↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
61/68

第61話 【純粋なハズレこそ最高の祝福】


 純増は静かに筐体へ腰を下ろした。

 目の前には過去に何十万回と回したリール。

 このビッグボーナスが全てを決める。


(ふぅ……1G連か…)小さく息を吐く。

(ただでさえ、この台の1G連は重みが違う……。それなのに今回は特殊効果付き。引けなきゃ終わる……)


 自然と喉が鳴った。そんな緊張を見透かしたように、横から巫女音がニヤリと笑う。

「おらー、早く打てー!引け引けー!引けなきゃ終わるぞー!」

「あぁ!分かってるよ!分かってます!今、精神統一中なんだって!レバー叩かないやつは黙ってろっ!」


 純増は眉をひそめる。

(うるせぇな!煽る女神ってなんだよ!煽り運転で捕まれっ!…俺にはこのシステムの願掛けってもんがあるんだよ!)ゆっくりとレバーへ手を添える。


(……どこで揃う)目を閉じる。

(一回目の予告か? 二回目か? それとも、もっと後か?)頭の中で何度もレバーを叩き、リールを回す。

 予告音が鳴り、青七が左上に滑ってくる光景を何度も、何度も想像した。


(…………うん)自然と笑みが浮かぶ。

(一回目の予告だ!そこで来る)純増は迷いなくレバーを叩いた。

 カコン。リールが回る。ポン、ポン、ポン。

 再びレバーオン。カコン。何も無し。

 五回。七回。十回。静かにゲーム数だけが積み重なっていく。


 そして十五回目のレバーオン。予告音は鳴らない。

(……やっべ〜…)純増の額から汗が伝う。

(予告無しで終わるパターンなんか想像してねぇよ……)リールだけが無情に回る。

(嘘だろ……まずい……まずい、まずい!)

 左ストップボタンを離す指先が震えた。


 その時だった。

「純増」巫女音の声。

 さっきまでの茶化した調子は欠片もない。

「ごめん……もう時が動き出す。」真剣な眼差し。

「急ぎな。相手が本気を出したら……すぐ終わるよ。」

 純増は静かに頷いた。表情だけは、なぜかやけに凛々しい。

「あぁ。大丈夫。今までありがとうね。俺には、もう見えてるから。」ふっと笑う。

(うぉぉぉいっ!!)心の中では絶叫していた。

(何が大丈夫だよ!何が見えてるだよ!なんにも見えてねぇつぅの!未来も見えねぇ!この先も見えねぇ!うわぁぁぁぁ!!死ぬっ!死ぬっ!みんな死んじゃうよぉぉぉ!!このレバーオン重すぎぃぃぃ!)

 それでも表情だけは余裕そのもの。


 レバーオン。………。鳴らない。

 レバーオン。………。鳴らない。

 レバーオン。………。リールだけが静かに流れ落ちる。

(違う……)胸の鼓動だけが嫌に大きい。

 さらにレバーを叩く。何も起きない。

 静寂。白い神界に、リールの回転音だけが響いていた。


 その空気を破るように、コツ、コツ、と靴音が近付いてくる。

「お客様。随分と手こずっておりますね…」

 店員だった。片手には湯気の立つカフェラテ。

「少しタバコでも吸われたらどうですか?」

「あは、そうだね……ありがとう。」

 純増は一本咥え、火をつける。深く吸い込む。肺いっぱいに煙を満たす。だが、落ち着かない。


 冷や汗は止まらず、口の中は乾き切っていた。

 それでも純増は、無理やり笑顔を作る。

「あはは……ありがとう!」

「生き返る前に、歯だけ磨いてくださいね☆」

 店員は微笑んだ。


「えっ?臭い?」純増は固まる。

「はい。ヤニ臭く、とても不快です!」にっこり。

「なんでぇぇぇ!自分で吸えって言ったんじゃん!」

 店員は口元を隠して笑う。

「ふふふ。その笑顔でレバーオンしてみると……何か変わるかもしれませんね。」


 軽く会釈し、一歩後ろへ下がった。

 純増はもう一度だけ煙を吸い込む。

 そして、ゆっくり吐き出した。

「……おっし。」口角が上がる。

「店員さん……ありがとう。」

 そして純増はもう一度煙を肺いっぱいに吸い込む。

 ゆっくりと吐き出すと、肩の力が抜けた。


 レバーへ手を添える。

(そうだよ……。)静かに目を閉じた。

(なんで1G連させる気でいたんだ…おこがましい。違うだろ。1G連ってのは……祝福だ。ここまで頑張った俺への祝福。だから、全部、台に委ねろ。)ゆっくりと息を吸う。

(そして……台と繋がるん)ジャキンッ!!

