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戦士と戦い、そして手紙

“魔族領への侵攻。あれ侵攻じゃなくて横断でしょ。だってさ、俺、散々頑張ったよ、でもさ、魔族領で魔族と戦っているって感じしないじゃん。確かにつらいときはあったよ。従者も何人かは倒れたさ。でも魔族王と会うときまでさ、そんなに苦労した覚えがないんだわ、これが” 匪賊勇者エナンコールジーツの闇に葬られた手記より


 ひどい血が流れていた。リエントラントのタンタン鋼索刀が低いうなりと共に時折タンタンと何かをはじくような音を立てる。流れ出る血にもかまわず走り来る魔族が放つ魔道の刃を懐のナイフを投げ乱してやると、その突き出された短剣を削り折る。獲物を失いそれでも接近して殴りかかろうとする魔族を剣の柄で打ち据え、そうして頭を剣から自由なほうの腕でそのあまりに澄み渡った黒の鎧に魔族の頭を打ち付ける。黒融炭耀石の鎧が鮮血に染まる様子に、イクセスは少し後ずさり、ヒトヤは少し顔を歪め、私の心は冷え込んでゆく。魔族の名はエスナス=ハームナクトラと言った。正々堂々とした勝負だった。地縁綿の花畑に面したなだらかな平野でハームナクトラがリエントラントを指したとき、私とヨギとトリスの予定は一つ崩れた。ハームナクトラは魔族軍の軍人であり、自らが指し示したDLL帽を不釣合いに乗せる崩壊戦士と同じような感じがする魔族だった。

「リエントラントなるものは」

 魔族はその帽子から見当をつけた先を見つめながら叫びリエントラントは答えた。「何かな」と。二人は同じようにして寡黙に剣を抜き、それから甲高い音を立て交し合うと距離をとり、それから高度な魔道のやり取りと小手先の道具や礫を使ったやり取りが行われた。始め優位だったのは軍人魔族だった。その強大な魔道をリエントラントは何度となく寸前に身を転がしてかわし、その剣に魔道を這わせて斬り抜き、あるいはその身にまとう鎧の恩恵により、耐え抜くと、その後だった。とうとつに消えたのだ。二度、跳躍したのだと思う。急に魔族に接近すると魔族の腕を切り裂いて。そうして、もう決まった勝負だった。

 額を割ってズルリと落ち込む魔族。鮮血に彩られた黒き鎧の崩壊戦士。

「魔族王テウソの軍下とはこの程度か」 

 心底残念そうにそう口にするリエンラント。こうなる可能性は分かっていた。ヨギの手紙によると魔族たちは聖魂の不滅を信じている。魔族は一騎打ちを挑む。彼らは彼らの考えでは死ぬことはないのだから、そうなるまで戦うことが可能なのだと思う。そうしてこの崩壊戦士は逆だ。リエントラントは不滅を信じてもさえもいないのに戦いの果てまで行くことが可能なのだ。私は短い付き合いの中で彼の果たす役割を考え、少し困惑したことを白状する。可愛そうな魔族ハームナクトラ。抜け殻を引き渡すと彼の仲間たちは、彼らは、癒そうと必死の努力を行った。私もできることなら彼らがこの結果を盗み取れることを願った。

 これ以降、リエントラントへの挑戦者は増えた。

 マーズに挑戦するものも少しだけど現れた。マーズへ挑戦するのはおおむね星民の探求に関わる魔族だった。お互いの資料交換と論戦を経て、さわり程度に立ち会ってそれからサインと共に帰る。おおむねそういう流れだったけど、まれに、強大な魔族の魔力との魔道合戦が行われた。火の神官の滅失魔道を見せてもらったのはそんなときだった。巨大な魔力の暴発と、煌くように聖魂が舞い散るのが印象的だった。滅失を期したその魔道の結果は魔道自慢の魔族たちの挑戦を彼の前から一掃する役割を果たした。

 私とヒトヤとイクセスも何度かの挑戦を受けた。ヒトヤは神秘術の秘儀をいくつか見せてくれたし、イクセスはその剣舞に磨きをかけた。私は盗賊らしく逃げ回っては、時々接近して、ということを繰り返し、長い戦いで所持品の節約と魔道への自制を心がけた。

 魔族たちの強大さと制限。

 私たちの予定は大分ずれた。リエントラントは魔族を血祭りに挙げたいと願っているのか、そうでないのか。崩壊戦士はただ怪物に対してと同じように魔族に対して振舞った。それは予定にはないことだった。魔族領侵攻が4万6千ポインタをすぎるころのことだ。半分を越えたところのこと。

 このころのヨギからの手紙の全文。


〈寂騒自天添 風雅翔曉宵 宵隠鮮陽光 曉鶏鳴盗闇

 トウサ。因が揃ってないね。

 どうやら俺一人では無理な状況になりそうだね。勇者の魔族領への侵攻でお迎えに連れられた魔族が三人。6暦ぶりのことらしい。勇者の侵攻を中止してはどうかとの意見まである。口にした本人も信じていない言葉だけどね。挑む相手を選べば、とは口にできないね。それを言い始めれば俺たちのやっていることも相手を選べ、といわれそうだ。魔族王が直接出向くように頼んでいるのだけど、なかなかうなずいてくれない。俺の存在も白い目で見られ始めている。魔族王がかばってくれているからいいようなものだけど。どうやら魔族王はどう転んでも今暦の侵攻でその王位を退くつもりみたいだ。終末の話しの方はひどく広がっている。もしものときの考えはいくつか用意しているけど、できれば、そこまでの状況にはなってほしくないと思うよ。そうそう。フレイスラとは上手くやっているか。あいつは大切な役割を果たすだろうから。よくしてやってね。それと、あのDLLの崩壊戦士は本当に魔族王を滅ぼすつもりらしいね。どうやら方法も確保しているみたいだとトリスのやつが口にしていたけど。そうなるとさ、俺たちLCCの盗賊協会員が勇者の魔族領侵攻を、そのものの全てを、盗むのではなくなってしまいそうだね。あのDLLの崩壊戦士が結末だけを盗むことになってしまいそう。それもそれでいいとは思うのだけど、悔しいからいくつかの用意をしておくよ。

 そういえばさお前が持っているナイフ。すごく強力なものらしいな。どうやって手に入れたんだ。スネックボトムか、スネックボトムだろ。うらやましいな。俺もあそこを探ってみたかったんだよね。怪我、してないか。気をつけろよな。魔族は先例の暦に従う。一騎打ちは断ることもできるのだから、上位魔道を極めている士官クラスが気まぐれにでも現れようものなら絶対避けておけよ、ね、そうしろ。マジックスの遺産は目をつけられやすいから。もしものこともありうる。くれぐれも気をつけろよ。俺が近くにいれば聖魂伝技で容易く恢復できるんだけどね。ないものねだりはできないから。

 夜はやくして融はるかなるかな

 ヨギより〉

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