起こる騒乱
<1>
ハァッハァッ
呼吸を乱しながら城内を走る男が一人
お供も連れず、ところどころ破けた衣服は完全な状態であったならさぞ高級であったであろうことが窺える
しかし、そんなものがぼろぼろになりながらも、男にそれを気にした様子はない
それもそのはずだ、命より大事なもの等ありはしない。
いくら金を持っていようと、死んでしまっては元も子もないのだ。
男は逃げている。
こんなはずではなかったのだ
男の計画が成功していたなら、男は今よりはるかに莫大な富を得ていただろう。
今日実行された計画は、粗いながらも、単純ながらも、成功の見込みがあるものであった。
決して分の悪い賭けというものではなかった。
だからこそ男も実行したのだ。
男とて馬鹿ではない。
今の地位を保つためにそれなりの修羅場を潜り抜けてきているのだ。
今回の計画実行にいたっては、自身と同等の力を持つ者の協力もあった。
担ぐ神輿も完全にこちらの味方であった。
状況的にも、境遇的にも、なんの問題もないはずだった。
なぜあんなことになったのか、
なぜあんなことが起こりえたのか?
ありえない
目の前で実際に見たにもかかわらず、男の頭は否定する。
もし、あんなことがありえるならば、それなりのサインがあったはずだ。
こちらだって監視していた。おかしなところはなかった。
「いったいなぜ?」
男の疑問はついに言葉になってしまう。
「考えるだけ無駄だ」
誰にも投げかけてないはずの男の言葉に返事が返される。
男が進む廊下の先の曲がり角から聞こえてきた。
「だ!だれだ!」
暗闇に向けて男は咄嗟に杖を抜き構える。
「私がだれか・・・か?」
謎の声の主が曲がり角から姿を見せる
「この状況で」
男は油断せず杖を向け続ける
「それがお前にとって重要なことか?」
ゆっくりと声の主が姿を見せる
<>
「間に合ってくれ!!」
スワン・プリシュティナは公爵家の私設軍を引き連れ王城へと駆ける。
「ついてくれない者は置いて行くんだ! 事は一刻を争う! 急げ!!」
普通だったらありえないことだ、貴族が自分の軍を引き連れて王城へと歩を進めるなど並大抵の理由では許されない
それでもスワンは迷うことなく可能な限りの兵を引き連れて王城へと向かう。
(脱落者は全体の10%程か・・・)
後ろを確認しながらこの先の事について考える。
考えているとおりなら、城内へ入るのは難しいことではないだろう。
王城へもう少しで到達するというところで前に人だかりを確認したが構わず前進する。
近付くにつれその集団が統率されていることがわかる。
(何者だ?)
疑問は浮かんだが構ってる暇はない
そのままその集団に肉薄する
先頭にいる人間の顔を確認する。
「ベルナンディー・・・伯爵?」
「やぁスワン君 久しぶりだね?」
「お久しぶりです伯爵 それより、その後ろの兵はいったい?」
「ん? これは私のところの兵だよ? 私からも質問なのだがスワン君 そんなに軍勢を引き連れていったいどこへ行く気だい? この先には・・・・王城しかないよ?」
ガチャガチャガチャガチャガチャ
ベルナンディー伯爵の兵が一斉に剣を構える。
ガチャガチャガチャガチャ
同時にこちらの兵たちも剣を構える。
互いに牽制し合う形になった。
「ベルナンディー伯? いったいなぜこのようなことを?」
「それはこちらの台詞というものなのだよスワン君 君こそ、なぜこんな馬鹿なことを?」
「馬鹿なこと・・・ですか」
あぁそうだよとベルナンディー伯が答える
「そのまま何もせずにいれば、焦らずとも手に入っただろうに」
「なんの話です?」
「ははは! 今更とぼけなくてもいいのだよ? どうしても王になりたいのだろう?」
「ベルナンディー伯 一つお聞きしたいのですが、なぜここに布陣なさっていたのです?」
「知っているだろう? 王城で騒ぎがあったようなのだよ、君が起したね、アンテナを張り巡らせていた私はすぐさま騒ぎを察知して、用意していた兵を連れて城へ駆けつけようとしていたのだよ そんなおり、プリシュティナ家で兵たちが集められているという報を聞いてね、ここで迎え撃とうと思ったわけだよ もちろん城に救援に行きたいのだが、大規模な敵が新たに城に侵入するのを防ぐほうが重要だと判断したのだよ」
「なるほど、まず第一にですが、騒ぎを起したのはぼくではありません。」
「ふむ ではだれがやったというのだ?」
「レオナルド兄さんです。」
