↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
56/68

第56話 【気持ち入れなきゃ何も引けねぇ】


 純増の姿が光に包まれ、ホールソードの中へ吸い込まれる。

 見慣れたホール。聞き慣れたBGM。

 けれど今日の純増は、どこか浮かない表情だった。


「いらっしゃいませ。」

 いつものように店員が頭を下げる。

「お客様?……どうかなされましたか?」


「……んっ?いや、別に。」

 純増は軽く笑って誤魔化した。

「今日は何打つの?前回と同じ?」

「はい。本日も前回と同じ台をご遊技いただきます。」

「は〜い。了解です〜。」


 純増は席へ腰を下ろす。

 レバーを叩く。カコン。スゥゥゥ。リールが回る。

 いつもなら胸が高鳴るその音も、今日はどこか遠く感じた。

 淡々と回す。無言で回す。しばらくすると、、

 スッ。ピタッ。リーチ目。

 だが純増は表情一つ変えず、一枚掛けへ切り替え、ボーナス図柄を揃えた。


 コツコツコツコツ。店員が静かに隣へ来る。

「お客様。本日のサービス、カフェラテです。」

「あぁ、ありがとうございます。」

 純増は湯気の立つカフェラテを一口啜る。

 店員は少しだけ純増の横顔を見つめた。

「……今日は、随分と大人しいのですね。ジュリナ様と喧嘩でもなさいましたか?」


「ははは……喧嘩っていうかさぁ。」

 苦笑いした後少し考えてから笑う。

「なんか嫌だったっていうか……ちょっと愚痴っていい?」

「えぇ。」店員は優しく微笑んだ。

「お好きなだけ。お客様が気持ちよく遊技していただくために、私はおりますので。」


 純増は小さく息を吐いた。

「……俺さ、人のためにスロット打ったことないんだよ。」レバーを叩く。

「打ってくださいって言われて打つとか無いのよ。」停止ボタンを押す。

「こう……気分が乗らないっていうかさ、好きだよ。スロットも、ジュリナも、この世界も、このホールも。…全部大好きなんだけど……。」

 ボーナスを揃えて少しだけ寂しそうに笑う。

「あはは、何でだろう…今日は……打つ気にならないなぁ。」


 店員は静かに頷いた。

「そうでしたか……ですが、お客様が特殊効果を付与しなければ、ジュリナ様や周りの方が、、」

「そうっ!!」純増が食い気味に思わず立ち上がる。

「それっ!!そこなのよ!!」店員は目を丸くした。

「俺に任せないでよっ!!世界がどうとか!!運命がどうとか!!そんなの俺に背負わせないでよ!!」純増は頭を抱える。


「だって俺さ!履歴書の前職欄に“スロッター回胴戦士”って書くようなおじさんだよ!?特技の欄には四コマ滑りって書いちゃう人だよ!?バイトだってスロットイベント重なったら平気で飛ぶし!!設定6ツモったら平気で嘘ついて約束破る男だよ!」


 ゆっくり煙草の煙を吐きながら天井を見上げる。

「……重いって。そんな世界とか任されてもさぁ……人の人生背負えないから…」

 ホールが静まり返る。リールだけが静かに回り続けていた。

 

 しばらく沈黙が続いたあと、店員がゆっくり口を開く。

「……では。今度は、私の愚痴を少し聞いていただけますか?」


 純増は少し驚いた。

「えっ?……うん。こっちもいっぱい聞いてもらっちゃったし。どうぞ。」

「ふふふ。ありがとうございます。」店員は静かに語り始めた。


「私は何十年……何百年と、この世界におります。そして数多の種族が、この剣を使いました。使い方は様々。ですが、この剣のシステムを理解しようとした者は、ほとんどいませんでした。分からないから諦める。特殊な道具で無理矢理特殊効果だけを引き出そうとする。攻略しよう、理解しよう、と考えた者は……誰一人として現れませんでした。」

 店員は少しだけ寂しそうに笑う。

「私は、とても悲しかったのです。」そして純増を見る。

「ですが、お客様が来店されてからは毎日が楽しいのです。笑いながら遊技し、一打一打に一喜一憂し、特殊効果が付与されれば、気持ちの悪い小踊りまで踊る始末。」

「ははっ。気持ち悪くてごめん」純増は吹き出す。

「ふふ、見ている私まで、楽しくなってしまいました。」

 そして店員は少し首を傾げる。

「一つだけ疑問があります。お客様は……なぜ、そこまでこの遊技機がお好きなのですか?」


 純増は少しだけ考えた。そして静かに笑う。


「……俺さ、子供の頃から、何頑張っても一番になれなくてさ。ずっ〜と劣等感みたいなの抱えて生きてたんだ。勉強も、運動も、仕事も、何やっても中途半端。」喋りながらレバーを叩く。


「でもさ、ある日。いつものように打ちに行って、モーニングからAT入って万枚出したんだ。その時、店員さんが笑顔で言ってくれたんだよ。“今日の一番ですね”ってさ…」純増は照れ臭そうに笑った。


「その一言がさぁ、なんか嬉しかった。こんな俺でも、一番になれるものがあるんだって思えた。だから好きなんだ。勉強とか、努力とか、才能とか、そんな曖昧なものじゃない。俺に初めて”一番”をくれた、唯一、信じられるものになったんだ。」


 店員は静かに微笑む。

「……そうでしたか。お客様はこんなお話をしながらでも、目押しは外さないのですね。」

「あははっ!体に染み込んでるからね〜!その気になれば目瞑っても揃えてあげるよ!」


 純増はレバーを強く叩いた。


「よしっ!!話しきいてもらってなんかスッキリした!!こっから本気出して打っちゃうよ〜!!」

 リールがリーチ目で止まる。

「あひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!きもてぃぃぃ!!」


 店員は肩を震わせながら、小さく笑う。

「ふふふ……。気持ち悪っ。」

 そして、もう一度だけ純増を見つめ、優しく微笑んだ。

「……今日も、お客様がこのホールで“一番”楽しそうです。」

 純増は少し照れながら鼻を掻く。

「……それ、ちょっと照れるじゃん。てか、俺一人しかいないけどね…」「「あははっ!!」」


 二人で笑い合い再びレバーオン。

 ホールには、いつもの純増の笑い声が戻っていた。



            続

読んで頂きありがとうございます。ブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日7時30分更新予定です。今日は遅くなりました(´;ω;`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。