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ペオグラード王国にて  作者: 卵かけご飯
2章:蔓延る噂
PR
7/9

蔓延る噂

<1>

「あ、おねぇさま」

廊下を一人歩いていると後ろから声をかけられた。

振り向くとそこには可愛い妹が、

三女のサーティナだ。

何か用があるのだろう。小走りに近寄ってきた。

「どうしたのサーティナ? 何か用?」


「おねえさま もしお時間よろしければ一緒にお茶をしませんか?」

なんとも可愛い要求

もちろん了承する。

「えぇ構わないわよ? 場所はどこ? 庭でかしら?」


「いえ 今日は少し日が強いのでお部屋でお茶にしようと思います」


「そう わかったわ 少ししたらあなたの部屋に行けば良いのかしら?」


「はい お待ちしてます」

ふふ あの子がお茶をしたいだなんて、また何か相談事かしら?



<>



自室で少し身なりを整えてからサーティナの部屋へと向かう。

あまり時間をかけては妹を悲しませてしまう。

少し急ぎ足でサーティナの部屋の前まで行き、ノックをする。

「サーティナ?私です。 入ってもよろしいかしら?」


「はい、おねえさま どうぞ」


許可が下りてすぐに扉を開ける。


「ふふ サーティナ お茶に呼んでくれてあり・・・・・が」


「おねえさま?」

サーティナが心配そうな顔でこちらを見てる。

しまった。認めたくない現実に直面してしまったために思考が一瞬停止してしまったようだ。

部屋の中にサーティナ以外にもう一人いる。

その人物は既に席についており、サーティナが入れたであろう紅茶を楽しんでいる。

こちらが入ってきたことには気づいているはずなのだが、その視線はまるでこちらに興味がないのか紅茶に向けられたままだ。

長いズボンに袖が肘までしかない上着、女性というのがかろうじてわかる長さを残して切られた髪


「ん? 来てたのかカーティナ」


今気づいたとばかりにこちらに眼を向ける人物


アーティナ・ミロア・ペオグラード

 

