第52話 【じじぃのまだ出るは罠】
宿を後にした純増とジュリナ。
外に出て少し歩く。処刑の日を明日に控えたビーハナ町は、昨日とはまるで別の町のようだった。
人通りは多い。屋台も賑わっている。笑い声も聞こえる。……なのに、どこか空気が重い。
純増は露店を眺めながら眉をひそめた。
「なんだかなぁ……。」
その言葉にジュリナが首を傾げる。
「どうされましたか?」
純増は屋台を指差した。
そこには木彫りの処刑台のおもちゃ。
“公開処刑記念”と書かれた酒。さらには“ライガン饅頭”まで売られている。
「人が死ぬのを祭りにするって……何か嫌だな。」
ジュリナも静かに頷いた。「そうですね……。」
少し考えてから呟く。
「きっと、引きの王が処刑された時は、もっと凄かったのでしょうか……。」
純増は煙草へ火をつける。
「たぶんね〜」紫煙を吐きながら遠くを見る。
「有名人ほど、みんな騒ぐんだよ。俺のいた世界でもそうだったよ。人気者ほど、ちょっとした失敗で袋叩き。皆で晒し者にして楽しむ。そんな世界だった。」
ジュリナは驚いた表情になる。
「純増様は……恐ろしい世界で生きていたのですね……。」
純増は真顔で頷いた。
「あぁ。だってさ、朝一から並んで十一万円使って、十七時前には家で寝てる世界だからね。」
「…………。」ジュリナには言ってる意味が分からない。けれど、純増が思い出し、少し震えている。
「そんなに恐ろしかったのですね……。」
「あぁ。」煙草を咥え直す。
「ワクワクするくらいにね。」
(えっ!?危険をワクワク……純増様……やっぱりかっこいいです♡)ジュリナはなぜか一人で頬を染めていた。
◇◇◇
歩くこと数十分。目的の武器屋へ到着した。
店内へ入ると、壁一面に剣や槍が並び、鎧がずらりと飾られている。
「いらっしゃい!」カウンターの奥から、大柄な店主が笑顔で声を掛けてきた。
「好きなの見てってくれ!分からなかったら聞いてな!」
純増は軽く頭を下げる。
「すみません。実は武器じゃなくて……。引きの指輪について聞きたいんですけど…イッカク町で、ここを尋ねろって言われたんです。」
店主はきょとんとした。
「……引きの指輪?イッカク町?」腕を組み、首を捻る。
「悪いなぁ。人違いじゃねぇか?俺、イッカク町に知り合いなんていねぇぞ?」
「…………え?」純増とジュリナは顔を見合わせる。
「ジュリナ。」「はい。」
「あのじじぃ、確かに武器屋って言ってたよね?」
「はい。間違いありません。」二人は同時に首を傾げた。
店主は申し訳なさそうに笑う。
「うちは武器と防具だ。指輪は扱ってねぇ。あっ、でも向かいに魔具屋がある。魔法道具専門だから、何か知ってるかもしれんぞ。」
「あっ!ありがとうございます!」
二人は頭を下げ、店を後にした。
◇◇◇
外へ出た瞬間。純増が空へ向かって叫ぶ。
「じじぃぃぃぃぃ!!パチこいたなぁぁぁぁ!!」
その声にジュリナがびくっと肩を震わせる。
「純増様…いきなりどうされたのですか?」
「どうもこうもないよっ!だから俺、昔から言ってんじゃん!じじぃを信用するとロクなことにならないんだって!」身振り手振りが止まらない。
「“俺帰るけど、兄ちゃん、この台まだ出るぞ。”そう言われて座る!すると大体千ハマりぃぃぃ!!おいっ!じじぃぃぃ!!なんでなんだよぉぉぉ!!何で最高のやめ時わかんだよっ!俺のワクワク脳汁返せぇぇぇ!!」
ぷんぷん怒る純増を見て、ジュリナはくすっと笑った。
「純増様。落ち着いてください。とりあえず魔具屋さんへ行きましょう?何か分かるかもしれません。そのじじぃの秘密も…」
純増は深呼吸した。
「ほんと?……うん。救いを差し伸べてくれてありがとう。こんな怒ってるおじさんなんて見たくないもんね。あはは。」
「はい♡気高く怒ってる純増様も素敵ですが、純増様は笑顔が可愛いので…ジュリナはどっちも好きですけど…♡」
「えへへ、気分治った…。魔具屋行こうか?」「はい。」
二人はニコニコしながら向かいの魔具屋へ向かう。
その時だった。町の入口付近から、大きな悲鳴とざわめきが響いた。
「ひゃっはぁぁぁぁ!!」「魔獣だぁぁぁぁ!!」
「魔獣が町に入ってきたぞぉぉぉ!!」
ドゴォォォン!!建物が崩れる音。人々が一斉に逃げ始める。
純増とジュリナも音の方へ振り向いた。
そこには➖➖縞馬のような魔獣が駆け抜け、その後ろをヌーのような巨体の魔獣が追う。石畳は砕け、屋台は弾き飛ばされ、人々は悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。
純増は頭を抱える。
「……ねぇ。ジュリナ。」「はい。」
「今さ……すっげぇ聞き覚えある掛け声しなかった?」
ジュリナは真面目な顔で頷く。
「はい。確実に“ひゃっはぁぁ!!”と仰っていました。」
「だよねぇぇぇ……絶対あいつらじゃん…」純増は天を仰いだ。
「ねぇ、ジュリナ?」「はい。」
「また危ない目に遭うかもしれないけど……いっちょ噛みしていい?」
ジュリナは優しく微笑み、真紅の瞳を細める。
「はい♡純増様が望まれるのであれば、、喜んで♡」
その瞬間、縞馬の魔獣が二人を見つけ、一斉に地面を蹴った。
続
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