 鋭い予告音が、神界に響き渡った。

 そこからは一瞬だった。純増の頬がみるみる緩んでいく。

「あは……あはは……。」肩が震える。目尻が下がる。「あははははっ!!」

 ポン。ポン。ポンッ!迷いのない三停止。

 リール中央と右下がりに、青七が美しく並ぶダブルライン。その瞬間、純増は勢いよく拳を突き上げた。

「おっしっ!ごっつぁんですッ!!」


 パンパカパーン♪

『お客様、見事!店員チャンス成功です。』

 陽気なファンファーレが鳴り響き、店員が拍手をしながら歩み寄る。


「お客様。ダブルラインとは、流石ですね。」

「いやぁぁぁ!超気持ちいい!なんも言えねぇ!」

 純増は頭をかきながら笑う。


 店員は人差し指を立てた。

「今回の特殊効果ですが、シングルラインであれば全ステータス十倍。」

「十倍?ぶっ壊れてるな……。」

「ですが、お客様はダブルラインです。」店員はにこりと微笑む。

「ダブルラインの特殊効果は全デバフ解除。全属性効果・大。全回復。そして、【絆コネクト】発動。」

「絆……コネクト?僕と君の?」純増が首を傾げる。

「はい。お客様のお仲間全員へ、同一効果を付与します。」


 数秒の沈黙。純増はぽかんと口を開けたまま固まる。そして次の瞬間、大笑いした。

「あはははっ!マシマシ過ぎて何が何だか分かんねぇわ!つまり、生き返れて、みんな強くなった!それでオケ?」


 店員は力強く親指を立てる。

「ふふふ。オケです☆」


「よっしゃ!」純増は勢いよく立ち上がった。

「ありがとう!んじゃ、また行ってきまーす!巫女音頼むっ!」

「もう空いてるよ!早く行きなっ!」

 巫女音が歪ませた空間へ、迷いなく飛び込んでいく。その背中を、巫女音と店員は静かに見送った。


◇◇◇

 

 純増を見送り、少しして巫女音が口を開く。

「……随分とサービスがいいのね。」

 店員は何も答えない。そのまま純増が座っていた筐体の前へコツコツと歩み寄る。


 レバーに手を掛ける。カコン。ジャキンッ!

 巫女音が目を見開いた。「えっ?」

 店員は淡々とリールを止めていく。

 ポン。ポン。ポン。……何も揃わない。


「ぷっ!」巫女音が吹き出した。

「下手くそ!カッコつけて打って何にも揃ってないじゃん!」

 店員は楽しそうに笑う。

「ふふふ。何も揃わないのが、最強なんですよ……この台は。」

 ボタンを離したその瞬間、リール全体が真紅に染まった。真っ白な神界を赤く照らすレッドフラッシュ。


「へっ?!それって。」巫女音の笑みが消える。

 店員は静かに頷いた。

「純ハズレ。サービスって言うのは、こう言うことです。これの特殊効果は……失われた肉体の復活。“若き獅子王”よ……まだまだ引退には、早過ぎますよ☆」

 その声はどこまでも優しかった。赤い光がゆっくりと白へ溶けていく。店員は巫女音へ向き直り、軽く一礼した。

「お騒がせしました。では、私はこれで失礼します。」


 コツ。コツ。静かな足音だけが神界に響く。

 店員は立ち止まらない。そして歩きながら口を開く。

「あの〜?女神さん?もしかして、あなたが純増に私を渡したと思っていますか?」

「はぁ?そうでしょ!だって私が選んであんたを渡した……」

 言い掛けた巫女音の言葉を、店員は小さな笑みで遮る。

「ふふふ。可愛い顔。私が、あなたに、私を引かせた。……そう考えたら……きっと面白いですよね。」


 巫女音は思わず息を呑む。

「……あんた、まさか。」


 返事はない。店員は最後まで振り返ることなく、白く輝く空間の彼方へと静かに姿を消していった。


 神界には、巫女音だけが取り残される。

 その表情には驚きと、ほんの少しの笑み。

「ふっ、……ほんと、神界で何やってんだあいつら…。はぁ、さぁて、純増の戦いの結末でも見るかな」

 ゴロンと釈迦寝をして画面を見る巫女音。

 白い神界は、何事もなかったかのように静かに輝いていた。




            続

読んで頂きありがとうございます。ブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日7時30分更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。