ラリッサの救護院の実態
「パック守ってくれるって言ったのに! 酷いわ!」
「いや、守る間もなく速攻で顔面蹴り上げていたでしょ。ドラもいつの間にか連携取れてるし」
「テヘッ」
リリがあざとく可愛く見せようとするがもうすべてが遅い。
とりあえず回復薬でもかけておけばいいか。
僕は手のひらから回復薬をだしドバッドバッとその男にかけてやる。
「これが燃えるような恋って奴なんですね」
男はむくりと起き上がると、何事もなかったかのようにリリの前に跪く。
リリは躊躇せずに蹴りに行こうとしたので、慌てて押さえる。
止めなければこの茶番をあと何回繰り返すかわからない。
「リリ、ダメだよ」
「だって、こんな感じでずっと気持ち悪くて。しかも異様に打たれ強いし」
「もう焼かなくていいのか?」
「ドラ頼む、もめ事を大きくするのは辞めてくれ」
ドラは首をかしげているが、相手にするのは後だ。
「大丈夫か?」
「これはこれはご丁寧に。救済の森1000人長ノーマンと言います。リリさんのご兄弟の方でしょうか?」
「いやリリとは幼馴染で一緒に冒険者をすることになったんだ」
「はぁ? リリさん救済の森を辞めたんですか? リリさんのいない救済の森なんて回復できなくなった聖女みたいなものじゃないですか。なんでまた? もしかして……なるほぞ! 脅されているんですね! それで僕のところに助けを求めにきたってことですか。わかりました。リリさんをかけて俺と尋常に勝負だ!」
この人、話を最後まで聞けないタイプの人のようだ。
よくこの人が1000人長まであがることができたな。
「違うのよノーマン。めんどくさいから少し黙っててね。紹介するわ。こちらが私の幼馴染で彼氏のパックよ。こちらがノーマンよ。ノーマンとはただ、合同の訓練で会ったことがあるだけだから気にしないでね。冗談がとても好きなの。さっきのもほんのあいさつ程度のものだから」
「お姉ちゃんくらいになると顔を蹴り上げるのはあいさつなのか」
なぜかレイナが感心していたが、将来が大変なことになるからリリからは学ばないでもらいたい。
さらっと彼氏と言われてしまったが、ここで否定して面倒なことになるのは嫌なのでながしておく。大人の対応はとても大事だ。
「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! リリさんの彼氏だなんて! わかった。リリさんが認めても俺はまだ認めてないからな。リリさんの横に立つには最低限俺くらいの強さが必要なんだ。リリさんとの交際を認めて欲しいなら俺と勝負をしろ!」
おぅぅ。まさか黙っていたのに面倒なことに巻き込まれそうだ。
なかなか世の中思い通りにはいかないものだ。
これは、相手のペースに乗ったら話がすすまなくなるやつだな。
「リリのことはひとまず置いておいて、庭園墓地へ行ってきたんだけど、あそこにゴーストがいたぞ。あそこの管轄は救護院だって聞いていたが大丈夫なのか?」
「あぁあれか……説明してやるから後で勝負しろよ! ただこれは外では話せないことだから中に入れ。リリさんには美味しい紅茶がありますのでどうぞ。お前は水な」
「あぁありがとう」
勝負はするらしいが、説明はしてくれるらしい。
意外といい奴なのかもしれない。
僕がお礼を言うとノーマンはとても驚いた顔をしている。
「嫌味にお礼が言えるとは意外と心の広そうないい奴だけど、勝負はするからな」
一人で忙しい奴だ。
ノーマンに案内されて、救護院の中に入ると正面には大きなステンドグラスが飾られていた。
慈愛の女神が色とりどりのガラスで表現されている。
それにしても……人がやけに少ない。
ここの救護院もかなり大きな方だ。
これだけの救護院ならもっと人がいてもいいはずなのだが。
救護院の奥にある客室へ案内され、ノーマンがお茶を持ってくる。
「今、人手が足りなくてな。それで庭園墓地のことか?」
「あぁ、なんであそこはあんな荒地みたいになっているんだ。行ってみたらゴーストが浮遊していたぞ。このまま放置してアンデットが発生したら救護院の責任になるんじゃないのか」
「あぁなるだろうな」
「まさかわかってて放置してるのか!」
リリが語彙を強め、テーブルをバンッと叩くが、ノーマンが両手を上げ降参のポーズをとる。
「リリまずは話を聞いてあげよう」
リリをなだめるが、リリの眼光が鋭くなっている。
「さっき、俺は1000人長って見栄をはって言ったが、今この救護院には実際1000人も人はいないんだ。救護院は街の防衛力という面もあったんだが経営難でな。多くがクビになった。最近トップが変わったんだが、前に運営していた奴が経営能力がなくて借金だらけなんだとよ。前のトップがいきなり姿を消したんで新しいトップがきたんだが、財政を見たらもうビックリ。借金に借金を重ねてもうどうにもならないらしい」
「街で庭園の剪定にお金をださなくなったって聞いたが、出さないんじゃなくて出せないってことなのか?」
「あぁ残念ながらな。救護院としての機能をなんとか保とうとして、救護院の中の金目のものを集めてたら、盗賊に入られ全部持って行かれたそうだ。人がいなくなって警備も手薄になっていたからな。そこを狙われたんだろ。しかも、回復薬を前のトップが薄めて売ってたなんていう不正まで発覚したからな。回復薬の在庫も処分することになった。そんで、先日ついにとどめの通知が救済の森から届いたんだ」
「とどめの通知?」
「あぁここの回復薬はモンセラットの街で作った回復薬を回してもらっていたんだが、理由も言わず今までの10倍じゃないと卸ろさないって一方的に通知してきやがったんだよ」
「10倍になんてしたら、金持ちしか買えなくなってしまうじゃないか」
「そうだよ。だから、今トップがモンセラットの街へ直接交渉に行っているが、多分無駄だろうな」
「ここの運営は寄付や回復薬を売ったお金で回っていたからな。回復薬を作れる奴は何人かいるが、それでもモンセラットからの供給が無くなったら、ノエルの村のように救済の森から離脱するしかない。俺もリリさんがいないなら本当に辞めるのも選択肢に入ってくるよ」
僕のわからないところで救済の森は大変なことになっていた。
だけど、お金がないからと言って墓地を放置して置いたら今度はさらに大きな問題になる。
仕方がない。
ここは僕たちがひと肌脱いでやるしかない。
パック「リリ! ついにやったよ! 日間ランキングで4位になったよ」
リリ「やったね! 読者の方の応援のおかげだね」
パック「本当にありがたいよ」
リリ「これからも頑張りましょ!」
応援本当にありがとうございます。
面白いと思って頂けるようにがんばります。