瞬間、強大な殺意が自分に向けられたのがわかる。
「スワンくん 私は君に恨みはない けれど、あまり笑えない冗談を言われると・・・うっかり、ということもありえてしまうかもしれないよ?」
「嘘ではありません」
身に降り注ぐ殺意に堪えながらも話す。
ここで時間を無駄にしている場合ではないのだ。
「片腕が使えない大将が、今城を攻めているというのかい? それともあの骨折がやつの嘘だと?」
こちらを見定めるかのような伯爵の視線に汗がでる。
「兄が本当に骨折していたかについて、ぼくにはわかりません。 しかし今城で騒ぎを起しているのは間違いなく兄なのです!!」
「あくまでレオナルド君が実行していると言うのだね・・・」
「はい」
「では最後に質問をさせてもらおう。君の答えに私が納得いかなかった場合、もはや時間の無駄は出来ないのでね 君を捕らえさせてもらうが・・・・かまわないかい?」
「構いません こちらにも時間がありませんから」
「では聞くけれど、君ではなく、君の兄が実行犯だという根拠は? なぜ今城へ行く? どうしてこんなにも早く城で騒ぎが起こったとわかった? 仮に兄を止めようとしての行動だとして、なぜ君の弟がいない?君の弟は君より兵を率いる才に秀でているはずだろう? 兄を止めるために君が兵を率いたと仮定して、なぜ君だけなのだ?」
「弟は探しましたがいませんでした。 父も同様です。」
あまりにも正しい追求 あまりに正しい指摘に自分の答えの不自然さが際立つ
嘘をついているわけではない しかしこれでは・・・
「屋敷にいたのは母と妹だけでした。」
「なぜか君の父と弟がいなかった、だから君が兵を率いて兄を止めようとしている? なるほど・・・・・話にならないね」
それで終わりかい? ならもういいよねと伯爵は後ろで構える兵に指示を出そうとする。
「妹が!!!!!」
つい、大きすぎる声が出てしまう。
しかし、ここで争うわけにはいかない
「僕の妹が!!!・・・・・泣きながら頼んできたんです。」
伯爵はこちらに振り返り、視線を向けてくる
「何をだい?」
「お兄様を助けてくれと、自分はなにもできなかったと、知っていたのに、兄をとめることが出来なかったと!!!!!!!」
涙を流しながら自分の部屋に駆け込んできた妹を思い出す。
兄のことが大好きな妹が、必死に悩んで、どうしたらいいかわからなくて、とても辛かったことだろう
「だから、ここであなたに構っている暇はないんです!!!」
心の底から訴える。
どいてくれと
そこを通してくれと
「それでおわりかい?」
返された言葉に言葉がなかった。
もう戦うしかないのか
「なんてね」
伯爵の顔を見る
「おいおいそんなに驚くことはないだろう?」
「どういう・・・ことです?」
「いやなに、君の言うことがありえなさ過ぎて、逆にありえるような気がしてきたんだよ というのは少し冗談だが、普通に考えてみたのだよ。君ほど優秀な子が、子供さえ騙せるかわからない嘘しか言わない意味はなんだろう?ってね そしたら結論が出たんだ」
「結論?」
「うむ 本当なのだろうな~とね」
「それじゃぁ!!」
「まぁ流石に勘で君を完全に信頼することは出来ないけど、通してあげよう 私は後ろからついて行く」
「わかりました、僕が不審な行動をとったらいつでも後ろから来てください」
「うむ、まかされよう では急ぐぞ すこしのんびりし過ぎてしまったようだ」
「はい」
目指すは国王陛下の寝室
多くの兵たちが城門を駆け抜けた
<2>
「いない・・・」
国王の寝室
そこは蛻の殻だった。
「遅かったか・・・」
部屋の中は踏み荒らされた形跡がある。
しかし血の後はみられない
ということは
「連れて行かれたんだろうね 想像通りの目的なら、簡単に殺されるわけもないし」
「どこに連れて行かれたのでしょう・・・」
「まぁそう遠くはないだろうね」
「ベルナンディー様!!!報告がございます。」
ベルナンディー伯の兵が叫びながら駆けつけてくる。
周囲を偵察していた者だろう。
「どうしたんだい?」
「城内を探索していた部隊から、玉座の間に人が集まっていると」
「玉座の間かい? まぁずいぶんと雰囲気を大事にすることだね?」
聞いた瞬間走り出した。
伯爵も後ろからついてくる。
振り返りはしない
一刻も早くしなければ
<>
王下12貴族のうちの一家であるコーザ家
その当主であるダナン・コントァ・コーザは目の前の光景に歓喜していた。
