第46話 【帰り道CoCo壱の看板には逆らえない】
雨はすっかり止み、山賊村には月明かりが差し込んでいた。
ホールソードから光が溢れる。
シュゥゥゥ……純増がゆっくりと姿を現した。
「お帰りなさいませ、純増様♡」
ジュリナが満面の笑みで駆け寄る。
「ただいま、ジュリナ♡」
純増も自然と笑みを浮かべた。
「体、大丈夫? 結構痛かったでしょ? 本当にごめんね。」
色んなところをチェックする純増。その言葉と行動に、ジュリナの頬がみるみる赤く染まる。
「そ、そんな……。」慌てて首を横へ振る。
「私の力が足りなかっただけです。純増様が気に病む必要など、ありません。」
「いやいや、俺ももっと早く引けたらって思ってさ。」
「純増様……♡」二人だけの空気が流れる。
周囲の山賊達は何とも言えない顔で見守っていた。
(何だこれ……。俺たちさっきまで殺されると思ってたのに……。)
そんな空気を破るように、山田カイザーが立ち上がった。
「……すまなかった。」深く頭を下げる。
「本当にすまなかった!!」さらに頭を下げる。
額が地面へ付くほどだった。
「殺さないでくれて……ありがとう。」
純増は困ったように頭を掻く。
「いや、お礼は別にいいよ。」そして真面目な顔になる。
「でも謝る相手は俺じゃない。」ジュリナへ視線を向ける。
「君たちはジュリナにいっぱい酷いこと言ったし、殴った。本当はジュリナの気が済むまで任せようと思ってたくらいだから。」
ジュリナは少し俯いた。
「純増様……あと……」小さな声で続ける。
「私の不注意で、純増様の大好きな胸と、お尻を触られてしまいました……。申し訳ございません……。」
純増の動きが止まる。おでこに青筋が走る。
「…………。」無言でホールソードを握る。
「このぉぉぉぉぉぉ!!」
山田カイザーが飛び上がり、逃げる。
「俺はNTR耐性ねぇって言ってんだろぉぉぉ!!手出せ!触った手出せぇぇぇ!!」
「うおっ!!俺じゃねぇ!」
飛び掛かろうとした純増を、ジュリナが慌てて羽交い締めにした。
「純増様っ! いけません!」「離してジュリナ!!」
「駄目です!」「一太刀だけ!!」
「駄目です!」「んじゃ、右頸動脈だけ!」
「それ一番駄目です!!」必死に押さえ込む。
「無駄な殺生は、おばぁ様に怒られてしまいます!」
その瞬間だった。
グゥゥゥゥゥ……。純増のお腹が盛大に鳴る。
「「「…………。」」」
「ジュリナ……腹減ったね。」純増は照れ笑いした。
「はい。今日のご飯は……コアラのマーチさんだけです。」ジュリナも少し照れながら答える。
「そうだよね…お菓子だけじゃ少ないねぇ……」
すると、山田カイザーがおずおずと手を挙げた。
「……良かったら、カレー……食ってくか?」気まずそうに言う。
ジュリナの赤い瞳が細くなる。
「カイザーちゃん!今度は毒でも盛るつもりですか?」
「ち、違ぇ!!そんなことしねぇよ!!」
山田カイザーは全力で首を振る。
純増だけが目を輝かせた。
「……カレーだと?……何カレー?」
「チキンカレーだけど…山賊揚げも付ける。どうだ?食っていくか?」
純増は満面の笑みになった。
「……食う!!いただきます!!500グラムの5辛で!」
「純増様っ!?」ジュリナが慌てる。
「相手は悪人ですよ!?絶対毒入ってます!あと絶対手も洗ってません!お腹壊します!」
「えー。ジュリナは食べたくないの?」純増は笑う。
「山賊の作るカレーと山賊揚げだよ?名前だけでめっちゃ涎じゅるじゅるじゃん。」
その時、ジュリナのお腹が小さく鳴った。
ぐぅ……「…………。」
「あははっ!」純増が吹き出す。
「ジュリナもお腹空いてるじゃん!」
ジュリナは顔を真っ赤にした。
「……純増様がお召し上がりになるのでしたら…。わ、私が先に毒味いたします。」小さく咳払いをする。またお腹が鳴る。ぐぅぅぅぅ……。
「毒味じゃなくて普通に食べたいだけでしょ。」
「………ばれました♡」「はははははっ!」
純増は山田カイザーを見る。
「じゃあお願い!大盛りで!」
山田カイザーもようやく笑った。
「あぁ。晩飯で食うところだったから、すぐ出来る。」空を見上げる。
「雨も上がったし、広場で待っててくれ。」そして山賊達へ振り向く。
「お前ら!案内してやれ!」「「へ、へいっ!!」」
◇◇◇
広場では大きな焚き火が焚かれていた。
しばらくすると、大鍋いっぱいのチキンカレーと、揚げたての山賊揚げが運ばれてくる。
「おぉぉぉ……。」純増の目が輝く。
「ジュリナ!美味そうだよ!」
「はい……。」ジュリナも見つめる。
「とても美味しそうです……じゅる。」
「ジュリナ。よだれ出ちゃってる…」
「あっ。ご、ごめんなさい」慌てて口元を押さえる。
純増が笑いながら拭いてあげた。「ほら。」
「ありがとうございます♡」
山田カイザーが立ち上がる。
「全員行き渡ったな。」静かに笑う。
「じゃあ……いただきます。」
「「いただきます!!」」
純増は一口食べた。
「…………。」目を見開く。
「うんまっ!!辛口なのに後から甘味が来る!チキンはホロホロ!この山賊揚げはニンニク醤油がたまんねぇ!!んんんん!!最高っ!!星三つ!!」
ジュリナも一口。
「ふわぁぁぁぁ……。」幸せそうに目を閉じる。
「美味しいですぅぅぅ♡何杯でも食べられそうです☆」
近くで見ていた山田カイザーが笑う。
「おかわりもある。好きなだけ食ってくれ。」
「はいぃぃぃ!!」ジュリナは満面の笑みだった。
その姿に、山賊達は戸惑う。
「……さっきと別人だ。」「怖ぇ……いや可愛い……。」「どっちなんだ……。」「近づくな…耳裏パンチされんぞ…」
純増が笑う。
「あぁ、大丈夫だよ。ジュリナは戦闘以外はこんな感じだから。あははっ!」
山賊達もようやく静かに笑った。
「あは、あはは。じゃ、じゃあ、おかわり持ってきます!」誰かがそう言うと、自然と他の山賊も皿を運び始める。
さっきまで命を奪い合っていた者同士とは思えないほど、広場には穏やかな時間が流れていた。
◇◇◇
食事を終え、焚き火の火も少し落ち着いた頃。
純増は煙草に火を付ける。
「ふぅ~~。ジュリナ、疲れてるだろうから、ここに頭乗せて横になっていいよ♡」
その膝へ、ジュリナが自然に頭を乗せた。ゴロン。
「ふふふ♡今日は幸せです。」純増は笑いながら頭を撫でる。
「お疲れ様。よく頑張った。」「……はい♡ありがとうございます♡」
少し離れた場所では、カウホースが山賊に貰ったニンジンを夢中で齧っていた。
バリッ。ボリボリボリ。
その音を聞きながら、山田カイザーが静かに近付いてくる。
「……少し、話いいか?」純増の隣へ腰を下ろした。
純増は煙を吐きながら笑う。
「ん?あぁ。眠れなくなるほど怖い話じゃなければね。」
その一言に、山田カイザーは小さく笑った。
続
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