ペオグラード王国第一王女、王位継承権暫定一位


「えぇお姉さま サーティナに先ほど誘われましてね? お姉さまもですか?」


「あぁ そうだよ? さっきサーティナに偶然会ってな? 茶ぁするっつうからお呼ばれしたわけさ」

視線をサーティナに向ける。


「はい たまには姉妹一緒にお茶したいなと思いまして」

かけらも悪意なく言うサーティナ

私は再びお姉さまに目をむける

「つーわけだから、仲良く茶ぁしよーぜ? 可愛い妹よ」

お姉さまはにやにやっとした視線を私に向けながら臆面もなく言う

私があなたを苦手に思ってることを知りながらよくもまぁ・・・・いいか


「そうね? せっかくサーティナが三姉妹揃ってのお茶会を開いてくれたんだものね? たっぷりとお話しましょ?」

あきらめて席に着く、可愛い妹が作ってくれた機会だ。無碍にするものでもないだろう。


「はい、ありがとうございますお姉さま 今、お茶をお入れしますね?」



<>



「それでサーティナ? 最近はどうなの? 上手く行っているのかしら?」

サーティナの入れてくれたお茶を飲みながら、小さな話題をいくつか消化した後、女性として最も関心の話題を振る。


「・・・・・・・・・・・・・」

突如黙るサーティナ


「バーツ君との関係の進展に関してよ? ごまかそうとしても駄目 この話が一番したかったのではないの?」

サーティナがわざわざ私たち二人を呼んでお茶会を開いたのだ。今回の話の本題はこれで間違いないだろう。


「そうだぜ? 可愛い妹よ わざわざお姉さまたちを呼んだんだ。 話さないで終わりってのは無しだぜ?」


「うぅ・・・・・・」

どうしたらいいのかという顔で延々と悩み続けるサーティナ

悩みの元が思い人のことだとわかっている身としては可愛くて仕方がない。

いつまでも見ていたいところだが、このままでは埒があかないので助け舟を出す。


「サーティナとしては、話したいのだけれど、どこから話せば良いのかわからない・・・・というところよね?」

そうよね?っとサーティナに尋ねれば、こくとちいさく頭を振る。


「じゃぁ私とお姉さまが交互に質問していくから、それに答える形で話してくれる?」


「お手柔らかにお願いしますおねぇさま」


「それじゃぁ質問1 あなたの視点から大まかに見て、最近関係が進展してる? 停滞してる? 後退してる?」

まず第一の質問、妹の悩みが上手く行ってる上での悩みなのか、上手く行ってないからこその悩みなのか、重要なところだ。


「そうですね、少し前まではほんの僅かですが進展していると言えたのですが、最近は停滞か、もしくは後退してると言えます。」


「というと?」

続きを促す。

するとすぐさま横槍が入る。


「はいすとっぷ。 質問は交互に一つずつというのがルールだろう? 続きを聞きたいのなら俺の後にしてくれ?」


「まぁ焦ることはないですわね」


「っしゃー俺の番だな さっきの話に関係あるけど、喧嘩とかしたの最近 まぁ喧嘩じゃなくても、言い合いとかさ」


「いえ、そういったことは別に」

それはよかったぁ~と安心する姉さま 

確かに、仲たがいしたのでなければ何とでもなりますしね


「じゃぁ次は私ね、仲が進展しているっていうのはどういう状態?」


「それはですね、特別なにかあったってわけではないのですが、バーツ様の任務終わりなどにたまにお話していたりしていたので、それを進展していたものとして話ました。」


「じゃぁあれかい? 最近はバーツ君と話せていないってことなのか?」


「はい、しばらくお会いできておりません」

悲しそうにつぶやくサーティナ でもそれは少しおかしい話だ。


「でもサーティナ? あなたいつもバーツ君の任務終了間際に、近くで待ち伏せしてるじゃない? どうしてそれで会うことができないの?」


「それが・・・・バーツ様が今どこに配属されているかわからなくて」

涙を堪えながら悲しそうにつぶやく妹

その横で何かを難しい顔で考える姉上、

「いつも通り仲の良い兵士に調べてもらったんだろう?」

「はい、でも誰に聞いてもわからないと言われて・・・ 20日以上前に一度お会いできた時に、勇気を振り絞って今どこに配属されているのか直接お聞きしたのですが、答えを濁されてしまい、それ以降お会いできてないのです。」

どういうことのなのだろう。

あの心優しい真面目な青年がいきなりそんな態度をとるなんて・・・


「私・・・なんども考えたんです。 でもなんど考えてもこれは、私・・・嫌われてしまった・・・のっぅです・・・よね?」

しゃべりながら自身の感情の波に耐え切れなかったのか、泣き出してしまったサーティナを見て考える。

するとよこからクククと笑い声が聞こえる。

アーティナ姉さまだった。


「姉さま? そのように笑うような話ではないはずですが?」

 

「いやなに、可愛い妹最大の悩み事の原因に心当たりがあってね」

そう言って泣いている妹に近付いていく。


「サーティナ?」


「はいおねぁさま」

サーティナは涙を拭いながら姉さまの目を見つめる。


「バーツ君はとある事情で今大変忙しい身の上なんだ だから少しの間会えないからといって彼を疑っちゃいけない、自分を疑っちゃいけないよ? 細かい事情に関しては離せないけど、お前が嫌われてないことはおねーちゃんが保証してやろう!」

サーティナを抱きしめながらやさしく語りかける姉さまを見ながら、一人さびしい部外者の気分を味わう。

なんなのだろうこの気持ち

ひどくさびしい


サーティナも、姉さまの有無を言わせぬ説得が効いたのだろう。少し落ち着いたようだ。


「さてサーティナ? お前の話はこのあたりで切り上げよう! 次はカーティなの話を聞こうな! 」

「は?」

予期せぬ姉さまの発言に耳を疑う

私の話?

いったいどういうこと?


「おいおいカーティナ、おまえまさかサーティナの話を聞くだけ聞いて自分の話はしないつもりか? そんなのはお天道様が許しても、お姉さまは許さないぜ? なぁサーティナ? 自分も話したんだからねーさんだって話すべきだと思うよな?」

問いかけられたサーティナはさっきまで本当に泣いていたのだろうか?とても元気な声で「はい」と返事をする。

しかしこちらとしては冗談じゃない。

こういう話は聞くのは楽しいが自分が話すなどたまったものではない。

今回は妹の相談として聞いたのであって私が話したくてこの話題にしたわけではないのだから


「カーティナ? お前ごちゃごちゃ頭の中で言い訳してるんだろうけどな? んなのはどうでもいいんだ。 とりあえず次はお前なんだよ なに、時間はたっぷりあるんだからな? ゆっくりお茶を楽しむとしようぜ?」


「その理論でいうならアーティナ姉さまも話すことになるんですよ?それでもいいんですの?」

案にこの流れは良くないと提案する。 姉とてこの手の話題を進んで話すタイプではないのだから乗ってくるはずだ。


「じゃぁ私が先に話したらお前も話すんだな? カーティナ」


「あらぁ?」

予想外の返事


「とは言っても私のほうはあんまり面白い話というかないんだけどな?」

勝手に話始める姉さま


「そもそも俺の場合、やつに会う機会なんてのはサーティナがバーツ君と会うのより遥かに少ないしなぁ 城に来ていると連絡が俺に来てから会いに行ってももういねえことばかりだし、会ってもたいして長く会話続かねえし まだサーティナのほうがよっぽど順調だとおもぜ?とりあえず最後にあったのは一月前だしなぁ 今月もすでに3回城に来たって連絡は届いたんだけど、行ってみれば煙のごとくだしな~」


「あのお方はお姉さまより自由奔放ですからね!」

と笑いながらサーティナが言う。


「そうなんだよなぁ」

はぁ・・・とため息をつく姉さま 姉さまにため息をつかせられるのはあの方ぐらいのものだろう。


「そういえば先ほどお見掛けしましたけど? お姉さま今日は会いに行かれたのですか?」

サーティナの部屋に来る前に遠くに見たことを思い出す。


「それまじか?・・・・でもまぁさっきの話か、 ならもう無理だと思うからやめとく」

心底無理だと思っているのだろう。

かけらも未練がなさそうだ。

「そうですか 言うのが遅くなってすみません。」


「いいよいいよ それよりそれより、俺の話はもう終わりだから最後と行こうじゃねえか!」

ニィっと笑いながら姉さまがこちらを指差す


「最後はお前の番だぜ?」

気づけばサーティナもニコニコしながらこちらをみている。


「ゎわたしのことは別に「楽しみだよな~サーティな! やっとこの前の話が聞けるんだぜ?」」


「はい! おねえさま!」

ん・・・・?