自分の謀が上手く行ったことに、これから先の自身の姿を思い描き
成功した。成功した。成功したのだ。
思えば早いものだ。 王が自身の後継を決めるなどという噂が流れ、すぐさま事を起こしたあの日
あの時の決断は間違っていなかったのだ。
途中流れは変わり、考えていたことと通った道は違ってしまったがそれでも・・・・間違ってなかった。
その証明が目の前の後継だ。
自身が担いだ神輿
プリシュティナ家長男であるレオナルド・プリシュティナ
国王セルゲイの眼前に剣を構える男
「よぉ陛下 こんなところに連れてきちゃって悪いんだが・・・用はわかってるよな?」
「えぇ まぁさすがの私もこの状況が何かわからないほど馬鹿ではないですよ」
「そりゃよかったぜ いちいち説明する手間が省ける」
「それにしても・・・」
セルゲイは周囲を見回す
なんとも緊張感のない
「よくもまぁこんなに上手く制圧したものですね」
「錬りに練った作戦・・・らしいからな」
レオナルドがこちらを見る
(その通りだ。 この日のために私がどれだけの時間を費やしたか)
「まぁそんなわけでな?」
「そうですねぇ しかしまた大胆なことをしましたね? レオナルド君」
「まぁ俺としてはステキな未来のために少しがんばってみただけなんだけどな」
「あなたという人間はそれなりの期間見てきたつもりですが、王になりたかったとは知りませんでした。」
「たしかにそうだろうな 俺を見てきた人間で、俺が王になりたがっているなんて思ってるやつはよほどの馬鹿ぐらいなもんだ。」
「しかしそのせいで一杯喰わされてしまいましたよ」
「まぁ普通に考えてありえないことを真面目にするっていうのは面白いもんだな? 今回やってみた思ったよ」
「面白い、面白くないで反逆されても困ってしまうのですが・・・」
「俺としても最初はめんどくさかったんだけどな?こんなこと、一時の努力でステキな未来が得られるなら仕方ないからやったさ」
「ステキな未来ですか・・・富と権力にものを言わせて贅沢三昧という感じですか?」
「いやいや、誰もいないような田舎でのんびり隠居生活だよ」
「いつまでくだらんことを言い合ってるつもりだ!!!」
つい話に割り込んでしまった。
しかしこちらとてのんびりしている場合ではない。
ここまで上手く事は進んでいるが、いつどのような問題が起こるかわからないのだ。
やるべきことはやっておくべきだろう
「まぁダナン 落ち着けな? こういうのは雰囲気を大切にするもんなんだよ? そんなに急がなくたってあんたが念入りに建てた計画なんだから簡単にはくずれねえよ」
まったく何もしらないガキが・・・・
しかし、いまはこのガキこそが重要だ。
落ち着け私
「さて陛下、ダナンのやつがちょっと気が立っちまってるからな、そうそうにやることをやっちまおうと思うんだけど?構わないか?」
「そうですね 話を引き伸ばして味方を待つ作戦だったのですが、意外と来ないものなんですね?」
「そりゃすまんな陛下 俺も陛下の味方が到着するまで待ってやりたいところなんだけどよ~ そろそろ飽きてきたからな」
「残念です。 ところで最後になんですが、君に協力したのはコーザ家だけなんですか?」
「いんや?コーザとヴァルデック、アーレンベルクの三家が協力してくれてるぜ?」
「それにしてはダナンの姿しかみえないようですが?」
「アーレンベルクのやつはしらんけど、ヴァルデック家の当主は何かあったときのために城内で動いてるらしいぜ?」
「なるほど、その三家が関わっているのなら、今回の手際のよさも納得ですね」
「もちろん小貴族もかなりの数が関わってはいるが、そんなやつらの紹介はいらねえだろ?」
「もちろんです。」
「じゃぁとりあえず、あんたの首にさがってる物を貰おうか」
「仕方ないですね」
首に手をかけ、首飾りをはずそうとするセルゲイ国王
ペオグラード王国に代々伝わるアデリアの首飾り
王位の証明でもある。
「レオナルド君 いちおう渡すけど、大切に扱ってね?」
「あぁ 流石のおれでも大事にするさ」
セルゲイが首飾りをレオナルドに渡そうと手を伸ばす
(ようやくこのときが来たのだ)
<>
「もうすぐだ!!!」
城内を走り玉座の間を目指す
あと少し
「冷静さを保つことが重要だよスワンくん?」
後ろからついてくるベルナンディー伯から声をかけられる
まったくもってその通りだ。
「わかっています。」
あとすこし・・・・ついた!!!
