スワンの物語
カーティナ王女の誕生パーティーが始まってどの程度時間が経っただろうか?
詳細な時間はわからないが、現在はパーティーの中盤といったところであり、王女殿下の周りにいた人間も、だんだんとその数を減らしている。
第二王女は、他人を寄せ付けない性格なので普段どおりの光景といえば光景だ。
ほとんどの貴族たちが挨拶を済ませてしまっているので、まぁ当然である。
そろそろ話に行っても良いころあいだろうか?
お節介な友人に、「個人的に贈り物をすべきである」と忠告をされたため、現在はその機会を窺っている。
カーティナ王女とはそれなりに良い関係を築けてはいるが、迷惑をかけてはいけない。
こちらは完全に私用なので周りの貴族たちの挨拶を邪魔するものではない。
しかし、このように人の様子を窺うなどなかなかない経験だ。
常にカーティナ王女の様子を伺っていては人に変に思われるため、ごまかしごまかし視線を送っている。
なぜだかやってはいけないことをやっているような気分で落ち着かない。
しばらく様子を窺っていると、ようやくと言っていいのかカーティナ王女の周りから人が引いた。時間的に見てもそろそろいいだろう。
そう思い歩みをカーティナ王女にむけて進める。
カーティナ王女も途中でこちらに気づいたようだ。
「カーティナ様 お時間よろしいでしょうか?」
「あらスワン? どうしたの? 私になにか用かしら?」
ふふっと笑いながらこちらを見つめるカーティナ様を前に少々緊張する。
「いえ、たいした用事ではないのですが、お暇なら、テラスのほうへ参りませんか?」
本当にたいした用事ではない。なので断ってくれても構わない それなら僕も友人に言い訳ができる。そもそも自分はこのようにカーティナ王女に積極的に話しかけたりしたことはほとんど無いのだ。
いや、そもそも女性と話す機会があまり多くないのでどうしたらいいかわからないというのが本音だ。
「あら?珍しい、スワンにテラスに誘われるなんて初めての経験ね?」
カーティナ王女はさも楽しそうに笑い、先にテラス方へ歩いていく
自分もその後をゆっくりついていく。
あぁ、どうしよう。 誘ったのは自分なのだが、来てくれるとは思ってなかった。
正直8割なにかしらを理由に断られると思っていたので困った。
これでは友人の思うつぼだ。
テラスに着くと、周りには人がいない。当然だ、人がいないからこそ行くことを提案したのだ。
しかし・・・どうしよう? 提案したのは僕だ、目的もきちんとある。しかして初めての経験ゆえ少々抵抗がある。
・・・やめるか? いや、ここまできてそれはないか
カーティナ王女は振り返り「それで?」と尋ねてくる。
「たいしたこと無い用事っていうのはなにかしら?」
「いや、グランのやつに言われたんだよね。 カーティナ様の16歳の誕生日なのだから、個人的な贈り物をするのが公爵家の子息としての義務だ!ってね」
二人っきりのときはくだけた口調で話す。昔に決めた約束だ。
とはいってもカーティナと二人きりになることなどほとんど無いのだが
「はいどうぞ」
プレゼントを渡す。
中身はいつの日か露天で見つけた不思議な模様のイヤリングだ。
質でいえば王女に贈るには少々ランクの低いものだが、相手がそういうものを気にする人間ではないのを知っているので気にしない。そもそも高価なものなど腐るほど持っているだろう。
「そう?ありがとう」
受け取ったイヤリングを手にとって模様を眺めるカーティナ
途中笑ったところをみると少しは気に入ったようだ。
「ところでスワン? あなたこれ、グランのバカに言われて用意したのよね?」
「ん?そうだよ」
「まったく、人に言われなきゃ幼馴染の成人祝いにプレゼントも用意しないだなんて・・・」
はぁ・・とため息をつき、あきれた表情を浮かべながらイヤリングを見つめるカーティナ
「まぁでも、結局のところ用意してくれたんだし、喜ばないとね」
クスっと笑いながらイヤリングを手で包むカーティナを見て、久しぶりに役立つアドバイスをくれた友人に感謝をする。
「よろこんでくれてうれしいよ、今回ばかりはぼくもグランのやつに感謝しないとね いつもはあいつのアドバイスに従って、酷い目ばかりあっているけど、今回は助かったようだね。」
そうねっと言いながら再びイヤリングに視線を向けるカーティナ
