回復術師の限界
盗賊たちの戦いの結果は言うまでもない。
全員が目の前でボコボコにされ転がっている。
もちろん、殺したりはしていないが、リリはできるだけ後悔するように動けないようにしてから一人ずつ気絶させていった。
そして最後に残った一人。
最初に話しかけてきた男だ。
「なんなんだよ。お前ら……」
「パックー怖かったよー」
リリが僕に甘えた声でそう言ってくるが、怖がっている人間が、素敵な笑みを浮かべたまま的確に剣の柄の部分で相手をボコボコにはできないだろう。
「そっそうだね。リリ頑張ったね」
「パック……無理して言ってない?」
わかっているなら言わせないでもらいたい。
「リリ、パックは無理なんてしているわけないだろ」
珍しくドラがフォローをいれてくれる。
「無理を通り越して嘘ついているんだからな。もはやお世辞なんてレベルじゃない。ドン引きしてたぞ」
「へぇーそうなんだ。ドラはそう思っているのね。こんな可憐な女の子を一人戦わせて」
リリはドラの頭にアイアンクローをする。
「いっ痛い! パック助けてくれ! 調子に乗りすぎた」
「わかっているなら毎回、毎回やらなきゃいいのに」
捕まえた盗賊たちは完全に無視されている。
リリは一通りドラとふざけると盗賊の方へ向き直り尋問を始める。
「さて、いつもの流れが終わったところであなたたちはここで何をしているの?」
「うるさい。お前らに関係がないだろ。俺は絶対にお前たちの脅しになんて屈しないからな!」
リリの口角が少し上がる。
「そうだね。関係ないね」
「リリ、加減をしてあげようね」
「大丈夫よ。自分から話したくなるだけだから」
リリの口角がもう少し上がる。
「話すなら今のうちだと思うよ。隠しても吐かされるだけなんだから」
「パックはそうやって優しいんだから。大丈夫よ。どこまで人間が耐えられるのかって私興味があったの。少しずつ加減をしながらしっかりしてあげるわ」
「たっ助けてくれ。あんたらならこの子を止められるんだろ?」
僕とドラは何も見なかったことにした。
リリの後ろに鬼のような魔力が見えた気がしたが僕とドラは一緒にお茶を取り出しゆっくりと現実逃避をしながらお茶をすする。
「お茶が美味しいね」
「いや、俺はパックの回復薬の方が美味しいな」
後ろの方から男の叫び声が聞こえてくる気がするが見てはいけない。
それから10秒もせず、すぐに僕たちはリリから声をかけられた。
「パック! 盗賊さんがお話をどうしてもしたいって言うから聞いてあげて欲しいんだけど」
「ハイッ! ただ今!」
リリが盗賊を睨むと何も言わなくても盗賊たちが話し始めた。
「この先に占い師モエギが言った世界を救う子供の一人と言われている男の子がいるんだ。その子を今のうちに手に入れたいって奴がいて、その子以外の家族を皆殺しにしているところだ。今頃は決着がついた頃だと思うが」
「リリ、ドラ、もう少しこいつから話を聞きたいけど、先にその子を助けにいかないと」
「そうね」
リリはその男の首に軽く、手とうを食らわせ寝かしつける。
僕たちは男が守っていた道の先へ急ぐ。
遠くの方から血の匂いがしてくる。
「あれだ!」
まだ全景が見えるわけではないが、1,2,3…少なくとも5人くらいは倒れている。
その横には馬車が1台横倒しになり、後ろに2台連なっている。
馬車の横では数人の男たちに囲まれなおも善戦している執事姿の男が見えた。
まだ、大丈夫だ。
「リリとドラはそのまま執事っぽい男の人を助けてあげてやってくれ。俺は手前の倒れている人たちに回復薬をかけてから、そっちに行くから」
「わかったよ。でもパックがくる前に倒しちゃうかもだけど」
「俺も本気で戦う」
俺と別れたリリの方からは男たちの叫び声と爆発音が聞こえる。
やりすぎていなければいいが……。
倒れていたのは冒険者のような男数人と、貴族の夫婦だろうか?
それに側仕えのメイドのような女性が倒れている。
範囲魔法のラングヒールで、とりあえず悪化させないように応急処置をする。
これで悪化することはとめられる。
だが、一番戦闘の激しかったであろう冒険者の男たちは難しそうだ。
一瞬のうちに生存確率の高い人を選定する。
貴族の夫婦とメイドの方はまだ息がありそうだ。
急いで範囲魔法をかけながら最初にメイドの子にポーションを飲ませる。
「うん。大丈夫だ」
みるみる出血がおさまっていった。
僕の回復薬効く怪我で良かった。
腕がとれていたりしたらわからなかっただろう。
それから同じように貴族の夫婦を回復させ、最後に冒険者に回復薬をかけてやる。
「……ダメだったか」
冒険者が全部で3人倒れていたが、そのうち2人の呼吸は戻らなかった。
僕たちがもう少し早く来ていれば……。
目から涙がでそうになる。
そういえば、リリたちは?
リリたちの方は意外と苦戦をしているようだった。
こっちでできることはもうない。
涙をふいてリリたちの方へ助太刀にいかなくちゃ。