「この前のこと?」


「ん~? 忘れちゃったのかい? おめーの誕生祝いの席んときの話だよ? ありゃ傑作だったぜ~? クククっ 今思い出しても笑いがとまらねえなぁ? 一通り挨拶が終わったと思ったらおめぇ突然どっか行っちまうんだからなぁ~ しかも帰ってきたら隠す気がねえのかきっもち悪い顔して笑ってやがるし」


「き、気持ち悪い顔などしてませんわ!!!」

心外だ 私はあの時心を落ち着かせていたはずだ。 鏡を見たわけではないが顔に出ていたとも思えない。


「おまえさぁ? 目の前にいるのが誰かわかってるの? お前の姉と妹だぜ? お前の顔なんて飽きるほど見てきてんだよ その姉妹が断言するが、あんときのお前は正直気持ち悪いぐらいの笑顔だったぜ? まぁ俺ら以外に気づいたやつがいるかはわからねえけどな? なぁサーティナ? お前も見たよなこいつの満面の笑みをさ?」


「はい あの時のおねえさま とても幸せそうでした。 正直うらやましいです。」

まったく、これだから姉妹というのはこまる

理屈ではなく本能でものを理解するのだから。

「でだ、おめーがあんなに喜ぶなんてのは普通じゃありえねえ つまりだ・・・スワン君となんかあったんだろ? ん? お姉さまに話してみ? ついに結婚を申し込まれちまったか?」

結婚---という言葉に何を想像したのか、サーティナは突如顔を真っ赤にし、俯いてしまう。


「そんなわけないのはわかっているでしょう? 仮にそうだとしたら、申し込まれた瞬間、お姉さまのところに駆けつけて、目の前で勝者の笑みを浮かべてやりますわよ」


「ククク ちがいねぇ」

それか・・・申し込まれた瞬間、泣き崩れて意識を失ってしまうでしょうね


「でだ? 結局のところなにがあったんだ?」


「まだ引き伸ばすんですの?」


「あたりめえだろ いろいろ話してるみてえになってるが、結局のところお前は何一つ話してねえんだからな?」


「はぁ~ じゃぁもう全部話しますわよ 逃げられそうにありませんし」

そういってこの前の祝いの席のことを思い出す。

・・・駄目だ、未だ顔を赤くしたまま俯いている妹同様に、私もなんだかはずかしくなってきた。

言われたときは平気だったのに、思い返せば相当気恥ずかしい場面である。

顔をあげればにやついている嫌な姉の姿。

窓に目を向けると日の光がこれでもかと降り注いでいる。

まだまだ終われそうにはないようだ。



<2>



王下12貴族議会

王とそれを取り巻く強大な力を持つ12の貴族で行われる、王国の未来を決定する議会

政治・経済・軍事とあらゆる事柄に関して議題にされる。


「陛下、最後にお聞きしたいことが一つ」

ホーエンツォルン家当主の一言に他の貴族皆が注目した。

先ほどまで話し合われていた近隣地域の灌漑に関する議題で今日は終わりのはずだからだ。いまさら話を蒸し返すわけではあるまい。


「なんでしょう?」


「陛下は近頃、城下で最もささやかれている噂についてご存知ですか?」

12貴族のほぼ全ての視線がホーエンツォルン当主につきささる。


「どのような噂です?」


「陛下が跡取りを決めようとしている。 という噂でございます。」

放り込まれた爆弾に皆が驚きつつ、今度は視線を国王に向ける。

たかだか噂を12貴族議会にもちこむなど何を考えているのだと多くの者が思いながらも、国王の返事には注目してしまう。


「あくまで民の噂に過ぎませんが、火のないところに煙は立たぬとも申します。 どの様な経緯でそのような話が広まったのかはわかりませぬが、民草を安心させるためにも、どうせなら陛下に直接お聞きしてしまおうと思いまして。 すべては民の心の平穏のためにと思いまして」

しらじらしいことこの上ないと皆が思いながらも、逃げ口上としては上出来だ。


「そのような噂が城下に広まっているのですか・・・」

困りましたねぇ と笑いながら頬を掻く国王を見て、各当主たちも一息ついた。


「まったくばかばかしい 民草の噂話を鵜呑みにするとはホーエンツォルンの名が泣くぞ?」ガタっという音を立てながら立ち上がる。


「これはバルベリーヌ伯爵 返す言葉もございませぬ。」

形だけの謝罪ではあるが、誰も咎めはしない。

結局のところ誰しもが気になってはいた事柄なのだから。


では、今日はこれまでということでよろしいか? 

バルベリーニ伯がまとめようとしたところで、未だにしゃべり続ける人間がいた一人だけいた。





「本当に困りました。 まだ誰にも言ってないはずなのですがねぇ どうして城下の民が知っているのでしょうか?」



<3>



「入るぞ? ムゥ」

中にいる住人に許可を取って扉を開ける。

魔女封印牢最奥の部屋の住人はベットの上で寝転がっていた。


「おぉ! 来たか! 新人!」

待ってましたとばかりに飛び上がり駆けてくる少女

特A級魔女:ムゥ

初めて対面したときは緊張もしたものだが、あれからちょくちょく訪ねることによって、互いに交友を深めている。

「いつになったら新人って呼ばれなくなるんだ?」

かれこれ何度目になるのか 同じ質問をする。


「新人はいつまでたっても新人だな 後5年もしたら青二才と呼んでやっても良いぞ?」


「それは呼び名として良くなっているのか?」

悪化しているような気がするのは気のせいか?


