよ。でも、その子を探したんだけどすでにどこかに連れ去られた後だったのよ。狐族で魔法の才能がある子っていうのは、成長していくと未来予知をする子や、最上級の狐火を使えたり悪い意味で人気が高いのよ」
ウジャクノ夢ではないが……子供が安全に暮らせる世界ではないことを思い知らされてしまう。
「そんな子供たちが安全に暮らせる世界にできればいいのにね」
「それは……無理でしょうね。人は争うことしかできないのよ。自分と違うものを避けようとするの。あなたたちだって、ヴァンパイアと聞いただけで避けようとしていたでしょ? 誰かが悪意を持って、悪意を広めている以上、正しいことを正しいと伝えるのは難しいのよ」
僕はなんとも言えなくなってしまった。
たしかに僕たちは偏見を持ってヴァンパイアたちを思っていた。だけど実際に話してみたら全然違っていた。
「まぁ、人間にも悪い人間もいるし、ヴァンパイアにも悪い奴もいればってことでしょ? ドラだってね、いいドラゴンだからね」
「そうだよ。僕はめちゃくちゃいいドラゴンだからね。人間たちと敵対しようなんて思わないし」
種族を超えて仲良くできれば……それが一番なのかもしれない。
「それにしても……あまり詳しく聞けなかったけど、天使の湧き水とヴァンパイアはどんな関係なの?」
「ヴァンパイアは元々亜人の一種で長生きだけど数が少ないのよ。でも、救済の森の連中が血を吸うヴァンパイアに対して敵対行動をとってきたの。あいつら外面はいいけど、内部は最悪だからね。権力を持っているトップの連中がやりたい放題よ」
「それで、そこから守るために天使の湧き水と手を組んだってこと?」
「手を組むってほどではないわ。基本的に私たちは不干渉の誓いを立てていたのよ。私たちはゾンビやスケルトンたちを統べる力があるけど、それを使わないって。人々はその力を恐れているわけだしね」
「それはそうね。毎日のように人は亡くなっていくし。もしそれをすべて従えたら……考えたくもないわ」
「もちろん、過去にはそれを考えたヴァンパイアもいたことはたしかよ。だけどこの世界をすべてヴァンパイアがゾンビとスケルトンで支配する意味なんてないことはすべてのヴァンパイアが知っているわ。だから、そういった考えのヴァンパイアは仲間内で消されるわ」
「仲間内で殺しあうってこと?」
「そうよ。私たちは人間とは違い誇りを大切にするの。生まれた瞬間から私たちは生き抜くための知恵を授けられるわ。その中には沢山の教えがあるんだけど、私たちは生きる理由を常に考えさせられるのよ。ただ毎日を過ごすだけではなくて、なんのために生きるのか。ヴァンパイアとして生まれてきてこの世界に何を残すのか」
「なんか難しいことを考えているんだな。僕は楽しければそれでいいけど」
ドラは興味がないといった感じで部屋の中を自由に飛び始めた。
もう飽きてしまったらしい。
「人それぞれ、考え方はあるからね。強要するつもりはないわ。それでヴァンパイアの多くは静かにスケルトンやゾンビたちの未練が消えるまで霧の魔力の中で眠らせておいてあげたいだけなのよ。私たちは自分たちをのことを死者の番人と呼んでいるわ」
「ヴァンパイアがでると街の中から人が消えるっていうのは?」
「街の中で過ごしているヴァンパイアが消えたり、あとは亡くなった人ヴァンパイアを追い回している人間を消したりはするからじゃないかしら。さすがに、私たちも殺しにきた人間には、それなりに対応させてもらうからね」
「そういうことだったのか」
もちろん、すべてをいきなり信じることはできないけど、僕の中で少し納得できていった。
「天使の湧き水はこの街で私たちに干渉しないかわりに、天使の湧き水の敵対する者が現れた時に手を貸すことになっているの。この街が救済の森に支配されたら、私たちは生きていけないからね。ただ……ハンナが今の地位になってから私たちを無駄に呼ぶことが増えたのよ。だから折ってくれた時にはせいせいしたわ」
「断れないものなの?」
「あれは一種の契約魔術の一つだからね。私たちの先代が見逃してもらうためにという約束で笛を渡したけどヴァンパイアの使い方が荒いのよ」
「でも、そうなると折ってしまったらまずいんじゃないの? 今度はこっちに襲ってくるとか?」
「大丈夫よ。笛は後2本あるから。それに彼女たちが私たちを襲ってきたところで、確実に負けるに決まっているわ。この家の地下にはこの街の10倍のゾンビとスケルトンが天に昇るのを待っているんだから」
「ヒィー」
リリは想像しただけで怖かったのか、身体をよじらせながら震えて僕に抱き着いてきたので、そのまま優しくリリの肩を抱きしめる。
「大丈夫だよ。怖くない。アニタたちがしっかり管理しているってことだからね」
「パック……もう死んでもいいかも」
ちょっとリリが何言ってるかわからないので、あいまいに笑顔をふりまき、話を戻す。
「それって暴走とかしないの?」
「それはないわ。基本的に彼らは静かに眠っているだけ。私たちは亡くなっている彼らがそのまま静かに眠れるように守っているのよ。元々人を襲いたいわけじゃないの。だけど未練があるから、生きている人に惹かれるのよ」
「でも、彼女のように外で働いている人もいるってこと?」
「彼女は特別よ。生前魔力が強かったものは亡くなってからも自我を保てる者もいるのよ。私たちって基本的に昼間動きたくないから、その間の世話とかをしてもらう人が必要なのよね。それらを彼女たちにしてもらっているのよ。その代わり、私たちも彼女たちの未練を早めに断ち切るように協力をするの。はやく子供を見つけてあげないとね」
今までヴァンパイアというだけで色眼鏡で見てきていたが……。
僕の中で印象が変わってきていた。




