地下の滝での攻防
扉を開けるとそこにはいたって普通の部屋になっていた。
正面に本棚が置かれ、入って右側には机と椅子が置いてある。
他に出口はなく、入っていった男たちの姿もなかった。
おかしい。
ここにあれだけの人が入って行ったのに誰もいないわけはない。
「誰も……いないね?」
「うん。でもここに入っていったからには……」
「あっ! あれパック!」
「ん? なに?」
リリが指差した先には本棚が並んでいる。
「あの本読みたかったのよ」
僕とドラは少しよろけてしまった。
「リリ……今は本は……」
リリはかまわず本棚に手をかけ1冊の本を取り出す。
「あれ?」
その本は背表紙だけでなかは空洞になっていた。
他の本も手に取ってみるとみんな表紙だけだったりして中身がない。
もしかして……。
「リリちょっと手伝って!」
僕たちが本棚を押してみると、真ん中を中心に本棚が回転した。
そこには地下へ通じる通路があった。
「隠し通路みたいだね」
「パックどうする?」
「行くしかないよね。ただ、何があるかわからないから慎重に行こう」
地下通路には蛍石と呼ばれる灯り用の石が並べられうっすらと見えるようになっている。
僕たち全員が地下通路に入り扉の近くから離れるとギッーという音をたてながら回転して入口が閉じられる。
どうやら、自動で閉まるような細工がされていたようだ。
僕たちがゆっくりと階段を降りていくと、そこは地下の通路につながっていた。
地下通路はダンジョンのようなしっかりとした作りで、人が数人横に並んで歩けるくらい広い。
「街の地下にこんなところがあるなんてね」
「ここは……もしかしたら、紅のダンジョンの一部かもしれないですね」
コクリンさんが説明をしてくれる。
「紅のダンジョン?」
「はい……この街ペイドンは噂でダンジョンの上に建てられた街だっていうのがあったんです。ペイドンでガラス製品が有名なのは知っていますか?」
「もちろんです」
「そのガラスの材料がとれる場所というのが近くのダンジョンなんですが、実はそのダンジョンは崩落していて、ある程度以上は進めなくなっているんです。なので実際にどれくらい広いのかは誰も知りません。この地下通路の気配がそこのダンジョンの気配に似ているものですから」
「それが紅のダンジョン?」
「そうです。このダンジョンが見つかった時に空に紅の光が立ち上ったことから紅のダンジョンと呼ばれています。でも、まさかこんなところがあるとは。長生きはするものですね」
「それはそうと! あいつら追わなくちゃ!」
リリが通路の奥を指さしながら言う。
通路は僕たちがいるところからまっすぐ一直線にのびている。
「そうだね。ちょっと急いで探そうか」
僕たちは薄暗いダンジョンの中を慎重に進んでいく。
今のところ特に部屋や分かれ道もない。
先に男たちがいったせいか、ネズミ型の魔物が切りすてられて通路に転がっている。
まだ少し動いている。止めをさす時間も惜しんで先を急いだのだろう。
「魔物死体以外、何もないね」
「本当に」
さらに進んで行くと、どこからか水の流れる音が聞こえてくる。
「この先から水が流れる音が聞こえてくるわ。かなりの水量がありそうね」
「リリ流されないようにな」
「大丈夫よ。その時はドラに助けてもらうから」
ドラがリリの頭の上で髪を軽くなでる。
任せろといわんばかりだ。
さらに進んで行くと少し開けた場所になっており、上から水が流れ落ちてきて室内に滝ができていた。
落ちてきた水はそのまま川となりぽっかりと空いた洞窟の中に流れ込んでいく。
僕たちが壁沿いに進んで行くと水の音に交じって話し声が聞こえてきた。
「こ……どうする……逃げる……」
「バカ……仕方がない……ここは……」
滝の音にかき消されてよくは聞き取れないが逃げる算段をつけているようだ。
「パック、あれを見て」
僕たちから大きな石を挟んで、そこには大きな箱を背負った男たちが6人ほど集まっていた。
水の音のおかげか僕たちのことはまだ見つかっていない。
「僕がいったんスリープの魔法をかけるから、それでひるんだら一気に攻撃をしかけよう」
僕の体内で魔力を練りいざっ……!?
「そんなところに隠れてないででてきたらどうだ?」
男の一人が急に大声をだし、僕たちの方へはっきりと声が聞こえる。
目の前にあった大岩がいきなりはじけ飛んだ。
僕たちはその衝撃に巻き込まれて壁際まで吹き飛ばされる。
風魔法の風魔弾アタックだろう。
僕の後ろにはリリがいたため、僕はとっさにリリをかばい背中と頬に岩の破片が当たる。
大怪我ではないが、反応が鈍る。
「リリ、ドラ、みんな気を付けて」
「パックさん!」
そんな僕の前にコクリンさんがでてくる。
「ありがとうございます」
「よくもパックをやったわね!」
リリはそのまま、ほぼ溜めなしで距離をつめ切りかかり一人を切り捨てる。
ドラも羽を一度仰いだだけで高速で飛び、一瞬で一人を地面に沈めた。
「なっ……なんだこいつら」
奇襲をしかけてきたはずの男たちの方が動揺が広がっていく。
圧倒的有利だと思っていた中で一瞬で二人がやられれば混乱もするだろう。
「パックに……パックによくも石をぶつけてくれたわね! 絶対に許さないんだから」
リリはそのまま、近くにいた男の顎を垂直に蹴り上げる。
「ふげっ」
変な声をあげながら一瞬で膝から崩れ落ちた。
ドラが火球をぶつけ、一人を壁まで吹き飛ばした。
「あいかわらず……敵に回したくない戦力ですね。でも俺も一緒に来ている以上は働かないとな」
「私も行かせてもらいます」
エディがボソッとつぶやき、コクリンさんは細身の剣を抜き男たちに向かっていく。
完全に出遅れてしまった。
僕はそちらを任せてリリが最初に切りかかった男の側に行き質問をすることにした。
結構な出血をしているが、今すぐ死ぬような傷ではない。
「大丈夫ですか? ちょっと聞きたいんですけど、ここに他に人たちは逃げてきた人はいます?」
「たっ……助けてくれ」
「もちろんお話してくれたら、助けますよ」
僕はわざと目の前に回復薬を見せる。
男が力なく頷く。
「あそこの……」
僕が男の指差した方向へ顔を向ける。
そこには滝つぼがあるだけだが。
僕が一瞬目をそらした瞬間に、男は腰についていたナイフを抜いて僕の首へまっすぐ突き刺してきた。




