LLCと私
“男は制度によって女はただ女であることによって盗むのさ” 盗聖トラスト(義賊のすすめ)
重大発表後。
しめは業務報告。ボスが話し終わると解散。
ざわつき始めた喧騒に、すごいことが起こりそうな予感に、今日は終始上機嫌で帰れるかな、と考えながら帰路に着くと、待っていたのは突然の密かな呼びかえしだった。
街路。路地端にて。商売人風の男に袖を引かれて示されたのは一枚のハンカチーフだった。クリスを抱くドクロと取り巻く縄。不思議と馴染んで見える二つの反する属性。LLCの紋章。キャラクターと化した二つの伝説だ。
LLC社章。しゃれこうべの落ち窪んだ両眼から鼻の空洞にかかるように置かれたクリス。ゆるゆると縛る縄。「救われないものの救いに」とでも言いたげなそのデザイン。描写物自由。大きさは自由。カラーも自由。それなのに必決の合図だった。
私は、見せられたものを認めると、男に目礼し、帰り来た道へ順路を変え戻りながら、依頼は何なのだろうと、いつものように不可思議な想像に囚われながら東部ストリートの表通りにあるLLC本部の扉を叩き受付を過ぎ、そして驚いた。
私、ヨギ、トリスで三人。偉くない三人。それが、半円の卓上を囲むボスに幹部と怖い面子相手に直立不動なのだから。
「ヨギ、トウサ、トリス」
「はいっ」
返事だけは勇ましく。
「三人、呼ぶのはな、他でもない。勇者選定。そして従者選定の話だ」
勇者。季節ハズレに咲き誇る徒花の如きその単語。
「今暦は、魔族王への直の拝謁が許されている。つまり、魔族王に勇者が直接挑む暦になるわけだ。ただの魔族領横断とは異なる。協定始まって以来、このようなことは何度となく行われたことではある。が、だ。問題は我々の仲間がその一部を担うことになるということだ」
ボスが周囲を見渡すと皆うなずく。つまり、規定路線が話し合われた後。下す段階だ。命令。指図。指令。
「そこで、魔族領への渡航は」
魔族領への渡航。結論を告げられるだけだと分かっていても、目の前がフワフワする。
「長期に渡る記録と変革の時代ゆえに、このうねりを諾とするものを持つ、若年の有望株である貴様たちの中から選ぶことにした」
まさか私たちが。私たちは、きっと尋ねる方になるのだと思っていた。話して貰うほうなのに。ねだる方に。
自然、汗をかいた。匂いがする。くんくん嗅ぎまわってもどうすることもできず、緊張感に引き締まっている自分と周囲を比べる。すっと横目でウキウキ顔のヨギ一瞥し、それから、ふと、もう一人、トリスへと目を移すと、こちらは口を一の字結びに結んでうっとりした目で焦点をどこか遠くへ追いやっている。ぼうぜんとはこういうものという体言。
「それでだ、」
記憶を伝う。二人に関してできる限り。
ヨギ。男性。15歳。盗賊。技能=盗技、神秘術、時魔道、聖魂伝技、遺跡調査、情報技能、謀略、謀殺。装備=ショートナイフ(LCC支給品を額縁に飾ったまま置きっぱなし)、シックな服(黒、白、赤、青のダボシャツの着回し)、ぐちゃ色のハーフパンツ(チェック柄、賊業の古典美らしい)
トリス。男性。17歳。盗賊。技能=盗技、格闘術、神祇術 遺跡調査、情報技能。装備=アムラス製ナイフ(神秘術を施した一級品らしい)、トータルコーディネート(上下を意識した、Gファッション)
そして、私自身。
トウサ。女性。15歳。盗賊。技能=ルカ工魔道技士、静動魔道、位相魔道(魔道は得意なんだ)、遺跡調査、市場調査、情報技能。予知。装備=LLC紋章入りナイフ(立体アートのかっこいいやつ)、トータルネック(ヒラヒラの飾り付き)、フィットパンツ(黒の)。Pポケット(肩から斜めにかける複数の袋がついた高機能性のバック)
「知っての通り従者本来の役割は勇者に従い魔族領に渡航し、魔道の秘儀を盗み見、最終的には魔族王へまみえることにある」
順当に行けばトリス、将来性をとればヨギ、かな。
けれど、
「が、我々ロバーツ・リミテッド・クラブは、」
もし、私が選ばれたら。
「次代を担う、業務の一環として」
「魔族領とコンタクトを取り持ち」
それは…。
「勇者と魔王の劇的な一騎打ちを演出することを望んでいる」
一旦息を吸いじろっと私たち三人を睨み付けるボスを、束縛の魔道でも使われたかのように私は見返すことしかできなかった。
「トウサ!」
「はいっ」
返事だけは勇ましく。
「従者にはお前を押す」
そう、始めてLLCへの扉を開いたころのように。
私が、ただ純粋に答えたら、その時、ボスは笑って答えてくれた。そして、
「ヨギ! 魔族領とのコンタクトはお前に任せる」
「トリス、人員管理と情報管理はお前の役割だ」
そうして、
今、勇者と従者たちと魔王と怪物の一節の暦が始まる。