バァン
勢いよく扉を開け中に入る
そこには・・・・
「あれ? なんでお前がいるんだスワン?」
兄、レオナルドの姿があった。
「なんでって・・・」
「やぁレオナルド」
「ん? ベルナンディーまでいるのか?」
「あぁ それにしても、本当に君だったとは思わなかったよ」
「なにがだ?」
「こんな馬鹿なことをしたのが・・・だよ」
そういってやれやれと首を振る伯爵
「にいさん! こんな馬鹿なことはやめてください!」
「そうは言われてもな~ もうほとんど成功しちゃったようなもんなんだが・・・」
そういって兄さんは手で何かをつまみながらこちらに向ける
「それは・・・」
兄の手の中にあるものを見て驚愕する
「そう アデリアの首飾り 後はこれを俺が首に巻くだけで継承できちまうんだぜ?」
「・・・・・」
ベルナンディー伯が兄さんをじっとみる
そして何か得心が行ったかのように話す。
「それでレオナルド はやくそれを首に巻かないのか?」
「あぁ ちょうど受け取ったときにお前らが来ちまったから忘れてたわ」
にいさんはそういって手の中の首輪に視線を送る。
「じゃぁとりあえず陛下」
視線を陛下に向けにやりと笑う
「そうだね」
陛下もそれに対してにこっと笑った。
いったい・・・
「「ではここに大捕り物をおこなうとしよう(おこないましょう)!!!!」」
瞬間、セルゲイ様と兄上の声が重なる
バァン
玉座の間に連なる全ての扉が一斉に開く
「なぁ!!!! 何事だ!!!!」
最初に声をあげたのはダナン伯爵
「なぜ近衛騎士団が!! 抑えたはずだろう!」
慌てながらも自身の兵に対処させる。
「いやぁ レオナルド君の行った通りでしたね 信じてよかったですよ」
「まぁ俺も信じてもらって助かった 突拍子もない話だったからどうなることかと思ったぜ」
「兄さん?どういうこ・・・まさか」
いや、この状況、それ以外ありえないだろう
「まぁお前の思っている通りだよ、 っつうわけで? ダナン、お前には悪いと思うんだけどさ、つかまってくれ? な?」
「くそぉ いったいいつから・・・・いや、いま考えることじゃないな」
杖を構える伯爵
「駆けよ閃光!!」
しまった!!
強烈な光があたりをつつむ
眼が慣れた頃
さきほどまで伯爵がいた場所を見ればそこは蛻の殻
「逃げられてしまいましたね」
にいさんにどうする気か尋ねる
「まぁほとんどの私兵は近衛が捕まえちゃってるし、というか親玉が消えて無抵抗だしな、あいつが連れてったのは側近だけだからいずれ捕まるんじゃね? 城には近衛散開させてあるし だよな?」
兄が陛下に視線を向ける
「言われたとおり、逃げた時のためにちらしてあるよ」
「まったく、私だけ働かせて談笑するだなんて・・・」
不満を口にしながらこちらに歩いてくるベルナンディー伯
残兵を捕らえる指揮をしていたようだ。
「それで? この次は何をするのだいレオナルド?」
伯爵が兄に尋ねる
「ぶっちゃけもう何もないんだけどな? 後は残兵狩りして、今回のことに協力した貴族を全員捕らえて・・・特にさっき逃げたダナンと他二家は確実にな? 王女様たちは俺が手を回してとっくに安全なところに非難させてるし、流石にあの閃光で城の異常事態に気づいてない振りしてる貴族たちも来るだろうし・・・待機かな?」
「なるほどね レオナルドには今回いろんな意味で裏切られたものだよまったく」
ため息をつきながら恨めしそうに兄を見つめる伯爵
「俺にはかけらも未に覚えがないぞ?ベルナンディー こんかいのことはいま逃げるアホたちと、国王と弟ぐらいしか使ってないからな」
「それだけ迷惑かけてるならそれはそれで十分だと思うのだけどね?」
「いろいろ兄さんに言いたいことはありますが、それは後日にとっておきましょう。」
自分もついため息が出てしまう。
なんのために自分は今回走り回ったのか・・・
「それじゃぁとりあえず、今回のことは円満解決ってことでいいのかな?」
セルゲイ陛下がしめに入ろうとする。
ドゴォォォォォォォン!!!!
突然聞こえた爆音
全員が音のした方に向く
「どうやらもう一仕事あるようだね?」
ベルナンディー伯爵がやれやれといいながら肩をすくめる
「あちらの方角からの爆音のようですが、なんでしょう?」
「なんだろうね」
「あっちは魔女達が収容されてる施設がある方角じゃねえか?」
「そういえばそうだね」
魔女が収容?