「まぁ細かいことは追々でよいではないか! 今日も少しは時間があるのだろう?」


「あぁ」

うむうむと頷きながら手招きならぬ首招きとでも言うのであろうか?ベットの横へと呼ばれる。

改めてムゥをみてみる。頭、腕、体、足、どこを見ても骨が浮き出て見える。

腰まで伸びた白い髪の毛が、唯一の女性らしさといえるかもしれない。


「とりあえず、その持ってる紅茶を飲ませてくれ! のどが渇いた」

こちらを向き口をあけてねだって来るムゥ

話かたと態度を見ていると、大人なのか子供なのか良くわからない。

言われたとおりに飲ませる。

これももう何度目か、初めは少し抵抗があったが、今となってはなんとも思わなくなっている。

「お前、普段の食事とかはどうしてるんだ?」


「ん? わしの管理は基本的にはセアンが担当しておるよ?」


「セアンさんか」


「それがどうしたのじゃ?」


「おまえさ 今更だが、ここから出られないんだよな?」


「ふむ、出られる出られないの物理的な話をするなら出られるぞ? そもそもこの屋敷は入り口以外の場所は鍵がついておらんからな」


「じゃぁなぜ外に出ないんだ? いくら腕が使えないとはいっても、歩き回るぐらいならできるんだろう?」

こんな何もない部屋に一人閉じこもっているなどおかしい話だ。他の魔女たちはそれぞれの部屋を行き来するなど、それなりに自由な生活をしている。


「そうじゃのう では聞くが新人、お前の屋敷に龍が住んでいたらどう思う?」


「龍?」

「そう、龍じゃ おそらくは生物としての頂点とされる生き物じゃ 強く気高く尊い存在じゃ 横にいたら怖いじゃろ? 似たような話でな? いくら安全といわれようが、わしのような存在が隣を歩いていたら怖いに決まっておる。 みてみい? 上半身鎖でぐるぐる巻きじゃぞ?」

立ち上がり、目の前でくるっと一回転してみせるムゥ


「いくらこの鎖が強力とはいえ、そんなものは他の者には関係ない、もしかしたら暴走するかも知れない 可能性だけで、人は恐怖する。 ここは魔女が暴走しないための施設なのだから、暴走の原因になりそうなわしが歩き回ってはだめじゃろう」


「おまえさ、どのくらいここにいるの?」


「さぁの ここは地下だからのう 日の光が入ってくるでもなし、正直お前に教えてもらいたいくらいじゃ まぁ10年ほどじゃぁないかのう?」


「・・・10年だと? お前、それだけの期間、この部屋に閉じこもっていたのか?」


「うむ、おそらくそれぐらいだと思うぞ? まぁでも最初はわしも屋敷中を歩き回っておったがのう」


「なぜ昔は歩き回れたんだ?」


「なぜといわれても、わししかおらんかったからのう 一人なんじゃから気ままに屋敷で過ごせたのよ」


「お前が最初にこの施設に入ったのか?」


「そういうことになるのう。 むしろなんというか、わしが原因でこの施設が作られたようなものじゃろうしな」


「どういうことだ?」


「なぁに、昔わしが魔力制御が出来ずに暴走状態になっていたとき、突然変なガキが現れての? よくわからん魔法の数々でわしのことをぶっ飛ばして、この鎖を巻きつけたのよ その後、数ヶ月どっかの屋敷の部屋に閉じ込められたかと思ったら急にここへ連れてこられたんじゃ 入ってみりゃわしいがい人っ子一人おらん わしのために作られた施設と思ってもおかしくはないだろうのぅ?」


「『魔人殺し』をお前につけたその変なガキっていうのは?」


「わからん それ以来会っておらんしな 覚えてることといえば、鎖をつけられるとき「クーガリオンのおさがりだけど、我慢しろ」って言われたことぐらいじゃな それ以外は会話すらしておらん 話を戻すが、わしがここに入れられてからどれくらいたってからじゃろうか? 数ヶ月ほどしてから二人目の魔女が入ってきたのじゃよ それがセアンじゃ」


「セアンさんもやはり魔女なのか」


「元・・・じゃがな 今じゃ完全に魔力制御を身に付けておるから、出ようと思えば外に出られるらしいぞ?」


「なぜ出ないんだ?」

疑問をぶつけるとあきれた顔でこちらを見るムゥ

何かおかしなことを言っただろうか?

