盗賊たちとの戦い
「その手を放しなさい!」
「うるせぇ! お前たちこそ武器を捨てないとこいつを殺すぞ」
馬車の陰から覗いてみると、一人の盗賊風の男が男の子を人質にとっているようだった。
リリもなかなか手がだせないようだが、武器を捨てるつもりはないのか構えて隙を伺っている。
きっと僕が助けに行くのをまっていて、わざと膠着状態を続けているのだろう。
僕はそのまま静かに馬車の裏側から男の背後に回る。
「いいから、早く剣を捨てろ! 俺は本気だぞ」
男はリリたちばかりに集中している。
他に仲間がいるとは思っていないようだ。
「うるさいわよ! あんたこそ剣を捨てれば痛い目にあわずにすむわよ!」
「そうだぞ。リリは怖いんだ。怒ったらお前なんか一瞬で……」
ドラは本気なのかふざけてなのかわからない。
リリが一瞬睨みつけると段々と静かになっていった。
膠着状態からのイライラからか男の剣が男の子の喉元に近づく。
静かに移動しながらも早くいかなくちゃ。
僕が男の背後にまわるとリリが僕の存在に気がついた。
僕はリリに頷き合図を送る。
リリの視線は男へ向いたまま、ゆっくりと剣を地面におく。
「わかったわ。それ以上男の子を危険にさらさないで。剣を置くから少し待って」
「わかればいいんだよ。そのまま後ろに下がれ。ゆっくりだぞ」
リリが一歩一歩ゆっくり下がっていく。
緊張した空気が少し緩んだのか、男の剣が男の子の首元から少し離れる。
僕はその一瞬を見逃さなかった。
「スリープ」
男が一瞬ふらついたところをリリは足元に置いてあった剣を蹴りあげて男の剣をはじく。
ものすごいコントロールだ。
「うっ」
間髪入れずリリはそのまま男に飛び膝蹴りを顔面にいれ、僕は男の手からその子を抱きかかえ奪い取る。身体をひねり男に対峙するように構える。
だが、リリは一発で男を沈めていた。
「大丈夫かい?」
「ありがとうございます。お兄さんもお怪我はありませんか?」
「僕も大丈夫だよ。ごめんね。もう心配ないと思うからここでちょっと待っててね」
「はい」
その男の子は銀髪で非常に聡明な顔つきをしている。
まだ幼さが残っているが受け答えがしっかりしている。
この子がさっき盗賊が言っていたこの世界を救う子供なのだろうか?
男の子を一端馬車の横に待機してもらって、執事姿の男性の元へ急ぐ。
傷も確認せずにとりあえず回復薬をかける。
あとは……近くには盗賊風の男が数人倒れている。
こっちはリリが倒した人たちだ。多分気絶しているだけだろう。
他にも警備にあたっていた冒険者風の男たちが倒れていたので一気に回復薬をかけてやる。
「お兄さんたち助けてくださってありがとうございました」
倒れていた冒険者から声をかけられる。
「いや大丈夫だよ。何人か助けられなかったけど。ちょっと盗賊たちを捕まえるからそのまま待っててね」
僕たちは生糸で盗賊の身体を縛り上げていく。
一通り捕まえ終わったところで、先ほどの盗賊たちも一緒に連れてくる。
いろいろ吐いてもらわないといけないことがたくさんあるからね。
亡くなってしまった人たちは……ご主人の目が覚めてからどうすればいいか決めればいいだろう。街が近ければ街まで連れて帰るが、それが難しければここで埋めてしまうしかない。
しばらくすると、徐々に襲われた人たちが目を覚ます。
結局盗賊風の男たちが10人中7人が助かり、男の子の関係者8人中2人が亡くなってしまっていた。
人が亡くなるというのはどうしてもなれないものだ。
貴族風の男たちが目を覚ますと、冒険者の男がことの顛末を説明してくれる。
「この度は、危ないところを助けて頂いてありがとうございます。私は商人のドロスといいます。こっちは妻のスイタイでこっちが息子のトガです。本当になんとお礼を言ったらいいのか」
貴族かと思っていた男たちは商人だったらしい。
彼らは深々と僕たちに頭を下げる。
男の年齢は30代くらいだろうか。髪の毛には少し白髪が混じり始めているがしっかりと整えられており、身だしなみにいつも気をかけているのがわかる。
妻と紹介された女性は男の方よりも身長が高く、きれいな茶色の髪の毛には血がまだついていた。奥さんの年齢は旦那さんより若そうに見えるが……なんとも言えない大人の魅力がある女性だった。
「いえいえ、たまたま通りがかってよかったです。僕はパックっていいます。こっちがリリでこの子がドラです。先ほど退治した盗賊の一人が占い師ヨモギが言っている世界を救う子供の一人を狙ったと言っていたんですが何か心当たりはありませんか?」
「それは……この子のことかもしれません」
その子は先ほど僕にあいさつをしてきた子だった。
年齢は10歳くらいだろうか?
「パックさんリリさん、ドラさんこの度は私たちを助けてくださってありがとうございます。トガと言います。年齢は6歳になります。よろしくお願いします」
かなりしっかりとしているのでもっと年齢が上なのかと思ったが、思った以上に若かった。
「まだ若いのにしっかりしているね」
「ドロスさんこの子がその世界を救う子供なんですか?」
「私たちも詳しいことはわからないんです。ですが、今、巷である噂が流れていまして有名な占い師であるヨモギという方が世界を救う子供たちが育ちつつあると世間に公表したんです。その子供たちを守らなければならないと。その世界を救うっていう意味がどういう意味なのか、このあと何か起こるのかもわからないんですが。この子は小さい頃より天才と言われてまして確実にこの子は予言の子供だろうと言われています。まぁ私たちからしたらこの子が予言の子であろうとなかろうと関係ないんですけどね」
ドロスは少し寂しそうな顔をしてトガの頭の上に手を置き優しくなでる。
占いというものを信じてはいないが、そんな占いのせいで襲われてしまうのはなんとも寂しくなってしまう。
「ドロスさん、馬車の準備ができました。それと盗賊たちの尋問はどうしますか?」
「とりあえず、今ここで聞けることは聞いておこうか。街に戻ってからだと、どんな邪魔がはいるかもわからないからな。パックさんたちもできればご協力をお願いできればと思います」
僕たちも一緒に盗賊の尋問をすることになった。
今回はドロスたちに任せておけばいいだろう。
リリが活躍することはない。
……ないよね?




