第59話 【手を伸ばしても掴めない。それが設定6】
純増はゆっくりと意識が浮かび上がる。
「……うっ。眩しっ!」純増は重い瞼を開いた。
視界いっぱいに広がるのは、どこまでも続く真っ白な世界。空も地面も境界がなく、音すら存在しない静寂だけがそこにあった。
「んっ?……ここ、どこ?」
ゆっくり身体を起こし、辺りを見回す。
すると少し離れた場所に、一人の女性が立っていた。
「あれ?……巫女音?」
純増は目を丸くし、思わず笑う。
「おぉ、巫女音!どうしたの?こっち来てたの?」
しかし巫女音は笑わなかった。
真っ直ぐ純増を見つめ、ため息混じりに静かに口を開く。
「はぁ……あんたが、“こっち”に来たの。」
「……は?」純増は笑顔のまま首を傾げる。
「“こっち”来た?意味わかんな……。」
巫女音は小さく息を吐いた。
「あんた……もう死んでるから。終わり。」
「…………。」一瞬、純増の時が止まった。
「……またまた。何その冗談。」純増は乾いた笑いを漏らす。
巫女音は何も言わず、白い空間へ手をかざした。
すると目の前へ一枚の巨大な映像が映し出される。
そこには、ほんの数分前まで純増がいた世界が映っていた。
◇◇◇
ビーハナ町西門。瓦礫。倒れ伏すライガン。血を流す山田カイザーと山賊達。うつ伏せで倒れたマングル。
そして、血だらけになりながら、泣き崩れるジュリナ。その腕の中には、動かない純増自身がいた。
「…………。」純増の表情から笑みが消える。
「……早く、、早く戻してくれよ……。」小さく呟く。
映像から目を離さず、一歩前へ出る。
「あの剣に入ってボーナス引きまくれば、ジュリナだって復活させられるからさ。なぁ……頼むって。」
巫女音へ振り向く。純増は巫女音の肩を掴んだ。
「早く戻してくれよ!!」
巫女音は静かにその手を外す。
「……もう無理だって。」「何でだよ!!」
「あんた、死んじゃってるもん。」
純増は言葉を失う。巫女音は少しだけ表情を緩めた。
「でも、ほら、特別にまた違う世界飛ばしてあげるから。」
パチンと指を鳴らす。目の前へ無数の世界が映し出された。
「好きなの選びな。創造する?AIの所もあるよ?」
「……嫌だよ。」純増は首を横へ振る。
「まだ死ねないだろ!?」声が震える。
「みんなあんな状況なんだぞ!?“はい。違う世界行きます。ん〜どこにしようかな〜?“ってならないだろ!!頼むって!!巫女音なら何とか出来るだろ!?」
巫女音も思わず声を荒げた。
「あんたねぇ!!私が何でも出来ると思ったら大間違いよ!!死んだ人間を”はい、生き返れます”なんて事やってたら、命の理が崩壊するだろ!!諦めて死んでください!!」
「嫌です!!僕は死にません!!戻ります!!」
純増も負けじと叫ぶ。
「戻れません!!早く世界選べ!!これだって特別なんだからな!!」
呆れた純増はもう一度映像へ目を向けた。
ジュリナは何度も純増の身体を揺すっている。
「純増様……。」呼ぶ。
「純増様……。」また呼ぶ。返事はない。
ライガンも、山田カイザーも、マングルも動けない。誰も助けられない。
「……やめろ。」純増は小さく呟いた。
「みんなそんな顔するなよ。」映像へ向かって手を伸ばす。
「ジュリナ……。」手も声も届かない。手は白い空間を掴むだけだった。
「俺さ……泣いてる女の子、本当に苦手なんだよ。だからさ……そんな顔しないでくれ。」少しだけ笑う。
しかし映像の中のジュリナは泣き続ける。
純増は拳を握り締めた。
「……俺、まだ約束守ってねぇんだ。ダークエルフの国を見つけること。一緒に指輪を見つけること。全部、まだ一つも終わっていない。だから……」震える声で巫女音を見る。
「こんな終わり方で終われる訳ねぇだろ。」
「そんなこと言われたって、あんたが“ラスボス級”の敵引き寄せるからだろ!?諦めろって!生き返ったってまた殺されるよ!」
二人は子供のようにギャーギャー言い合いを続けた。
やがて➖➖
「……はぁ。」純増はその場へ大の字に倒れ込んで、真っ白な天井を見つめる。
「人生って何だろうな…。欲しい物が見つかったらこれかよ…。だから俺は頑張るのが嫌なんだよ…頑張って、頑張って、嫌な思いして、それでも届かなくて、でも諦められなくて…また手を伸ばす…。なぁ?巫女音…お前本当に神か?祈りが足りねぇのか!賽銭がたんねぇのか!頼む!勝てなくてもいいから、あいつらと最後まで居させてくれよ!それもかなわねぇのか?」
巫女音は何も答えない。ただ静かに純増を見つめていた。
その時だった、、コツ。
静まり返った神界へ、小さな靴音が響く。
コツ……コツ……コツ……。コツ……。
白い霧の向こうから、誰かがゆっくり歩いて来る。
その存在に巫女音が眉をひそめた。
「……あんたねぇ。“剣の分際”で神界まで来るんじゃないよ。」
純増はゆっくり振り返る。
霧の向こうから現れたのは、見慣れた制服。見慣れた優しい微笑み。ホールソードの店員だった。
店員は純増の隣まで歩くと、巫女音へ静かに一礼する。
「“剣の分際”?私は“私のお客様”を迎えに来ただけですが、何か問題でも?」穏やかな笑みは崩さない。
「たかが“神の分際”で、何を仰っておるのですか?私の世界では…私がルールです」
その笑みはどこまでも不気味で強かった。
続
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