小鳥のお宿にいたのは肉斬り包丁を持った男でした。
「ハハハッ! エディは裏切っているじゃないか。でも、おかしいね? ウジャクの夢については知らない下っ端のはずだけどね。エディがどこまで話したのか教えてもらおうか」
組織の名前はウジャクの夢というらしい。
できれば、もう少し情報を引き出したい。
「ウジャクの夢は世界を救う子供たちを誘拐して回っているんだろ? 目的は……」
僕はあえて知っているような口調で途中で言葉を止める。
人は途中まで言われると、そこを補完してしまいたくなるものだ。
特にこの人のようなタイプの人間は……。
案の定おばちゃんが話し出す。
「そこまで知ってるのかい。エディはアホなように見えてこっちを探っていたってことか。ウジャクの夢は世界を支配するために未来を変える可能性のある子供を集めているのさ。世界を破壊するのも救うのはウジャクの夢さ。面白いだろ? ハッハハ!」
ウジャクの夢はどうやら自作自演で問題をおこし、それを解決させるために子供たちを集めていくつもりらしい。
どんな出来事にも裏と表がある。
悪があれば正義がある。
その両方を手に入れ世界を支配するってことだろう。
「ウジャクの夢はこの世界を支配したいってことか」
「わかっているじゃないか。でも、支配したいんじゃなくて支配をするんだけどね。さて、そろそろおしゃべりは終わりだよ。それにしても、ドネロタイガーが一発で眠る睡眠薬を飲んでも眠くなってこないなんて睡眠抵抗でも持っているのかね? ちょっとやっかいだね。でもこんなところで邪魔をされるわけにはいかないからね」
こんな辺鄙な場所に宿を作っている理由が謎だったが、あえて下っ端の人間にこの場所が監視にいいとか言って誘導をさせている人間がいるのだろう。
人は自分で動いているつもりでも、気が付かないうちに誘導されていることがある。
エディたちも僕たちに情報を話しているつもりでも、自然とこの宿の話題をしていた。
確か他の盗賊たちもだ。
上手いやり方だろう。裏切り者がでても本人たちが知らないあいだにここへ誘導してくる。
「ババア、話しすぎだ」
厨房から巨大な肉切り包丁を握った男があらわれた。横には先ほどのメイド服姿の女性もいる。
「あれ? もしかしてここが誘拐の本部だったりします?」
「違うわよ。ここはただの見張り。あなたたちのような余計なやからをおびき出して始末するための宿屋よ。小鳥のお宿に迷い込んだ鳥は捕まえて食べてしまうのがこの宿の掟さ」
その時ギッーとお店の扉が開く音がする。
「今日はもう店じまいだよ。帰ってくんな」
男は肉切り包丁を後ろ手に隠すが、声の調子はもう脅かしているのと変わらない。
「いいのよ。私たちあなたたたちを捕まえにきたんだから」
入り口から入ってきたのはリリだった。
店主の脅しに対しても、とても楽しそうにリリが答える。
「ちっまだ仲間がいたのか。ジジイ手分けしてやるよ」
おばさんがリリの前で棍棒を持ち振り回す。
リリが華麗に避けた隙にコクリンさんが前に出る。
「リリさん、お先に失礼しますね。私もいい加減やられっぱなしでイライラがたまっているので」
コクリンさんは走りながら持っていた杖から剣を抜き、肉切り包丁を持った店主へ切りかかる。どうやら仕込み杖になっていたようだ。
「私もいきますよ」
リリもそのままおばちゃんへと切りかかる。
「俺も!」
「ドラ室内だから炎はやめなよ」
「わかってるって」
ドラは飛び回りながら遊撃のように二人の間を飛びながら相手を翻弄している。
さて、僕は……可愛い服を着たメイド姿の女の子がリズムをとりながらこちらを見ている。
やっぱり女性とは戦いたくないとか言ってられないよね?
「いきます」
その女の子はレイピアという細い剣で切りかかってくる。
店内はそれなりに広いが3人で戦闘するには狭い。
僕は階段をのぼりながら、女の子を引き離す。
さて、どうしようか。上手く寝かしつけてしまいたいんだけど。
「スリープ」
僕の魔法に対して、その子は壁を走りながら逃げる。
なんて壁を走るとかアクロバットすぎるだろ。
敵だけどカッコいい。
ってそんなことを考えている暇ない。
「スリープ」
「スリープ」
「スリープ」
ことごとく僕の魔法が避けられる。スピードも速いが壁を走るなどトリッキーな動きが彼女の行動を読みにくくさせる。室内は不利か。
だけど、今ここで外にでて揉めてしまうと倉庫にいる人間にバレてしまったら問題だ。
できるかぎり迅速に決着をつける必要がある。
彼女は上下左右そのスピードをいかしながら攻撃を振り分け隙をついてくる。
だけど、僕だって負けるわけにはいかない。
「生糸!」
彼女の全面に一瞬のうちに生糸で布を作成し目くらましをする。
僕はそのまま追撃で彼女に切りかかる。
狙うは足だ。
トリッキーな動きを封じればあとはスリープで終わりだ。
だが、彼女にはそれが見えているように布を被ったまま飛び上がり天井から釣り下がっているシャンデリアへと飛び移る。
シャンデリアはガラスでキラキラと輝いていた。
一瞬そんなものに目を奪われていると、今度は僕に生糸の布を投げつけてくる。
僕は廊下を回転しながら避ける。
追撃されると思っていたが、彼女はシャンデリアの上から一階を見下ろしもう一度僕の方を見る。一階からリリが階段をあがろうとしてるのが見えた。
そうそうに下はケリがついたようだ。
「まだやる?」
彼女は無言のまま揺れるシャンデリアから1階へと飛び降りた。
下ではリリが彼女へと剣を構える。
もう逃げられないはずだ。
エディでは知らないことを色々教えてもらわないと。