「あの施設の周囲には重要な施設なんてほどんどないし、爆発はそこだろうな」
「となると少し困ったことになったね」
兄とセルゲイ様二人の会話、ベルナンディー様ですらわかってないようだ
こちらの様子に気づいたのか陛下が説明をしてくださった
「二人はしらないんだよね? 城内には魔女を収容施設があるんだよ」
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
「おい、それで説明したつもりなのかセルゲイ?」
兄が視線をむける
今回ばかりは兄に賛同する。
なにがなんだかわからない
「ん? 他に説明しようがないじゃないか・・・まぁベルナンディー君は家を継いだばかりだから知らないだろうけど、城で魔女を保護してるんだよね まぁ正確には城の施設の一つでだけどね」
「そんな施設があったのかい」
「まぁベルナンディーがしらなくても無理はない 危険ではあるが、重要な施設ではないからな」
「私としてはむしろ、なぜ君が知っているのかが不思議なのだよレオナルド」
「どうでもいいだろそんなことは それより、仮に施設で爆発があったとなると少しまずいな」
「そうだね 施設の存在はあまり公にしたくないからね」
「仮に施設が爆破されたと想定してだがなぜだろうな? 今やることか?」
「う~ん 魔女を暴走させてその隙ににげるつもりかな?」
陛下が予想する。
「つうことはやったのは12貴族のうちの誰かだな・・・ヴァルデックかアーレンベルクの当主か・・・あの閃光は失敗したときの合図とかだったのか?」
「まぁ仮定の話をしていてもわからないけど、そうだとしたら少しやっかいだね?」
陛下が少しだけ困った顔をする
「仮に当主のだれかがあの施設を囮に使うとしたら・・・あいつを真っ先に解放するだろうなぁ」
あいつ?
「兄さん? その施設とやらの魔女にお知り合いが?」
「まぁな ムゥっていうんだが、ちょっと桁違いの魔女でなぁ かつてのサーティナよりはるか上のじゃじゃ馬だ」
「レオナルド君 人の娘をじゃじゃ馬とか言わないでほしいな あぁ でも考えたらなんかあっている気がしてきたよ ムゥちゃんが解放されたんだろうな あの鎖12貴族ならだれでもはずせるようにしてあるし」
「報告があります」
全員が視線を向ける。
扉の前には軽装の男が一人
「ガモン君か・・・君が来たって事はさ」
あきらめたように問う陛下
「はい、ムゥが外に出ました。 そのほかの魔女は施設に全員残っております。」
「それで、外に出したのは誰だ?」
兄さんが続ける
「ヴァルデック伯爵のようです。 もっとも、伯爵は既に捕らえてあります。」
「優秀なんだね?」
ベルナンディー伯が笑いながら言う
「いえ、鎖をはずした瞬間ムゥにやられたのでしょう 私が着いたときには気を失っておりました。 状況から私が勝手に判断し、捕らえています。」
「その判断であってるぜ それでガモン ムゥのやつがどこ行ったかわかるか?」
「いえ、施設の性質上、捜索に人を回せませんので・・・申し訳ありません」
「どうしたらいいかな」
「それは普通俺たちが陛下に尋ねることだと思うが?」
ため息をつきながら兄さんが返事をする。
「まぁでも最後の一仕事だしな 国王はここで後処理、俺たちは散歩中の魔女を迎えに行くってのでいいんじゃねえか?」
「現状、レオナルドの言った通りの行動で問題ないだろう。 それで?その魔女の特徴はなんだい?」
兄さんはあごに手を添えながら考え、
「まぁぶっちゃけ目の前にいたらわかると思うが、ちっこくて白くて」
「ちっこくて白くて?」
兄さんは一呼吸入れて
「最強そうな・・・やつだ」
<>
前日のことだった、兄に珍しく話があると呼ばれ聞いてみれば、それは突拍子もない話だった。《明日国王と組んでクソ貴族一網打尽にするんだけど協力してくれない?》いきなりそんなことを言われてもどう反応したものかわからなかったが、兄の発言が冗談のようで冗談に思えず頷いてしまった。
言われた通り今日、王女様方を全員保護し、指定の位置に布陣していると言われたとおりの兵がくるわくるわで大捕り物になった。
さきほども指示にあったダナン伯爵を捕らえた。
息を切らせて走ってくる伯爵を見たとき、ようやく自分の兄が言っていたことが現実なのだと本当の意味で理解できた。
「さきほどの爆発音といい、兄さんはなにをやってるんだ」
よくわからない兄の姿を思い浮かべる。
普段家から出ないかと思えば急にこんなわけのわからない事件の中心にいる兄にある意味尊敬の念を覚える。
「バーツ殿! 緊急事態です!!」
考え事のさなか、駆けつけてきたのは兄から指揮権を与えられている近衛予備隊
本来なら自分より上の立場の人間である。いったいどうして兄がそんなものを自分に貸すことが出来るのかわからないが・・・
「どうしたんです?」
「王女含め保護していた方々を収容していた部屋が襲撃されました!!!」