「ところでスワン?昔のこと思えているかしら?」
「君の遊び相手を務めていた頃の話かい?」
「その頃の話よ、まだ泣き虫だった私に、あたながなんて言ったか覚えているかしら?」
・・・・・・・あぁたぶんあのことだ
はっずかしいな~
昔の僕は子供だったとはいえよくあんなことが言えたものだ。
いや、子供だったからこそ言えたのか、とてもじゃないが今の僕だったら恥ずかしすぎて言いたくない。
「覚えているけど、恥ずかしいから言いたくない」
「あら?そう? じゃぁ私が言うわね? あなたは泣いている私の近くに来てこう言ったのよ? 『僕が騎士として君を守るから!もう泣かないで!』ってね」
あぁ・・・・ひどい話だ。
両親に知られたら死ぬまで言われ続けるだろうな
「頼むからその話は他人にしないでね? 僕の心が耐え切れないだろうから」
本当の本当の本当に心からの願いだ。
「ふふ、頼まれたって人には言わないわよ?私だけの大切な思い出だからね」
でも・・・と続ける。
「言わない約束の代わりに一つお願いをしようかしら?」
良いこと思いついたっと子供のように笑いながらとんでもないことを言い出すカーティナを見ながら、まぁ過去話を暴露されるよりはいいか納得せざるを得ない自分が情けない。
「それで?僕はどんな代償を払えば名誉を守ってもらえるんだい? 僕に出来ることでお願いするよ」
「とても簡単なことよ? あの時と同じことを今言ってくれれば良いだけだから!」
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・あのときと同じことを?
「それはつまりあれかい?幼少期に言った騎士としてなんちゃらかんちゃら見たいな台詞を今僕に言えと?」
「そうよ?」
「断りたいなぁ」
「そう・・・ちょっとご両親に用事を思い出したからいくわね?」
「お願いですから待ってください」
こんなことで下手に出続けなければならない自分が悔しい
「ふふ じゃぁお願いね?」
はぁ なんて日だ。慣れない贈り物をしたと思ったら恥ずかしい過去まで思い出すことになるとは、しかもまたその黒歴史を作ることになりそうだ。
しかしこなったらもう逃げられないだろう。
仕方が無い、逃げ場がないなら戦うしかあるまい
追い詰められた兵士がいかに頑強かをカーティナ王女にお教えするとしよう。
「ふふ、子供の頃を思い出すわね?」
カーティナの前に跪く、まるで物語にでてくる騎士のように
王女の御手をとり、誓いの祝詞を紡ぐ
「幼少の砌より、変わらぬ忠誠をあなたに」
「迫り来る凶刃は我が盾をもって防ぎ」
「立ちはだかる障壁は我が剣をもって粉砕す」
「我が名はスワン・プリシュティナ」
「騎士としてのすべてをカーティナ様に」
誓いを述べてからどれほどたっただろうか?
「ありがとう うれしいわ」
カーティナが呟いた。
顔を見上げればそこには先ほどまでと変わらない表情をしたカーティナがいた。
どうやら僕自身にとって精一杯の恥ずかしい台詞は、カーティナの動揺を誘うには足りなかったようだ。
あぁ、無駄に恥ずかしい思い出を増産しただけだったな。僕ばかりで悔しいな
まぁいいか
さて
「カーティナ様?あまり本日のメインを占有していると他の方々にお叱りを受けてしまうかもしれないから、中に戻ろう」
気づけばかなりの時間カーティナ王女を拘束していたようだ。
「そうね 戻りましょうか」
カーティナ様は室内に向かって歩みを進める。
すぐさまその後に続く
ふとカーティナ様は振り返る
「そういえばスワン?こういう噂を知ってる?お父様が跡取りを決めようとしてるって噂」
「セルゲイ陛下がですか? いえ、初耳です。」
この話をカーティナ様から聞くとは思わなかった。
城下の人々が話しているのを詳しく聞いてはいるが・・・
「まぁ私もお父様から聞いたのではなく、人づてに聞いただけだから本当かどうかはわからないわ」
「まぁ噂ですしね、セルゲイ様はいまだ現役バリバリでございますから、急に跡取りを決めるというのも少しおかしな話ですし」
「噂だからなんともいえないけれど、仮に本当のことだとしたら・・・」
カーティナ王女は反転し、また室内の方に向き歩みを進める。
そして扉を通るところで
「あなたも無関係ではいられないわね!」
楽しそうに爆弾を置いていった。