「セアンがいなくなったら、誰がわしのめんどうを見るのじゃ?」

あきれた


「お前のためにセアンさんは残ってるのか?」

まさか・・・という顔をするとムゥはクククと笑いながらこちらを見る


「そんなわけがなかろうに・・・いや、細かなことを言うならそうなのであろうが、つまるところセアンは他の魔女が心配だそうでな?世話係ということで残っておるそうじゃ まぁこれはガモンからの又聞きだから真実のところはわからんが、おそらくそうなのじゃろ」


「なるどほ、そういうことか・・・あらためて聞くが、お前ずっとここにいるつもりなのか?」


「それを決めるのはわしじゃないと思うのだがのぅ。 だが、仮に出ても良いといわれても、わしは外にはでないとおもうがのぅ」


「一生ここで生活したいわけでもないんだろう?」

そんなやつがいあるはずがない


「とは言ってものぅ。 まさかこんな鎖をぶら下げて外で暮らすわけにもいくまいに、だからと言ってこの鎖無しでは、またいつ暴走するともわからんのだから、どうしようもない」

まったくもってその通りだ。

偉そうに言っておきながら、自分には建設的な考えが何一つないことに歯痒さを感じる。


「まぁなんというか こんなわしのことを心配してくれてありがたく思うぞ?」


「別に心配などしていない」

そう、心配などしていない。 純粋な疑問を、人間としておかしいはずのこいつへぶつけているだけだ。

・・・心配などしていない


「ククク そうかそうか、そりゃすまんな まぁわしからお前に頼みがあるとすれば、今後ともこうして会いに来てくれると助かる。 なにせさっきも言ったとおり、わしは暇でな? 最近のもっぱらの楽しみは新人とのこうした掛け合いなのじゃよ だからわしの事を少しでも想ってくれるなら、長い付き合いを頼むぞ」


「仕事だからな そこそこの付き合いにはなるんじゃないか」


「そうか、よろしくなのむよ それじゃぁまた外の話を聞かせてくれ 唯一の楽しみだからのぅ!」

まったく、気遣われる立場の癖して、逆にこっちを気遣うなんて、どういう思考をしてるんだか、まったくもって普通じゃない。

普通じゃないからこそ、どうにかしてやりたいと思ってしまう。


「そうだな じゃぁ今日は、お前と同じ、魔女について話そう」


「魔女のぅ? 捕り物の話か? そういうのは過去の自分について語られるようで好かんのだが」




「いや、私の幼馴染の話だ お前の一つ下のA級魔女」

懐かしい思い出を語ることにする。



<4>



「ほしいものがある?」


「はい」


普段なにかをお願いしてくるということがないルナが、珍しく買い物に行きたいというので連れて行くことになった。

向かったのは城下の商業区

だいたいのものはここで揃うのだ。

商業区に近付くにつれ人通りが多くなり、道端に露天商が目立つようになる。

到着すると連日のように多くの人で賑わっていた。

はぐれないようにルナの手を握る。

「おにいさま?」


「迷子になったら大変だからな」

ぎゅっと握り返してくるルナ


「ブローチだっけか? ほしい物は」


「はい」


「じゃいくか」

手を引っ張りながら目的の物が売っている店に行く。

宝飾細工を扱う店はいくつか心当たりがある。

店に到着してルナと分かれる

「じゃぁルナ 30分ぐらいしたら戻ってくるから、それまで店の中にいろよ?」


「わかりました!」

まぁこのランクの店の中なら一人でも平気だろう。

俺はブローチなんぞに興味はないから一緒に見るだなんて苦行は耐えられない。

「それより金は十分あるのか? なんだったらやろうか?」


「はい! 大丈夫です! 今日までずっと貯めていたので!」

軍事金は潤沢ですと言い店の中に入っていくルナ

まぁ大丈夫ならいいか、俺は近場の露天でもみて時間をつぶそう



<>



ルナとの約束どおり、30分ほど散策してから店に戻る。

ただの冷やかしのつもりだったのだが、いろんな店を見ていたら意外と面白いものが売っており、ついつい2つほどおもちゃを買ってしまった。

我ながら子供だなと思う。

扉を開け、店の中に入ると待ってましたとばかりにルナが駆け寄ってくる。


「ほしいものは買えたか?」


「はい!」

さぞ納得の物が買えたのだろう。満面の笑みが浮かんでいる。


「せっかくだから、この後いろんな店に寄ってから帰らないか?」


「私は大丈夫ですが、いいんですかお兄様?」


「というより俺が寄っていきたいんだ。 お前の買い物中に周辺をちょっと散策していたら、意外と面白くてな? 普段明確な目的を持って来る事はあっても、暇つぶしに来たことはなかったから、ちょっと今斬新な気分なんだ。」


「お兄様が良いのでしたら構いません! 次は私がお兄様のお買い物に付き合う晩ですね!?」


二人して宝飾店をでる。

目的地が決まってるわけではないのでなんとなく店を出て左の道へ

様々な店、露天の横を通りながら散策を楽しむ、特にもう何も買う気がないのでただ見て回るだけだ。



<>


「そろそろ帰るか・・・」

「そうですね」

ゆっくりと商業区を回り、日も少し傾き始めてきた。

腹も空いてきた気がする。


商業区から高等居住区に帰るには間に挟まれた一般居住区を通る必要がある。

もちろん行きもこれと同じルートを逆に通ってきた。

一般居住区を抜け、高等居住区に着く。

そういえば未だに手をつないでいた。


「ルナ? ここまで来たらもう平気だ」

そう言い繋がった手に視線を向ける。

「せっかくここまで来たのですし、このまま帰っちゃだめですか?」

相変わらず甘えん坊だなと思う。


「まぁいいか・・・」

そのまま二人、屋敷に向かい歩く

ふと後ろに気配を感じた。

何気なく後ろを確認する。

眼に映る不可思議な光景に一瞬動きが遅れてしまった。

フードを被った人間がこちらに向け剣を振りかぶっているところだった。

(木剣?)

