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ペオグラード王国にて  作者: 卵かけご飯
1章:三人兄弟の日常
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レオナルドの物語

名門の子息に生まれるなんてのは気が重いことだ。

産んでくれなんて頼んだわけでもないのに、勝手に義務や責任なんてものを押し付けられる。

もっとも、貴族によってはそんなことなく、気楽に生きてるやつもいるようだが、おれ自身はそんなすばらしい境遇にいるわけでもなく、普通に名門で、普通に大変な責任を負っている。

とはいっても、最近は優秀な弟たちがさらに優秀になってくれているおかげで、その責任とやらもだんだんと俺の肩から弟達の肩へのしかかってくれてるようなので、良い方向に向かっているとはいえるだろう。


「お兄様~? どこにいるの~?」

(ルナか・・・・・・)


三男のバーツが産まれたとき、(ああ、俺にはとうとう妹はできないのか)とひどく落胆したものだ。もちろん弟のバーツの誕生はうれしかったが、長男としては男三兄弟よりも、一人ぐらい妹がほしいと思っていたのだ。

もちろんまだ父に子供を作る気があるのなら、可能性は残されていたが、周りの貴族を見るに三人以上子供がいる家系はあまり多くなく、現実としてバーツで最後だと思っていた。

そんなふうに思った二年後、生まれたのがルナだ。まさに驚天動地、産まれたのが女の子だとわかった瞬間、屋敷の野郎共が一斉に集ったのをよく覚えている。

まぁもっとも、自分もその野郎共の一人なのだからあまりとやかく言えないのだが。

 そんなこんなで産まれたルナだが、俺同様、秀でた才能を持っていない。

如何せん体が弱い・・・ということで俺同様に屋敷を出ることがあまりない。

もちろん公爵家の人間として最低限の勉強をしているようだが微々たる物だ。

普通の貴族令嬢ならばいづれ誰かしらに嫁ぐ身としてそれなりにハードな教育を受ける必要があるのだが、公爵家の令嬢であり、超優秀な兄二人がいるという恵まれた環境のためその必要もなく、安穏とした日々を送っている。

 

 「あ!」

どうやらこちらに気づいたようで近付いてくる妹。服装や歩き方からいつ見ても綿のような妹だなと思う。歩くたびにふわっふわという擬音さえ聞こえてきそうだ。

白いワンピースをゆらしながら歩く姿はとても楽しげだ。


「お兄様! ここにいたんですね!」

満面の笑みで話しかけてくるルナ。そのまま俺の横に座り、一緒に庭を眺める。

金色の髪の毛に日の光が反射して少し眩しい。

相変わらず、可愛い顔した妹の頭を撫でる。くすぐったそうな表情を浮かべるのでなおも撫で続ける。まったくもってこれをしているときは兄というのはすばらしい立場だと再確認できる。

ひとしきり撫でてからそういえば何か用があったんだっけか?と思いだし尋ねる。


「何か用か?ルナ まだ勉強の時間には早くないか?」

どのくらい前のことだったか、父の命令で妹の勉強をみるようにといわれた。

ただ飯ぐらいの身として当然逆らえず、「まじかよ」とは思いつつ、日に少しだけ勉強を教えることになっている。

教える内容に関してはとくに決まっていないのが面白いところで、一般教養に関しては別の家庭教師に教えさせるから、それ以外ならどのような分野でもいいから教えろという指示だ。

なので適当に魔法に関して教えていたりする。


「特に用はないのです! 暇だったので来ちゃいました!」

邪魔でしたか?と屈託のない笑顔で首をかしげるルナ かけらも邪魔だとは思ってないのだろう。

もちろんまったく邪魔ではない。

座ってどうでもいいことを考えていただけなのだから。

仮に何かをやっていたとしても、よほどのことでない限り、妹を優先してしまうだろう。


「そうか じゃぁ一緒にのんびり庭の花でも見るか?」


「はい!」


暇だから来たと言いつつ、何もしないでいることを笑顔で了承する妹に、やっぱり可愛い妹になつかれるっていうのは悪くないなと思う

仲良く肩を寄せ合って座りながら妹と庭を眺める。毎日見ている庭なので、特に面白みもない。程よく手入れされた花壇、それに合うように置かれた像、どこの家の庭でもだいたいこんな感じで保たれているであろう。

