第7話 【いきなり光るとビクッとする】
純増は腰の低い男の後をついていく。
「もう少しですよ」「あっ、はい」純増は周囲を見回した。「やっぱり異世界にもあるんだなぁ……」感心したように頷く。「こう言った文化って大事だよな」
男は笑顔のまま首を傾げた。
「ええ。昔からありますよ」「だよね!」
二人は同じ言葉を話している。だが、考えていることはまったく違った。
◇◇◇
店へ入る。木造の落ち着いた室内。奥には数人の女性たちが静かに並んでいた。男が胸を張る。
「ささっ、お気に入りの子がいましたら、お声掛けください。」
「はい…」純増は腕を組んだ。
(……ぬぬっ)真剣な漢顔になる。
(選ぶ時マジックミラーじゃないのか……)額に汗が滲む。
(くそっ!せめて写真とかにしてくれ…これじゃ俺の期待に満ち満ちてる顔まで見られちゃうじゃねぇか……)それでも表情だけは渋く決める。
(落ち着け……俺は紳士だ…そう、ジェントルマンなんだ…)
左から順番に見ていく。(無しだな)
隣、(無し)隣、(無理)隣、(タイプじゃない。)隣、その女性を見て動きが止まる。(同級生…?)
店の男がその視線に気付く。
「あっ、その方気になっちゃう感じですか?」
「えっ?いや?同級生…かな〜って」純増は即答した。
「……?」男は意味が分からなかった。
「えへへ、実はこちら、この店のおすすめなんですよ。ちょっとこっちへ!」女性が一歩前へ出る。
「家事全般完璧。特に彼女が作る煮物は絶品だそうです」
「へぇ〜……お母さん?」
「またまた、お母さんじゃないですよ!今ならなんと金貨二十五枚!」「ふぁっ!!」純増の声が裏返った。「二十五枚!?」
「はい!」男も勢いよく頷く。「破格です!」
「でしょうね!俺も聞いてビックリした!」純増は驚き頷く。二人はなぜか意気投合し笑い合った。
「いやぁ……」純増は頭をかいた。
「お恥ずかしながら、正直、そんな持ち合わせがなくて」「なるほど…」「できたら……」少し申し訳なさそうに笑う。「金貨一枚くらいの子っています?」
男は考えこむ。純増は続けた。
「“マグロ”でいいんで…」「んっ……」男が固まった。「“マグロ”……で?いい?」「えぇ」純増は真顔だった。「そんな自信がある方じゃないんで…」「………」男は深刻な表情になる。
「はい。少々、お待ちください。」奥へ消えていった。
◇◇◇
数分後。ガチャリ、と奥の扉が開く。
首輪を付けられた一人の女性が連れてこられた。
褐色の肌に長い銀髪。そして尖った耳。
そして、どこか諦めたような赤い瞳のダークエルフだった。
純増の時間が止まる。世界がゆっくり流れる。
(…………)高鳴る鼓動だけが耳の奥で響く。
(うわぁぁぁ、黒ギャルじゃん!当たりじゃん!)一目惚れだった。
男が咳払いする。「んっほぉん!こちらなら金貨四枚で…」純増は返事をしない。「……その代わり、一切の保証はできません。どうされますか?」
純増はようやく口を開いた。
「……払います!!」即答だった。
男は苦笑する。「お客様…相当、お好きなんですね」「えぇ、ファ○ザ履歴が埋まるぐらい…」純増は照れ笑いを浮かべた。
「………はは…」
男は違う意味で言ったのだが、笑顔の純増に訂正はしなかった。
◇◇◇
「では、契約前に前払いでお願いします」
純増はカウンターに金貨を四枚並べた。
すると店の男はダークエルフの服を捲り、下腹部にある紋章を出す。「では、こちらへサインを」
「うわっ、へぇ〜、そこにサインするんだ…」純増は少し驚き感心する。
「ちゃんと契約書みたいのあるんだ」「はい。勿論」
「書いたら?」「後戻りはできません」
「はは、重っ!」純増は苦笑した。
「そんなに苦情来るくらい“マグロ”なんだね…」
ダークエルフは無表情。男は頭を抱えたくなった。
「……」純増は迷わず名前を書く。
➖➖➖碼樽純増。
すると下腹部の紋章が淡く光った。
「うおっ!?」純増が飛び上がる。
「びっくりしたぁ!」胸を押さえる。「三万使った後の南国通常当たりくらいビクッとしたわ!」
男は確認する。ハート型の紋章の真ん中に“碼樽純増”の文字。
「はい!確認取れました。ありがとうございました」深々と頭を下げる。
「また……会えたら感想を聞かせてください」
「あはは!感想?あんたも好きねぇ!」純増は笑う。
男は何とも言えない顔をした。
「ところで、この辺で安い宿ある?」純増が尋ねる。
「えぇ、ありますよ」男はすぐ答えた。
「この先に銀貨五枚程で泊まれる宿があります。…すぐ試すなんて…あんたも好きねぇ〜……ごほん、失礼しました」
「あははっ!助かる!っても銀貨五枚か…」純増は苦笑いする。
「じゃあ行ってくる!」
ダークエルフは静かに頭を下げ、その後ろを一歩遅れて歩き始めた。主人の後ろを歩く。それが彼女にとっては当たり前だった。
だが純増は、(三歩後ろ…サービスいいなぁ)
そんなことを考えながら、鼻歌交じりで宿へ向かうのだった。
続
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