なぜか冷静に相手の得物を見てしまう。

ようやく自身の置かれた状況を理解する。

襲われている

頭がそのことを認識した瞬間

次の動きは迅速なものだった。

(右にはルナ 剣は振り下ろす寸前で避けられない)

なら・・・

繋いでいる右手を強く引き、何も状況をわかっていないだろう、妹を胸に抱き寄せる。

そして左腕を生贄にして・・・

大きな負傷を防ぐ!

木剣が頭を守る形で前に出した左腕にあたる。

ボキっでもゴキっでもなく、当たった瞬間「ッゴ」という鈍すぎる音がした。

激痛が生じる。

(・・・まじかよ)

これは折れたな・・・と冷静な分析をする。

そしてすぐさま、折れた左腕を痛みを無視して前に突き出す。

「『フレイムソード!』」

再び剣を振りかぶる相手に向かい自身最速の炎剣を繰り出す。

折れた腕で魔法を放ってくると思わなかったのか、謎のフードは当たる直前に後ろへ跳び退る。

「ぉおにいさま?」

胸に抱いたルナが不安そうな声をあげる。


「ルナ? 俺の腰に抱きついて目を閉じていろ 声を出すなよ? 理解したら返事をしろ」

ちいさな声でわかりました。という声が聞こえると同時に腰に強い締め付けを感じる。

正直動き辛いが、周りの状況がわからない以上、動き回られても困る。


「さて、またせたな?」

剣を構えたままこちらの様子を窺う襲撃者に語りかける。


「・・・・・・・」


「高等居住区に入れてるってことはある程度金持ちなんだろうな 物盗りじゃねえだろ?」


「・・・・・・・」


「木刀を使ってる理由は? 二人組みを狙った理由は?」


「・・・・・」


「無言じゃわからねえよ」


「・・・」

剣を構えなおす謎のフード


「答える気がなさそうだから最後の質問だ」

折れた左腕と空いた右腕を構えながら問う

「おまえ『いったい誰に雇われた?』」


「!?」

問いかけと同時に駆ける謎のフード


「『ファイヤーランス』」

向かって来るフードにむけ、話ながら牽制の魔法を放つ、


「まぁ俺は自分が聖人君子だとは言わないが『ファイヤーランス』」


「っく!!」


「基本的に家から出ないから、人に恨まれる記憶はねぇんだよな『ファイヤーランス』」

こちらに向かってくるたびに無数のファイヤーランスを打ち込む

近づけさせたりはしない


「・・・」


「それこそ俺の妹は俺以上に人に恨まれる理由がない」

だから


「おまえ『いったい』」

ワンランク上の魔法を詠唱しながら再び問う


「『誰に』」

突き出している手に膨大な魔力が集まる


「『雇われた?』」

問いかけと同時に発動する魔法

「『フレイムランス』」

ファイヤーランスよりはるかに巨大な炎の槍が相手に向かう

先ほどまでと同様に、走り回りながらかわす謎のフード

しかしこの魔法は

「追跡する」


「!?」

ドカァァァァァァァァン

・・・爆発音とともに、砂塵が上がる。

周囲に注意を払いながら煙が晴れるのを待つ

視界がクリアになるとともに土の山が出現する。

どうやら防がれたようだ

先ほどの人影はない

あぁ

「逃げたのか」

念のためもう一度周囲を確認し、ルナの頭を撫でる。

「ルナ もう目あけていいよ」

ルナがおそるおそる目をあけ、周囲を確認する。


「おにいさま? な、なにがあったんですか?」

大量の土が積まれた箇所を見ながら尋ねてくる。

「まぁ説明してもいいんだが・・・」

前方を見る

こちらに向かってくる人影が三つ

格好からして巡回中の兵士のようだ。

爆発音に気づいたのだろう

「また後でな・・・」

右手で妹の頭を撫でながら折れた左腕を見る。

無理して動かしたせいか腫れがひどい


「・・・痛い」

誰に言うでもなくつぶやいた。



<5>



プリシュティナ家長女、ルナ・プリシュティナには三人の兄がいる。


バーツ・プリシュティナ

プリシュティナ家三男にして、軍人への道を突き進む兄

筋骨隆々・・・というわけではないが、兄弟で一番体が大きい。

昔、バーツお兄様は父様とともに私設軍を率いて討伐遠征などを繰り返していた。

魔獣や盗賊など、多くの敵を相手にしたらしい。

今では遠征に行くこともほとんどなくなり、城勤めをしている。

強靭な体と卓越したセンスによって繰り出される魔法剣は、城勤めの正騎士であっても相手になる人がほとんどいないとのことだ。

バーツお兄様は他の二人のお兄様に比べてちょっとだけ怖いなと思うときがある。

威厳ある人間としての態度とのことだ。

しかし家でお兄様と話すとき、ときどき口調が崩れるときがある。やっぱり無理をしているのだろう。


スワン・プリシュティナ

プリシュティナ家次男にして政治の道へ進む兄

日々お父様の補佐をしながら、学院に通っている。

