第60話 【1G連システムは特許案件でしょ】
真っ白な神界。
巫女音と店員が至近距離で睨み合っていた。それを純増は少し離れて見る。
数秒の沈黙。先に口を開いたのは店員だった。
「では、お客様は私がお預かりいたします。」
穏やかに微笑みながら言う。
巫女音は眉をぴくりと動かした。
「……なんでよ。」「はい?」
「ここは神界。私の領域よ。しかもあいつはもう死んでる。たかが剣にどうにもできないでしょ。」
店員は少しだけ口元を緩める。
「ふふふ……“たかが剣ねぇ”本当にそうですかね〜?」
「あんた何が言いたいの。」巫女音は腕を組む。
「お客様は、生きている間に指先だけですが私の世界へご来店されました。」胸へ手を当て、優雅に礼をする。
「つまり、お客様は現在、私のお客様で私の領域にいます…。この意味が分かりますか?」
そして少しだけ巫女音へ近付いた。
「あと……。」「何よ?」
「その胸を押し付けるの、やめてもらえますか?」
「はぁ!?」巫女音は思わず後ろへ下がる。
「押し付けてないし!!でかいだけだから!!」胸を抱える。
「ふふふ。……失礼しました。」
「あんた絶対思ってないでしょ!!気にしてんだからやめてよ!」
そして巫女音は額へ手を当て、大きくため息を吐いた。
「分かったよ。」真剣な表情へ戻る。
「じゃあ聞くけど、どうやって剣のあんたが純増を生き返らせるのよ。」
「簡単なことです♪」店員は優しく微笑み、指を鳴らす。
パチンッ!ポンッ。神界へ、小さなホールカウンターが現れた。
◇◇◇
「ぷっはぁ〜。」
純増は出されたソファーへ寝転がりながら、店員にもらったカフェラテを飲み、アメスピへ火を付けていた。スパーっとのんびり煙を吐き出しながら、神と店員の口論を眺めている。
すると、巫女音が振り返った。
「あんたねぇ!!」純増を指差す。
「何、呑気に一服決めちゃってんの!?」
純増は肩をすくめる。
「だってさ、生き返るまで暇なんだもん。まだ喧嘩するの?」
「おっ、おまえっ!!魂ごと消滅させてやろうか!?」
「ひぃぃぃ!!」純増はソファーから飛び上がる。
「怖っ!!目!!目が怖っ!!トンじゃってんじゃん!!」
「そもそも、なんであんた生き返れる前提なのよ!!」
純増はゆっくり白い空間へ映る映像を指差した。
「……だってさ。店員さん来てから、あっちの世界……時間止まってんじゃん。巫女音が止めてくれてるんだろ?」
巫女音は黙り、純増は笑う。
「だから何とかなるのかなぁって。」
巫女音は長い沈黙のあと、観念したように肩を落とした。
「……目ぇ瞑っててあげる。」「えっ?」
「本当はダメだからね。怒られるの私なんだから……。あと…そんなに時間止められるわけじゃないから…急ぎなさいよ!」
頭を掻く巫女音に純増は小さく頭を下げた。
「……ありがと。頑張る!」
すると店員は純増の前まで歩いて来た。
パンパカパーン♪
「お客様。」店員、満面の笑み。
「本日、ワクワクご来店ポイントが貯まりましたので、五万ライフ進呈でございます。」
「ふぇっ!?」純増の目が飛び出る。
「五万ライフぅぅぅ!?」
「はい。50,000ライフでございます」
店員はさらにパンと手を叩く。
「そして本日、滅多に手に入らない新景品も入荷いたしました。」
店員の手へ虹色に輝く心臓が現れる。
ドクン。ドクン。ドクン。
生命そのもののように強く脈打っていた。
「うぴゃぁぁぁぁぁ!!」純増は飛び跳ねる。
「はいっ!復活確定演出ぅぅぅ!!確定音鳴りまくりのギャラリーガン見パターンじゃん!!」
しかし突然真顔になる。
「……ん?でもさ。」虹色の心臓を見る。
「景品ってことは……お高いんじゃないの?」
店員は営業スマイルを崩さない。
「いえいえ、お客様。本日限定。なんとっ!五万ライフでご用意させていただきました。」五本指を立てる。
純増はわざとらしく仰け反る。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!五万ライフで命が交換できるってぇぇぇぇぇぇ!?」
二人のやり取りを見て、巫女音が額へ手を当てた。
「はぁ、……テレビショッピングかよ。しかも買う気満々だし。急げって言ってんだろ…。はぁ、」
純増は心臓を見つめながら頷く。
「買います。即決です。50,000枚一括のライフ払いでおなしゃーっす!!」
「はい。受け取りました。ありがとうございます!!」
◇◇◇
巫女音は小さく息を吐いた。
「ふぅ、……生き返れるのは分かった。でも戻ったところで、力の差は歴然。そこはどうするの?」店員を見る。
店員はゆっくり首を傾げる。
その笑顔だけが少しだけ不気味だった。
「ふふふ。私は店員。お客様を生かすも殺すも……私次第です。」
純増がごくりと唾を飲み込み見つめる。
「ですが、私は、お客様には脳汁を噴き出し、ドキドキしていただきたいのです。」店員は嬉しそうに笑った。
パンッ。手を叩く。
「はいっ!ここで、店員チャーーーンス!!」
ホールへ一台のパチスロ機が現れた。
見た瞬間、純増の表情が一変する。
「おぉ……。」筐体へ駆け寄る。
「懐かしい……。」青七図柄へ指を添える。
「この青七に、どれだけ心躍ったか。」
そして姫図柄を見つめる。
「この姫に……どれだけ恋したか…DDTで目が合うたびに…この子も俺のこと…って思ってた。」
店員は優しく微笑んだ。
「お客様。今回の店員チャンスはこちら。特別な思い入れのある台を用意しました。ボーナス中、1G連してください。チャンスは……このビッグ中のみ。」
純増の表情が真剣になり、ホールが静まり返る。
「引ければ、特殊効果を付与。ですが、引けなければ……そのままお帰りいただきます。」
「……そのまま帰る?」純増が首を傾げる。
店員は変わらぬ笑顔で答えた。
「はい。特殊効果無しで戦場へ。そこで待っているのは、、また、“死”ですね♪」
そして最後に、にこりと微笑む。
続
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