第53話 【マングース左走れば脳汁】
町中へ突っ込んできた魔獣達。
縞馬のような姿をした魔獣が数頭。さらにヌーのような巨体の魔獣も数頭。石畳を蹴散らしながら暴れ回っていた。
逃げ惑う人々。
「きゃああああっ!!」「魔獣だぁぁぁ!!」
怒号と悲鳴が町中へ響き渡る。
「ジュリナ。」「はいっ!」
ジュリナは剣を抜き、静かに腰を落とした。
純増もホールソードへ手を伸ばす。
「よし……。」その時だった。
先頭を走っていた縞馬の魔獣がウィンク➖➖パチッ♡
「「…………」」
また、パチッ♡さらに、パチパチパチッ♡
「…………。」純増が目を擦りぽかんと口を開く。
「ねぇ……ジュリナ。」「はい。」
「あの縞馬……めっちゃウィンクしてない?」
ジュリナも目を凝らす。
「はい。私もそう思います。」
魔獣達は二人の目の前まで迫る。
「いやっ!でも来るっ!」そう思った次の瞬間。
ザザァッ!!パカッ!パカッ!!
左右へ大きく分かれ、そのまま二人を避けて走り去っていった。
「…………え?」「…………。」
二人が呆然としていると、どこからか怒鳴り声が響く。
「おいっ!!そこのじじぃ!!デカパイ!!」
純増とジュリナは辺りを見回す。
「えっ?どこ?」「見当たりません……。」
「おーーーい!!下だ下ぁ!!この薄鈍がぁ!!」
二人が足元を見る。そこには黒いタキシードを着た、一匹のマングースが仁王立ちしていた。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」純増が飛び上がる。
「しゃっ、喋ってるぅぅぅぅ!!」
マングースは頭を抱えた。
「驚くとこそこじゃねぇぇぇ!お前はそこに驚く人間なんだなっ!!」ビシッと前足で道を指差す。
「とにかく俺について来い!!」そう言って猛ダッシュ。
しかし純増とジュリナは、まだ固まっていた。
「…………。」マングースが振り返る。
「おいっ!!じじぃ!!デカパイ!!早くしろ!!そのデカ尻蹴り上げるぞ!!」
純増はジュリナを見る。
「……とりあえず行こうか?」「はい……そうですね。」
しかし歩き出したジュリナは、どこか元気がない。
「純増様……。」「ん?」
「……デカパイって……私のことですよね?」
「たぶん。ジュリナはじじぃではないからね…」
「……悪口でしょうか?」
「えぇぇぇっ!?そこ気にする!?」
ジュリナは不安そうに胸を上下に押さえる。
「私……そんなに大きいでしょうか……。」
「あははっ!小さくはないね」純増は笑って首を振る。
「少なくとも俺には全然悪い言葉じゃないよ!」
「……そうなのですか?」
「うん!」親指を立てる。
「大盛り無料!!ラッキーマシマシ!!って感じ!」
ジュリナの表情が少しだけ明るくなる。
「……では。純増様…」純増へ一歩近付く。
「好きって言ってください。」「ふえ?」
「ジュリナのデカパイ好きって言ってください♡」
「…………。」純増の顔が一瞬で真っ赤になった。
「い、今?ここで?」「はい♡」
「…………。」数秒の見つめ合う沈黙。
「……ジュリナのデカパイ、大好き……♡」
「はいっ♡ありがとうございます!」
ジュリナは満面の笑みになった。
その様子を見たマングースは額へ手を当てる。
「おいっ!終わったか?」「「……。」」
「イチャイチャは後でやれやぁぁぁぁ!!」
純増とジュリナは慌てて走り出す。
「ごめんごめん!今行くよ」
「急げ!!山田との約束に間に合わなくなる!!」
純増の足が止まる。
「えっ?……山田?山田カイザーのこと?」
「そうだ!!」マングースは振り返りもせず走る。
「説明は走りながらだ!!」三人は町裏を駆け抜ける。
人目につかない細い路地。崩れかけた石壁。
その間を縫うように走り続ける。
マングースが叫ぶ。
「とにかく今はライガン様を連れて逃げる!!ドンが来たら全部終わりだ!!それで山田から、お前らをライガン様の所まで連れて来いって言われた!!以上!!」
純増は全力で走りながら叫ぶ。
「いやいやいや!!その説明全っ然分かんねぇよ!!毎回なぜか、やめて千円でオカマ掘られるジャグラーぐらい意味分かんねぇよ!!」
「うるせぇ!!」マングースも負けじと怒鳴る。
「ライガン様に会えば全部分かる!!だから黙って着いて来い!!」
◇◇◇
数分後。一行は町外れに建つ石造りの牢屋へ辿り着いた。その前には山田カイザーと山賊達が待っていた。
「おう。遅かったな…」山田カイザーは苦笑いを浮かべる。
純増も肩で息をしながら笑う。
「……急に呼び出すなよ。てか、ちゃんと説明しとけ!おじさん走らせたらすぐバテるんだから…」
山田カイザーは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「悪りぃ。結局、お前らまで巻き込んじまった。…まっ、巻き込む気ではあったんだがな…でもよ、頼む。ライガン様に会ってくれ。」
純増は少しだけ後ずさる。
「いや……会うぐらいならいいけどさ。怖い先輩とかだったら嫌なんだけど。コーラ買ってこい程度なら頑張るけど……。」
「あはは、安心しろ。」
山田カイザーは牢屋の扉へ手を掛ける。
「ライガン様は、そんな器の小さい男じゃねぇ。」
ドゴォォォン!!鉄格子ごと扉を蹴り飛ばした。
薄暗い牢屋。湿った空気。血の匂い。
その奥に、一人の獣人が鎖に繋がれて静かに座っていた。
身体中には無数の生傷。右腕も無い。
それでも、黄金色の立て髪だけは誇り高く天を向き、王の威厳を失ってはいなかった。
ゆっくりと顔を上げる。鋭い金色の瞳が純増達を見据えた。
「……ふふ。どうしたお前ら…?」小さく笑う。
「今日は……美味い酒でも手に入ったのか?」
その一言だけで、牢屋の空気が変わった。
続
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