そんなばかな・・・
「相当数の人数を警備に当てていたはずだろう? 状況は?」
「警備に当たっていたものは全滅です。命に別状はなかったものの、しばらく役に立ちません。 現在私の指示で捜索に当たっていたものを一部警備に回しました。」
適切な判断だ
「それで?守りの兵が一時全滅していたということはほかにも報告することがあるだろう?」
「サーティナ王女が攫われました。」
「わかった」
驚くほど冷静な返事が出来た。
それはつまり、自分はまったく冷静ではないということだ。
「襲撃したものの特長は?」
「幼子だったと報告されています。 長い白髪が特徴で、強力な魔法を行使していたと」
それで警備が全滅した模様です・・・と報告した兵
「長い白髪、幼子・・・・・ムゥ?」
自分の知っている人間を思い浮かべる。
見事に特徴が一致する。
しかしやつは封印牢にいるはずだ・・・どういうことだ
「私はいまより王女捜索に加わる。 お前たちは現在捜索中の兵を二つに分けろ 王女捜索隊と、残兵狩りにだ!!!」
了解しました!!といってかけていく兵の背中を見送り、自身も捜索に移る。
居場所は検討もつかないが、なんとしても見つけねばならない
<>
それは突然のことだった。
部屋で本を読んでいたら突然扉が開き、避難を促され
気づけば城の一室にお姉さまたちと閉じ込められていた。
そしてその次の出来事も突然だった。
扉が勢いよく開かれたかと思えば、いきなり手をつかまれ連れ出された。
知らない人だった。
白くて長い髪、私と同じくらいの背丈のその人は一言もしゃべることなく私を連れて移動した。
着いたのは城の外
目的地はここだ!と言う様に、彼女はしゃべりかけてきた。
「こんなところに連れてきておいて何なのだがのう おぬしがサーティナ・ペオグラードで合っておるか?」
こちらを見ずに問いかけてくる
「はい」
答えると、白髪の女性は振り返りこちらを見る
「そうか! おぬしの姿は話で聞いただけで見たことがなかったからのう あっていてよかったわ!」
「誰から私のことを聞いたのですか?」
素朴な疑問 普段公式な場にでない自分をよく知る人物は少ない
「バーツ・プリシュティナという男じゃ おぬしの幼馴染なのだろう?」
ニヤっと笑いながらこちらを見る。
「バーツ様から・・・」
「うむ!」
気になったことを聞いてみる
「バーツ様とはどのような関係なのでしょう?」
「ん? あぁ おぬしが心配しているようなことはないぞ? ちょっと最近知り合った程度のものじゃからな」
「そう・・・ですか。 それで、私をここに連れてきた理由というのはお聞きしてもよろしいのですか?」
「そうじゃのう まぁ確認も済んだことだし本題に入るかのう」
と前置きをし
「おぬし 元魔女なのだろう?」
「はい 正確には現在も完全に暴走しないというわけではないですが、ほぼ暴走を抑えられるようになりました。」
ふむっと言いながらこちらに背を向ける
「そういえばまだ名乗っておらなかったのう わしはムゥという」
「ムゥさんですか」
「うむ おぬしと同じ魔女でな? 現在は魔女封印牢、まぁこれは別称で、正確には魔力暴走者保護施設?というところで生活しておる。」
「魔力暴走者保護施設・・・そいうものがあるのですか」
「それすら知らんのか・・・」
ムゥさんは空を見上げながらくくくと笑っている。
「わしはな? 特A級に分類される魔女でな、ずっとその施設で生活してきたのじゃ 」
「自分の危険性も理解しておるし、ほかにも共に生活する魔女もたくさんおったからのう 最高だと思ったことはないが、この生活はとてもすばらしいものだと思っておった。 魔力を暴走させる心配もないし、生きるのに必要な物はすべて供給される。 外に出られないことを除けば快適じゃったからのう」
「外に出られないのですか・・・」
「まぁ正確に言うなら『出たくない』という者がほとんどだろうのう 外にでたら人を傷つけてしまうからのう」
「そう・・・ですね 私もたくさん人を傷つけてしまいましたから、わかります。」
自分のやったことを思いだす。
自分が永遠に覚えておかなければならない罪
「まぁでも魔女に生まれてしまったのじゃから仕方ないと思っておったわ いままでも、そしてこれからものう 他の魔女もおそらくは皆そうじゃろ」
ムゥさんはこちらをみる
「じゃがな?」
ムゥさんが私の顔を覗き込んでくる
「おぬしはいったいなんなのじゃ?」
私はその言葉に反応できなかった
「A級魔女で、過去に暴走をたくさん起こして・・・お前はなぜここにいる?」
「私は・・・」
私は直ったから
「そう、お前はもう暴走しないのじゃろな」
笑いながら
「どうしておぬしは直って、楽しげに外で暮らして、わしらはずっと閉じ込められているのじゃ?」
どうしてって・・・私はそもそもそんな施設のことは知らなくって
「おぬしより等級の低い魔女はいくらでもおるぞ? そやつらもまだ誰一人外には出ておらん まぁ例外は一人おるがそれは置いておこうかのう」