それでもルナは楽しそうにニコニコしながら庭を見ている。

向けられている視線に気づいたのかルナがこちらを向く

「どうしたんです?お兄様」

私の顔になにか付いてます?と言いながらニコっと微笑んでくる。

ルナはこの質問をよくしてくる。ルナが近くにいるときつい見てしまう俺のせいではあるのだが。

「なんもついてないよ いつも通りの可愛い顔があるだけだな」

「ぇ・・・・・・・・・・・・・・」

答えが予想外だったのか顔を真っ赤にしながら俯く妹を見つつ、次からはこの返答もレパートリーに追加だなっとほくそ笑む。

普段、返答には鼻が付いてる、目が付いてるなんてありきたりな答えをよくしているが、ルナはなんと返しても「ふふふ」と楽しげに笑うだけだったので、貴重な反応だ。

少し自分らしくない発言ではあるが、純真な妹には効果覿面のようなので、これからは積極的に使っていくことにしよう。

横を見れば、ルナはいまだに顔を赤くしたまま俯いている。

せっかくなのでもう少しからかってやろう

こっそり脇に手を入れ、持ち上げてから自分の足の間に妹を座らせる。持ち上げてる途中、ルナは自分の身になにが起こったのかわからなかったらしく「ゎわ!」っと変な声を出しながらあたふたしていた。

少しして、ようやく自分の身になにが起こったのかルナは理解したらしく、こちらを振り返りながら少し怒ったような顔をして抗議の意を示してきた。

もっとも、ほっぺたを軽く膨らませるだけの抗議活動は、効果をまったく発揮しないのだが。

ルナもそれに気づいたようであきらめの表情を浮かべ、脱力し、体をこちらヘ預けてきた。

そして一言

「疲れました」

そういうとルナは目を閉じる。寝る体勢に入ったようだ。

まぁいいか これから特にすることもないし

そういえば、こうして妹を足の間に座らせたのはいつ以来だろう?

意外と久しぶりな気がする。そう思って改めて妹を見てみると、記憶にある姿よりだいぶ大きくなっているように思える。

懐かしい・・・そう感じた。昔はよくこうして足の間に座らせたものだなっと思うと感慨深いものがある。

少しするとルナの寝息が聞こえてきた。

「おやすみ」

ちいさく声をかける。

自分も少し寝よう。

眼を閉じる。

足の間から感じるぬくもりが妙に心地よかった。



2時間ほどたったころだろうか?