魔法に精通しており、その力は王国の第二魔法隊の隊長に匹敵すると謳われている。

さらにバーツお兄様ほどではないにしろ体を鍛えており、実戦も多数経験している。

普段家ではのほほんとした態度で生活しているため、兄のすごい話を聞くたびに本当だろうか?と疑わざるを得ない

お父様に、本当にそんなに優秀ならなんでお兄様は学院に通っているのでしょう?と質問したときに返ってきた答えは

《世の中にはたくさんの人間がいる。たとえば10000人の人間を集めたら、1人が天才と呼ばれ、99人が秀才と呼ばれ、9900人が凡人、もしくは馬鹿に分類される。》


《世の中には優秀なやつがとても少ない。馬鹿ばっかりだ。そして・・・》


《馬鹿を制するやつが世の中を制するんだ。》


お父様は、私にそう教えてくれた。 


《馬鹿っていうのは理屈じゃなかなか納得しないし、動かない。》


《でも、そんな馬鹿を唯一簡単に動かす方法がある。それが・・・》

肩書きさ


お父様はそう言った。


《本来ならあいつは学院に通う必要なんてない 国の最高学府を歴代最高の成績で卒業した・・・という肩書きを作るためだけに通わせてる。》

王国最高学府を歴代最高の成績で卒業する。

それができるということをかけらも疑われていない。

あのお父様が信頼しているというより、当然のことのように語っていた。

ゆえにスワンお兄様は本当に優秀なのだろう。

このまえ庭を散歩しているときに、土に足を取られて頭から花壇に突っ込んだ兄を見た身としては、少し違和感があるが


レオナルド・プリシュティナ

プリシュティナ家長男にして・・・なんだろう?

そう思いながら目の前で眠っている兄を見る。

兄は一週間前、突然何者かに襲われた。

それ以降、兄はほとんどの時間、自室のベットの上で眠っている。

もちろん頭に怪我を負ったなどの外的要因によってではなく、兄曰く、動くと左腕が痛いから動きたくない・・・とのことだ。

よく眠れるものだと思ったが、そもそも兄は怪我をしていないときでも自室の椅子の上で眠っているのを思いだし、納得した。ただ単に怪我を理由にし、椅子ではなくどうどうとベットで眠っているだけのことなのだろう。

兄が起きるのは見舞いの人が来たときのみ

公爵家の長男だけあって、連日多くの人がお見舞いに来る。

兄が「しらないやつから見舞いの言葉を贈られるのはなかなかに新鮮な気分だ」と言っていた。



あの日、目を開けてすぐ、兄の左腕があらぬ方向に折れていることに気づいた私は絶叫した。

幸い、近くにいた兵士が私たちを保護・回収し、事なきを得た。

兄の証言を受け、すぐさま犯人の捜索が行われたが、未だに犯人は捕まっていない。

今も捜索は行われているらしいが、発見は絶望的らしい。

もっとも、兄にそれを伝えると心底どうでもよさそうだったが・・・

兄の顔を改めてみる。


コンコン


扉をノックする音がした。


「お嬢様、失礼します。」

扉が開かれる。

入ってきたのは執事のガーク


「ガークさん? どうしたんですか?」


「お客様が」

ガークの後ろからさらに人が入ってくる。

それは良く知る人物だった。


「ベルナンディーさん」

兄の友人の一人、ベルナンディー伯爵だった。


「やぁルナ嬢 レオナルドくんの容態はどうだい?」


「ふふ、お兄様は相変わらず眠っていますよ? 起こしましょうか?」


「いや、そのままでいいよ 様子を見に来ただけだからね」


「そうなのですか」


「まぁ心配する必要もなかったようだけどね」

そう言って兄を見る伯爵


「しかし幸いというか災難というか、よくもまぁこんな時に怪我をしたものだね」


「どういうことですか?」


「いやなに、すぐにルナ嬢も知ることになるだろうが、陛下が跡継ぎを決めるらしくてね、その候補としてレオナルドくんとスワンくんがあげられているんだよ、まぁ正確に言うなら他にも候補は挙げられているのだが、最有力候補は君の兄二人なのだよ もっとも、長い話し合いの結果、スワン君に決まりそうだけどね」


「お兄様が・・・国王に?」

兄の顔を浮かべる たしかにあの方ならありえると思う。


「まぁ急なことだと私も思うのだけどね? こればかりは陛下の深いお考えによるものだから、なんともいえないよ」

やれやれだよと両手をあげる伯爵

どうやら相当振り回されているようだ。


「とは言ってもこの決定は私にとってもいささか意外だったけど、たしかにスワンくんからすれば彼はいささか能力が劣るけど、序列で言うなら長男たる彼が候補筆頭のはずなんだけど」兄を見ながら笑うベルナンディー伯


「まぁ彼は大きな地位とか興味ない人間だろうから、弟が自分より上に立っても気にしないだろうしね? むしろ寝ていたら全ての面倒ごとがいつの間にか終わって喜ぶんじゃないかな? 起きていたら面倒ごとに巻き込まれるだろうし」