「わ、私はたくさんの人が、暴走を抑えるのに協力してくださって」
「なぜわしらが直るためにそやつらは協力してくれないのかの?」
ズキンと自分の胸がなにかに打たれたのを感じた。
ムゥさんはッスとわたしから視線をはずし距離を置いた。
「まぁそもそも、お主に言うことではないのだがのう これはもっと実情をわかっておる上のやつに言うことのはずだからのう」
そもそもわがままだしのう
「じゃが、許せ、わしとておぬしの存在を知るまではこんな気もちはなかったのじゃからな?」
「はい」
私は何もいえない。 この人は強い人だ。 私にもっと言いたいことがあるだろうに
「ふぅ もっとわしは怒り狂うと思っておったのじゃがのう おぬしと話していると怒りが湧き起こらんわい」
「申し訳ありません」
ただ謝罪の言葉のみが出る。
「あやまるでない こちらの都合でおぬしを連れ出してどうでもよい話をしたのじゃからな まぁもう会うことはないじゃろう 今回わしが外にいるのは一種の奇跡みたいなものじゃからな 今は魔力が安定しているが、いつまた暴走するとも限らん すぐに自分の家に帰るとしよう」
「これでお別れなのですね」
「うむ! まぁ縁があったら会おうではないか!」
「『『『アイスブレイク!!!』』』」
突如聞こえた咆哮 そして続く爆音
気づけば先ほどまでムゥさんがいた場所に砂埃が舞っている。
「いったいなにが!」
「いやはや、なんという豪運なのだろうか私は」
声のする方を見ればそこにはよく知る人物が
「・・・アーレンベルク伯爵 これはどういうことです?」
「サーティナ様、ごきげんよう 早速で申し訳ないのですが、私について来ていただけますかな? 事は一刻を争うのですよ」
伯爵の後ろを見れば兵が100名程だろうか?控えている。
「私の知り合いに手を出すとはどういうことですか!? ムゥさん! 大丈夫ですか!?」
「お知り合いだったのですか、まぁいまの私にはどうでも良いのですがね とりあえず来ていただきますよ?」
伯爵がこちらにむかって歩いてくる。
「『ライトニングスピア!!!』」
雷の槍が伯爵へ向かって飛来し、足元で爆発する。
砂塵が舞っていた所をみれば、そこには土に汚れたムゥさんがいた。
「ムゥさん!!!」
「まったくいきなりなんてことをするんかのう 焦ったわ」
「あれを食らって生きているとはすごいですね」
伯爵はさも感心したかのように拍手をする。
「まぁむかしはわしもやんちゃだったからのう 戦いには慣れておるわ」
そういって私の前まで来て伯爵に相対するムゥさん
「まさかムゥさんとやら、これだけの人数を相手に一人で戦う気なのですか? 私としては、そちらの王女様を盾に早々にこの包囲網を突破したいのですが?」
「ふむ まぁわし一人ならお前らが何人いようとさほど問題ではないのだがのう」
そういいながらこちらに振り向くムゥさん
「さすがに一人守りながら戦うのは、わし一人じゃ厳しいのう」
余裕の笑みを浮かべてはいるが、その額には汗がたれている。
どうしよう
私がせいでムゥさんが・・・
「じゃぁ俺が参戦してやろうか?」
突如響いた声
誰もが周囲を見渡す。
「上だよ上!!」
ドスンッ
空から人が降って来た。
ムゥさんも少し驚いている。
後姿をよく見る。
あれ? この人はまさか・・・
「レオナルド様?」
思いうかぶ唯一の人
「サーティナ 久しぶりだな それと白ちびもな」
よ!っと気軽な感じで挨拶をしてくるレオナルド様
「おぬしは・・・・だれだ?」
ムゥさんは本当にわからないのか頭をかしげている
「まぁわからねーなら良いんだけどよ? それより前 待ってくれてるみたいだからそろそろ相手してやろうぜ?」
そう言って前を向くレオナルドさん
「茶番は終わりましたかレオナルド君? まさか君にまた会えるとは思いませんでしたよ」
にこやかに笑う伯爵
「俺もおまえの顔をまた見るとは思わなかったぜ てっきりあんたのことだから逃げ切ってると思ってた」
「えぇ、私もそのつもりだったのですが、包囲網がとても優秀でして、現存する兵力では突破できそうになかったのですよ なので最後にあなたの首でも取って恨みを晴らしてから捕まろうと戻ってきた・・・というわけです。偶然サーティナ様と遭遇したのですがね?」
「なるほどな じゃぁいまの状況はあんたにとってはとてもおいしいんじゃないか? 俺もいるしサーティナもいる。 俺を殺して恨みを晴らして、サーティナを連れて王都脱出を図る。 完璧だな?」
「えぇ あなたが来てくれて助かりましたよ」
では
「さっそくですが時間がないので行動に移させてもらいますね?」
杖を前に振り指示を出す
「サーティナ王女以外殺せ」
後ろに控えていた兵が一斉にこちらに向かってくる
「しょうがないのう わしがやるしかあるまい」
そういって前に出るムゥさん
どうしよう
とめなくちゃ!!
