第45話 【勝ってる時ほどタバコ吸う】
雨はようやく弱まり始めていた。
だが、山田カイザーの心に降る恐怖だけは、止む気配がない。
「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」
山田カイザーはジュリナを振り払い、悲鳴を上げながら背を向けて走り出した。
「も、もう勘弁し、、」ドゴォッ!!
「ごはぁっ!!」たった一歩。
ジュリナは地面を蹴っただけで追いつき、脇腹へ容赦なく蹴りを叩き込む。巨体は何度も地面を転がった。
「あらあら。」ジュリナは首を傾げる。
「急に動いちゃ駄目ですよ……。」
倒れ込んだ山田カイザーの背中へ、ゆっくり馬乗りになり、髪を掴む。
「びっくりして……手加減できなくなってしまいますから♡」
ゴンッ。ゴンッ。ゴンッ。
黒炎を纏った拳が、耳の裏へ何度も何度も振り下ろされた。
「ぎゃあぁぁぁ!!や、やめ、、」
ゴンッ。ゴンッ。雨音と鈍い音だけが何度も村へ響く。
その光景を見ていた山賊達は、完全に心が折れていた。
「す、すみませんでしたぁぁ!!」「もうしません!!」「命だけは!!」
泣きながら土下座する者。腰を抜かす者。失禁して震える者までいた。
ジュリナはゆっくり振り返る。
「ふ〜ん……何か勘違いをなさっているようですね…」
優しく笑う。赤い瞳が山賊達を見渡した。
「その言い方だと、まるで私達が悪人みたいに仰いますが……。」
一歩、また一歩と山賊達に近づく。
「最初に襲ってきたのは、山賊さん達ですよね?」
誰も返事ができない。
「私は純増様の合図が来たら……。」
虹色の剣をゆっくりと山賊達の首に一人ずつ近づける。
「皆さんの首を刎ねて、生首を綺麗に並べ、純増様をお迎えしようと思っていました♡」
その笑顔は、どこまでも優しかった。だからこそ恐ろしい。
「ひぃっ……。」何人もの山賊がその場で泡を吹き気絶した。
山田カイザーは震えながら立ち上がろうとする。
しかし足に力が入らず、また転んだ。
「あらあら、急に立つと危ないですよ。三半規管を破壊するつもりで殴ったのですから…」
山田カイザーは地面へ額を擦り付けた。
「頼む……俺達の負けだ……。勘弁してくれ……。俺達には……“やらなきゃいけないこと”があるんだ……。」震える声で命乞いした。
ジュリナは無表情になる。
「……それを私に言っているのですか?」冷たい視線向ける。
「それに、あなた達がやることと、私があなた達を殺すことに、何か関係があるのですか?」
山田カイザーは言葉が出ない。
「……虫がいい話なのは分かってる……!でも俺達は……ここで死ぬ訳にはいかねぇ!!」必死に言葉を搾り出す。
ジュリナは静かに首を横へ振る。
「でしたら、そのやることを諦めてください。貴方達が死ぬことは決まっていますから♡」
ゆっくりと微笑む。その笑顔から山賊達へ絶望だけが流れた。
◇◇◇
しばらくするとジュリナによって全員が雨の中正座させられていた。ジュリナはカウホースの首を優しく撫でながら、その前に立つ。
するとホールソードから純増の声が響いた。
『ジュリナ〜。五ゲーム終わったからこっちは終了だよ〜。』
「はい♡お疲れ様でした、純増様。」
ジュリナは嬉しそうに返事をする。
『じゃあ換金して帰るね〜。』
「はい。では今から山賊さん達の首を、、」
『えぇぇぇぇ!?』純増の慌てた声。
『液晶で見る限り、もう完全にごめんなさい顔だけど!?そこまでしないと今回のこと気が済まない?』
ジュリナは少し考えたあと、小さく首を振った。
「……いいえ。純増様が殺さなくても良いと仰るのであれば、私はそれに従うだけです。」優しく笑う。