「面倒ごとですか?」


「あぁ、まぁそれは心配する必要はなさそうだけどね それにしても・・・」

と部屋の周りを見る。

部屋には見舞いに来た貴族たちから贈られた見舞いの品で溢れている。


「たいしたものだね 腐りきってても公爵家の長男 怪我をすればこの程度当たり前か」


「腐りきってる・・・」


「はは、まぁ忘れてくれ かなりたくさんの見舞いが来てるようだね?」


「お兄様も、顔も見たこと無い貴族が連日来るから逆に面白いとおっしゃっておりましたわ」


「はは、たしかに交友関係の広くない彼からすればそうなるのかな」


「まぁお兄様は、お見舞いに来てくださった方とお話しするとき以外、ほとんど起きていらっしゃらないので、私としては誰であろうと兄を訪ねてきてくれる方の存在はうれしいですわ」


「なるほどね それじゃ私は顔も見たことだし そろそろ帰るかな」


「はい、わざわざ来ていただいてありがとうございました。」

伯爵を見送る。

本当にただ様子を見に来ただけのようだ。

兄の部屋に戻る。

すると兄が目を開きこちらを見た。

「あの色欲バカは帰ったか?」


「起きていたんですか?お兄様」


「途中からな 相手するのめんどくせーから寝たふりしてた。」


「ベルナンディーさんも心配していたんですし、一言ぐらい挨拶すればよろしかったのに」


「完全に治ったらな」

そう言って視線を外に向けるお兄様






「はぁ・・・なかなかめんどくさいな」


兄はそのままずっと外を見続けていた。



<6>



スワン・プリシュティナが通う学院には多くの貴族子弟が在籍している。

貴族以外にも、優秀だと評価された者すべてに門戸が開かれている。

そんな多種多様な人材が多く(ひしめ)く学院の中に、スワン・プリシュティナが親友と呼べる人間は多くない

グラン・エヴル

そんなスワンが親友と呼べる数少ない人間だ。

そんな彼は今、学院の講義室に向かっていた。

廊下を歩きながら最近学院に来ない友人のことを考える。

(なにを考えてるんだか)

学院の評価基準は単純明快だ。

試験による完全実力主義

講義に出ているとか、態度がどうとかそういうことを一切考慮しない。

優秀であればそれでいい

(だとは言ってもだな~ 急に来なくなることもないだろうに)

まぁでもあの友人のことだ。

どうせ次の試験でも圧倒的な実力で主席を取るだろう。

講義室に入り、席に座り教諭が来るまで静かに目を閉じて待つ。

周りの生徒たちの話し声が聞こえる。


「なぁ! あの話聞いたか!? 陛下が次の国王を選ぶって話」


「あぁ 候補にはロレーヌ家やオルレアン家の長男があがってるらしいな」


「まぁ最有力候補はプリシュティナ家って話だけどな」


友人の家の名前が出てきたため体がピクっと反応してしまった。


「やっぱりそうなのか まぁ12貴族筆頭の公爵家だしなぁ 順当なのか?」


「他の二つの家もかなりの名門貴族だけど、やっぱりプリシュティナ家は飛びぬけてるからな~」


「それで? あそこは兄弟が複数いたはずだが、誰の名前があがってるんだ? やっぱり順当に考えれば長男か?」


「いや、噂では次男のスワン・プリシュティナが有力らしいぜ?」


「スワン・プリシュティナ・・・あの完璧超人と謳われるやつか」


「たしかに、スワンの名は轟いているが、兄の名は聞かないからな」


「魔法剣の使い手パーツ・プリシュティナの名は少し聞くけどな」


「なるほどな・・・無名の長男か」


「たしかにそれじゃぁ次男が有力視されるわけだ」


「いや、それでもかなり揉めたらしいぞ? プリシュティナ家から取るなら長男を選ぶのが筋だってな」


「たしかにそうだな 弟より下の兄なんてのは普通に考えればおかしいからな」


「つぅわけだから、まだ誰になるかは決まってないらしい」


「なるほどな~」


「それにしてもお前よくそんな知ってるな?」


「別に俺だけじゃないぜ? 誰でも知っているとは言わないが、そこそこ知れ渡ってるはずだ 噂ってのは誰にも止められないものだからな」


「なるほどな それで全部?」


「いや、実はもっと面白い話を最近仕入れた!」


「どんなだ?」


「さっきスワンが有力候補だってのは言ったよな?」


「ああ、それがどうした?」


「少し前に、プリシュティナ家の長男が襲撃されたらしい」


「どういうことだ?」


「わかんねぇか? 有力だとされているのはスワンだ。 しかし長男の方もそこそこ押されている。 仮にだ、有力候補をただ襲撃するってんだったら普通狙われるのは次男のスワン・プリシュティナだ。」


「つまり長男が狙われたって事は・・・」


「そういうことだ。 そんなことして意味があるのは一人しかいない」


「自身が選ばれることを確実にしたいやつ・・・・」


ガタっ


席をたつ、勢いよく立ってしまったため、椅子を倒してしまった。

さきほどまで話をしていた男たちがこちらをみている。

背中に突き刺さる視線を無視し、椅子を直して講義室を後にする。

講義など聴いている場合ではない。

廊下を歩きながら最近顔を見せない友人のことを再び考える。

クッソ!!

まさかと思ってしまう自分に腹が立つ

(あいつ、なんで最近学院にこないんだ・・・・来る必要がなくなったからか?)


無音の廊下に靴音が鳴り響いた。



2時より次話投下

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