第6話 【時間は金、金は回転数】
カジノを出た碼樽純増は、青空を見上げた。
「あはは、青いなぁ……青が過ぎるって…」目を細める。「って!まだ昼前かよ!」思わず天に両手を合わせ仰ぐ。
「昼前に勝負終わってたら人生も終わりだろ!?くそがっ!異世界でも同じかよっ!!」
肩を落とし、大きくため息を吐く。
「あー、死にたい……」一瞬、固まる。
「……やばっ」ゆっくりと空を見上げる。
「またあの女神に殺される…」慌てて両手を振った。
「違う違う違う!嘘!嘘で〜す!今のなし!取り消し!」何事もなかったように早歩きで歩き出す。
◇◇◇
町は昼時。焼いた肉の香り。香辛料の匂い。焼きたてのパン。腹の虫が容赦なく鳴いた。
「はぁぁぁ……腹減った。」唾を飲み込む。
「牛丼……ラーメン……カレー……あっ、そうだ…俺、金ねぇんだ」
財布を開く。小銭だけ。閉じる。もう一度、そーっと開く。やっぱり小銭だけ。
「くそっ!……増えてねぇ!そーっと開けたら隠れてた渋沢が出てくると思ったのに!助けてー、ドラ○も〜ん」静かに閉じた。
「はぁ、どっかに消費者金融ねぇかな……限度額パンパンで金借りてリベンジするんだが……」真顔で呟く。その時だった。視界に一枚の看板が入る。
【質屋】純増の視線が腰の剣へ落ちる。
「うん。……これ、売るか。」迷いは一秒もなかった。
◇◇◇
店内へ入ると、カウンターの奥には筋骨隆々の男が立っていた。片目には眼帯。腕は丸太のように太い。
「いらっしゃい……買取かい?」低く響く声だった。
純増は迷わず剣をカウンターへ置く。
「すいません。これなんですけど、いくらになります?」
店主は剣を手に取った。重さを確かめる。軽く振る。刃を指で弾く。「……うーん」数秒の沈黙。
「ダメだね!」「えっ?」「鈍だよ」「……」「値段なんか付かねぇな」
純増は固まった。「えっ!?鈍!?」剣と店主を何度も見比べる。
「おいぃぃぃ!女神ぃぃぃぃ!!」思わず叫ぶ。
「酷いの渡しやがったな、あのポンコツ!」大きくため息を吐く。「はぁぁぁ……」
純増を見て店主は苦笑した。
「金に困ってるのかい?」「ははは、まぁ……」
「他にも何かあるなら見てやるぞ。」「あるにはあるんですけど……」
純増はポケットというポケットを漁った。
ライター。タバコ。携帯灰皿。財布。小銭。黒い板をカウンターへ置く。その瞬間、店主の目が見開かれた。
「おい……」「ん?」「その黒いの……何だ?」
「えっ?これ?携帯だけど?」「携帯?」
「電波入んないから使えないよ。」「……貸してみろ。」「いいけど。」
店主は恐る恐る触る。裏返す。横を見る。画面を撫でる。ライトが点いた。
「おぉっ!?」店主の肩が跳ねる。
「あっ!ちょっと待って」純増は思い出したようにショルダーバッグを探る。「ほら、充電器もあるよ」コードを差し出す。「パチ屋帰りだったから持ってた」
店主は何度も頷いた。
「よし……決めた。」「うん?」
「金貨五枚出そう!」「……」純増は固まる。
「銀貨一枚で五十枚……でしょ?」頭の中で瞬時に計算する。「金貨五枚……一枚で五百枚…」さらに数える。「二千五百枚!?」店主は首を傾げた。
「……枚?」「はいっ!売ります!」即答だった。
「あはは!気持ちいいね!毎度あり!」
◇◇◇
金貨を握りしめた純増は、満面の笑みで店を出た。
「二千五百枚……か」頬が緩む。足は自然とカジノへ向かう。しかし、ふわりと焼けた肉の匂いが鼻をくすぐった。
「………」足が止まる。「飯か?期待値か?」
数秒葛藤したあと「いや、腹が減っては勝負はできん!飯食おう!」きっぱり方向転換した。
◇◇◇
食堂へ入り、席に着く。メニューを開いた。
「えっ?……読める」首を傾げる。
「女神補正かな?文字も読めるし言葉も通じる…スロットもある…異世界便利じゃん☆」
少し考え、「よし。決めた!」店員へ顔を上げた。
「牛丼大盛り、卵付き。お願いします!」
◇◇◇
数分後。純増は牛丼をかき込んでいた。
「うまぁぁぁ!」箸が止まらない。純増は噛まない。とにかく流し込む。
「噛んでると回す時間をロスするからな!」あっという間に完食。会計を済ませ、店を出る。
満足そうに腹をさすった、その時だった。
「お兄さん、お兄さん。」腰の低い男が笑顔で近づいてくる。
「さっき質屋から出てきましたよね?」「えっ?……うん…でも、お金なら貸せないよ…」
「いやいや、うち、いい子、揃ってるんですけど……見ていきません?」
純増は目を丸くした。「……いい子?」
男は意味深に笑う。「ええ。きっと気に入っちゃうと思いますよ」
純増は一瞬だけ考えたふりをした。
「……行く!」「そうこなくっちゃ!」男は嬉しそうに手招きする。「ささっ、こちらです」
純増は何の疑いもなく、その背中について歩き出した。その先に待つものが、風俗ではなく、自分の運命そのものだとは、まだ知る由もなかった。
続
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