そう思った私より先に動いた人がいた。
「お前があんな人数相手したらまた暴走しかねないだろうが!ったく」
レオナルド様はそういいながらムゥさんの首に後ろから手を回して動きを止めた。
「まぁここはおれがやってやっから見てろ」
首には手を回したまま右腕だけを前につきだす
「世界の始まりより出でし者 世界の終わりを導くもの 原初にして終焉に等しき者よ その力の片鱗を今ここに表せ」
レオナルド様が唱えている呪文を聞いて息が止まるかと思ってしまった。
これは
『フレイム・ワールド!!』
詠唱と共に出現する火の壁
その壁は目前の兵を全て包み込んでしまった。
圧倒的だった。
上を見てもどこまで続いているのかわからないほどまで立ち上っている。
これが・・・特級魔法
「あと5秒ぐらいかな」
っと突然レオナルド様が時間を数えだす。
5
4
3
2
1
次の瞬間 炎の壁が消えてしまった。
後をみれば、どこも燃えていない兵たちが全員倒れている。
その奥に、なにが起こったかわからないのだろう、呆然としている伯爵の姿があった。
「私の兵が・・・・全滅」
状況をようやく認識したのか、ぽつりとつぶやく
そして・・・
「君は本当に、私を困らせてくれるな」
ハハっと笑いながら歩き、倒れている兵の剣をとる伯爵
そして
「せめて、一太刀浴びせないとね」
駆けてくる伯爵
レオナルドさんはムゥさんを掴み後ろに投げてしまった。
そしてそのまま微動だにしない
「レオナルド様!!!」
伯爵はそのままレオナルド様の前まで駆け寄り
「覚悟」
剣を振り下ろす
その先の光景を予想してしまい、目を閉じてしまう。
パキン!!
金属音が鳴り響く、恐る恐る眼を開くと、そこには伯爵とレオナルド様の間に入る人影が
伯爵の手には既に剣はない
「バーツ様!!!」
よく知る人物の登場につい歓喜してしまう。
「兄上、死ぬ気だったのですか?」
しゃべりながらも伯爵のお腹に拳を叩き込み、気を失わせるバーツ様
「お前を待ってたんだよ」
「なるほど・・・・遅れました。」
「バーツ、見てわかる通りこのあたり一帯は死屍累々だ」
「はい」
「お前が一番にやらなきゃいかんことはわかるな?」
ニヤっとバーツ様に視線を向ける
「はい、まずは伯爵と兵たちを拘束して「違うだろ?」」
会話に割り込む
「お前がやらなきゃいけないのは王女様の保護だろ? また襲われたらどうする気だ? 最優先事項だろうが」
「・・・・わかりました」
こちらに来るバーツ様
「そういうことなのでサーティナ様、まずは私と来ていただけますか?」
「わかりました。 助けていただきありがとうございます バーツ様」
「俺はこのあたりの片づけをお前の隊に命じておくから、サーティナ様がお心をおちつけるまで近くにいるんだぜ?」
こちらを見ながら手を振るレオナルド様
ありがとうございます。
「さぁて白ちび? 話すのは今度として、片づけすっぞ?」
「おぬしもちいさいだろうが 馬鹿者が」
最後に聞こえたのはそんな会話だった。
次話で終了




