ヴァンパイアの家まで追いかけてみた。
「それで……なんであなたちがついてきているのよ」
「楽しそうだから」
「パックが行くから」
「えっ僕? なんとなくドラが飛んでいくのに乗っていたら」
ドラは飛んで逃げたアニタを追いかけて、アニタの住処まできていた。
そこは街外れにあった洋館だった。
オドロオドロしい雰囲気もなく、なんというか郊外に住むお金持ちのような家だった。
「まぁ来てしまった以上は仕方がないわね。お茶でもだすからあがっていきなさい」
救済の森にいたときには想像もしていなかったが、まさかお茶に誘われるとは思っていなかった。僕たちが洋館入ると、なかは薄暗くところどころに灯りがあるが、よく目をこらさないと見えない。
僕たちはゆっくりと一歩ずつ足を踏み入れる。
「オートライト」
僕が光魔法で室内を照らすと、いつの間に現れたのか小さな男の子が、僕たちの数歩先に立っていた。
「お姉ちゃんが人を連れてくるなんて珍しいね。いらっしゃい」
「違うのよ。こいつらおかしいのよ。眠りの霧へも対応できるし、私が空を高速で飛んできたのに、平気でついてくるのよ」
「そうなの? スピード自慢のお姉ちゃんについてくるなんて、普通の人じゃないんだね。よろしく。僕の名前はヒューゴ。由緒正しきヴァンパイアの純血種だよ。できれば敵対したくないので良き隣人でいられることを祈るよ」
彼は幼い容姿をしながらもしっかりとしており、僕にゆっくりと手をだしてきたので、それを握りかえす。できることなら敵対なんてしたくない。
その手は、僕の想像以上に硬く、子供の手とは思えない程しっかりとしていた。
「よろしく。僕がパックでこっちがリリで、こっちのドラゴンがドラだよ」
「ちょっと、なんで私の時には名前教えてくれなかったのに、ヒューゴの時には教えるのよ」
「それは姉さん、やっぱりヴァンパイアとしての威厳の違いじゃないかな」
「それをヒューゴが言う? 本当にひどいわ」
「いや、さっきはまだ敵対していたというか……今はハンナの笛を折った共犯関係だし」
「ちょっと! 勝手に折ったのに私を共犯にしないでくれる?」
「ドラ、この人が折れっていったわよね?」
「うん。間違いなく言っていた」
ドラは猛烈な勢いで頷き始める。リリとドラがアニタをからかいだしてしまった。
「ちょっと、なにこれ人間信じられないんだけど」
「リリ、ドラふざけないの」
「はーい」
「ちょっとからかってみただけだよ」
「プッファハハハ。姉さんが……あの姉さんがたじろいでいる。なかなか良いものを見させてもらったよ」
ヒューゴは思いっきり笑っていたが、アニタの方は不貞腐れている。
「ヒューゴまで敵に回るのね。いいわ。歴代最強と言われるヴァンパイア力を見せてやろうじゃないの」
「はいはい。姉さんの冗談はさておき、ここに人がくるなんてもう何百年ぶりじゃない。せっかくだからおもてなししないと。どうぞこちらへ」
「よくなーい! 私にもヴァンパイアとしてのプライドがあるのよ」
彼女たちは僕が今まで想像していたヴァンパイアとはだいぶイメージが違っていた。
まるで同じ人間のようだった。
案内された部屋は明るくなっており、中の装飾品はよく手入れのされたアンティーク調の物が多い。
「なんかもっとこうイメージしていたのとは違って普通ね」
「そうだね。ヴァンパイアっていったら、もっと怖いのを想像していたし」
「ヴァンパイアにも色々いますからね。あっお客さんにお茶もお出しせずに申し訳ありません。今もってこさせますから」
そう言って彼がこめかみに手をやり、しばらくすると部屋をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
そこには頭に三角耳をつけ、可愛い服を着た骸骨の姿があった。
亜人がスケルトンになったのだろう。
「骸骨イヤー」
リリは悲鳴をあげると僕のかげにかくれる。今日は剣を振りましていないだけよしとしよう。
「これは、これは申し訳ありません。ヴァンパイアの眷属として骸骨やゾンビを従えているもので。でも、彼女たちもなりたくてなっているわけではないので、できればそう毛嫌いしないでもらえるとありがたいです」
「なりたくてなっているわけじゃない?」
「そうです。スケルトンやゾンビになる子たちはこの世に未練を残している場合が多いんです」
「えっだって、墓地とかで魔力が溜まることで発生するのは?」
「もちろん、そういった方法でなる場合もあります。でも、森の中などで見かけることもありませんか?」
そう言われると、森の中ではぐれゾンビやスケルトンを見たという話を聞いたことがある。
「ありますね」
「彼らはこの世への未練から、自分の身体を魔物へと変化させてしまう場合があります。彼女もその一人です。未練を断ち切ることができれば……彼女たちも土に返ることができるんですけどね。多くのスケルトンなどは悲しい魔物なんです。僕たちヴァンパイアはそれを知っているので、人気のないところへ連れていって、やがて自然に天へ昇るのを待っているんです」
まさかそんなことになっていたとは全然知らなかった。
僕が今まで聞いていたものとは違っていた。