『そっか!じゃあ殺すのはやめようか。なんかそいつら枕元に立ちそうだもんね…。気が済むまで殴るくらいならいいけどさ。あっ、痛い思いいっぱいさせちゃったからお菓子いっぱい買って帰るね♡機嫌直して♡』
ジュリナの顔がぱっと明るくなる。
「はい♡ありがとうございます、純増様。お帰りを、お待ちしております♡」
『はーい!それじゃ、換金したら帰るね〜!』
通信が切れた後、ジュリナは山田カイザーへ視線を向ける。
「純増様が優しくて、本当に良かったですね。」一歩だけ横へ退く。
「どこへでも行きなさい。」
山田カイザーは何度も頭を下げた。
「……すまねぇ。だが、まだ行けねぇ…。一言だけ、一言だけでも純増様に礼を言わしてくれ…」
「…いいでしょう。ですが、もし純増様が不快に思われた場合は即刻その首を刎ねますからね☆」
山田カイザーと山賊達は静かに頷いた。
◇◇◇
一方その頃➖➖VRホール。
純増はデータカウンターを見上げ、満面の笑みだった。
「店員さん!見て見て!二十一連〜!!凄い!?ねぇ凄いでしょ!?」子供みたいにはしゃぐ。
「はい。凄いと思います。」店員は静かに頷く。
「でしょう!!」純増が胸を張った瞬間。
シュッ。……シュッ!シュッシュッシュッ!!
「……え?」洋服、髪、顔へ何か吹き掛けられる。
「うわっ!何!?何掛けたの?」
「ファブリーズです。ヤニ臭かったので。」
店員は真顔で答える。
「……あっ。ありがとう。」純増は少し照れる。
店員は今度は歯ブラシと歯磨き粉を差し出した。
「こちらも。」「おぉ!」歯磨き粉を見る。
「あぁ、……クリニカじゃないんだ。俺、クリアクリーンだとちょっと辛いんだよね。」
店員はトイレを指差す。
「うるさいっ!早く行け。そして歯を磨け。さっさと換金して帰れ。」
「えぇぇぇ、は、はい。」純増は逃げるようにトイレへ向かった。
◇◇◇
数分後。歯を磨いて戻ってきた純増へ、店員は一礼した。
「今回のお客様の獲得ライフは7,500です。どうなされますか。」
「ん〜。500で、カフェラテ2つとアメスピ1カートン。後、お菓子取れるだけ。残り7,000交換で。」
「かしこまりました。」
袋いっぱいのお菓子とカフェラテ2つと特殊景品を受け取った純増は満足そうに笑い出口へ向かう。
その背中へ店員が声を掛けた。
「お客様、一つだけ聞かせてください。」
「ん?どしたの?」純増は振り返る。
「なぜ無音の遅れが分かったのですか?」
純増は少し考え、、笑った。
「なぜって……台がさ。“俺、今、遅れたよ”って言った気がしたからかな〜。あははっ!押す瞬間はめちゃくちゃ緊張したけどね。あとは……勘。うん。勘だよ…長年の勘ってやつ!」ニカッと笑う。
店員は深く頭を下げた。
「お答えいただき、ありがとうございました。またのご来店を、お待ちしております。」
純増は手を振り、そのまま出口に向かって歩き出した。
静かになったホール。店員は去っていく純増の背中を見つめる。すると、不意に昔の記憶が蘇った。
◇◇◇
『それでは店員チャンスが発動しません。もっと狙ってください。』
『あぁん?別にそんなのいらねぇよ。」冷たい声。
『持ち手なんてよ、捨て駒だ。死んだら次の奴が使えばいい。いちいち俺に指図するな。』
『……失礼しました。』そこで記憶は途切れる。
◇◇◇
店員は純増が消えた出口を見つめ、小さく笑った。
「……ふふ。こんなにも、このホールを楽しんでくださる方が現れるなんて。」
その呟きは誰にも聞こえない。けれど、店員はどこか嬉しそうだった。
続
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