ふと何かの気配を感じたので眼をあける。あたりを見渡せば向こうからやってくる人影

執事の一人、ガークであった。


「レオナルド様 来客でございます。」


「誰だ?」


「ボゾン子爵でございます。」

ボゾン子爵か、パーティーで見かけたことはあるが・・・


「父上ならいないと伝えろ」


「当主様ではなく、レオナルド様に御用があるそうです。」


「この…俺にだと?」


「はい・・・・お帰り願いますか?」

そういいながら俺の足に視線を向ける。

正確には俺の足の間で眠るルナに

話し声も当たり前のように最小限の声量にするあたり、まったく気が利く執事だ…が


「いや、庭にいると伝えろ」

会うことにする。こちらはまったくもって用事はない。

こちらに用事がないからこそ、逆に向こうの用件が気になるというものだ。

俺に来客があるというのは友人を除けばかなりめずらしいことだからだ。


少し待つと人がやってくる。おそらくボゾン子爵だろう。

ガークの姿は無い。

案内するだけして身を引いたのか

近くまでやってくると、子爵の背格好が良くわかる。

一般的な貴族衣に、少しこじゃれた帽子。身長は180ほどだろうか?細身の男だ。


「こんにちは公爵」

友人に話しかけるかのように気軽に話しかけてくる男

それより・・・

「ボゾン子爵、俺は確かに公爵家の長子だが、いまだ父は現役だ その呼び名は適切ではない。」


「ああ!すまない 次期公爵だね! どうやら緊張しているようだ。 すまない」

他意はないと笑いながら謝罪する男。

ずいぶんとフランクなやつだと思う。


「可愛い子だ 妹さんかな?」


「プリシュティナ家が長女 ルナ・プリシュティナだ。 それより子爵、このような格好で話すことを先に謝罪する。 突然の訪問だったため、ご理解いただきたい。」


「いやいや、こちらこそすまない。妹さんとの時間を邪魔してしまったようだ。」


「それで子爵? 本日のご用向きを伺おうとしようか?」


「ふむ・・・それなんだけどね」

言葉尻を濁しながらしゃべる子爵 視線の先にはルナがいる。


「妹がいると話辛いようなことなのか?」

家族がいるところで話せないことなのか、そもそも他人がいるところで話せないことなのか、どちらにしろ、良い話ではなさそうだ。


「いや、大丈夫だよ 妹さんも寝ているようだしね」


「それで?」

妹の頭を撫でながら先を促す。

「レオナルド君は公爵家を継ぐのだよね?」


「未来のことはわからないが、おそらくそうなるだろうな」

自分の兄弟たちのことを考えると、必ずしもそうなるとは限らないが、通例で言えば長子が家を継ぐのが普通だ。


「つまるところは、プリシュティナ家の最高権力を担うようになるわけだ。 あたりまえだね、長子なのだから」


「子爵、俺は頭がいいほうではない。 直接的に、簡潔に言いたいことを言ってくれないと、言葉の裏を読み、本質を見抜いてやったりはできないぞ?」


「そうか…では次期公爵に問おう。 君が将来に求めるものは?」


「将来に求めるもの?」


「まぁ簡単に言うなら『手に入れたいもの』かな?」


「手に入れたいもの」

言われた言葉を頭の中で反芻する。


「爵位だな」


「爵位かい? いづれ公爵位が手に入るじゃないか」

もっと手に入り辛いものでほしいものはないのかい?っと言われる。

「いや、公爵位じゃなく、別に爵位がほしい」


「どういうことだい?」

怪訝そうな顔だ まぁそれはそうだろう


「簡単な話だ 公爵位にあまり魅力を感じてないんだよ 俺としてはある程度の領地をもらい、下級爵位をもらってどっかでのんびり暮らしたいのさ」


「忙しいのがいやで、あまり働かずに暮らしたいってことでいいのかな?」


「その認識でまちがってないな」


「あはは!下級貴族だからって暇ってわけではないんだけどね まぁ公爵家よりは暇なのかな」

くくくっと笑いを堪えながら話す子爵。


「幸いなことに、優秀な弟たちがいるしな、父は跡継ぎには苦労してない。あとは俺が何かしら大きな功を立てて、褒美として爵位をもらえれば言うことは無いんだが、このままじゃ継ぐことになっちまいそうだな」


「大きな功を立てて、低い爵位を望むなんて、君は実に面白いよレオナルド君」

「面白いかどうかはともかく、のんびりと生活が出来るなら、平民になっても構わないとすら思っているぞ? あくまで、のんびりと生活できるなら・・・だがな」


「なるほど、君の考えはよく理解できたよ」


「それで? 結局のところ子爵のご用は? まさかこんな話をしに来たのではないだろう?」


「いや…そうだね、半分はいまの話をしに来たようなものだね」


「半分…ね」

それで?と促す。


「残りの半分とやらは聞かせてもらえるのか?」


「もちろんだよ むしろもう半分のほうが重要な話だからね、ただ、君の話を聞いて少しだけ安心したよ。 いまからする話は君にとって悪くない話になると思う。」

本当に安心したのか、その顔には安堵の表情が浮かんでいる。


「それで? 働くのが好きではない俺にとっていい話ってのはなんだ?」

ニヤっと笑みを浮かべて尋ねる。


「レオナルド君 この噂は知っているかな? 国王陛下が次期王を決めようとしているというものなんだけど、城下ではこの噂でもちきりなんだ」

国王が次代の王を決めようとしている?


