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第58話 【三万負けると死がちらつく】


 西門へ辿り着いた純増達は、一度足を止めた。

 ライガンは周囲をゆっくり見渡す。

「さて……全員揃ったな。」

 山田カイザー、山賊達、マングル、ジュリナ、そして純増。誰一人欠けていないことを確認すると、小さく笑った。

「では、アルジェ王国領内から離れるとしよう。」


 動き出そうとした、その時だった。

「よぉよぉ!!主役がいなくちゃ面白くねぇだろぉ?せっかくここまで来たってのによ!」陽気な声が西門へ響く。

 声が聞こえた瞬間、空気の変化に全員の表情が一瞬で変わった。

 ジュリナは反射的に純増の腰に手を回し、後ろに飛ぶ。

「純増様っ!」タンッ!!さらに大きく後方へ飛び退く。ライガン達も同時に距離を取り、一人の男を見つめた。

 そこには、短く刈り込んだ髪に緑色のねじり鉢巻き。緑色の着物をラフに着崩し、不思議な魔法の板、スケボーへ乗った男が立っていた。


 男はニヤリと笑う。

「あっはっはっ!!てやんでぇ〜!」

 スケボーをクルリと回す。

「そんなビビんなよ。今すぐ殺しゃしねぇ。兄貴達もすぐ来る。だからよ……。」

 口元を吊り上げる。町の方角を親指で指差した。

「早く主役は処刑台へ戻りな。」


 純増は男とライガンを交互に見た。

「えっ?誰?江戸っ子?やばい人?」

 ライガンは頭を掻く。

「……ははは、東門へ向かうべきだったな…」

 困ったように笑う。そして静かな声で続けた。

「誰も動くな。私の後ろにいろ。」

「そんなにヤバい人なの?」純増は首を傾げる。

 ライガンは男から目を離さない。

「……今、一番会いたくなかった男だ。ドン国王三兄弟、三男……ドン・緑三(りょくぞう)」低く呟く。


 緑三は大笑いした。

「あっはっはっ!!元ジャミー王国国王、直々の紹介ありがとよ!」

 緑三はライガンへ視線を向ける。

「なぁ、ライガン…俺につけよ。」肩を竦める。

「悪いようにはしねぇ。そうすりゃ、ここから上手く逃がしてやる。」

 ライガンは小さく笑う。

「ふっ……。」ゆっくり一歩前へ出た。

「私を飼いたいなら……極上のまたたびでも持って来るんだな。」黄金の瞳が細くなる。

「青一(あおいち)と赤二(せきじ)の首……という名のまたたびをな。」


 二人の間へ重い沈黙が流れる。

 その時だった。緑三の背後。地平線から巨大な砂煙が立ち昇る。無数の兵。三色の花火が描かれた旗が風に揺れていた。


 緑三は舌打ちする。

「ちっ。せっかく早く来たのに…。兄貴達のお着きだ。」肩を竦めライガンを見る。

「お前にはまだ死んでほしくねぇんだけどな。」

 魔法のスケボーを反転させ呟く。

「……お前もここで終わりだ。」

 そのまま軍勢の方へ滑るように戻って行く。


 ライガンは静かに息を吐いた。

「皆、聞け。」全員がライガンの背中を見る。

「本当なら一緒に逃げ、守ってやりたい。」悔しそうに拳を握る。「だが……今の私では力不足だ。」


 ライガンは山田カイザー、マングルを見る。

「山田。」「……はい。」

「マングル。」「はい。」

「虹色の剣とダークエルフを逃がせ。」

 二人の表情が強張る。「ライガン王……。」

「“ですが”も”だって”も聞かん。」ライガンは力強く言い切った。


「奴らの狙いは私だ。」純増を見る。

「この二人だけは、生きて帰せ。」

 山田カイザーは拳を握る。「……了解。」

 マングルも牙を食いしばった。「任せとけ。」


 全員が動こうとした、、その瞬間。


 軍勢の前方で、緑三が青一に何かを伝える。

 その瞬間、、「……ばっきゃろう。」青一がニヤリと笑う。

「全員、ライガンの仲間なんだろ?一人も逃がすかよ。」青一の右手へ眩い光が集まる。光が脈打つ。

「全員……“処刑”だろ?【三連衝撃音(さんれんいんぱくと)】」


 パァァァンッ!!放たれた光で空気が裂けた。

 純増の目には、一瞬だけ光が見えた。

「え、、」次の瞬間。


 ドゴォォォォォォォォォンッ!!

 凄まじい衝撃波が西門を飲み込む。


 ライガンの巨体が吹き飛ぶ。

 山田カイザーも山賊達も宙を舞う。

「ぐあぁぁぁ!!」マングルは地面を何度も転がった。


 世界が白く染まる。その刹那。

 純増は考えるより先に動いていた。

「ジュリナッ!!」両腕でジュリナを抱き寄せる。

 そのまま覆い被さる。轟音。激突。そして静寂。

 砂煙だけが辺りを覆っていた。

 やがて土煙がゆっくり晴れていく。


 そこには瓦礫へ叩き付けられたライガン。

 血を流す山田カイザー。倒れ伏すマングル。


 そして、、地面へ横たわる純増がいた。

 その下には、必死に抱き締められたジュリナ。


「……ごほっ!」ジュリナが血を吐く。

 震える手で純増の身体へ触れた。

「純増様……?」返事はない。

「純増様……?」肩を揺する。動かない。

 純増の顔を見たジュリナの瞳から涙が溢れた。


「ごほっ……!」血を吐きながら純増を抱き締める。

「純増様……。」声が震える。

「死んじゃ……だめです……。」涙が止まらない。

「ジュリナ……また、一人ぼっちに……。」

 純増の顔を胸へ埋める。


「ごほっ……ごぼっ……死んじゃだめです…」

 純増の返事は、最後まで返ってこなかった。

 純増から溢れる赤い血がジュリナの服を静かに濡らしていった。



            続

読んで頂きありがとうございます。ブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日7時30分更新予定です。

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