「はじめて聞いた話だ。城に赴く事は月に何度かあるが、 基本的に俺は家から出ることが少ないからな、噂には疎い…その噂とやらをなぜ俺に話す?」


「わからないかい?僕が言いたいことが」

そう言いながら俺から視線をはずさない子爵

思考する。 子爵がこの話を俺にする意味を


「陛下には三人の子供がいるが、全員女性だ。 わが国では女性が王位を継げないということはないが、陛下の性格上、娘に王位を継がせたりはしないだろうな。 なるほど、そこで俺か・・・・」

「その通りだよ。 レオナルド君は王家の血が流れる公爵家の、12貴族筆頭のプリシュティナ家の長子だ。 次期公爵なのは当然として、現状では次期王となる可能性の限りなく高い。」


「ゆえにお前は、俺に次期王になるべく奮迅努力してほしいと?」

笑みを崩さず言う。


「その通りだよ。」

頭を垂れ、臣下の礼をとる子爵

なるほど、そういうことか


「たしかに、陛下が跡継ぎを探しているというのが本当の話なら、俺にその話をしにくるのは間違ったことではないな。 俺が王になる可能性はたしかにある。 俺が王位を継ぎ、弟が公爵家を継ぐという形になるのか・・・」


「そうなるだろうね」


「それで…俺が王になったら自分を取り立ててほしいってか?」


「そうだね」

間をおかずの返事、実に潔い


「わかりやすくって好きだぜ? そういう考え方」

実に俺好みの考え方だ。


「だがな? 話としていくらなんでも急すぎる。お前の話す噂とやらの真偽もわからん間は俺のほうがなんかしら動くことはありえない。 まずは噂の真偽を確かめることから始めるんだな?」

あの現役バリバリな陛下が急に跡継ぎをってのも変な話だ。


「そうだね。 もう少し、確実性を高めてから来るとしよう。」


「そうしろ、まぁ急いできたおかげか、その話を俺に持ちかけてきたのはお前が初めてだよ 喜べ」


「っは!」

「じゃぁな また来るといい。 噂が本当であるならば、次までに少しは仲間を増やしておくんだな? 俺のバックアップをするにしても、お前だけでは力がまったく足りないからな」


「そうさせてもらうよ」

そう言い、この場を後にする子爵。 まったく、フランクな男かと思えば急に真面目口調になったりと、面白いやつだったな。

それにしても次期王か…

想像すると笑いが止まらないな 考えてもいなかった未来なのでなかなかに面白そうだ。


視線を下に向ける。

いまだ眠っている妹を見ると、先ほどしていた話が夢だったのではないかと思ってしまう。

兄がとんでもない話に巻き込まれそうになっているというのに、気持ちよさそうに寝やがって

そっと妹のまつげに指を触れさせる。 触れた瞬間まぶたがぴくんと反応する。

まったくこの妹は・・・可愛いな


「ルナ?起きろ お茶するぞ? ルナ?」

強制的に妹起こす。 そこそこ寝たので構わないだろう。


「ん? お兄様?」


「おはようルナ お茶の時間だ」


「は~い」

間延びする声だが、寝ていたので仕方ないだろう。


「なぁルナ」

歩きながら話しかける。横を歩きながら、なんですか?と視線をこちらに向ける。


「ルナは自分の将来について考えてるか?」


「自分の将来ですか? あまり考えたこと無いです。 急にどうしたのです?お兄様」


「いやな、ちょっと自分の将来がうまく決まりそうでな?お前にも聞いてみたくなったんだ。」

「そうなんですか? 決まりそうなお兄様の将来ってなんです? お父様の後を次いで公爵家を盛り立てるのとは違うんですか?」


「秘密だな」


「そうですか」

悲しそうな表情を浮かべるルナ でも次の瞬間には笑顔に変わる


「どんな未来だろうと、お兄様の横に置いてくれるならルナは構いません!」


「そうか…まぁお前が望むなら、別に構わないぞ?」


「はい!」

そんなにうれしいのだろうか?満面の笑みで返事をする妹

まぁいいか


これから少し 面白くなりそうだ。




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